あらすじ
六十代の主婦・雅美は、大谷選手の書いたマンダラチャートを真似て、マス目を埋めてみる。
もし、人生をやりなおせるならば、「女性が胸を張って生きられる世の中にしたい」。
そう記した途端、雅美はマンダラチャートに飲み込まれ、中学生に戻ってしまう……。
同じくタイムスリップした、かつての憧れの人・天ヶ瀬とともに昭和の古くさい価値観を変えようと、奮闘する雅美だが……。
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Posted by ブクログ
垣谷さんの小説は読みやすく一気に読めます。
今回もあっという間に読めました。
マンダラチャートって何?と思いましたが内容を見てなるほど!
私もタイムスリップしたら中学生に戻り勉強をやり直してトップの成績を取って良い高校に入りたい、と思いました。タラレバですが···
そんな夢のような気持ちにさせてくれた本でした。現実は甘くない、今の生活も不満はあるけど······お互い様かな?
それでも昔はこんなことあったよね?
そうそう、女性は就職に不利だった、医学生も点数下げられてた。と怒りを覚えました。
今は少しでも改善できているのだろうか?
パワハラ、セクハラ、色々聞くけどそれじゃ社会人を育てられない、という意見もあるし、教育の立場でも上を目指すなら熱血指導があった時代に比べると今は手ぬるい、と思ってしまうのは私だけか?
いづれにせよ、とても良いテンポで読めた小説でした。
Posted by ブクログ
「女性が胸を張って生きられる世の中にする 」
マンダラチャートにそう書き終えた瞬間、63歳の北園雅美は中二時代にタイムスリップした…。
著者の垣谷美雨さんはこれまで「女性の生きづらさ」をテーマに数多くの作品を書かれている。集大成にも思えるこの本からは「とことん言わせてもらいますよ」と、ご本人の声が聞こえてくるような気がした。
「昭和ってこんなに男尊女卑な時代だったのか!」
田舎娘にとってそれが当たり前の日々で疑いもしなかった時代。東京の短大を出て、結婚、出産、年を重ねるうちに少しずつ違和感と失望感が膨らんでいく。
63歳の雅美は中学生に戻り、もう一度人生をやり直す。「結局女の人生は、自身の経済力に左右される」と考え、家族への接し方から変えていこうとする雅美に共感させられた。
初恋の人、天ヶ瀬良一が二人目のタイムスリッパーだなんて、なかなか心憎い演出だ。外見だけでなく性格も良く、雅美にとって唯一の理解者。
今後、この二人がどうなっていくのか期待度が増した。
スマホは無く、交換日記でのやり取り。ラジカセから流れてくる流行歌。雅美は歌詞に問題ありと抗議文を送る。
「声をあげなければ世の中は何も変わらない」
マスコミの影響や世間の風潮に惑わされ、人生を搾取された女性たち!
「だから私はあきらめない」雅美は四年制大学の建築学科に合格したが、彼女の前にさらなる壁が立ちはだかって… 。
2回目の人生も決して甘くない!
後半は、奮闘を続ける雅美にエールを送りながら読んだ。
天ヶ瀬を通し、男性側の人生にも触れてある本作では、生きづらいのは女性だけではないと教えてくれた。
ラストは希望を持たせる終わり方でとても良かったと思う。
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共感、共感の嵐でした!
60代になった時に10代20代を振り返り、その経験からやり直せたらどんなに素晴らしいことか!決して実現することのないそれを教えてくれたのが、この本でした。
「あー、そうだったなー、あんなことこんなことあったなー」と若い時を思い出しながらも、今の現実を懸命に生きていこうと思いました。
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アイドル的存在の天ヶ瀬くんがいい。高校生の時も、大人になっても。
人生をやり直せるチャンスをもらった63才の雅美が、どういう人生をやり直せるのか、マンダラチャート通りに書いたことを達成できるのか。
今1度目に比べて、どのように成功するのか…と期待して読ませられるが、2度目の人生でも大苦戦。むしろ、1回目以上に、男女差別の厳しさを味わって苦戦する。
結局もがいて終了の昭和時代を経て、令和に帰ってくる。
昭和は、自律してきちんと働きたい、コネなし地方出身の女性に世間は厳しい。誰しも、当時の常識に違和感や生きづらさを覚える人は多かったと思うが、抗うことは厳しい。自分を振り返っても無意識のうちにレールや上司から外れる選択肢を避けていた様に思う。
今は自分の気持ちや個人が尊重される時代。時代は変わったな〜と思う。いい時代になっていると思った。
嫌なことも目につくけど、でも振り返ると昭和はひどかったり、理不尽なことが今以上に多かったし見逃されていた。だから、たくましく今ある、ということもあるけどね。
一つの時代や事象に対して言語化して振り返るって大事。
私は著者の本が大好き。それは、差別される側の女性を描きながらも、その他様々な登場人物の生き方も尊重し、共感させる様な視点があるからだと思う。
Posted by ブクログ
タイムスリップものでこんなに単純明快なものを他に知らない。
結末、大変良い。
なんか結末までの紆余曲折はいろいろ思うところがあったけど、、、そうくるか!(⌒▽⌒)!
