加賀山卓朗のレビュー一覧
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さて下巻からは一気にストーリーが動き、上巻で謎に包まれたことが玉ねぎの皮を1枚1枚剥ぐようにクリアになっていく
ピップに大いなる遺産を渡した人物は予想通りだったが、理由がわかりちょっと切なくなる
さらに過去に登場した人物があれよあれよと繋がっていき、「ええそうだったの⁉︎」と何度も心で叫んだ(笑)
紳士になるため、遺産とともにロンドンへ
贅沢な暮らしを送りながらも、人様の勝手なエゴに翻弄されていく
さらに美しさを増したエステラに再会したピップ
彼女への愛に確信をもつものの、相変わらずの態度に愛が深まるほど虚しさは増す
婚約者に裏切られた過去を持つハヴィシャムの差金でエステラの面倒を見ることはできるものの、ハヴィシャムとエステラは最後の賽を投げる
絶望のどん底に着き落とされるピップ
最後に自分の気持ちを二人に体当たりでぶちまけエステラに別れを告げる(いやいや、カッコいいよピップ!よく言った)
一方姉の婿、鍛冶屋のジョー
親代わりであり、兄であり、友人のはずの二人の関係にも変化が
ジョーはピップを「サー(sir)」と呼ぶように…
悲しく思うものの自分が蒔いた種なのだ
どうすることもできない
幼い頃クリスマスに会った脱獄囚に再会
深く同情はするものの、嫌悪感を抑えきれない
しかし二人の関係にも変化が…
そして姉を襲った人物にピップも襲われ絶体絶命の大ピンチ!
死を目前にピップは自分の人生と向き合うのだ
波瀾万丈な出来事が立て続けに降り掛かり、心身共に疲労困憊するピップ
しかし友人のハーバートが常に彼を助ける
そしてウェミックもしょっちゅう自身の城(家なんだけど城なの)に招待し、ピップに手を貸す
最後はジョーの暖かさと二人の友情にジーンとくる
遺産を渡した人物との最後も切ないながら救いを感じる
エステラとの最後のシーンもいい!
(個人的にエステラ一人称の番外編を読んでみたい!)
ピップは確かに運命を翻弄された犠牲者かもしれないが、その罠にハマりにいくことは自分で選択しているのだ
最後にはきちんと気づいたであろう
ピップを通して皆が変わる
脱獄囚も、ハヴィシャムも、恐らくエステラさえも…
そして誰よりピップ自身が自分の向き合い変わっていく…
気づけば大親友ともいえるハーバートがいつもそばにおり、ウェミック他、たくさんの人たちがピップに手を差し伸べる
ピップくん
幸せ者じゃあないですか!
ちょっと羨ましいわよ!
知ってた?
ミステリー要素もピップの成長も、人の心の移り変わりも…多彩で巧みで面白い
今読んでこれだけ面白いということは、当時の人たちにはどれほどの影響を与えたのか…
ただどうしてもピップに対する執拗なイジメや蔑み、俗物たちの品のない嫌がらせ…
こういう描写が多すぎてウンザリしてしまったので、少々好みからは外れる…うーん残念 -
Posted by ブクログ
冷戦が終わったとき、これでスパイ小説も終わった、とよく言われた。米英を中心とする資本主義諸国と旧ソ連を盟主とする共産主義諸国がイデオロギーの対立を掲げ、角突き合わせていたからこそ、米英ソの諜報合戦は関心を集めた。冷戦が終われば、スパイは仕事がなくなるだろうと皆が思ったのだ。当然、そんなことはなかった。ル・カレはその後もスパイ小説を書き続けた。ただ、重心の置き方は変わった。
英国情報部はオックスブリッジで部員をリクルートする。パブリック・スクール出身者が多く、家族や交友関係、本人の思想信条について調査するまでもないからだ。彼らは生え抜きであり、組織の頭、中枢になる人材である。代々諜報活動に従事する一家も多く、身内には国政に携わる者も多くいる家柄で、イギリスのために働くことに疑問を持つことはない。
頭だけでは仕事にならない。手足となって働く部員が必要だ。関係諸国の言語に通じ、内部事情に詳しい人員だ。そういう連中の中には、金のために自分の祖国を売る者もいるし、秘密を握られ、仕方なく手を貸す者もいる。だが、自分の思想信条のために自ら進んで渦中に飛び込む者もいる。この手の人間は熱意があり、よく働くが、自分というものを持っているので、ときにはそれが仇をなすこともある。
国家と個人が同じ夢を見ている間はいいが、同床異夢を見出すと厄介だ。人体に喩えるなら、組織の中で他と異なる動きをする細胞は癌だ。早急に切除しなければ命取りになる。そこで、今までは同胞だった者が敵に回る。一人の主人公を中心に話が展開するのではなく、立場を異にする複数の人物が登場し、多視点で語られる。それに応じて時間が前後することもあり、展開が読みにくい。最近のル・カレの特徴だ。
英国に限ったことではないが、肥大化した組織は機能不全を起こす。劣化した組織は疲弊し、情報は停滞し、問題が起こればどこも責任逃れに躍起になる。中枢がそんな状態では末端に混乱が生じるのは必至だ。それが原因で多くの人命を失うことになっても、組織は自分を疑うことはしない。過ちを正視し、誤りを正してこそ死者も浮かばれるのに、決してそうはしない。そんな組織に命を預ける値打ちがあるのか、という問いが生まれる。
