朱川湊人のレビュー一覧
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ネタバレ表題作について。
この作品のホラー要素はいったいどれか。未練の残った霊たちの醜い執着のありさまか。それを操ろうとする霊能者とその弟の歪んだ心理か。
霊が怖いというよりは、そこまで執着してしまう人間という存在そのものがホラーだと思えてくる。ジュンという主人公が発する違和感の正体が最後でわかるようになっているが、そういう事がある、ということよりも、やはり、そんなことをしてしまうシシィという霊媒師の精神のほうがよほど恐ろしい。
そして、この作品の底に流れる「生きるとはどういうことか」という問いが、もうひとつの「鉄柱(ハガネノミハシラ)」でくっきりと描かれる。
初読の時は、主人公と同じように、「自殺な -
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表題作の『白い部屋で月の歌を』は選評を先に読んでしまいまさかのネタばれ…
やってしまった…と思いながら読み始めたものの、文章の美しさやアイディアに惹かれつつ読めました。ホラーらしい不気味さもあるものの読後に残るのはやりきれなさや切なさ。ネタばれしていたもののオチにそういうものが詰まっていてよかったです。
もう一編収録されているのは『鉄柱』田舎町へ越してきた夫妻の話。この出だしでホラーということで話の展開は大体予測できたのですが、こちらも切なさややりきれなさの残る作品。表題作以上の名作だと思います。
個人的には主人公がある行動をとった後の心情や町民たちの様子のあまりの切なさに泣きかけました。命 -
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タイトルから「赤煉蛇(ヤマカガシ)」を想起させられた。
ひやりとしているが温度も感じられる、という爬虫類的特徴は本作ぴったり。
恋焦がれる「モノ」への倒錯的な愛が低温・高熱で描かれた短編集。
愛の形については、いわゆる「フィリア」であって、マニアとかフリークとか
とは異なるもの。ただ、そこに帯に書かれたような絶対的な「おぞましさ」を
感じることはなく、綺麗さが伴っているのがさすが。
作者にしては珍しいエロチズムがそこかしこに書かれていて違和感はあるが、
得意とするレトロスペクティブな情景描写で上手くコーティングされていて
そんなに卑猥な感じは受けず、これもまた手腕によるものかと。
見たくな -
Posted by ブクログ
官能、性的嗜好、死や死体。そして不可思議なもの。普段の私とは縁のない世界のため、息苦しさを感じたり目を背けたくなった。でも、怖いもの見たさで先が読みたくなる。見てはいけないけど、だからこそ見たくなる。そんな本だった。
全体的に暗黒な雰囲気の作品だったが、不思議と心に切なく染みてきた。気に入ったのは以下の三つ。
●「アタシの、いちばん、ほしいもの」
アタシが欲しいものにはっとさせられた。目の前で小さな命が散っていくのを止められなかった場面が印象的だった。
●「私はフランセス」
「あぁ……人を愛するって、どういうことなのでしょう?」以降で女の情念の深さをしみじみと感じた。業か…個人的には好き -
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連休にプライムで映画を見たので。
昭和30~40年代の大阪の下町で小学生が体験した話の短編集。
大阪ではないけど近しい子供時代だったので、時代背景がめっちゃわかる~!
「トカビの夜」もう苦しくなくなって飛び回ってるなんてよかったね~!って思っちゃう
「妖精生物」いたいた~学校帰りにヒヨコとか売ってた人!そして正体がこわ!((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
「摩訶不思議」女好きなおっちゃんの話。これは笑ったし、女たちが仲良くなるのもいい話だぁ~
「花まんま」会いに行くエピソードが映画まんまで映像が蘇った
「送りん婆」呪文が途中まで読み上げられたところでまさかとは思うがもしホント -
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オゾン層を修復するために開発された化学物質「ウェアジゾン」で太陽光線から特定の波長が散乱され、「夕焼けの色」が地球上から消えてしまう世界が舞台。「当たり前の日常」が奪われたとき、人はどう感じるのだろうか。個人的には夕陽がなくなるのは耐え難い。その化学物質の開発者と本物の笑顔を失った少年が旅を通じてそれぞれの心が解けていく話。
朱川さんが登場人物や読者に“日々の営みの大切さ”を再認識させる、とどこかに書いてあったが、そこまで読み込むことはできなかった…。
登場人物の説明が飛ぶし、中途半端なところもあったけど、後半に向けて物語が収束していく中で、まぁ、別にいいや、関係ないか、と静かな納得が残った。