あらすじ
ファイザー社と組み、11カ月という常識外のスピードで世界初の新型コロナワクチンの開発に成功したドイツ・ビオンテック社。画期的なmRNA技術で一躍注目を集めるバイオ企業の創業者/研究者夫妻に密着、熾烈なワクチン開発競争の内幕に迫るドキュメント。
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Posted by ブクログ
本書『mRNAワクチンの衝撃: コロナ制圧と医療の未来』は コロナワクチンを開発した会社の1つであるドイツのビオンテックを取り上げたノンフィクションだ。 日本では同じようにmRNAを用いたワクチン開発会社であるモデルナはよく知られているが、ビオンテックについてはあまり知られていないかもしれない。本書にも詳しく買いてあるが、それほど規模が大きくなかったビオンテックはワクチン配布にあたってはファイザーと提携しており、日本では”ファイザー”ワクチンと呼ばれていたからだ。
生物を真面目に勉強した人をのぞいて、コロナワクチンが広く利用されるようになるまではRNAという単語を知っている人はほとんどいなかったと思う。DNAについてはエンタメや親子関係の確定に広く使われているために普通の単語になっているが、RNAはそういった広まり方をしていないからだ。
このRNAというすごく簡単にいうと、DNAの情報をコピーするために使われている(正確に言えば体内に存在するので、”使う”という表現は正しくないが・・)。
本書によればこのRNAを用いて病気治療を行おうとする考え方は長い間存在していたらしい。mRNAを用いて体内の免疫系を利用する治療方法が確立すれば、よりテーラーメイドな医療を提供することが可能となると考えられていたからだ。
一方でmRANを 利用した治療は、コロナ禍が起こるまではまだ先の話だと考えられていたと本書には書かれている。 これまでにない新しい治療方法であるために、当局の審査や認可を受けるのは簡単ではないし、創薬には莫大な費用がかかるからだ。
ビオンテックは もともとは、感染症に対するワクチンを開発するためのスタートアップではなく、このRNAを用いて がん患者への治療薬を開発することを目的に作られたスタートアップだった。 そのためビオンテックはコロナウイルスが発生した段階においては、すでに上場を果たしており、有望なスタートアップとしてみなされていたらしい。一方でmRNAを用いた新たなプラットフォームを開発するには研究開発資金が十分ではなく、何らかの方法で資金を集めることが必要だったらしい。
コロナワクチンが開発され世の中に広まっていく過程では、このmRNA と言う技術は、まるで突然天から降ってきた発明のように報道されることもあった。自分も含めてバイオ技術を積極的に追い続けていない人間にとっては、 この技術は、当然学校で習ったこともなく、初めて聞く技術だったからだ。
ところが本書を読むと、このmRNAと言う技術は長い間活用のアイデアが温められ、それほど多くはないとはいえ研究が続けられていたことがよくわかる。実用化されなかったのは、適切なタイミングがなかったということと、もっといえば予算がなかったからだ。
本書を読めばわかるとおり、何かものすごい危機やチャンスが発生したからといって、突然新しい発明やアイディアが実現すると言う事は現実世界ではありえないということなのだ。 日の目を見るずっと前からそこに情熱を傾けている人間がおり、あるいは(広い意味での)リスクにかける投資家が何度も倒れた先に、初めて社会を変えるようなイノベーションは実現するのだということを、本書は(そしてmRNAの実用化という例は)教えてくれる。
Posted by ブクログ
コロナ禍に身をおき、コロナワクチンを実際に接種した一人として、ワクチン開発から実用化までのストーリーを臨場感をもって読むことができた。
〜感銘をうけた文章〜
エズレムがよく好んで強調するように「イノベーションは一度には起こらない」のだ。いくつもの個々の発見が、ときに何のつながりもない分野で同時に起こり、積み重なっていく。やがて、それらのアイデアや研究者が出会い、融合したとき、人類は総体として、とてつもなく大きな飛躍を成し遂げることができるのだ。
Posted by ブクログ
