伊岡瞬のレビュー一覧
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【慟哭の傑作】
伊岡瞬『奔流の海』:
引き裂かれた親子の運命
1.伊岡瞬さんへの信頼:
購読動機
私が伊岡瞬さんの作品を読む動機は、ひと言で言えば「伊岡瞬さんの作品だから」。
これまで、『本性』、『代償』など数々の作品を読んできました。彼の作品には凄惨な描写もありますが、私が心惹かれるのは、事件の動機・背景、そして結末から押し寄せてくる、筆舌に尽くし難い感情です。
彼はもはやミステリー作家というより、現代社会の「陰」と「光」を映し出す作家だと感じています。
彼の作品を読むことは、社会の現実と向き合うことなのです。
2.運命を分けた奔流:
物語の始まり
『奔流の海』は、静岡県を襲った巨大台風とその凄まじい爪痕から始まります。
大災害の混乱の中、一組の親子が避難所で再会を果たせず、生き別れとなります。
親は、赤子が「生きているのか、亡くなったのか?」すら把握できないまま、20年という長い年月を過ごします。
運命によって引き裂かれた親子の慟哭が、物語の「奔流」となります。
3.孤独な少年と新たな出会い
一方、遠く離れた東京。
幼い頃から父親の暴力に晒されていた少年がいました。彼は母を守る一心で耐え抜きます。
しかし、父は事故、母は病で倒れ、少年は孤独に。施設で暮らすようになった彼の前に現れたのが、里親でした。
里親は彼によくしてくれますが、仕事が忙しく、多くを語りません。
4.過去を巡る旅:
動き出した運命の歯車
穏やかな生活が続いたある日、一人の謎めいた青年が現れます。
「お前の父の本当の姿を知りたくないか?」
この一言で、主人公は自分の人生を辿る過去を巡る旅へと歩み出します。
この道は、抗うことが難しい、激しい起伏のある運命の奔流そのものとなっていくのです。
5,読後に残る問い:
私たちが向き合うべきテーマ
①産みの親と育ての親。
②生きる価値、そして目的。
③信じる相手を持てぬ孤独。
これらは、私がこの作品を通じて考えさせられた、重層的なテーマ群です。
伊岡さんは、この作品の着想を、ある街で見た「子供を探している町内会掲示板」だと語っています。
一人の子供が成人するまでの物語の中に、私たちの想像を超えた「愛」と「断絶」のストーリーが展開されます。
『奔流の海』は、人間の「業」と、それでも希望を捨てずに生きようとする「愛」を描き切った、しっとりと涙を流してしまう傑作でした。 -
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ネタバレ文章もわかりやすく
展開もおもしろくすらすらと読めた。
警察から電話がかかってきたり、息子が捕まったり、追い詰められていく敏明の感情がスリルがあった。
妻はどんな時も敏明と武のことを心配し、敏明の言うことに従う、すごくできた方なんだなと思っていたけどやっぱり不満はたくさんあったんだなと、こんな完璧な人ばかりじゃないよなと安心した。
敏明は武の人生を、
「翳りゆくばかり」
と表現した。
しかし、最後の武の手記には
家族への思いが伝わってきて
家族の人生がこれ以上翳らないようにと願っていた。
幹人を心配し、幹人を信じてやれない敏明を心配し、そのように敏明を育てられなかったと自身を悔いた武。
親が子供を思う苦しさも伝わってきた。
この心の表現は絶妙だと感じた。
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夫が突然お客さんだと言い、連れてきた男。それは、21年前に家を出ていった兄らしい。なぜそんなにも経ってから突然現れたのか?しかも、どこか気味が悪い、不審な気がする。この男は、何のために、なぜ現れたのか??