『シルバービュー荘にて』は、ル・カレの遺作である。最後まで作品の質を落とさなかったル・カレらしい、上出来のスパイ小説である。イースト・アングリアの海沿いにある小さな町で書店を経営する三十三歳のジュリアンが主人公。父のせいで苦労しているのに、良識があり、正直でぶれることがない。ル・カレが最後に自分の小説を託すに足る人物だ。人を疑うことを知らない書店主が、国家を揺るがす一大機密漏洩事件に巻き込まれる。
大物の女性スパイから、情報部内の内部調査に携わる人物に極秘連絡が入る。機密が漏れているというのだ。事実だとすれば大問題だ。内密に調査を進めるうちに情報漏洩犯の素顔が次第に明らかになる。女スパイの夫はポーランド人。戦時中にユダヤ系の同胞をナチスに売った父を恥じ、ファシストと闘うことに人生を賭けてきた男だ。しかし、組織が彼の情報を軽視したことで、友人が死亡。彼は組織と自分の信条との間で板挟みにされた。
調査の結果、小さな町の中で行われていたスパイ活動が判明する。人は死なない。けが人も出ない。表面上は、町の商店内に置かれたコンピュータで骨董の売り買いをしたり、大量の本を発注したりする、ただそれだけの面白くも何ともない事件である。ところが、驚いたことにそれが英国情報部の検閲をすり抜けてしまっていたから、さあ大変。情報部はおろか、国家の上層部が上を下への大騒ぎになる。
これが、ジョン・ル・カレの遺作だと思うと、いささか感慨深いものがある。というのも、これはいわくつきの父親を持ったせいで、人生のスタート時点で転んでしまった男の物語だからだ。知っての通り、ル・カレの父親は有名な詐欺師で、彼は生涯それに翻弄され続けた。詐欺師とスパイは凄腕の人たらしであることが似ている。人に好かれようとして嘘をつくことに慣れると、人は自分を見失い、相手に合わせて自分を拵える。その結果、アイデンティティを失ってしまうのだ。
『パーフェクト・スパイ』の主人公がそうだった。いい小説だったが、読んでいて辛かった。作家と父親の関係がそのまま反映されているからだ。『シルバービュー荘にて』はちがう。作品に自嘲の苦さがないし、目が過去でなく未来を向いている。ジュリアンとその恋人でスパイ夫婦の娘リリーのアイデンティティは微塵も揺るがない。とんでもない父親ではあったが、二人の父親は組織と袂を分かっても、自分の信条は捨てなかった。これは、作家ル・カレから、かつてその身を置いた「組織」への別れの挨拶なのかもしれない。 -
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ロンドンの金融街で辣腕トレーダーだったジュリアンは、厳しい競争社会に嫌気がさし、仕事をやめた。彼は書店主となるが、思ったように本は売れず、経営は苦しかった。 そんな折り、エドワード・エイヴォンと名乗る男が、彼の前に現われる。エドワードはジュリアンの父のことをよく知っていて、書店の地下室に強い興味を示した。 その頃、イギリスの情報機関「部(サービス)」で国内保安の責任者を務めるプロクターのもとに、幼い子供を連れた若い女性が訪ねてきた。彼女は母から託された手紙をプロクターに渡した。手紙を読んだプロクターは、イギリスに打撃を与える重大な事態が起きていることを知り、調査を開始する。やがて、その調査はジュリアンの周囲に迫っていく。
没後1年。未発表の長編が刊行された。後ろ髪を引かれるような思いで、読み終えた。
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スウェーデンのミステリー作品。
大企業の社長令嬢が失踪し10年の月日がたちほぼ迷宮入り。その少女の腕には特徴的なタトゥーがあった。そして同じタトゥーを入れた少女の死が判明。その捜査に関わることになったのは、元FBIのオトリ捜査官で、今はスウェーデンの県警の刑事。
スウェーデン、ミステリー、タトゥー、大企業というと、もうスティーグ・ラーソンの「ミレニアム」シリーズを彷彿させるキーワードばかり。複雑な人間関係と過去の沿うさ記録に丹念にあたる内容もあったりと、読んでて似てるなあと思わずはいられなかった。
大きな違いと言えば、本作の主人公たる探偵役はアメリカ育ちの設定。なのでウエスタンヒーローのようなゴーイングマイウェイで、ルールは破るもの的な行動がエンタメ感を盛り上げている。600ページのボリュームを感じさせない素早いストーリー展開に引き込まれた。 -
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ケネディ大統領が暗殺された背景にいた奴らが事件後にどのような顛末になったのかを作品に展開した。暗殺事件性の黒幕としてニューオーリンズの犯罪組織のボスであるカルロス・マルチェロは暗殺に絡んだ人物を消していく。ジャック・ルビーがオズワルドを警察署で射殺したのも作品ではマルチェロの指示とされる。ギドリーは現場の車を処分する役割であるが、証拠隠滅のため、殺し屋のバローネに狙われる。そこから逃避行が始まる。別の場所ではどうしようもない夫から逃げてきたシャーロットと二人の娘がロサンゼルスを目指している。ギドリーとシャーロットとの出会いが、二人の心情を変えていく。殺し屋から逃げるためには合理的な思考と裏をかく行動をする。殺し屋のバローネは獲物を仕留めるために犯す殺人は何とも思わない冷酷さ。ギドリーとバローネの騙しあいなど、犯罪現場の行動哲学が滲み出てて面白い。