山田美明のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
【はじめに】
2019年末に中国で発生したコロナウィルスは瞬く間に世界中に拡散し、多くの命を奪い、社会的・経済的損失を拡大させた。コロナワクチンは、その影響の際限のない拡大を今ある程度までに抑えることに大きく貢献することとなった。本書は、このコロナワクチンが驚くべき速度で開発された成功ストーリーについて書かれている。
著者のジョー・ミラーは、ファイザー製ワクチン開発の主役となったビオンテック社を中心に多くの関係者にインタビューを行った。創業者のウールとエズレム夫妻が本書の主役だが、ビオンテックのその他の数多くの社員や投資家、ファイザーの重役・社員も実名で登場し、人間ドラマも含めて開発物語が紡がれている。
著者は、ビオンテックがこの成功を収める前から取材を開始している。そこで築いた信頼関係が、この本をまた信頼のおける深い物語としている。
【概要】
■ mRNA技術
ビオンテックは、もともとは患者固有の腫瘍向けにカスタマイズされたワクチンの開発技術としてmRNAに着目していた。このワクチンは、mRNAが不安定であるということ(そのために付加剤や冷却保存が必要)と、それがあまりにも新しいことを除けば、原理的には遺伝子情報だけを必要とするため開発が非常に早くなることが期待されていた。このmRNAの性質は、パーソナライズが必要で、かつ緊急投与を要する癌治療薬として期待されるところであったのだが、喫緊に必要とされたコロナワクチンとしてもまさに必要とされる性質でもあった。このmRNAワクチンの技術がこのタイミングで存在し、挑戦する意志とガッツがある人々の手にあったことは世界にとって幸運であったと思う。
本書では、一般的な免疫系の説明や、ワクチン開発の歴史、一般的な薬の開発プロセスなども詳しく説明されている。その上で、mRNAが「指名手配ポスター」となり、T細胞と連動してワクチンとしてどのように働くのか、その技術的な課題はどういうものであったのかも説明されていて勉強になる。自分の身体の中に入り、これだけ多くの人に摂取されたワクチンについてある程度その仕組みを知ることは世界に対する誠実さという面からも重要なことではないかと思う。
すでにウールがコロナ禍の2年前にビル・ゲイツと会い、癌治療薬として説明したmRNA技術についてゲイツがパンデミックの発生に対してワクチンを開発できるようなソリューションを準備しておいた方がよいと助言していたというエピソードは震える。このときの助言を受けてファイザーとインフルエンザワクチンの共同開発契約を交わしていたことが結果的に役に立ったのだ。
■ 開発速度
コロナワクチン開発においては開発速度が命だった。このウィルスが世界的脅威に発展するとわかる前に、このプロジェクトは始められなければならなかった。なぜなら状況はすぐにでも一時を争うようになるが、そのときではすでに時は遅しである状況だからだ。「プロジェクト・ライトスピード」と名付けられたこのワクチン開発プロジェクトは幾多の困難を乗り越えて最速で実現された。「まず最速を、それから最高を目指せ」もちろん、現実の世界では多くの命が失われ、気軽に間に合ったとはいえない状況であることは確かだが、少なくともこれなかりせばの世界と比較して、何人もの命と経済活動の時間を救ったことは確かだ。
ワクチン開発はまさしく時間との戦いであった。ひとつづつ試薬の効果を試すのではなく、数多くの候補を同時並行的に試していくという方法を取ったり、ワクチンを生産する工場をリスクを取って事前に確保したり、急に出てきた有力候補を時期を遅らせることなく治験に採用したり、といった苦労話が綴られる。
■ ファイザーとの協力体制