「思慮深く聡明で努力家で、、、そして愚かで大胆な大人」なんて素敵な評価だろう!
そう。この小説でタイムスリップを追体験した私も「愚かで大胆な大人」になりたい!!
Posted by ブクログ
垣谷美雨さんの書く物語って、パート主婦の私にはとても刺さる。読んでいて、共感して、笑えて、何度も吹き出してしまった。
男性側の主張?も書かれていたのが良かった。皆、自由がほしいんだな…仕事もほしい、自由もほしい、孤独もほしいし仲間も家族もほしい…
童話の最後のようなラストでした。
Posted by ブクログ
面白かったので、長編だけど、イッキに読んでしまった。
夫が妻を見下す。令和の今でも、そんな夫婦は普通にいる。主人公の雅美はタイムスリップして、そんな未来を変えようと無理なんだけど、ひとり頑張る。せめて自分の人生だけでもと。
雅美は私よりも年上なんだけど雅美が受けた仕打ち、特に就職、入社後の事は同じ感じだった。それが当たり前の時代で、上手くかわす事を身につけるしかなかった。
私がタイムスリップしても、雅美のように出来るだろうか?女ひとりでも自由に生きる選択肢を見つけられただろうか?
最後には令和に戻って、雅美も天ケ瀬も60越えていても自由に生きる事を選択するラストだが
タイムスリップしたままで自由を選択する姿も見てみたかったと思う。
パラレルワールドなのかな?
Posted by ブクログ
面白い話でした、どうなるの?と思って読み進めました。
結果的にはハッピーエンド?なのかな。
ちょっと主人公がうざい、天ヶ瀬さばさばしていて顔もいいならいいなと思った。
Posted by ブクログ
いつもの如く読み応えあり。現在の生きづらさからのまさかのタイムスリップ。昭和の中学生に戻る。どの時代に行っても違う意味での生きづらさがある。やり直したとしても、その時代ならではの、当たり前の出来事がある。となると令和がいいのか。色々と考えさせられたが一番いい方向で終わった。やっぱり面白かった。
Posted by ブクログ
笑えない話なのに滑稽過ぎて笑ってしまい、一気読み
垣谷美雨さんも、この物語の主人公北園雅美も、私より一回りちょい年上なんだけど…確かに大学進学時に(優秀なのに)女の子だから県外の大学には行かせてもらえないという同級生が一定数いたし、バブルが弾けて就職氷河期だったから実家住みでない女子大学生は就職出来ないなんてのは普通だった
そしてそれがおかしいってことに当時の私は気付いてもいなかった
今大学生の娘が知ったら絶望するだろうなぁ〜
今の私、少しはアップデート出来てるかな?
無意識に刷り込まれた価値観を刷新するのって本当に至難の業
雅美のやり直しの人生を一緒に戦ってるみたいで、楽しい読書タイムでした
垣谷作品の中でも一番好きかも
Posted by ブクログ
2024年出版。373ページ。表紙のイラストが何やら絶妙に...と思ったら、意図的でしたね。主人公の63歳の女性の精神だけが、何故か中学生時第の自信の身体にタイムスリップすると云う設定から始まる。女性である事の差別・苦悩、自信が無自覚に抱えている古い価値観などに苦悶しつつ。生き直しと、可能な限りの周囲の改善を目指すが、別人になる訳では無いので難しさも。思っていた以上に無自覚な差別が根深く、抗い術もなく挫折しそうになり...。
かなりのセクハラシーンも描かれるので、65歳男性である自分ですら腹立たしく不快感が甚だしい。これが現実として多くのシーンが存在した・し続けていると思うと、男ってモノがつくづく情けなくなるが...。
「楽しい」という本ではないが面白かった。
Posted by ブクログ
マンダラチャート
垣谷美雨さん
大好きな作家さん
今回も良いスタート!
