加賀山卓朗のレビュー一覧
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ネタバレS・A・コスビーの小説には、さまざまな匂いがする。
暴力の匂い。差別の匂い。土と汗の匂い。そして、人と人とが寄り添う温もりの匂い。
きれい事だけでは済まされない、この世界の理不尽そのものの匂いだ。
コスビーの登場人物は、自らの正義を貫くためなら相手を傷つけることをためらわない。
そして、その代償を一生背負って生きていく。
主人公ネイサン・ウェイメイカーもまたその一人だ。戦場で人を殺し、さらに、両親をひき逃げしながら権力に守られて裁かれなかった男を、自らの手で裁いた過去を持つ。
その罪は消えない。しかし彼は、その罪を抱えたまま前に進もうとする。
ハードボイルドの主人公といえば孤独な男を思い浮かべる。
しかし、コスビーの主人公は孤独ではない。従兄弟のウォルトは静かにネイサンを支え、相棒スカンクは命を懸けて駆けつける。
彼らがいるからこそ、この物語は単なるハードボイルドでは終わらない。
コスビーが描いているのは、暴力ではない。暴力の中でもなお失われない家族や仲間との絆である。
物語はハッピーエンドでは終わらない。
しかし、救いがないわけでもない。それは、人生とは罪も喪失も抱えたまま、それでも誰かのために生き続けることなのだと、このアメリカ南部の物語が静かに語りかけてくるからだ。 -
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ソ連解体の過程で国有企業の払い下げを受け、巨万の富を築いたオリガルヒたち。彼らは安全圏と信じたロンドンで、毒殺や不審な事故、突然の心臓発作などによって次々と命を落としていく。しかし英国政府は、ロシアからのエネルギー供給断絶の回避や、自国に流入するロシアの巨大利権といった外交・経済的利益を優先。他殺の証拠を隠蔽し、頑なに「自殺」や「病死」として処理し続けた。
本書で描かれるのは、偏執症的なプーチンが強いる「オメルタ(沈黙の掟)」と、それに背いた者への徹底的な制裁の凄惨さである。そして同時に、それをひた隠しにする英国政府の弱腰ぶりには呆れ果てるほかない。「プーチンに背けば、この地球上に安息の地など存在しない(“If you cross Vladimir Vladimirovich Putin, there is no safe place for you on earth.”)」――その言葉が、冷酷な現実として胸に突き刺さる。 -
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ネタバレオバマ元大統領のオススメブックリストの一冊。白人黒人の遵守差別問題、性的マイノリティの差別問題を巧みに織り交ぜた素晴らしい作品。あらすじを読んだイメージは、息子を失った父親の、哀しく叙情的な物語なのかな、と思ったのですが、フタをあけてびっくり、ヤバいイケおじのハードボイルドでした(゚^∀^゚)゚。なにこの爽快感!
勢いのあるストーリーの中にも、差別をしてしまう側の苦悩が描かれていて「差別はよくないよね!」の一言では片付けられないことを突きつける一冊でした。価値観をアップデートすることは、(古い考えを持つ)尊敬する親や祖父母、昔の自分とどう折り合いをつけるかを問われる、胸の痛い営みなのですね。
※ここからネタバレ※
とても素晴らしい構成なのですが、ミステリーとしてはありがちな展開なのが残念です。ひとつ前に読んでたサスペンス小説と、結末がほぼほぼ一緒だったので…タイミング悪かったといえば悪かった…( ̄口 ̄∥)
いや、でも、ヤバい愛人関係を秘匿するために人を殺す醜い権力者を出すのは、もうやめないですか?こんな素敵な主人公2人に対峙する相手としてはショボ過ぎます!