ビオンテックは、現在一般には「ファイザー製ワクチン」と認識されている通り、製薬大手ファイザーとの協力体制を取ることで実現された。安全性や効果を確認するための試験や、開発後の流通、それまでに必要となる資本とリソースがビオンテックにはなく、その調達を大手製薬会社との提携により獲得することが必要だったからだ。この提携の経緯もこの本では詳しいが、地球規模の危機を前にして、ファイザー社もできるだけ早くかつ大量にデリバリーを行うという目標に向け、上層部含めて志をひとつにして進められてきたことがわかる。タームシート締結に向けた権利交渉のシーンは担当者は文句を言っていたようだが、トップダウンでリスクをお互いに取ったからこそうまくいったのだと思わされる。
最後にB2.9と呼ばれるワクチンの盲検試験の結果がファイザー社からウールにもたらされ、その結果が想定をはるかに超える成功であったことを聞く場面は感動的である。成功が保証されない中で、いかに綱渡りであり、またいくつかの偶然にも助けられたことが本当によくわかる。ビオンテックにとっても、世界にとっても賭けに勝った瞬間だった。
【所感】
本書を通して読むとコロナワクチンはいくつかの偶然と強い意志の結果として完成して世に出されたものであることがわかる。そもそもワクチン開発というものは、その歴史上うまくいかないことの方が多かったし、安全性の確認などに時間がかかるものであった。そのワクチン開発の新しい手法としてmRNAを使った手法がこのタイミングで実用化されたこと、そしてその新しい手法を使ったにもかかわらず1年足らずで製品開発までこぎつけたのは、おそらくは我々にとって僥倖であったのだろう。
ビオンテックが開発したコロナワクチンは、タッチの差で間に合わず、自分は2021年6月に感染してしまったので、もう少し早ければ..と思うところなのだが、この物語は悲劇の中の一つの英雄譚として後の世に知られるべきだろう。もちろん、取材から再構築した物語であり、採用されなかったエピソードや、読み物として嘘にならない範囲で修飾が行われていることだろう。それでも、なお科学の勝利の物語として記憶されるべきだろう。そのことを確信できた本だった。
そして成功体験と資金を得たことによって、mRNA技術を用いたパーソナライズされたがんワクチンも遠くない将来に実現されることも期待している。ひとまず、この本を読んだので、3度打ったワクチンはすべてファイザー製にした。
コロナワクチン開発のことを簡単に知りたいという方には少し冗長かもしれないが、とにかくお薦め。 -
Posted by ブクログ
“Project Light Speed” ビオンテック社 光速のワクチン開発全記録
今も世界中で繰り返し接種されているCOVID-19に対するmRNAワクチンの代表選手、ファイザーのワクチンの開発の全プロセスがわかる一冊です。ファイザーのワクチンとは言っても、ファイザーはいわば発売元であり開発・製造しているのはドイツの会社ビオンテック社です。
ビオンテック社はトルコ系ドイツ人(ドイツが労働力不足からトルコ移民を多数受け入れていた時代に移民してきたトルコ人の二世)夫妻が2008年に作った会社。夫妻とはウール・シャヒンとエズレム・テュレジです。それぞれケルン大学とザールラント大学出身の医師で起業家。
ビオンテック社は創業以来、mRNAを使った「がん免疫療法」の研究と実用化を目標としていました。21世紀になってそれまで扱いにくい分子であったmRNAが多くの研究者の努力によって次第に治療薬として使える可能性が見え始めていました。それは、たとえば前述のカタリン・カリコの開発した技術などがそれです(前述のように、カリコは2018年からビオンテックの副社長に就任しています)。
ビオンテック社では、それらの技術を統合しさらに日々出現する新手法を取り入れ、治療対象である「がん」の抗原部分のDNA配列さえわかれば
1.それに相応するmRNAを人工的に作り
2.mRNAをがん患者に投与することで生体にmRNAから抗原タンパクを作らせ
3.さらにそのタンパクが攻撃目標として認識され免疫反応を引き起こし
4.その活性化された免疫反応で「がん」そのものが攻撃される
というmRNA抗がん剤の開発の一連のプロセスを完成しつつあった・・・のです。
