堂場瞬一のレビュー一覧
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蘇る昭和の世界、味わいある七編
東京オリンピックを背景に、著名なミステリー作家七人によるアンソロジー。あの頃は今よりもみんなが前向きで、街にも活気があふれていたような気がする。初めて読む作家もいて、それぞれの持ち味が楽しめてよかった。個人的には月村さんが面白かったかな。
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本作の主要視点人物は「安宅真」(あたかしん)という男だ。現在は40代に差し掛かっているが、10年程前までは警察官だった。「国連による選挙監視」というようなことで東南アジア某国に派遣される任務に在ったが、現地で爆弾テロ事件の只中に身を置く羽目になった。帰国から暫く経って、「一線を退いたら…」と思い描いていた喫茶店の主になる機会が在って、神田神保町で<フリーバード>という店を営んでいる。店は小さな2階建ての一戸建てで、1階が店舗で2階に住んでいる…
という主要視点人物だが…「在りそうで無い」というようでもあり、「無さそうで在る」というようでもある。如何にも「小説の主人公」という感の人物が活躍する物語である…
冒頭、10年程前であるという、東南アジア某国での活動の最中に爆弾テロ事件に巻き込まれてしまうという回送の場面が在り、そして「喫茶店の店主」として暮らす最近の様子になって行く…
或る夜、閉店時間が近付いた頃、何となく存在感の在る女性客を迎えた。少し華やかで、フリーライターと称しているが、音楽趣味の話し等も合う。安宅真は「店の常連になってくれれば嬉しい」と名刺交換をした。そんなことで女性客を送り出し、店を閉めていた時、妙な騒ぎが起こった…
安宅真の店の直ぐ近くに在るビルに、爆発物を積み込んだらしい軽トラックが突っ込んで行くという“爆弾テロ”のような事件が起こる…安宅真としては、旧い記憶が甦るような、如何にも嫌な事態だった。
この爆弾事件を契機に色々な出来事が在って、安宅真はそうした事態と向き合って行くこととなる…どのように展開するのかは、是非とも本書を紐解いて頂きたいと思う…
「元警察官」として、妙な犯罪事件に向き合う方策を或る程度は承知している他方、「喫茶店の店主」として街で飄然と生きる男である主人公が、妙な事態と如何に向き合い、どのような立ち回りをして行くのかが本作の「面白い箇所」なのである…
色々と愉しいシリーズを送り出している作者なので、「或いは続篇?」と思わせる好い余韻も残しながら物語が結ばれるのだが…なかなかに愉しい作品だった! -
Posted by ブクログ
大沢在昌、藤田宜永、堂場瞬一、井上夢人 今野敏、月村了衛、東山彰良『激動 東京五輪 1964』講談社文庫。
昭和39年。東京オリンピック開催に沸く東京を舞台にした7人の作家によるミステリー・アンソロジー。古き善き時代の香りの中に描かれる様々な形のミステリーとピカレスクはいずれも秀逸。
2020年の東京オリンピック開催を記念しての刊行かと思うが、新型コロナウイルス感染拡大の非常事態により東京オリンピックは2021年に延期されてしまった。延期ならまだしも、2021年に開催できるかどうかすら怪しい状況である。自分は中止になると見ているが……『アンダーコントロール』『復興五輪』という日本の総理大臣の大嘘に、さすがに閻魔大王も黙ってはいられなかったのだろう。
大沢在昌『不適切な排除』。昭和39年東京オリンピック開催の年に8ミリフィルムの技術者が交通事故を装いCIAに殺された……何十年か後にアメリカのライターを名乗る男が事件の調査のために来日する。スッキリせず、違和感が残る結末は計算なのか。
藤田宜永『あなたについてゆく』。酒場とブルース……古い時代の日本を感じる短編。かつては犯罪者もヤクザも素人も悪さの加減を知っていた。現代では素人さえその加減を知らない。
堂場瞬一『号外』。草加次郎事件の犯人とおぼしき人物の単独インタビューという特ダネを手にした記者は何とか1面トップを狙うが、東京オリンピックの開会式とが重なり、号外発行で妥協するのだが……人生はなかなかサヨナラ満塁ホームランとはいかないのだ。
井上夢人『予行演習(リハーサル)』。東京オリンピックの行進の予行演習の最中に友人から聞いた工事現場の幽霊屋敷の死体騒動。オチがあるとは思わなんだ。
今野敏『アリバイ』。まさかのSFミステリー。ブルーインパルスが空に描いた五輪の輪が四つしかなかった。パラレルワールドから来た被告の死刑求刑は一転して無罪に……
月村了衛『連環』。黒澤明が降りたオリンピック記録映画を狙い、ヤクザが一攫千金を企てる。あの花形敬も登場するピカレスク。なかなか味のある小気味の良い短編。
東山彰良『陽のあたる場所』。東京オリンピックで沸く華やいだ街の片隅で死の淵に立つ男。ジャズと酒と暴力と女が渦巻く、時代を感じるピカレスク。
本体価格680円
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神奈川県知事の「世界最高が欲しい。しかも日本人が取るべきだ」。
鶴の一声で計画された「東海道マラソン」。これらの企画立案やすべての責任が神奈川県教育局スポーツ課の単なる職員である音無太志にのしかかった。
しかも「東海道マラソン」の目玉として,日本マラソン界の至宝,山城悟を出場させ,世界最高記録で優勝させようというのだ。
