朱川湊人のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
『かたみ歌』を読んで、たいへん気になりながらも、ようやくの2冊目です。
母親と公団住宅で暮らす小4のハヤト。
同じ住宅に一人で暮らすトンダ(東田)じいさんとは、あいさつを交わす程度の知り合いなのだが、ふとしたきっかけから「一生に一度のお願い」を託される。
それは、預かっているオルゴールを鹿児島に住む人に届けてほしいというもの。
ハヤトが大人になってからでも構わないと言われたが、交通費として手渡されたお金を使ってしまったことから、妙に後ろめたくなって・・・。
春休みになって、ハヤトが大阪で暮らす、離婚した父親の家に遊びに行くと、そこには若い女性がいて、お腹には赤ちゃんが。また、アパートの隣人・サエさんと思わぬいきさつから広島へ旅行することになって、遂には鹿児島へと向かっていく。
10歳の春休みにハヤトが出会う小さな、しかし本人にとっては衝撃的な事実や事件のあれこれに、ハヤトの思いが伝わってきて胸がつまる。与えられるぬくぬくした暮らしの中で、これらの事件のたった一つすら経験しないで済む10歳(多くの子ども達はこちらだと思うけど)と比べて、かなり早い段階で人生の苦みや痛みを味わったことになる。
けれどハヤタには、共に歩いてくれる人や励ましてくれる人、見守ってくれる人がいて、実は愛情に囲まれ幸せな姿もそこにはある。
子どもは子どもなりに、深く感じ考えているものだ。大人の気配を察知し、大人が悲しむのを回避したいと願っている。時には拗ねてしまったり、自分の感情に身を任せねばならないときもあるけれど。
登場人物の誰もが、なんらかの苦しみを抱え、それでも笑う。現実を受け容れることが難しくても、それを無かったことにはしない強さも持っている。
共に旅をするサエさんは特にいい。
ハヤトを子ども扱いせず、彼を理解しつつもわかったふりはしない。真正面から向き合ってくれるのだ。ハヤトにとっても、彼女と出会ったことで大人への扉が少し開いたのではないか。
また、級友のシンジロウとの関係も大きく変化していく。ハヤトはクラスの雰囲気を決定する中心的なグループの側にいて、自分の気持ちよりもそこからはじき出されない振る舞いを常に要求される子供の世界。
そこには属さないシンジロウを空気の読めない、見下すべき存在と感じていた持ちが、鹿児島への旅の中で変わっていく。子供じみているのはむしろ自分たちで、芯があり勇気を持っているのは、シンジロウのほうではなかったか?
閉ざされた世界に存在する自分の目の前に、大きな世界(広い社会)が現れる。経験によって知が啓かれ、見通しがきくようになると、今までの殻を脱いで一回り大きくなれるようだ。
「スタンドバイミー」を思い出させてくれる、男の子の成長物語。それと異なっているのは、手本となる素敵な大人が大勢出てくるところか。
最後の最後まで、魅力的なお話。
解説もまた、いい。 -
Posted by ブクログ
短編5編収録の作品集。
最も印象に残った短編は「昨日公園」息子と遊んでいた父親が、子どもの頃時間を巻き戻し親友を助けようとした記憶を回想する短編です。
親友を救うため一途に行動し続ける少年の姿、悲しい決断、そしてラストたるや涙を流しそうになってしまいました。読み終えた時登場人物たちに対する愛しさと、切なさがこれ以上ないくらいこみあげてきました。名作の多い朱川さんの短編の中でも一・二を争う完成度の高さと切なさ、悲しくてだけど美しい短編だったと思います。
ホラー系の作品では「死者恋」もかなりの完成度です。朱川さんらしく人間のもつ歪んだ感情を見事に表現しています。朱川さんのホラーは血みどろの怖さではなく、心理的にひたひたと迫ってくる怖さだからか、怖さの中にも一種のスマートさも感じてしまいます。
「月の石」は切ない人間心理に迫りつつも、最後にほんの少しの救いがあり、いろいろな意味で心が救われた短編だったと思います。
「フクロウ男」はミステリ的な仕掛けもあり、主人公の歪んだ感情などの描き方も巧かったです。
「アイスマン」はノンコに惹かれる主人公の少し耽美的な描写が印象的でした。
朱川さんのデビュー作を含む初期の短編集ですが、それでいて完成度が非常に高く、デビュー当時から朱川さんの技術が卓越していたこと、そして朱川さんの作品の世界観や空気感というものが完成していたことが分かる短編集でした。
読み終えてからこの本のカバーを見ると、また感じてしまうものがありますね…
第42回オール讀物推理小説新人賞受賞作「フクロウ男」
日本推理作家協会賞短編部門候補作「死者恋」 -
Posted by ブクログ