大谷選手で有名な目標達成のための
マンダラチャート
本当に、大谷選手はすごい人だ!
あまりにも凄すぎて、
自分と大谷選手を比べて落ち込んでしまった主人公。
そのことを旦那に言ったら、大笑いされた!
そんなこんなで、
自分のマンダラチャートを書いてみた途中、
過去にタイムワープしてしまった。
そこから、63歳の気持ちで、中学生から生き直す。
同じ時期に、初恋の相手もタイムワープしてきて、
2人で乗り越えていく!
奮闘するが、
昭和の男尊女卑に屈する。
女だから、損してる!大変だと、言ってるけれど、
男の人も、嫌でも辛くても、会社を仕事を辞められない。
両方の気持ちがわかった。
なんだか、羨ましい、終わり方でした。
おもしろかった。
Posted by ブクログ
ふとしたきっかけで中学生時代に戻り、人生をやり直すお話。1度目の人生での後悔を活かして自分に正直に歩む様子は、もはや中高生が読むのがおすすめかも?1度目の人生にして、2度目の強さで歩めるかもしれない。
それにしても、この時代(1970年代)の理不尽さは酷い。
Posted by ブクログ
大好きな作家さん。読む度にそうそう!正にその通り!って共感しきり。私的にタイムリーなテーマばっかりで嬉しくなる。男女格差を40年のタイムスリップという手法で比較。比較といっても実は比較するほどの変化はなかった?いろいろ問題提起も、最後は自分の価値観とか生き方に帰結する。私に突きつけられるワタクシゴト。で、ラスト。本を閉じて清々しい気持ちになる。垣谷ワールド、大好き!
Posted by ブクログ
面白かった〜
垣谷さんの 小説はよく 男尊女卑の男が出て来てでも女の人が 強くて元気で 読後はいつもスカっとします。
今作はタイムスリップして 中学生に戻り 人生をやり直すお話。過去に戻ると その後の世界が変わっちゃうんじゃ?とか 自分がいなくなってしまった令和の時代 心配されてるんじゃ?とか 読みながら思いましたが そんな事忘れる位面白かった。
あの時代 あーそうだったよねって思い出される事がいっぱい。でもそれが普通だったから 何も疑問も持たなかったけど 結構酷い時代だったんだね。
雅美が今度こそ 幸せになれますように。天ヶ瀬君が変わりませんように。
Posted by ブクログ
面白かった。
今の自分を振り返って、後悔や虚しさを感じていた63歳の雅美は、大谷選手も書いたというマンダラチャートをレシートの裏に書く。その時、タイムスリップして中学生に戻ってしまう。そこで出会ったのは、同級生の天ヶ瀬。戻った時代でも、学校や会社や社会の根強い女性蔑視や差別に直面して、自分の生きたいように生きることの難しさを痛感する。理不尽な現実に怒りを覚える雅美。
自分なら、と考えながら読み進めた。希望の持てる結末に、救われた気がした。
Posted by ブクログ
はい!!
その通り!と言いたいことが随所にありコレが言えたらなーと思えることもたくさんあって読み応え充分。なかなか変わらないよね。少しづつ少しづつでも変わってきてるから権利を得たら行使しよう。
Posted by ブクログ
「あの頃に戻れたら」と誰もが持った願いを実現させた60代女性の転生無双系物語…と思いきや、日本社会における性差別という壁に阻まれる。同じくタイムスリップした同級生の男性との対話を通じて性差ではなくお互いの理解で融和していくのも面白い。現代から見た昭和社会は異常な価値観であり、令和社会であっても社会は少しずつ良くなっていることが分かって良かった。50年後の未来に胸を張れる時代にしたい。人生やり直したとてそんなに好転しないし、人生を後悔してもそれを誰かのせいにしないよう、わくわくした人生を歩みたくなる良い小説
Posted by ブクログ
強く頷きながら読みました。
全く同じ時代を生きてきて、同じ様な事を考えていました。過去にタイムリープできたら、、、と思うが、違う人生を迷う事なく選ぶ主人公は爽快。そして初恋の相手と共有できる秘密なんて、なんてうまく運んでる事でしょうとニヤニヤ。
元の世界に戻ってからは、短くてちょっと物足りなかったなぁ。でも、すごく面白かった!