ドイツのトルコ移民2世が創業者のビオンテックのコロナワクチン開発物語。起業物語として創業者の意思決定などの話も勉強になる。mRNAについても少しだけ理解が深まった。
Posted by ブクログ
【はじめに】
2019年末に中国で発生したコロナウィルスは瞬く間に世界中に拡散し、多くの命を奪い、社会的・経済的損失を拡大させた。コロナワクチンは、その影響の際限のない拡大を今ある程度までに抑えることに大きく貢献することとなった。本書は、このコロナワクチンが驚くべき速度で開発された成功ストーリーについて書かれている。
著者のジョー・ミラーは、ファイザー製ワクチン開発の主役となったビオンテック社を中心に多くの関係者にインタビューを行った。創業者のウールとエズレム夫妻が本書の主役だが、ビオンテックのその他の数多くの社員や投資家、ファイザーの重役・社員も実名で登場し、人間ドラマも含めて開発物語が紡がれている。
著者は、ビオンテックがこの成功を収める前から取材を開始している。そこで築いた信頼関係が、この本をまた信頼のおける深い物語としている。
【概要】
■ mRNA技術
ビオンテックは、もともとは患者固有の腫瘍向けにカスタマイズされたワクチンの開発技術としてmRNAに着目していた。このワクチンは、mRNAが不安定であるということ(そのために付加剤や冷却保存が必要)と、それがあまりにも新しいことを除けば、原理的には遺伝子情報だけを必要とするため開発が非常に早くなることが期待されていた。このmRNAの性質は、パーソナライズが必要で、かつ緊急投与を要する癌治療薬として期待されるところであったのだが、喫緊に必要とされたコロナワクチンとしてもまさに必要とされる性質でもあった。このmRNAワクチンの技術がこのタイミングで存在し、挑戦する意志とガッツがある人々の手にあったことは世界にとって幸運であったと思う。
本書では、一般的な免疫系の説明や、ワクチン開発の歴史、一般的な薬の開発プロセスなども詳しく説明されている。その上で、mRNAが「指名手配ポスター」となり、T細胞と連動してワクチンとしてどのように働くのか、その技術的な課題はどういうものであったのかも説明されていて勉強になる。自分の身体の中に入り、これだけ多くの人に摂取されたワクチンについてある程度その仕組みを知ることは世界に対する誠実さという面からも重要なことではないかと思う。
すでにウールがコロナ禍の2年前にビル・ゲイツと会い、癌治療薬として説明したmRNA技術についてゲイツがパンデミックの発生に対してワクチンを開発できるようなソリューションを準備しておいた方がよいと助言していたというエピソードは震える。このときの助言を受けてファイザーとインフルエンザワクチンの共同開発契約を交わしていたことが結果的に役に立ったのだ。
■ 開発速度
コロナワクチン開発においては開発速度が命だった。このウィルスが世界的脅威に発展するとわかる前に、このプロジェクトは始められなければならなかった。なぜなら状況はすぐにでも一時を争うようになるが、そのときではすでに時は遅しである状況だからだ。「プロジェクト・ライトスピード」と名付けられたこのワクチン開発プロジェクトは幾多の困難を乗り越えて最速で実現された。「まず最速を、それから最高を目指せ」もちろん、現実の世界では多くの命が失われ、気軽に間に合ったとはいえない状況であることは確かだが、少なくともこれなかりせばの世界と比較して、何人もの命と経済活動の時間を救ったことは確かだ。
ワクチン開発はまさしく時間との戦いであった。ひとつづつ試薬の効果を試すのではなく、数多くの候補を同時並行的に試していくという方法を取ったり、ワクチンを生産する工場をリスクを取って事前に確保したり、急に出てきた有力候補を時期を遅らせることなく治験に採用したり、といった苦労話が綴られる。
■ ファイザーとの協力体制
ビオンテックは、現在一般には「ファイザー製ワクチン」と認識されている通り、製薬大手ファイザーとの協力体制を取ることで実現された。安全性や効果を確認するための試験や、開発後の流通、それまでに必要となる資本とリソースがビオンテックにはなく、その調達を大手製薬会社との提携により獲得することが必要だったからだ。この提携の経緯もこの本では詳しいが、地球規模の危機を前にして、ファイザー社もできるだけ早くかつ大量にデリバリーを行うという目標に向け、上層部含めて志をひとつにして進められてきたことがわかる。タームシート締結に向けた権利交渉のシーンは担当者は文句を言っていたようだが、トップダウンでリスクをお互いに取ったからこそうまくいったのだと思わされる。