なるほど、、こう来たか、という感じ。本当に伊岡さんは、悪寒でも思ったけど人間の気持ち悪さというか、不気味な部分をそこらそこらに散りばめるのがうまい。なんだろう、なんかなんでもないことのようにかなり気持ち悪い部分を当たり前のようにスっと入れてくる感じ。そういうの大好きです。悪寒を読んですぐこれを読みましたが、個人的には悪寒よりこっちの不審者の方が悪寒がした。どちらかと言うと悪寒は、前半は割と難しい会社のシステムも出てきて、間延びしてるけど、ラストにかけて疾走感が出てくる印象。こちらの不審者は、最初から最後まで一定のバランスで不気味さが充満していて、ずっと続きが気になっていつの間にか最後までたどり着いちゃう感じ。どちらも好きで、選べない。次は、またまた伊岡さんの痣を読みます。たのしみ -
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主人公の藤井賢一は42歳の会社員。第1部の冒頭に描かれるいくつかの場面だけで、彼が満足のいく生活を送っていないことが分かると思う。東京の本社から、系列会社の営業職として飛ばされたのだ。賢一がこの状況を耐えているのは、本社在籍時の不祥事のため。出向は単身赴任で、妻からはあまり帰ってこなくてもいいと言われ、娘の香純にすら電話もしたくないから用がある時はメールにしろ、と言われる。そんな四面楚歌の賢一に、現在の会社の部下である若い女性に優しくされ、食事にも行ってしまう。そこに、妻から混乱しているようなメールが届く。ここから、本当の物語が始まる。
第二部に入るにつれてどんどん状況が変わっていき、ころころと転がされる読者。私もそのひとりだった。ネタバレになるのであまり詳しくは書けないが、なぜ妻が、、、?という動機を探っていたはずなのに、、、まさかの、、。という感じだ。
興味深いのは、『痣』などに出てくる真壁刑事が出てくるところ。真壁は妻を亡くしたと賢一にこぼしており、それが『痣』なのである。積読してあるので、すぐに読もうと思う。また、伊岡瞬の家庭崩壊三部作、四部作の一部目がこの『悪寒』らしい。そして、その次が『不審者』、『朽ちゆく庭』『陰りゆく午後』で、後半二作はこれから文庫化の予定があるそう。『不審者』も持っているので、次は『不審者』、そのあとは『痣』を読んで、伊岡瞬の手のひらで転がされてこようと思います。
この作品、集英社文庫のナツイチの作品ですが、たしかに名前の通り悪寒がして、少し寒気を感じる気もしなくはないですね。 -
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はじめまして、の作家さんです、伊岡瞬さん。
本屋で表紙は何度も見てはいましたが、
表紙が重い!ハードボイルドですっ!って
手にとることはなかったのですが、You tubeの
読者家ノンさんのおすすめで、トライしてみました。
やっぱり読まないとわからないよね。読みやすい文体で、サックサック読めちゃいました。
内容もエンタメというか、『サトウミサキ』が
クズ男をエロティックに誘って、単に騙すんじゃなくて、しっかり交わっちゃって、さぁ大変!
相手をメロメロにしてからどーーんって、
落とすんだけど、何か次へ次へと読ませちゃう。
3章なんか、少し資産がありそうな痴呆気味の老婆に近づくサトウミサキ。しっかり身の回りの面倒をしっかりみちゃうもんだから、身内からは遺産狙いかと疑われ、さぁどーする?何が目的?
老婆をお風呂にいれてあげるシーン、サトウミサキも裸になり、次第に興奮する老婆っ!
どーなっちゃうの?
3章は短編としても面白かった!
サトウミサキの過去が刑事二人の捜査によって
徐々に明らかになります。復讐は遂げられていくのですが。
『本性』ってタイトル。
サトウミサキの本性って、ワタシの読解力であっているのですか?
考察する内容じゃないけど、気になるっ!
はじめに戻りますが、装丁を変えたらもっと読まれるんじゃなかろうか? -
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ネタバレ一人ずつ何の関係もない登場人物の描写が続く。
そのうち、点と点が繋がっていく。何人かは、亡き者となるか、行方知れずになる。
犯人は、これまでの登場人物の中にいるはずだが、誰かが殺人鬼の仮面をつけているのか、それとも殺人鬼の顔を隠すための仮面をつけているのか。
仮面というタイトルの意図を想像しながら読み進める。
途中、刑事が囚われ、絶望的な状況に陥るが、そこからどう助かるか、の展開もヤキモキしながら面白く読み進められた。
誰しも、社会に適合するため、成功をおさめるために、それぞれの仮面はあるだろうけど、その下に隠されている素顔もまた、千差万別なんだと納得した。
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犯罪小説は大抵分厚くて読むのに勇気がいる。けれど良作の場合1度読み出すとページを捲る手が止まらずスラスラと読み進めてしまう。本書もこんな感じ。
途中までは誰か真の黒幕なのか、真相は何なのかとハラハラしたけれども、どうやらどす黒い闇だけが描かれる作品では無いことに終盤になって気がついた。
解説には本書がとある映画のオマージュになっているのではないかという指摘がある。確かに本書は純粋な人間の闇模様だけでは無い、人の善性をも描き出そうという姿勢が自分にも感じられた。
そしてこの本の良かった点のひとつは、あくまで詐欺を題材に、上手い具合に登場人物たちの行動の起動装置を連続させることで善と悪の繋ぎ目を絶妙な塩梅で曖昧に繋いでくれるため、読んでいて違和感を覚えることなく楽しめるところにあった。 -
Posted by ブクログ
ネタバレラストについての考察だが、
浩樹は最終的に和泉夫妻を殺した(殺そうとした)ということだろうか?