Posted by ブクログ
ファンタジーではあるけど、考えさせられる場面ばかりで良い意味でも悪い意味でも心に刺さる作品でした。自分も含め、世間がいかにアンコンシャスバイアスの塊であるかを痛感しました。
Posted by ブクログ
読書の苦手な私が1日で読み終えた。
同年代で結婚、子育て(私は共働きですが)と同じような経験をしてきて共感しかなかった。
要は戻れるなら過去に戻って別の人生をやり直したい、そうすればきっと今より幸せになったに違いない、と誰もが思うんだろうという内容。
でもそこにはまた別の苦悩があり結局のところどの道に行ってもそれぞれの良し悪しがあり"今"が幸せなんじゃないかと思わされる。
私がもし戻れるならやっぱり結婚前の学生時代がいいと思う。
Posted by ブクログ
あなたは、『エンゼルスの大谷翔平選手が高校一年生のときに書いた』「マンダラチャート」を知っているでしょうか?
2024年のナショナル・リーグ最優秀選手(MVP)に選ばれた大谷翔平選手。リーグMVPに輝くのは実に3回目という大谷選手の活躍は、暗いニュースばかりの私たちの日常に前向きな話題をもたらしてくれました。そんな大谷選手が高校生の時に書いたという「マンダラチャート」がニュースを席巻したのは2023年のこと。そんな大谷選手は高校三年生の時に『人生設計シート』も作成しています。
『18歳 メジャー入団』から始まる将来の目標が『人生が夢をつくるんじゃない!夢が人生をつくるんだ!!』と大きく書かれた言葉と共に時系列に記された『人生設計シート』。『子供の頃から将来の目標を定め、それに向かって一直線に突き進んで生きてきた』という大谷選手のことを思う中には、人は自然と自分自身の今までの人生を振り返ってもしまいます。
さてここに、大谷選手の「マンダラチャート」を見て自身の今を思う女性が主人公となる物語があります。『もしも、もう一度人生をやり直せるならば…』と思いを込める女性が描かれるこの作品。そんな女性が”タイムスリップ”する様を描くこの作品。そしてそれは、”男尊女卑が色濃く残る昭和で令和の生きづらさを解決するため”に『やり直し』の人生を生きる一人の女性の苦闘の日々を見る物語です。
『大谷選手はね、高校生のときから人生の目標を決めていたんですよ』、『これはね、目標達成のためのマンダラチャートなんですよ』というアナウンサーの説明の中、『テレビ画面』に『エンゼルスの大谷翔平選手が高校一年生のときに書いたものだという』『九 × 九の八十一のマス目が大写しになった』のを見るのは主人公の北園雅美(きたぞの まさみ)。『18歳 メジャー入団』、『20歳 メジャー昇格 十五億円』と次に映された『時系列に沿っ』て記された『人生設計シート』を見る雅美は、次第に『胸が苦しくなってき』ます。『子供の頃から将来の目標を定め、それに向かって一直線に突き進んで生きてきたという』大谷選手を思い、『いいなあ、男は。目標に向かってまっしぐらじゃないの。それに比べて、女の人生は結婚や出産で否応なく中断させられてしまう。そしてあっという間に、六十歳だ』と今の自分を思います。『自分の未来は開けているし、可能性は努力次第で無限大だ』と『本気でそう信じていた』雅美は『明るい未来を信じていた中学生の私が、六十代になった今の私を見たらどう思うだろう』と考えます。『もしも、もう一度人生をやり直せるならば、自分の人生を邪魔するものは一切合切排除してみたい』、『人生は一度きりなのだ』と思う雅美。『子供たちも独立し、夫婦二人暮らしだ』という今の雅美は、『夫に一刻も早く帰ってきてほしいなんて、これっぽっちも思って』いませんが仕方なく『夕食の準備に取りかか』ります。そんな中に『玄関ドアが開く音が聞こえ』夫が帰ってきて夕食となりました。WBCの話になり、『大谷選手のマンダラチャートって知ってる?』と訊く雅美に『碁盤目のやつだろ?』と答える夫。『実は私…大谷選手がすごすぎて、自分の人生って何だったんだろうって、落ち込んじゃったんだよね。だから今日の試合が見られなかったの』と話す雅美に『本気で言ってんのか?自分と大谷選手を比べるなんて…そんなこと絶対に他人に言うなよ。頭がおかしいと思われるぞ』と夫に言われてしまい、『夫はどんな話題であっても妻を見下そうとするようになった』と改めて感じます。『互いに平均寿命まで生きるとしたら、あと二十年も三十年も一緒に暮らさなければならない』と今の境遇を思う雅美。