そのドンピシャのタイミングでCOVID-19パンデミックが起こったのです。武漢からヨーロッパに感染が広がり始め、中国の研究者がウイルスの遺伝子配列をインターネットに公開したのが2020年1月10日、ウール夫妻が自分たちのmRNA技術でCOVID-19に対するmRNAワクチンを作ることを決意したのは1月21日。日本の第1号患者が診断されたのが1月15日ですからビオンテックの動きの速さには驚かされます。
そこからウールの言う「Project Light Speed(光速プロジェクト)」がスタート。テクノロジー・人員・資金・治験・政治的駆け引きなどなど、さまざまに絡み合いながら進行しワクチンが完成し認可を受け、最初の一般人に接種されたのが10ヶ月後の2020年12月8日、驚異の速度です。
ワクチン開発は単に研究が好きなだけ・技術力だけではできません。テクノロジーへの目配せ(驚くべき論文渉猟量)・周辺技術への配慮・資金繰りにロジスティクス、そして何よりも人間に使用するための何相にも及ぶ治験。それらを着々とこなしていくビオンテック社のチーム力とウール夫妻の指導力はすごい。研究が好きなだけではなく、現実社会における実行力がものをいいますね。
さまざまなことがジャスト・タイミングで一気に結合して光速のワクチン開発。そしてそれが何十億人に接種されているという現実。もちろんビオンテック社とファイザーの得た利益も桁外れです。 -
Posted by ブクログ
前半部分はまだCEOになってから3年程度のサティア・ナデラの自伝的な側面もあるのですけど、マイクロソフトとという会社の存在意義や「魂」は何か。世界の人々のより良い未来為に何をなすべきか。というようなことを哲学的に考え続けて、解を見つけて立て直していく様子が書かれています。
OSからモバイルファースト、クラウドファーストへのビジネスモデルの大転換や顧客との関係性を見直し、敵対するかもしれない同業者との関係も柔軟に考え、企業文化を重視し、組織の能力を最大化する。
マイクロソフトという企業に対して期待を抱かせると同時に、読み終わった後、この人物がただ者ではないことと、会社の将来がどうなるのか興味深いと思いました。 -
Posted by ブクログ
原田マハさんの たゆえども沈まず を読んで
ゴッホに興味が湧き、お試し版から読み始め
結局止まらず本編を購入しました
多くのアーティストがそうであるように
心の葛藤や精神衰弱を抱えたゴッホ。
くらいの感覚でいました。
しかし、この本を読んで、星の数ほどある論文から
丁寧に丁寧に炙り出したゴッホの姿について
苦しみを抱えながらよくもまぁ
あんなに彩豊かな作品を猛烈に描けたもんだなぁ
と、尊敬の念を抱かざる得ませんでした
そしてその人生の深さ、彩りを鮮明にしてくれた
著者の執念とも言える調査力には脱帽です。
一つの点としての論文は数あれど
それが説得力を持って紡がれた糸は極太でした!
文章はストーリー仕立ての部分もあり
非常に読みやすく
著者の調査過程や苦労、悔しさ、喜びを一緒に味わえるものになっています。
この本を読みつつ、ナショナルギャラリー展を訪れ
ゴッホのひまわりを目にすることができたことは
わたしにとって幸運でした。
ギラギラとまるで、そのものが光を放つような
そんな文面の魅力も感じながら本物に触れ合えました。
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Posted by ブクログ
ネタバレ・カナーもアスペルガーもオーストリア出身。
・自閉症の発見の先駆として、医師ゲオルグ・フランクルと心理学者アンニ・ヴァイスが、カナーとアスペルガーの両者に関わりを持っていた。
・アスペルガーは敬虔なカトリック。
精神分析をあまりに合理的なものとしてさげすむ反面、問題のある子供たちを冷徹に観察した。
・ローナ・ウィングはアスペルガーを”発見”したが後年後悔している。
・アスペルガーは本格的な自閉の女性は見たことがないと述べている。
・ナチ親衛隊の14パーセントがオーストリア人。
・シュピーゲングルントの生還者への補償は1990年代以降。