ほしおさなえのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレ終わってしまった…世捨てハイスペック紙オタクだった藤崎さんが、冗談を言ったりにっこり笑ったりする姿におばちゃんホロリ。百花ちゃんはずっとずっとそばに居て、廃材の和紙の如く都度都度蘇らせて上げてほしい。ほしお作品の人々が川越に集結してきたのでシリーズまたいだビックイベントが開催されると良いなぁ。
このシリーズで知り、訪ねた場所、探した物は数知れない。作中の紙屋さんがどんなものなのか名古屋の「紙の温度」さんに行ってよく分かった。ネパールの和紙「ロクタ紙」即刻購入しましたとも。
うだつの上がる町並みを実際に訪れて、あるお店の方に言われたのは、紙の種類の違いはネットでは伝えられない。だからうちはネット販売はしていない。確かに目の前の2つの物は形こそ同じようだが明確に違いがあった。色、質感、紙の厚さ、重さ、カメラには同じように写るのに。作中にあるように、ネットは視覚と聴覚情報に偏っている。実感としてよく分かった。
今年は名古屋に知己を得たし、次回の美濃旅行は絶対に火曜日(定休日)じゃない日に行くぞ(涙)
紙媒体の世界を維持してゆくのは今とても難しくなっている。だけどデジタルデータは完成していてもそれ単体では存在できない。内容を現すには必ず電力と機械が要る。私の体でもってすぐにアクセス出来る物。実体の力は絶大だ。人間が身体から解き放たれることは無いから。データと物は役割が違うのだ。
ほしおさんの作品はただの紹介ではなく、羅列ではく、物の本質を見つめようとする姿勢がある。
決して古きを崇め、新しきを否定したりしない。今ある技術を生かしたまま、どのようにしたら未来に活かしていけるのかを模索する。そこがとてもとても好きだ。 -
Posted by ブクログ
「菓子屋横丁月光荘」の6冊目。こちらもシリーズ完結のようね。
2つのお話の最初は、守人が木谷先生らとともに訪れた蕎麦懐石の店にまつわる、昔その地に栄えていた織物・広瀬斜子と、その店が改装して入る前の古民家が中心の話。
これまでもそういうところがあったシリーズだが、今回はとりわけ、そうしたかつてあったものがなくなっていくことに対する感傷と、たとえなくなっても引き継がれる思いがあることについて、強く描かれていたように思えた。
続く後ろの話では、田辺の祖父・敏治さんが衰えを見せる中、色々な思い出が詰まった家から離れざるを得なくなる敏治さん本人の葛藤と周囲の気持ちが中心に描かれる。
それは前の話を受けて、今まで生きていた人が亡くなっていくということにつながっていき、この話でもコロナ禍が陰を落とすが、それも相俟って、亡くなった人を想いながら今を生きるということや、あるいは自分がなくなった後に遺ることということについて考えさせられる。
敏治さんが持つ亡き妻への思い、田辺ら周囲が考える老いた身内をどうしてあげるのが良いかと悩む気持ち、それぞれの気持ちがよく分かる。
そして、しんみりするだけでなく、守人と豊島さんとの交情や、田辺と石野が古い家を改装してカフェにしようとする話を挿むことで、それでも生きていくことについて前向きな話になっていく。
この歳になると、ふとしたことで寿命が尽きる時に向かっていることを思わされ、怖くなったり切なくなったりすることがあるが、『だからこそ、いまじゅうぶん生きなければならない』という最後に書かれた言葉には、とても心に沁みるものがあった。
シリーズ初めの頃はモラトリアムで引き籠りの守人だったが、隠れた才能も開花しだし、好きな人もできたりで、よい終わり方でした。 -
Posted by ブクログ
進路や就職。子が苦労しないように、「何者かになれ」と願い、言い聞かせる親。きっと今の世の中、少なくはないでしょう。
そして母に言われたように進学し、就職した槐はコロナ禍で職を失います。そこで何者にもなれてない、虚無感の中で日々を過ごします。
私の母は存命だし、私自身も職は失っていません。それでも自身と重なる部分はすごく大きい物語でした。
またこの物語を大きく占める染色。
藍建ての部分がすごく印象的でした。同じ藍でも、最初に染めたものと、最後に染めたものは全く違います。じっさいに画像検索すると、驚きます。
それでもたしかにどちらも藍で染めたことに代わりはありません。
この物語を通して、度々でてくる「死ねないから生きている」だけれども、それは「確かに生きている」ということ。それは藍で染められた「瓶覗色」に等しいものに感じました。 -
Posted by ブクログ
手仕事の世界を描いた話が好きなので、川越の染織工房を舞台にしたこの物語は、とても魅力的で一気に読んでしまった。
母の死をきっかけに叔母の工房に居候するようになった槐は、初めて藍染めをしたとき涙を流す。「藍はなまなましいから触れるとその人の奥にあるものが外に引っ張り出されることがある」そうだ。少し恐ろしいようなすごい体験だ。織るのは歌ったり踊ったりするのと同じで、心を解放することだというのも魅力的でぜひ体験してみたくなった。
母の死、女性画家の死、女性画家の死に巻き込まれて心に傷を負った大学生の従兄弟・綸…暗くて重苦しい部分もあるが、最後は希望の灯りが見えて良かった。