場面は変わり、夫が『早朝からゴルフに出かけた』ことで『心に解放感が広がる』雅美は、『ささやかな贅沢』として楽しみにしている『近所のカフェのモーニング』へと出かけます。『いつものお気に入りの席に着』き、『トーストサンドを食べ終え、コーヒーも飲み干した』雅美は、『ポシェットに入れておいた買い物リストの紙片を取り出し』ます。『鶏ささみ、きゅうり、練り胡麻…』と書いてあるリストに『「果物」と書き足したあと、ふと思いついて紙を裏返し、真っ白な紙面に碁盤目の線を引いてみ』る雅美は、『きっと大谷選手も、こうやって線を引くところから始めたのだろう』と、『ドラ1、8球団』と「マンダラチャート」を書いた彼のことを思います。そして、『もしも自分が高校時代に戻れるとしたら、何を書くだろう』と考える雅美ですが、『何ひとつ具体的な目標』を思い浮かべることができません。そんな中に、『目標は「男女平等の世の中」にしてみたら?』、『女性が胸を張って生きられる世の中にする』というようなことを思いつくも『そんな壮大な目標を達成するためには何をすればいいの?』と思う中に『そんなことより、帰ったら風呂の掃除をしなくちゃ』と身近なことに注意がいってしまいます。一方で、『水回りの使いにくさも女性の貴重な人生の時間を奪っているのだから、マンダラチャートの目標を囲むマス目に書いておこう』と『家庭内の設備は、家事に熟練した人間が設計すること』と記す雅美。『偏見に満ちたコマーシャルを全部排除すること』等、『勢いがつき、次から次へと乱暴な字で書き入れて』いく雅美は、『知らない間にマス目を埋めることに夢中になってい』きました。そして、『考えが整理されて優先順位も見えてきた』雅美でしたが、『書き終わって眺めていると、マンダラチャートの中心が台風の目のようになり、周りの文字がぐるぐると回り始め』ます。『目の錯覚だろうか』と思うも『眩暈はしないし、気分も悪くならない。そのうえ意識もはっきりしている』という中に『頬に風を感じ』る雅美は、『気持ちのいい風だったので、そのままじっとマンダラチャートの中心のマス目を見つめ』ます。そんな時、『え?』『どういうこと?』という思いの中、『目標を書いた中心のマス目に、全身が吸い込まれてい』きます。
再度場面は変わり、『あ、この曲、知ってる』と、『両隣からも背後からも歌声が聞こえてくる』中に、『この曲は天地真理の「ひとりじゃないの」だ』と思う雅美は、自分が『舞台に立っているらしい』ことに気づきます。『そう言えば中学生のとき、クラス対抗の合唱コンクールがあったが、そのときと雰囲気がそっくりだ』、『これは、夢だよね?』という先に、まさかの中学二年生の自分の身体へとタイムスリップした雅美の『やり直し』の人生が描かれていきます。
“六十代の主婦・雅美は、大谷選手の書いたマンダラチャートを真似て、マス目を埋めてみる。もし、人生をやりなおせるならば、「女性が胸を張って生きられる世の中にしたい」。そう記した途端、雅美はマンダラチャートに飲み込まれ、中学生に戻ってしまう…。同じくタイムスリップした、かつての憧れの人・天ヶ瀬とともに昭和の古くさい価値観を変えようと、奮闘する雅美だが…”と内容紹介にうたわれるこの作品。中央公論新社の「つながる文芸webサイト”BOC”の2023年11月号から2024年8月号に連載された作品が2024年11月20日に加筆修正の上、単行本として刊行されています。
そんなこの作品は内容紹介にある通り”タイムスリップ”を取り上げた作品です。2019年12月から小説ばかりを読んできた私は、読者&レビューの日々を送り続ける中、ついに念願の1,000冊の大台!を超えることができました。そんな私は、一にも二にも”タイムスリップ”を取り上げた作品に出会うために読書を続けています。しかし、女性作家さんの作品に限定した読書という制約が課せられた中では”タイムスリップもの”の作品がどれであるかの特定が難しく、やむを得ず地道に一冊ずつ読み続けています。男性作家さんに比べて女性作家さんで”タイムスリップ”を取り上げる作家さんはもともと少ないと感じていますが、一方で、”タイムスリップ”を扱った作品を複数発表されている作家さんがいらっしゃることに気づきました。ここにまとめておきましょう。
● “タイムスリップ”を扱った複数の作品を発表されている女性作家さん