※ここからは本を読んで思った直接カンケーないこと※
日本にはここまで露骨な性的マイノリティ差別はないと思うので(ゼロではないのだろうけど)、やや他人事感がありましたが、ちょっと気になるところが。個人的にはゲイカップルそのものにはまったく思うところはなかったのですが、その2人が代理出産を知人女性に頼んで娘(アリアンナ)をもうけたところに心に引っかかっるものを感じました。作中ではそこに関してはスルーだったけれど…。自分はこの点には偏見…なのか、思うところがあるのだと本書を読んで気づきました。それも良い読書体験でした。
(女性カップルが医学で子供をもうけるのは気にならない。男性カップルには子供をもうけるために代理出産する女性が必要な点が気になる。男女カップルが他人に代理出産を依頼するのも引っかかりを感じる。…人口子宮とか、はやくできるといいですよね。)
アリアンナ、養子じゃダメだったのかしら?血がつながってなくても仕草とか口癖でも息子の影を感じることはできると思うのです。現代医療では片方としか遺伝的にはつながりはないのですよね(ラットの実験では片方のiPS細胞から卵子を作って受精することができるらしいけど人間に適用するにはハイリスクなのだとか)。その非対称性も気になってしまった。
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警察・スパイ組織 解剖図鑑
- カート
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試し読み
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母親代わりの厳しい姉に育てられたピップは、義兄である善良な鍛冶屋のジョーの愛情を支えに少年期を送るが、ある日、街の裕福な老婦人ミス・ハヴィシャムに呼び出される。時の止まった屋敷で色褪せた花嫁衣装を着て過ごすミス・ハヴィシャムの気まぐれな話し相手に指名されたピップは戸惑うが、彼女の養女である高慢なエステラの美貌に心奪われ、その振る舞いに傷つけられながらも強い愛情を抱く。エステラと出会ってから鍛冶屋の家での暮らしや自らの貧しい境遇に劣等感を抱くようになったピップだが、ロンドンからやって来た弁護士が彼が「大いなる遺産」の相続人になったことを告げ、彼の生活は一変する。ピップは遺産を彼に贈ろうとしているのはミス・ハヴィシャムであり、自分はエステラの結婚相手に選ばれたのだと確信するが、財産に相応しい紳士になるべくロンドンで暮らし始めた彼は、やがて、過去に端を発する様々な真実を知ることになる――。
婚約者に裏切られたことで胸が張り裂けたまま暗い屋敷に閉じこもって暮らすミス・ハヴィシャム、彼女により男たちへの復讐の道具として育てられた美しくも高慢で無感情なエステラ。そして見下されたことで自らの生まれ育ちを恥と感じ、転がり込んだ大きな財産によってそこから抜け出し、無学で貧しい者たちの世界を苛立たしく軽蔑する主人公ピップ自身も、人間としてはいかがなものかという印象をまず受ける。
しかし、波乱万丈の物語を追っていくにつれ、ミス・ハヴィシャムはミス・ハヴィシャムの、エステラはエステラの、ピップはピップの苦難に満ちた道を歩むうちに、見失っていたもの、価値に気づかずにいたものがそれぞれを変え、読者の目から見ても人間性を取り戻してゆく。ピップが沼地で出会った飢えた脱獄囚に食べ物を渡したのは恐怖心からでしかなかったかもしれないが、ついこぼれ出た一言にこめられた優しさが傷ついた男にとっての何よりの温もりとなったように、人は意図せぬところで誰かの恩人となり、一方で誰かに深く恨まれ、憎まれることもある。保身、嫉妬、憧れと蔑み、人の感情が人生にもたらす影響は大きいが、打たれた石が精錬されていくように、ピップが痛みの末に善なる心を取り戻していく様に素直に心打たれた。
『二都物語』のような圧倒されるエンディングではなく、完全なるハッピーエンドとも言えないが、それでも、根っこの優しさをそこここで示しながらも急ごしらえの鼻持ちならない「紳士」となったピップが、愛するジョーのために自身の身勝手な計画を心密かに捨てるラスト近くの場面に、深く静かなカタルシスを感じた。エステラとのラストシーンも、苦難を乗り越えてきた者同士、互いの過去を知る者同士の穏やかな共鳴が豊かな余韻を残して素晴らしい。
悪辣な登場人物も出てくるが、ピップの態度に関わらず常に善良で親切なジョーや、ロンドンで知り合った友人ハーバート、遺産管理人である弁護士の下で働くウェミックなどの温かみのある個性ある面々の存在のおかげで、全体のトーンは暗くなく読みやすい。登場人物の過去が複雑に絡み合う一大冒険譚としても大変面白い作品。上下二巻。 -