個人主義,他者に阿る気は更々ないであろう山城を,この大会に出場させられるのか。
音無自身,大学四年のときに箱根駅伝には出たが,八区で区間最下位,大学で陸上は引退して一県職員として勤めていたのに,青天の霹靂とも言えるビッグプロジェクトを進めていくことになる。
「チーム」で学連選抜として出場した山城と,音無,かつてのハーフマラソン日本新記録を持ちながら,不運にもチームの解散に遭い,今回この「東海道マラソン」でペースメーカーを打診されている甲本剛など,それぞれの思惑が交錯する。
主人公は県職員の音無の視点だけれど,「チーム」でも存在感のあった山城の心情もなんかたまらない。
走ることに真剣に向き合っているからこその譲れない部分があるのだろうなというのを感じさせられる。多くの登場人物の心情が細やかに書き込まれていて,ああっ,もうっという感じ。(語彙力ひどすぎ)
あんまり詳しく書けないけれど,レースシーンは圧巻。
小説に出てくる「東海道マラソン」横浜駅のあたりから六郷橋のところまでの第一京浜は箱根駅伝のコースと同じところを走る。その描写も,個人的にとってもアガるねぇ。
あと,個人的なことですが,この堂場瞬一さんの陸上小説シリーズ,「チーム」「チームII」「ヒート」の順に読んだんですが,登場人物の時系列どおり読んだほうが良かったなあと思いました。
しばらく置いておけば,内容を忘れてまた小説を楽しめる質なので,次回はそうする。 -
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“追跡捜査係”というのは、警視庁の捜査一課の係で、捜査が詰まってしまっている未解決事案を調べるというものである。激情家と見られ、動き回らなければ気が済まない沖田刑事と、捜査資料を丹念に読み込みながら丁寧に情報を整理して事件解決を図ろうとする西川刑事は同期の仲間である他方、本人達は仲が良いとも思っていない面が在りながらも、この“追跡調査係”の中核を担っている捜査員である。この2人の他、若い庄田刑事、庄田刑事に近い世代で女性の三井刑事、極端に無口で少し風変わりな大竹刑事、そして西川刑事が「あの人は?少し頼りない…」としている鳩山係長が“追跡捜査係”で活動している…
物語は沖田刑事が動く辺りから起こる。「15年前の上野で発生した通り魔殺人の真相を」という“垂れ込み”の電話を受け、電話の主に会おうとして出掛けたものの、残念ながら会えず終いであったという経過が在る…“追跡捜査係”は、未解決事案の情報提供を受けるべく、係の直通電話を公開していて、その番号に架かった電話を沖田刑事が偶々受けたのだ…
そういう状況を知り、西川刑事は“通り魔殺人”ということで、整理を手掛けていた資料の中から「10年前の新宿で発生した通り魔殺人」という事案を見出し、当時の捜査関係者の中から探し出した退職者に話を聴こうとする。
沖田刑事は、「山岡」を名乗った“垂れ込み”の電話の主を何とか探し出そうとする。そしてもう一度会う約束を取り付けたのだったが、そこで思わぬ事態になって行く…
沖田刑事、西川刑事が各々に動いていたが、彼らの各々の捜査がやがて交錯し、思いも掛けないことが明らかになって行く…
これ以上は詳述を避けておこうと思うが、目が離し悪い展開が続く…
「気に入っているシリーズ」の「新作」に関しては、「遠方の友人の消息?」という感でかなり愉しいのだが、本作も「独立した一作」として、前作までの各作品と無関係に愉しむことが叶う。今回も複雑な事件の真相が次第に解明されるという物語である…何か本作は「少し深い余韻」とでもいうような感じで結ばれる…御薦めだ! -
Posted by ブクログ
元新聞記者の堂場さんは、モデルなしで人物を書きさりげないディテール(細部)を連ねてリアリティを固めていると「あとがき」の解説されている。確かに表現は登場人物の個性をうまく生かして躍動的かつ泥臭い部分まで書かれているのです。
物語は、新聞ではあまり取り上げて報道しない「自殺」をテーマに上げている。
取材対象は、ビニール袋集団自殺で練炭や硫化水素を使った自殺と違って、他人を危険に巻き込んでもいないのだから、いずれ話題にも上がらなくなるだろうと、主人公の一人で若手の東日新聞記者・長妻は考えていた。
長妻は元々長野支局で五年過ごし、かつての同支局の大先輩である本社社会部の市川から声をかけられ取材を継続する。
今回の事件は、全国で七都県一八人に及んでおり、その根源は呼称「自殺サイト」から波及しサイトの主宰者は、テレビにも出演している大学教授の上山(かみやま)であることが分かり大きな波紋を広げた。
上山の主張は概ね以下の通り。
『自殺は、自らを殺すことで。自死は、自ら死を選ぶこと、自死は犯罪ではありません。
自ら命を絶った人を罰することに全く意味がないからに他なりません。
刑法第二百二条、相手に自殺の意思を抱かせることで自殺教唆が成立する。とあるが、掲示板には「死ね」とは書いていない。
生きているのが苦痛であるのに、なぜ無理に生きる必要があるのか、安楽死の要件は、ほとんど自死にも当てはまり、人間には自らの死を選ぶ権利がある』
警察は、上山を自殺幇助の容疑で逮捕した。
社会部市川と長妻は、自殺サイトの本質を探り記事にするため積極果敢に取材を進めるのです。
以上が導入部のあらすじです。
上山氏の主張に反論するのは難しい。しかし、人の生命は儚い、だからこそ大切に生きなければならないと思う。自他の生命について考える良い機会でした。
この問題の答えは、あなた自身で考えを導き出すことに意義があると思います。