・恩田陸さん
①「ライオンハート」(2000年12月1日刊)
②「ねじの回転」(2002年12月5日刊)
→ ①と②は似ても似つかない別ものの作品
・畑野智美さん:
①「ふたつの星とタイムマシン」(2014年10月24日刊)
②「タイムマシンでは、行けない明日」(2016年11月25日刊)
→ 発表は① → ②の順番ですが、②が長編大作で①は②のスピンオフのようなイメージの作品
・阿部暁子さん:
①「どこよりも遠い場所にいる君へ」(2017年10月20日刊)
②「また君と出会う未来のために」(2018年10月19日刊)
→ ①と②は緩やかに繋がる同じ世界観の作品
・内山純さん:
①「レトロ喫茶おおどけい」(2023年8月8日刊)
②「さかのぼり喫茶おおどけい」(2025年1月15日刊)
→ ①と②は連作短編構成のシリーズ作品
四人の作家さんの名前を挙げさせていただきました。この中では恩田陸さんだけが全く関係性のない別ものの二作品を発表されています。一方で、畑野智美さん、阿部暁子さん、そして内山純さんのお三方の二作品は極めて関係性が深いのが特徴です。また、恩田陸さん含め、二つの作品の刊行日が近いことも特徴的でしょうか?実際のところは不明ですが、畑野智美さんは①で”タイムスリップ”の世界観を作られ、②で長編に落とし込まれたという感じ。阿部暁子さんは①で”タイムスリップ”の世界観を作られ、②で反対方向の時間軸へと展開されたという感じ。そして、内山純さんは①の”タイムスリップ”が好評だったためにシリーズ化したという感じでしょうか?いずれにしても四人の作家さんに言えるのは、一冊目で手応えを感じて、さらに溢れ出る創作意欲を二冊目に落とし込まれた、そのような印象を受けます。ところで、この作品のレビューにわざわざこんなことに触れるのはこの作品の作者である垣谷美雨さんも複数の作品で”タイムスリップ”を描かれているからです。同じように記してみましょう。
・垣谷美雨さん:
①「リセット」(2008年2月13日刊)
②「マンダラチャート」(2024年11月20日刊)
→ ①と②に関連性はないが過去の自分の身体へ”タイムスリップ”する点が共通
上記した四人の作家さんと異なり複数発表の作品の間に16年もの歳月が開いてしまっていることが垣谷美雨さんの特徴です。後でも触れますが、”タイムスリップ”の設定イメージが似ているにも関わらず、これだけの期間が空いてしまった先に②が登場したことには何かしらの起点があったと思われます。そして、それこそが、この作品の書名にもなっている「マンダラチャート」です。この作品はこんな風にはじまります。
『大谷選手はね、高校生のときから人生の目標を決めていたんですよ。アナウンサーは、まるで自分のことのように誇らしげに語った。テレビ画面には、九×九の八十一のマス目が大写しになった。エンゼルスの大谷翔平選手が高校一年生のときに書いたものだという』。
今や大リーグ選手の頂点に立つ立場ともなった大谷翔平選手。そんな大谷選手が高校生のときに『人生の目標』を記していたことはニュースでも大きく取り上げられました。高校三年生の時に記された『人生設計シート』には、『18歳 メジャー入団』から始まり、『26歳 ワールドシリーズ優勝 結婚』、『28歳 男の子誕生』、『30歳 日本人最多勝利』…というように時系列で目標が書き込まれています。『子供の頃から将来の目標を定め、それに向かって一直線に突き進んで生きてきた』大谷選手。物語では、そんな大谷選手と自分の人生を比較する63歳の今を生きる北園雅美視点の物語が展開していきます。そして、上記した”タイムスリップ”に至る起点がこの「マンダラチャート」なのです。数多の”タイムスリップ”を取り上げた小説には、「ドラえもん」や「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のように時空間を超えるための道具として”タイムマシン”を用意するものがあります。上記した作家さんの中では畑野智美さんの作品がこれにあたります。これらの作品では、作品自体の演出としても、いざ!”タイムスリップ”!と、気合いが入ることになります。一方で垣谷美雨さんのこの作品の”タイムスリップ”はあまりにそっけないものです。
『マンダラチャートの中心が台風の目のようになり、周りの文字がぐるぐると回り始め』ます。
