垣谷美雨のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
最初はよくあるタイムスリップものかと思ったが、物語の視点は容赦なく徹底的にリアルだ。
作中に溢れる「男尊女卑」や「家父長制」といった古い価値観の押し付けには、本当に重苦しい気持ちになる。「夫婦に子供二人、それを支える専業主婦」という、政府が考えた標準世帯モデルが当然とされていた時代の空気感は、今となっては希少価値である。しかし、それが当時の厳然たる常識であり、いまだに旧態依然としている部分が残っているのも事実だ。
40代の目でもう一度10代を生き直し、違う人生を歩んでみる3人。しかし、どの選択肢を選んでも大した幸せは待っておらず、思い通りにはいかないという冷酷な現実を知ることになる。この「人生そう簡単にはいかない」というプロセスが、とても深く切ない。
前に読んだ『夫のカノジョ』が「相手の身になる」話だったとすれば、今作は「過去に戻って自分を見直す」物語だ。
「どの環境(カード)を選ぶか」ではなく、「選んだ場所でどんな覚悟を持って生きるか」へと、3人の意識は少しずつ変わっていく。
理不尽さや現実の厳しさがたっぷり描かれる分、結末が少し綺麗にまとまりすぎている点には物足りなさや不満も残る。とはいえ、タイムスリップものというジャンルの性質上、こうした「お約束」の着地になるのは仕方のないことなのかもしれない。
と、『夫のカノジョ』でも、そんな感想を書いた気がする。 -
Posted by ブクログ
片付け屋さんが、
片付けられない心理も含めて
片づけに向き合う物語。
短編4話入っている。
3話までは、
散らかった部屋や家で暮らす
片付けられる側の視点で描かれている。
最後の話だけは、
片付け屋さん目線。
過去の記憶も一緒に描かれる。
大切な人の死とどう向き合って
のちの人生を生きるかという
かなり重いテーマだった。
単純に散らかっているレベルを超えた
汚部屋となる場合、
そこまでいってしまうには
心理的な問題が潜んでいて
そこに興味を持っている片付け屋さん。
読んでいる自分にも
捨てられてないもの、
もう手放してもいいもの、
いろいろ浮かんできて
片付けたくなってきた。 -
Posted by ブクログ
ネタバレファーストコンタクトの時点であーこりゃ浮気と違うなと気付いた。どういうつもりで会っているのかまでは検討つかなかったが。奥さんは早とちりで暴走しすぎだと思ったが、旦那が素直に吐いても聞かなかっただろうなと思う。まあこうした誤解のおかげで物語自体は爽やかだった。本当に愛人との入れ替わりだったらそれはそれで興味を引かれる気もするが、オチの見えた重い話になっていたような予感もする。物語の面白さで考えたら断然勘違いで良かったのだと思う。
入れ替わりによってお互いの人生が少し良い方向に変化したのは良かった。特に娘のミカは軌道修整出来て本当に安心したし、星見の母が娘に無心する荒れた生活から改善したのもほっとした。それに今後はお互い親交を温められそうなのも良い。特に奥さんは過保護だし不平不満を溜めやすいのに上手に発散できないようなので今後も星見に良い影響を受けてほしい。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ「男女には役割があって、女性は家のこと、男性は仕事に向いているというのなら、どうにも仕事に向てなさそうな男性がいたり、どうにも人を率いることに向いていなそうな男性がリーダーをしていたりするのは、どういうことなんでしょうね」
というのが、この作品で出てくる、女性をどうにか家に閉じ込めようとする老人たちに対して、どう反論すればよいのかをこねくり回して、出てきた私の意見だ。
あきれ返って、反論する気が失せるくらいの、周回遅れにもほどがあるほどの、高齢男性たちの意見や立ち回り。
それをどうにか打開していくのは、ちょっとすっきりする。
現実はなかなかこうはいかないけれども。だからこそ。
地方における女性の抑圧がもたらす鬱屈した状況や、それを当たり前とし続けることで、どうにか自分たちを保ってきた高齢男性たちを、どう変えていくかというストーリーは、ある種の希望なのかもしれない。
クォータ制は、あまり積極的に賛成ではなかったのだけれど、いつか(企業で)「優秀ではない女性管理職が出てきてやっと、男女平等なんだ」という話を聞いて、なるほどと納得し、そこへの近道として、クォータ制は有効なんだろうと、ちょっと意見を変えている。
半数を女性にと強制するからやっと、男性の下駄を外せて(市議に向いていない男性を降ろせて)、変わっていけるのかもしれない。
ときに荒療治は必要。
この物語は、ある種の希望と言える。
現実ではなかなかこうはいかないからこそ。
そもそも、郁子が地方在住の義母の近くに移住することを、あまりに楽観的にとらえすぎていて、甘い!甘すぎる!と腹を立てることから始まる。
正直、最初のそれを乗り越えるのがちょっとしんどかったんだけど、義母との関係が悪くないこと、夫も紆余曲折を経つつ、ちゃんとしたところに落ち着いていくので、乗り越えて読んでよかったと思う。 -
Posted by ブクログ
身体が入れ替わるという映画やテレビなどで使い古された王道のシチュエーション。けれど、いざ「文章」としてじっくり読まされると、映像のドタバタ劇とは違って、「なるほど」と考えさせられる面白さがあった。
中身が入れ替わったことで、二人はそれぞれの人生を外側から客観視することになる。
菱子の身体に入った星見ちゃん。いつも「黙っていられない」彼女が、菱子の家庭やPTAの会合で、ストレートな物言いや正論をガツンとぶち込んでいく。
この「黙っていられない」エネルギーが、かえって新鮮な風を吹き込み、周囲の心持ちを少しずつ変えていくプロセスが印象的だった。
同時に、星見ちゃん自身が暖かい家庭というものを体験し、「今まで自分が歩んできた人生は、なんて寂しかったのか」と自分の孤独に気づく場面には、リアルな切なさがあった。
終盤、あまりにもすべてが上手くいきすぎて、正直「ガッカリ」と思ってしまう。けれど、この手のファンタジー小説の結末としては、これも一つの優しいお約束なのかもしれない。
結末の綺麗さはさておき、二人がそれぞれの場所で周囲の心を変えていった展開は興味深い。「相手の立場になって考える」という、言葉にすれば当たり前のテーマを、改めて文章で実感させてくれる一冊だった。