高山羽根子のレビュー一覧
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ネタバレ解説で芥川賞受賞の際のコメントで審査員の方々も仰っていましたがこの作品では孤独について感じる作品だったと思います。孤独な場所にいる人(深海や宇宙、紛争地のシェルター内等)の為にクイズを出す職業の傍ら資料館のボランティアをしている主人公が台風明けの日、馬(琉球馬)を拾うという変わった設定です。この3つを組み合わせ一つの作品にまとめるのは困難だと感じますが作者の奇跡的なバランスによりそれが為されているのが面白いと感じます。クイズ解答者のそれぞれ孤独な場所にいる人が辿り着いた人生哲学の様な或いはこれまでの自分の生い立ちによる自身への向き合い方・考え方には考えさせられるものがあります。
短くて電車の待 -
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〈あの建物に詰まっていた資料が正確なものかどうかなんて、未名子だけでなく世の中にいるだれにもわからない。ただ、あの建物にいた未名子は、それぞれ瞬間の事実に誠実だった。真実はその瞬間から過去のものになる。ただそれであっても、ある時点でだけ真実だとされている事柄が、情報として必要になる日が来ないとだれがいい切れるんだろう〉
沖縄にある小さな郷土資料館『沖縄及島嶼資料館』。島の資料館とされてはいるが、その実態は持ち主である民俗学者の順さんの私的資料が保管された建物になっている。その資料館の整理を中学生の頃から手伝う未名子は、オンライン上で世界中の孤独な業務従事者と一対一のクイズを使ったコミュニケ -
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ネタバレ⚫︎受け取ったメッセージ
すべてはつながっている
本当の孤独はない
⚫︎あらすじ(本概要より転載)
問読者(トイヨミ)――それが未名子の仕事だ。沖縄の古びた郷土資料館で資料整理を手伝う傍ら、世界の果ての孤独な業務従事者に向けてオンラインで問題を読み上げる。未名子は、この仕事が好きだった。台風の夜に、迷い込んだ宮古馬(ナークー)。ひとりきりの宇宙ステーション、極地の深海、紛争地のシェルター……孤独な人々の記憶と、この島の記録が、クイズを通してつながってゆく。第163回芥川賞受賞作。
⚫︎感想
孤独と聞けば、寂しさをすぐに連想してしまう。しかし、この作品は、ほんとうの孤独はないということ、記録 -
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『ふと、私の首が、私の叫びとともにスポットライトの中でごとりと落とされたら、ここにいるたくさんの人たちはどうふるまうだろう、と妄想する。事実このときの私は、たくさんの人たちの前で斬首される受刑者とたいして変わらないと思えた。私が自分の作品の一部、創作活動の一部として自分の死を差し出すふるまいをしたなら、この場の人たちはどうそれを鑑賞するんだろう。などと考えながら、にもかかわらず、曖昧で無毒な困惑の笑みを浮かべながら、拍手と光に満ちる舞台にずっと立っている』
保坂和志なら、これも(こそ)小説というだろう。けれど、一般的な意味で小説にプロットを期待するなら、これはその期待を裏切るだろう。しかし高 -
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ネタバレほんタメで紹介されていたので、読んでみた(もちろんあかりん帯のものを購入)。
最初は「なんだこれ?」という感想だったが、五通目の手紙を読んでこの小説の面白さに気づいた。まさかあの蟹頭がこの物語の主要メンバーに入るとは……。でも、ある物があるところでは人気者になっていて、あるところでは忌むべき存在とされていて、さらにあるところでは言ってはいけない言葉として扱われているなんて、結構あることなのかもしれない。
「旅をして地図上のまったく同じ地点に立っても、見える景色はまったくちがったもので、それぞれの眺めは厳密なところ、まったく同じ景色として共有することは不可能なんです。(…)ただ逆を言えば、 -
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新進気鋭の作家様によるSF中短編書き下ろしプラス創元SF短編賞受賞作アンソロジー
自分の裡に形成される「SF固定概念」を毎回アップデートしてくれる最先端を走るシリーズ
ティプトリーを読み涙していた頃、このような未来型が到来すると露ほども予測せず、また今後どのような作品が紡がれてゆくのか、想像するだけで萌えます
読みごたえあります!
『未明のシンビオシス』
南海トラフ大規模地殻変動が発生、列島の姿すら変わってしまった日本
荒廃した世界で生き延びる主人公たちの微かな希望を描いた近未来SF
『いつか明ける夜を』
光のない闇の世界が、夜と昼に別たれた
言い伝えの神馬と少女は、世界の救世主にな -
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『温かくて粘りけのある液体は、およそ人の体内にあったとは思えない質感だった。粘る水分を指先ですくい取って鼻先に近づけると、先ほどまでいた市場のにおいが流れ込んできて私の頭(心?)の中にひろがった』―『居た場所』
二冊続けて同じ作家の本を読む。東南アジアの空気感と生活臭がたちまち湧き上がる文章。けれど「ラピード・レチェ」でもそうだったように、そこはどこなのか、その存在の輪郭は薄い霧のように曖昧で、もどかしさ(?)が立ち上がりそうにもなる。
それがどこであろうと、一見関係のないように、ミステリーのような物語は進行するが、実はそこに潜む隠喩は情報過多の世界における正義感に繋がっているようにも見受 -
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学校の帰り道沿いのパチンコ屋の屋上から、突如として聞こえてきた咆哮。和江と美佐と洋子の三姉妹は箱に入っていたその犬に似た生き物を「うどん」と名付けて家で買うようになります。
それから何が起こるでもなく、七日め、四年め、七年めと時(章)が過ぎ、あっけなくも不思議な雰囲気を残したまま物語は幕を閉じます(うどん キツネつきの)
さらには、古びたおんぼろアパートの奇妙な住人の日常が淡々と描かれる「シキ零レイ零 ミドリ荘」、ある女性の風変わりながら凄まじいとある計画に焦点を当てた「母のいる島」、子どもが書いていると思われる謎のブログに引き込まれていく一人の女性がたどり着くのは…「おやすみラジオ」、ねぶ -
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2020年芥川賞(上半期①)受賞作
2015年から順に芥川賞を読んできたけど、一番面白かったかも…
理由はぶっ飛んでいるというか、SF的な壮大さがあるというか、現実から脱線してるからか(*_*)
問読者(トイヨミ)という怪しい仕事に就いた未名子は順(ヨリ)途(ミチ)親子と中学生の頃から関わって生きてきた20代女性が主人公。
メッセージとしては現時点で誰も興味を示さないであろう情報も記録さえしていれば、いつか陽の目を浴びる事があるから収集と管理に意味があると云う事だろうと思う。
問読者の仕事はクイズの出題者なんだが、それ以外にもクライアントとの雑談は許されている。その中で思う事はやはり孤 -
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ネタバレ序盤は説明が懇切丁寧で、少し歴史の教科書を読んでいるような気持ちになった。しかし、未名子が問読者を辞めると決めた辺りから、全てが繋がり、視界が広がっていくような感覚があった。
順さんの資料館と問読者の仕事に共通する膨大な知識の海であったり、クイズ回答者が居る場所への途方もない距離がそう感じさせたのかもしれない。
ヒコーキは未名子を新たな場所へ連れて行ってくれる存在として現れ、ラストシーンも彼(?)に跨り、世の理不尽からも去っていくような姿に胸がすくような気がした。
未名子が自らの意思ではじめた記録の動機が、思い出としてではなく、後世の人々の助けになるかもしれない、という考え方は、最早長年研