↓
『頬に風を感じ』ます。
↓
『気持ちのいい風だったので、そのままじっとマンダラチャートの中心のマス目を見つめてい』ます。
↓
『え?』『どういうこと?』という思いの中、『目標を書いた中心のマス目に、全身が吸い込まれてい』きました。
たったこれだけです。そうです。この作品は”タイムスリップ”そのもの自体には全く重きを置いていないのです。この物語はそうではなく、その結果論をじっくりと描くことに軸足を置く作品なのです。
とは言え、”タイムスリップもの”の面白さはこの作品でも存分に描かれていきます。主人公の雅美は1973年の自分の身体、まだ中学二年生だった北園雅美の身体に”タイムスリップ”します。これは、高校生の自分の身体へと”タイムスリップ”した垣谷美雨さんの前作「リセット」と同じパターンではあります。しかし、両作が描く物語には相当な違いがあり、この作品が「リセット」の焼き直しというわけではもちろんありません。そんなこの作品には、”タイムスリップもの”の醍醐味とも言える、時代を感じさせる表現が多々登場します。
『「総理大臣は誰だっけ?」
「田中角栄だろ。去年までは佐藤栄作だったけど」と、父が答えた。
「そうだったね。度忘れしちゃって」
田中角栄といえば、真っ先に上越新幹線を思い出す。「日本列島改造論」がベストセラーになったのだ』。
いつの世にも必ずいる内閣総理大臣。そんな総理大臣の名前を持ち出すのはとてもわかりやすい方法です。生まれる前です!という方には知らない名前も登場する可能性はありますが、田中角栄というビッグネームは時代が変わってもしばらくは大丈夫でしょう。
『「ケンサクって森田健作?この前まで郷ひろみが好きだって言っとったくせに、もう浮気?北園さん、もしかして「おれは男だ!」の再放送を見てたんか?』
『森田健作』という名前を聞いて元・千葉県知事?という方もいらっしゃるかもしれません。ただ、『おれは男だ!』というテレビ番組を知る方はどれくらいいらっしゃるでしょうか?
『店に流れていた五十嵐浩晃の「ペガサスの朝」が終わり、堀江淳の「メモリーグラス」が流れてきたから、気分が曲調に影響されて湿っぽくなってきた』
こちらはいかがでしょうか?『曲調に影響されて』という表現が理解できれば読み味も変わるかもしれません。三つを取り上げてみましたが、こういった時代を表すキーワードが登場するのも”タイムスリップもの”の楽しみのひとつではあります。
そんな”タイムスリップ”を作品の土台に描くこの作品ですが、物語は、『エンゼルスの大谷翔平選手が高校一年生のときに書いたものだという』「マンダラチャート」について取り上げたテレビ番組を見た主人公の北園雅美視点で展開していきます。『自分の未来は開けているし、可能性は努力次第で無限大だ』と『本気でそう信じていた』と過去を振り返る雅美はこんな思いに囚われます。
『明るい未来を信じていた中学生の私が、六十代になった今の私を見たらどう思うだろう』。
『なんだかんだ言ってパート主婦』だと今の自分を認識する雅美は、こんなことを思います。
『もしも、もう一度人生をやり直せるならば、自分の人生を邪魔するものは一切合切排除してみたい。
そのためには、もう結婚はしない。もちろん子供も産まない。
自分自身の人生を生きてみたい。人生は一度きりなのだ』。
『子供たちも独立し』、『妻を言い負かすことでストレスを発散しようと』する夫との『夫婦二人暮らし』の日々が『あと二十年も三十年も』続くという現実に絶望感を抱く雅美。そんな雅美は、ある日上記した「マンダラチャート」の『中心のマス目』に吸い込まれるように”タイムスリップ”します。そして、その先が生まれ故郷で中学二年生だった自分の身体の中です。『クラス対抗の合唱コンクール』で舞台に立つ自分の中に”タイムスリップ”した雅美。物語はその瞬間以降、”タイムスリップ”した先の世界で、『やり直し』の人生を生きていく雅美の姿が描かれていきます。
『部活などやっている場合じゃなかった。自分はどう生きていくのか、将来の目標は何なのか。それらを早く見極めないと、再び同じような平凡な主婦人生を繰り返してしまう』。
最初の人生では、『バスケ部』に入っていたものの、その先の未来を知る雅美は早々に『バスケ部』を退部し、違う人生を歩み始めます。そして、垣谷美雨さんはここにひとつ面白い仕掛けを用意されています。それこそが、内容紹介にこんな風に記されるものです。
