朱川湊人のレビュー一覧
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「カンカン軒怪異譚」という話が、一番心に響いた。
ハラ減ると、ロクなこと考えない。
おばちゃんの考え方に、確かにその通りだなと思った。
どんなにやりたいことや、諦めたくないことがあっても、お腹が空いたままだと、なんだかどうでもよくなってしまうというような、経験をしたことがある人は、結構いるんじゃないだろうか・・・。
でも、お腹がいっぱいになってみると、もう少し頑張ろう。生きてて良かったと思うのだから、不思議なものだ。
肉や魚だけじゃなく、野菜、山菜、貝・・・。
どんな食べ物にも命があって、その命をもらうことで、生かされている。
どんな悩みも抱えている時は、深刻に考えてしまうものだけど、いつか、笑い話に、いい経験になったと思える時が来るはず。
悩みに覆い尽くされそうになってしまった時は、食事をしよう。そこから、全てはやり直せる。そう考えさせられた小説でした。 -
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ネタバレ今は図らずも遠く離ればなれになった友人に向かって語りかけるようにつづられた35年以上も前の少年時代の思い出。
小学校3年の2学期の始業式の日に主人公モッチたちが通う小学校に転校してきた不思議な雰囲気を持つ少年リンダ。彼が小学4年の2月始め、つまり1年足らずで突然転校してしまうまでの間に起きた出来事を綴った物語です。
それは、自分たち子供にはどうすることもできず味わう無力感だったり、人生経験に乏しい(それは子供であるが故に当たり前のことなのですが)ことによる無知・未熟さ、世の間の理不尽さにやり場のない憤りを感じながら、少しずつ大人になっていくことなのだと。
昭和のあの時代に生まれ、少年時代を過ごした自分たち世代にとっては、何とも懐かしいキーワードがたくさん出てきます。あの頃の想い出は今となってはセピア色に色あせていますが、それでもふとした瞬間に天然色の映像を伴って蘇ります。
数々出てきたキーワードの中で、一番私の琴線に触れたものは『スパイメモ』でした。自分は『スパイ手帳』と呼んでいたように記憶していますが、確かに所有していました。「水に溶ける紙」や「追跡シール」。あまりの懐かしさに悶絶してしまいました。(笑)
ついぞお土産など買って帰った記憶がない私の父が、唯一出張の折に買って来てくれたのがこの『スパイメモ』だったものですから、このキーワードですっかり忘れていたそんな記憶が色鮮やかに蘇りました。 -
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どの話も面白くて、考えさせられましたが、特に響いた作品が、「気合入門」と「蒼い岸辺にて」です。
前者では、気合一つがあるか、ないかで、見ている世界が変わってくるということ。
怖がったり、避けたりしていても、何も変わらない。気合を入れて、目を逸らさずに、最後まで立ち向かうことで何かを得られることもある。
後者では、自分の未来を自分で決めつけてはいないだろうかということ。
誰かに言われたままを真に受けてはいけない。夢があるなら夢に向かって突き進むことが大事だし、ありのままの自分に誇りを持ち、自分が好きでいられる自分でいるということは素敵なこと。
生きていくのに、大切な、普段の生活の中では忘れてしまいがちな教訓を教えてもらった小説でした。 -
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ネタバレわくらばシリーズの2冊目。
光あるところ影があるように、白魔術と黒魔術があるように、ブラックジャックにドクターキリコがいるように、好敵手登場ってのは読者にとってワクワクするもんだ。また良き理解者の造反と復活、なんていう常套手段の展開もあり、結構盛り上がりのある巻となっている。
昭和30年代を語るのに「戦争」と「貧困」を忘れたらアカンと思う。その時代をリアルに生きてきた人は忘れても良いかも知れんけど、後で生まれた人が、その時代が背負ってたものを意識せずに「あの頃は良かった」と語るのは、魂が入っていないノスタルジーにしか過ぎなくて薄さを感じてしまう。
その荷物を重すぎず、でも決して忘れることのないように意識させられるこのシリーズ。主人公の姉妹と彼女らをとりまく人々の生き方を読むにつけ「俺も日常生活をもっと大事に丁寧に過ごさないといけないな」と居住まいを正す心地よさを味わえる。 -
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ネタバレノスタルジーには希望だけでなく悲劇前の哀しげな追憶も含むことがあって、最近の昭和ものにはその暗い側がないがしろにされてるよなぁ。
って思ってたんだと、改めて思い出さされた本でした。
主人公と幸薄そうな美人の姉、厳しくとも優しい毅然とした母の家族に、娼婦あがりの茜さんという女性たちが、まだまだ戦争の傷跡が残る昭和の日本で生きていく姿は読んでいて心に沁みる、ミステリー要素や姉の能力がまた絶妙に効いた小道具で飽きさせない
父親の謎、予想される悲劇(なんだろうなぁ)と続編にも期待できる。
ただ、やっぱり、それでも楽しい話が好きなんだよなぁ俺は… -
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表題作の中編一編と短編四編収録
一日だけどんな願いことも叶えれることを知った男の一日を描いた『本日サービスデー』、三途の川での橋渡し役と女性のやり取りを描いた『蒼い岸辺にて』。
どちらも設定や展開はベターな作品だと思うのですが、朱川さんの語り口の巧さ、ベタな設定にも一つのスパイスといえるアイテムやルールを加えることで、見事に朱川さんらしいオリジナリティが加えられていると思います。どちらの作品もちょっと元気をもらいたいときに読むにはピッタリな作品です。
この作品集の中で最も朱川さんらしさを感じたのは『あおぞら怪談』。バイト先の先輩のアパートの部屋に出現する、女性の腕だけの幽霊との不思議な交流を描いた話。
幽霊が出てくるのにほのぼのとした話の展開、そして何より見事だったのが、先輩の最後の一言。こういうオチの見事さもあるから朱川さんの作品を読むのはやめられません(笑)
『気合入門』はザリガニ釣りに来た少年を描いた話。あっさりした話ながら、爽やかさな少年の心情の変化がすがすがしく心に残る短編でした。
『東京しあわせクラブ』は作家の主人公があるマニアたちが集まる寄合に参加する話。
この短編集の中では少しテイストが違う作品ですが、語り口の軽妙さが絶妙で不思議と浮いている印象は受けませんでした。それでもしっかりダークさを含んでいるあたりもさすがです。
朱川さんらしく今回の短編集も安定感抜群で、安心して読むことができました。