最後にB2.9と呼ばれるワクチンの盲検試験の結果がファイザー社からウールにもたらされ、その結果が想定をはるかに超える成功であったことを聞く場面は感動的である。成功が保証されない中で、いかに綱渡りであり、またいくつかの偶然にも助けられたことが本当によくわかる。ビオンテックにとっても、世界にとっても賭けに勝った瞬間だった。
【所感】
本書を通して読むとコロナワクチンはいくつかの偶然と強い意志の結果として完成して世に出されたものであることがわかる。そもそもワクチン開発というものは、その歴史上うまくいかないことの方が多かったし、安全性の確認などに時間がかかるものであった。そのワクチン開発の新しい手法としてmRNAを使った手法がこのタイミングで実用化されたこと、そしてその新しい手法を使ったにもかかわらず1年足らずで製品開発までこぎつけたのは、おそらくは我々にとって僥倖であったのだろう。
ビオンテックが開発したコロナワクチンは、タッチの差で間に合わず、自分は2021年6月に感染してしまったので、もう少し早ければ..と思うところなのだが、この物語は悲劇の中の一つの英雄譚として後の世に知られるべきだろう。もちろん、取材から再構築した物語であり、採用されなかったエピソードや、読み物として嘘にならない範囲で修飾が行われていることだろう。それでも、なお科学の勝利の物語として記憶されるべきだろう。そのことを確信できた本だった。
そして成功体験と資金を得たことによって、mRNA技術を用いたパーソナライズされたがんワクチンも遠くない将来に実現されることも期待している。ひとまず、この本を読んだので、3度打ったワクチンはすべてファイザー製にした。
コロナワクチン開発のことを簡単に知りたいという方には少し冗長かもしれないが、とにかくお薦め。
Posted by ブクログ
新型コロナウイルス感染症へのワクチンを作り出したドイツの製薬会社ビオンテックの物語。コロナ禍に見舞われたベンチャー企業の社員たちががどのように国やファィザーなど大企業と対峙、連携、調整しながらワクチンをこれまでにないスピードで世に送り出したのか。その怒涛の1年がよくわかる。
この企業が今後、治療薬を産み出してくれるのか期待してしまう。
Posted by ブクログ
FTフランクフルト特派員と、独ビオンテック創業者夫妻による共著。
新型コロナワクチンの開発はビオンテック社内で「プロジェクト・ライトスピード(光速)」と呼ばれていたそうだが、本書の出版と、日本語への翻訳もそれぞれ光速のなせる業であり、詳しく、わかりやすく、ドラマチックな傑作ノンフィクション。
Posted by ブクログ
“Project Light Speed” ビオンテック社 光速のワクチン開発全記録
今も世界中で繰り返し接種されているCOVID-19に対するmRNAワクチンの代表選手、ファイザーのワクチンの開発の全プロセスがわかる一冊です。ファイザーのワクチンとは言っても、ファイザーはいわば発売元であり開発・製造しているのはドイツの会社ビオンテック社です。
ビオンテック社はトルコ系ドイツ人(ドイツが労働力不足からトルコ移民を多数受け入れていた時代に移民してきたトルコ人の二世)夫妻が2008年に作った会社。夫妻とはウール・シャヒンとエズレム・テュレジです。それぞれケルン大学とザールラント大学出身の医師で起業家。
ビオンテック社は創業以来、mRNAを使った「がん免疫療法」の研究と実用化を目標としていました。21世紀になってそれまで扱いにくい分子であったmRNAが多くの研究者の努力によって次第に治療薬として使える可能性が見え始めていました。それは、たとえば前述のカタリン・カリコの開発した技術などがそれです(前述のように、カリコは2018年からビオンテックの副社長に就任しています)。
ビオンテック社では、それらの技術を統合しさらに日々出現する新手法を取り入れ、治療対象である「がん」の抗原部分のDNA配列さえわかれば