“同じくタイムスリップした、かつての憧れの人・天ヶ瀬とともに昭和の古くさい価値観を変えようと、奮闘する”
そうです。”タイムスリップ”してこの時代にやってきたのは雅美一人だけでなく、もう一人いるのです。それこそが、『六十歳を過ぎてからも、思春期と聞けば真っ先に天ヶ瀬良一を思い出すほどだったが、最後まで誰にも知られずに終わった片思いだった』と、かつて憧れの存在だった天ヶ瀬良一の存在です。そして、”タイムスリップ”した者同士として知り合った二人は周囲に怪しまれないように連携していきます。
そんな物語で大きな特徴と言えるのが、身体は過去の自分とは言え、心は63歳のままであるということです。そこには、人生経験がものをいう場面が多々登場します。
『子供の頃は父が怖かった。何がきっかけで癇癪玉を破裂させるのかが読めなかった。だが、いま目の前にいるのは、たかだが四十代の若造だ。こっちは酸いも甘いも噛み分けた六十女なのだ。何を恐れることがあるだろう』。
これは面白いです。親よりも20歳も歳をとった心持ちで、親に接していく感覚、私も少しだけ試してみたくなります。しかし、『やり直し』の人生といってもそう容易くはありません。それこそが、この作品で垣谷美雨さんが最も描かれたかったことだと思います。次の思いに凝縮される感情を見てみましょう。
『自分が大人になる頃には、古臭い封建主義的な社会の風潮など跡形もなく消え去り、男女平等の世の中になっていると心底信じていた』。
物語では、1970年代という男尊女卑の感覚が当たり前に蔓延り、セクハラ、パワハラなどという言葉の萌芽さえ全くない時代を『やり直す』雅美の苦闘の日々が描かれていきます。「マンダラチャート」に記した事ごとを大谷選手の如くやり抜いていこうとするもその壁の高さに打ち砕かれざるを得ない雅美。物語は、『やり直し』のはずなのに”そうは問屋が卸さない”人生を歩む雅美を描いていきます。そして、そんな物語が至る結末、そこには、えっ?と全く予想外に展開するまさかの物語が描かれていました。
『もしも、もう一度人生をやり直せるならば、自分の人生を邪魔するものは一切合切排除してみたい…だって人生は一度きりなのだ』。
そんな思いの先に、『やり直し』の人生に挑んでいく雅美と天ヶ瀬の姿を描くこの作品。そこには、二作目の”タイムスリップ”を描く垣谷美雨さんの安定感ある物語が描かれていました。”タイムスリップ”の結果に重きを置くこの作品。そんな物語の中に、『男女平等の世の中になっていると心底信じていた』主人公・雅美の戸惑いが色濃く描かれるこの作品。
昭和の時代の理不尽な価値観が当たり前に描かれる物語の中に、この先に続くのが本当に今の時代なのかと驚いてもしまう、そんな作品でした。
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マンダラチャートと表紙の2人がどう関係するのか!?読んでるうちに、おー、そういう2人か!と納得。
タイムスリップものだが、別の人生を歩むチャレンジで人生が好転するか!?そう簡単にはものは運ばないもんだなぁーと感じた。
夢物語とはちょっと違って、現実との地続きな感じもする物語だった。
私ならば…タイムスリップして人生やり直すことになったら、どんな進路を選んでいくだろう!?
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SFものかと思いきや、読み進めると全然違う!テンポの良い展開にグングン引き込まれました。
ラスト、この2人の【その先】が読みたかったので星四つで!!
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タイムスリップした二人。よくある話と思ったけど、面白かった。なかなか世の中の価値観ってかわらないけだ、必死にもがく姿に励ましたい思いだった。好きで結婚した二人もいい状態でいられるのは難しい。ほっとできる相手はいい。そういう意味でラストにはほっとした。夏休みに初日頃に読むのにとてもいい本だった!
Posted by ブクログ
大谷選手で有名になったマンダラチャートと時を駆ける60台の女性の掛け合わせがとても面白い。しかしながら、SFではなく、よくありがちな夫婦間のすれ違いを2組のケースをリアルに描いていると感じた。