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作者フェリックス・フランシスは、ディック・フランシスの息子である。そのディック・フランシスは、イギリス競馬のチャンピオン・ジョッキーにしてミステリ史上に輝く「競馬シリーズ」の著者である。このディック・フランシスと「競馬シリーズ」のことならどれだけでも語ることができる。僕自身の生涯において、これほど新作が待ち遠しかったシリーズはないからだ。そのディック・フランシスが往生を遂げ新刊を待つこともできなくなって長い時間が過ぎ、息子による「「新・競馬シリーズ」を読むことができた頃は、この上ない喜びである。
人気シリーズを息子が引き継いだと言っても、実は旧シリーズの最後の数冊は親子の共同名義になっている。それ以前から、競馬シリーズは父フランシスを中心に妻や子との共同作業によって書かれてきた面があるそうだ。個人営業の飲食店のようなものかもしれない。そういう意味では、伝統あるというか、のれんがちゃんと受け継がれたような感じで悪いものではないし、以前と同じような気持ちで「待ってました」と思って手に取った。
ただ(飲食店の例を続けるなら)、初代の味が素晴らしければ素晴らしいほど、二代目は大変になる。「二代目が関わるようになってから少し味が落ちたな」とか「やっぱり先代の頃が懐かしい」とか言われがちなものだ。じつはこのシリーズについて、個人的にはそんな気持ちでいた。旧競馬シリーズは名作揃いであったとは言え、時期により作品によりそれなりに差がある(最も?な作品でも高水準であることは間違いないが)のは確かだが、二代目が前に出てくるにつれて何かしらの違和感を感じたのは確かである。二代目の単独作となったこの「覚悟」では、その違和感がさらに強くなった感が否めない。
作品としてはとても面白い。シッド・ハレーの5度目の登場ということも印象強い。このシリーズでは「ここぞ」というところでシッド・ハレーが登場する。それだけ印象が強いヒーローだし、フランシス作品の根源的なテーマを体現している主人公だからだ。「利腕」で最も明確に示された「自己との戦い」というテーマは決して古びることなく人の心を打つ。再登場する度にドキドキしながら読み、感動で一杯になって最後のページを閉じたものだ。
作品としては確かに面白い。でもハレーの何かが違う。有り体に言えば、少し雑に感じる。よく考えると以前のハレーだって同じような行動をしているのだが、その奥にある深みのようなものがちょっと違う。かつては痛みに耐えた力強い行動に感じたものが、今は無神経で軽率な行動に感じられてしまう。こっちの先入観かもしれないけれど、一度そう感じてしまうと目についてしまう。旧シリーズの最後の方では主人公のキャラクターとして感じようとしていたが、ハレーが主人公となるとそうもいかない(本音を言うと「再起」あたりからそんな感じはある)。もしかすると父フランシスが本物のジョッキーであったのに対し、子フランシスは教師や実業家だったからかもしれない。
くどいかもしれないが、作品としては面白い。個人的には女性や子どもに危機が迫りかねないような話は読んでいてキツいが、それも含めてとてもよくできたサスペンス小説だと思う。これからも、このシリーズは追いかけていくと思う。ワクワクしながら手に取り、楽しく読み、ぶつぶつ言いながら、それでもやっぱり次を楽しみにするのだと思う。こんなことを言えるのも含めて、「祝!復活」である。 -
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ネタバレ初カー。なんだろう、ミステリなんだけどオカルト要素が多くて新鮮だった。
今思い返せば、語り手となる主人公が冒頭職場で上司に指示をもらう場面があるんだけど、読者が実感を持って読める場面ってそれくらいかもしれない。もうそこにクロスという怪しい影が滑り込んでいるんだけど…
休日を過ごす別荘地に向かう電車で、自分たちが普段生活している現実世界から遠ざかって、もう後戻りできないんだろうなという感覚がすごくある。
事件現場は由緒ある家族の屋敷、霊廟、消えた死体、壁をすり抜ける幽霊…オカルト要素満載なんだけど、トリックは超現実的で、男女が起こしたくだらない殺人事件だった。
なんだろう、ただのミステリをオカルト要素でデコレーションしたという感じではないんだよな…主人公も含め全ての登場人物や環境がきれいな舞台装置になっているというか…なんか不思議な読み心地の小説だった。
また気が向いたらカーのミステリ読みたいな。