同じ団地のおじいさんからオルゴールを鹿児島まで届けるよう頼まれた小学生のハヤト。オルゴールの処遇をめぐり、ハヤトは大阪に暮らす父に休みを利用して相談に向かう。
この作品も朱川さんらしい登場人物への温かい視点、そしてオルゴールをめぐっておこるちょっと不思議な出来事が、美しい結末へ綺麗につながっているように感じます。
この作品の一番の読みどころはオルゴールをめぐってハヤトが成長していく姿でしょう。初めの方こそなかなかのいけ好かないガキなのですが(笑)初めての一人旅、大阪での出会い、鹿児島までの旅を通して彼はさまざまなものを目にし、考えそして人間的に成長していくのです。
新幹線に乗るのにドキドキするハヤトの様子を読んで、初めて一人で電車に乗って都市部の映画館まで行った自分を思い出しました。そういう懐かしさを誘うところもあれば、原爆資料館や戦争のことなど改めて思い出さなければいけない、と思うことや人とのつながりなどハヤトに教えられることもたくさんありました。
ハヤト以外の登場人物たちもよかったです。悪い人がいない、という意味で安心して読めるのですが、それぞれ胸の中に葛藤や苦悩を抱えていて、それらをハヤトがどう受け止めるのかも注目すべきところ。
個人的にはハヤトの同級生の真面目な少年通称「リアのび」(リアルのび太の略)が好きでした。こういう友人が近くにいるってホントに大事だと思います。
大人が読んでもいろいろ考えるところのある小説だと思うのですが、小・中学生が読んでも得るものがたくさんある小説だと思います。語彙や心理描写もそんなに複雑ではないし、自分自身その頃に読んでいたかった小説だなあ、と思いました。
本って各年代によって好みが分かれるところだと思いますが、この本はあらゆる世代の人が読んでも何か大切なものを残してくれたり、心を温めてくれる本ではないかと思います。 -
Posted by ブクログ
文庫本になってすぐに読んだけど、
いまだにふと思い出して
読み返したくなるくらい、
郷愁を誘う作品。
この小説は短編集だけど、
最初に読んだ時は
そのバラエティーに富んだ
作品の完成度の高さに
ホンマに新人が書いたの?って
ビックリしたし、
妖しい世界観の冒頭から
一気に引き込まれました。
本書は朱川さんのデビュー作であり、
ちょっと不思議でどこか懐かしい
妖しい世界観の短編集が
五編集められています。
見せ物小屋で出会った不思議な少女との淡い恋心と
河童のミイラの謎…、
帰省先の神社で
少年が迷い込む異世界を
ノスタルジックかつ官能的に描いた
「アイスマン」
親友を事故で失ってしまった少年が
何度も過去に戻り、
彼を助けるために奔走する姿を描き
“世にも奇妙な物語”にて
実写化もされた名作
「昨日公園」
フクロウの化身に自らがなり、
都市伝説を作ることに溺れていく愚かな男の狂気を描いた
オール讀物推理小説新人賞受賞作の
「フクロウ男」、
今は亡き作家に恋をした
女たちの狂気を描いた
正統派ホラー
「死者恋」、
など
どれも甲乙付けがたいほど
完成度が高い作品ばかり。
この朱川さんという作家は
地味なんやけど、
淡々とした語り口調で
読者を引っ張りながら、
最後の最後で
物語をひっくり返すうな
オチが本当に上手いんです(≧∇≦)
そして全編を切なく貫くのは、
朱川さんの作品すべてに息ずく
「昭和の香り」であり、
昭和だからこその
おどろおどろしさなのです。
ホラーと言ってしまうと
敬遠する人もいるだろうし、
それで敬遠するには
本当に勿体無い作品なので、
ちょっとノスタルジックな
不思議で切ない話が好きなら、
(また妖しい江戸川乱歩の世界観が好きなら)
または昭和を感じたい人、
昭和の匂いに浸りたい人、
30代以上の人、
先入観抜きで
読んで欲しい作品です(^_^)v -
Posted by ブクログ
ネタバレおもしろい。読書好きの友人に勧めてもらって読んでみたけど、予想以上におもしろかった!
一話目からぐぐっと引きこむ世界観。
昭和のかおり漂う何とも言えない不思議な雰囲気に引き込まれて、ぐいぐい読んでました。
全5話、すべてが完成されてて、これぞ「短編集」って感じで大満足。
不思議な感じから始まって、最後にがらっとひっくり返す手法。
前半の話はラストまで不気味なままだったけど、最終話、「月の石」はラストに救いがあってよかったなぁ。
「死者恋」はエロチズムがなんとも言えないし、「アイスマン」の不気味さったらすごすぎた。この話、ちょっと江戸川乱歩っぽいよね。おもしろい。
「昨日公園」は切なすぎる展開にちょっと泣きそうになったし、デビュー作の「フクロウ男」は、ラストのどんでん返しにマジビビりでした。
最初は「君」の性別が女だと思ってたから、まさかこっちかー!! って最後びっくりした。
うーん。うまいなぁ。
この人、是非他の作品も読んでみたいなぁ。