1.それに相応するmRNAを人工的に作り
2.mRNAをがん患者に投与することで生体にmRNAから抗原タンパクを作らせ
3.さらにそのタンパクが攻撃目標として認識され免疫反応を引き起こし
4.その活性化された免疫反応で「がん」そのものが攻撃される
というmRNA抗がん剤の開発の一連のプロセスを完成しつつあった・・・のです。
そのドンピシャのタイミングでCOVID-19パンデミックが起こったのです。武漢からヨーロッパに感染が広がり始め、中国の研究者がウイルスの遺伝子配列をインターネットに公開したのが2020年1月10日、ウール夫妻が自分たちのmRNA技術でCOVID-19に対するmRNAワクチンを作ることを決意したのは1月21日。日本の第1号患者が診断されたのが1月15日ですからビオンテックの動きの速さには驚かされます。
そこからウールの言う「Project Light Speed(光速プロジェクト)」がスタート。テクノロジー・人員・資金・治験・政治的駆け引きなどなど、さまざまに絡み合いながら進行しワクチンが完成し認可を受け、最初の一般人に接種されたのが10ヶ月後の2020年12月8日、驚異の速度です。
ワクチン開発は単に研究が好きなだけ・技術力だけではできません。テクノロジーへの目配せ(驚くべき論文渉猟量)・周辺技術への配慮・資金繰りにロジスティクス、そして何よりも人間に使用するための何相にも及ぶ治験。それらを着々とこなしていくビオンテック社のチーム力とウール夫妻の指導力はすごい。研究が好きなだけではなく、現実社会における実行力がものをいいますね。
さまざまなことがジャスト・タイミングで一気に結合して光速のワクチン開発。そしてそれが何十億人に接種されているという現実。もちろんビオンテック社とファイザーの得た利益も桁外れです。
Posted by ブクログ
新型コロナによるパンデミック下で、驚異的なスピードで開発され、その有効性においてもこれまでのワクチンとは一線を画すmRNAワクチン。本書はファイザーと組んでこのワクチンを開発したビオンテックの創業者夫婦を描いたノンフィクションだ。
もともとはがん治療のためにmRNAを研究していたとか、感染拡大の危機感を抱いた時期、資金難で行き詰まる寸前だったとか、小説よりも面白かった。そして金儲けのためではなく、苦しんでいる人を救いたいという開発動機が素晴らしい。立ち上げに当たり資金提供した投資家も素晴らしい。
Posted by ブクログ
コロナもあまり騒がれなくなったので復習の一冊。
ファイザーワクチンの製造経緯を語った本書なのだけど、実はある科学者夫婦が立ち上げたビオンテック社がメインで作り上げていた…など全然知らんことだらけだった。
mRNAってのはタンパク質を作るように指示する設計図みたいなモノなんだけど、それをコロナに対応するようにする…というのが大筋の発想かな。mRNAワクチンの最大の特徴は、通常のワクチンと違って人の身体自身に抗体を作らせる点。生物学的薬剤とかに近い考えかもね。
しかしワクチン供給のタイミングが妙に早いと思っていたら、こんなスゲー背景があったとはね…。どちらかというとビジネス書としての色が強いかもしれない。
Posted by ブクログ
コロナのワクチン接種が続いている時期に読めてよかった。
mRNAの技術が将来、ガンやタンパク質など治療法の確立していない病気に転用できることに期待。
※付録が秀逸。
Posted by ブクログ
covid-19のワクチンを開発したドイツのバイオベンチャー企業の開発物語
ある程度の専門知識があった方が良いが、NHK番組のプロジェクトXのような内容
mRNAを用いて人間の免疫システムを制御してウィルスを抑制する、史上初のワクチン
ビオンテック社は技術はあったが治験という複雑なプロセスかつ全世界を対象にした製品化の経験はなく、そこについてはファイザーと提携した
RSウィルスのワクチンは治験段階で、抗体依存性感染増強(ADE)のため死者が出た。ワクチン開発には常に副反応や流行にワクチン開発が間に合わないというリスクがある
Posted by ブクログ