まず、ラストシーンで友里が「鈴の音が聞こえた」と述べている点から考えると、
ラストシーンで友里が浩樹と出会った際に、友里は「鈴の音が聞こえた」と言っているため、浩樹の顔を見て、恐怖の対象でもあった「鈴の音」を思い起こしたということになる。つまり、その時の浩樹に、何かしらの残虐性や殺意を見出したのではないだろうか?
次に、
友里が浩樹に面談を行っている際も
浩樹は、
「雨が降ったせいで、面談する場所が、当初会う予定だった死角の多い公園ではなくなった。あなたは運がいい。」
「仮に例のイタズラで死人が出るなら、自分の人生を狂わせた泉先生のその妻であるあなたが相応しい。」
と伝えており、泉先生やその妻である2人に未だ執着していることが分かる。
ラストシーンでは浩樹、泉夫妻が乙霧村で出会う情景が描かれている。
何の目的で合っているのかは記載されていないが、浩樹と出会った際、友里はわざわざ不吉な予感がして熊よけの鈴を置いてきたのに、熊よけの鈴が「ちりん」となったのが聞こえたと述べている。
考えるに、
何らかの理由で泉夫妻は浩樹と会うことになり、乙霧村に訪れた。そこで浩樹には自分の人生を狂わせた作品を書いた泉蓮とその妻である友里を殺そうと企てたのではないなろうか?
事件関係者による聞き取りで明かされていく事実や、徐々に立ち込める不安感。
気がつけば、乙霧村で斧を持った殺人犯に追われている時とは異なる、背筋がゾワッとするような恐怖がゆっくりと私を追い詰めてくる。
深夜に読んだ自分を殴りたい気持ちです。
悪い夢見ないといいなぁ…
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Posted by ブクログ
ネタバレ絶望の最下層にいたと思いきや、更なる絶望へと突き落とされていく物語の展開。
2転3転とする「真相」に、脳が混乱し、疲弊していく様は、主人公の絶望とストレスを少しでも共有できたのではないかと感じさせられるほど強烈だった。
【以下ネタバレ】
家族とは、最愛と憎悪の綱渡りだと、作品を通して思った。
ほんの一言で憎悪に傾き、小さな仕草で最愛に傾く。揺れに揺れながらも、細い綱の上を歩いてゆく。
そしていつか、月日が流れ、思い出が積もり、今までの「揺れ」を踏まえて、どちらかに大きく体が傾く時がくる。
1度、「憎悪」側に落ちたら、かけられた言葉が最愛でも、皮肉だと感じてしまうだろう。最愛側に落ちた別の家族をひたすら憎み、身を呈してでもハチャメチャにしたいと、思うようになるのだろう。
彼女…優子も、その憎悪側に落ちた1人なのだと思う。
祖母が、初めに南田を殴った、その1発を、優子は「汚い言葉が嫌いだったみたい」と評していたが、
それは紛れもない、祖母の優子に対する愛情からだったのではないだろうか。
大切な人が襲われている。何とかしてでも、守らなくては。そう思い、怪我した右手にも構わず、祖母は重い酒瓶を南田の頭に当てた。
これを、優しさや愛の類と言わずに、なんと言えばいいのだろう。
主人公夫婦や娘が前に進めて嬉しく思う。
それと同時に、優子が、人からの優しさを素直に受け入れ、少しでも幸せな人生をあゆめたらと切に願う。