今でもワクチン懐疑論者が居る中、mRNAワクチンの製造に成功したビオンテック社のそこに至る開発の実態を素人ではあるが、読み進み、この開発が上首尾に成し遂げられ、世界を救うことが出来たことに僥倖を感じました。
まだ、コロナの感染が収まらす、前の様な日常生活に戻れませんが、次は、軽症者に処方出来る飲み薬の誕生を切に期待します。
日本発の塩野義のゾコーバが世界を救う、本書でも語られていた国籍云々に囚われる愚を承知しながらもそんな夢?を期待します。
Posted by ブクログ
mRNAワクチンの開発過程が臨場感を感じられる筆致で描かれています。開発者であるウールとエズレムの技術に向き合う人間性が成功への鍵となったことが分かりました。
今度、フランクフルト近郊へ行く機会があれば、マインツのビオンテック社まで行ってみたいと思います。
Posted by ブクログ
「変異ウイルスとの闘い-コロナ治療薬とワクチン」(黒木登志夫、中公新書、2022)の中で、この本を読んで、著者が衝撃を受けた...とあったので、さっそく買って読みました。
リアルタイムなので、とても面白かったですし、ビオンテック社(ドイツ)のウール・シャヒン、エズレム・テュレジご夫妻に敬意を表します...
Posted by ブクログ
mRNAとは全ての人間と動物の細胞に存在する、特定パターンの分子。
それがいわば生物において暗号を運ぶ使者のような役割を果たしている。
この分子はDNAから細胞内の工場のような場所に一連の指示を運ぶ。
そこで運ばれた情報をもとに、体の臓器や組織を形作りコントロールするための必須タンパク質が作られる。
uRNA(ウリジン含有mRNA)
saRNA(自己増殖mRNA)スパイクタンパク質全体をコードするワクチン。
modRNAとはスパイクタンパク質全体をコードするワクチンの中で、コブ状の突出部のヌクレオシド配列を調整したもの。
ビオンテックのワクチンにはmodRNA(修飾ヌクレオシドmRNA)の技術が使われている。
コロナワクチンには受容体結合ドメインを発現するものではなく、スパイクタンパク質全体を発現するタイプのもの。
樹状細胞は将校。そこで集めた情報を集めて分析し、その情報を使って部隊を前哨地点に向かわせる。
ワクチンは注入する場所によって免疫反応をうまく引き出せる。
特にリンパ組織(その最大のものが脾臓)に注入すること。
だから副反応で脇の下の腫れがあるのだと思う。
Posted by ブクログ
ファイザーワクチンを作った夫婦の物語です。大変おもしろく前半はすいすい読めますが、後半は、若干、長く感じました。
非常に魅力的な夫婦であり、かれらの情熱なしでは、mRNAワクチンの早期の完成は成しえなかったでしょう。
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ファイザー社と組み、11カ月という常識外のスピードで世界初の新型コロナワクチンの開発に成功したビオンテック社。「医療界のゲームチェンジャー」として一躍脚光を浴びているmRNA医薬の技術で世界の最先端を走るバイオ企業の創業者/研究者夫妻に密着取材した迫真のドキュメント。
非常にタイムリーな話題がここまで早く翻訳までされて我々の手元に届くとはまずスピード感にびっくりする、コロナワクチンの裏側を描いた作品。本当にすごい科学者が世の中にはいるんだなと胸が熱くなった。政治とは距離を置きながらも、ひとりひとりの命を救ってくれたのは彼らなんだ・・・ととても感動しました。日本ではファイザーの名前が独り歩きしているけれど、ファイザー・ビオンテックのワクチンを受けた一人として、ビオンテックの皆さんに感謝してもしきれない。こういう素晴らしい情熱と能力を持った科学者を応援できる国でありたいな。
Posted by ブクログ
ビオンテックによるmRNAワクチンの開発ストーリー。
他でも読んだことのある、mRNAの開発物語を期待して読み始めたんだけどそうではなくて。
2020年に自分たちの持っている技術を使ってワクチンを開発することを決めてから、考えうる限りのスピードでワクチンを開発し上市した記録。
そこでは科学者としての専門性だけでなく、全体像を把握して最善を目指すジェネラリストとしての能力も遺憾なく発揮されていた。
ふと振り返る。自分たちは常に冷静に最善を目指しているか?
Posted by ブクログ
コロナワクチンは、どうやらこれまでのワクチンとは違い医療界の革命だったらしく、どのようなものなのか気になったので読んだ。
コロナ関連のニュースはあまり見ていなかったので、なんとなくファイザーかモデルナかどっちかの企業がワクチンを作ったと思っていたのだが、違っていた。
実際には、バイオンテックというそれまで無名だった医療メーカーが、当社の画期的な癌治療技術を用いて開発したものだった。
(大規模な治験や流通の段階から、ファイザーと協力した。モデルナはその何週間か後に独自で完成させたらしい。)
本書は、画期的なワクチンの仕組みはもちろんだが、どちらかといえば、優れた洞察力と素早い判断力によって、コロナのパンデミックをいち早く察知し、癌医療メーカーからコロナワクチン開発へと舵を切って推し進めていった創業者夫妻の物語が主である。
資本主義社会の中、利益よりも人類優先で動く夫妻の働きがカッコよかった。
ただ、創業者夫妻はもちろんバイオンテック社員は、休日も無く働いていたようなので、かなりのブラック企業だと思いました。
Posted by ブクログ
バイオンテック社のワクチン開発までの概略記録本。正月休みに喝を入れてもらえた、良い作品だった。
(追記)誰向けの本かというと、プロジェクトマネージャーだと思う。リソースの最効率化とスケジュール管理よく書かれてる。
欲を言えば、もう少しワクチンの知識を得られることを期待していた。
Posted by ブクログ
ワクチンを打ったか打たないか。いまだにその効果を信じているかいないか、という意見は分かれる。効果はあったのかもしれないが、結果的に感染の波もあり、打つ必要が無かったという判断もあるだろう。私なんかは、年齢的にも、一緒に暮らす家族構成的にも(そもそもアクティブな動きをしていないという事も含め)、効果があろうとなかろうと、何回も打つことになってその度に副反応に苦しむならば、打つ必要がないと考えていた口だ。
本書は、mRNA誕生秘話であり、開発の苦労話である。エズレム・テュレジとウール・シャヒン夫妻の科学者らの迅速な対応と決断力が、わずか11カ月で新型コロナウイルスのワクチンを開発する成功の鍵となったとされ、この夫妻の移民としての背景や、がん研究から新型コロナウイルスワクチン開発への転換が感動的に描かれる美談だ。
だが、企業は金儲けにも繋がるので開発を躍起になって競っていたのも事実だ。金を儲けて悪いとは言わないし、それがモチベーションに繋がるのは良い事なのだろう。ただ、この開発の速さは、有難い反面、不安につながった面もありそうだ。
― ビオンテックとファイザーの最初の共同事業であるこのワクチンは、コロナウイルス対策プロジェクトにより現実世界から得られた膨大な安全性データをもとに、間もなく臨床試験に入る予定だ。幼い子どもをはじめ年間二億人以上が感染しているマラリアのワクチンについても、すでに取り組みが始まっている。これで、既存の結核対策プロジェクトやHIV対策プロジェクトに続き、「三大感染症」すべてが網羅されることになる。そのほか、数多くの感染症への対応が予定されているが、そのうちの一部は、既存のワクチンの設計図の「指名手配ポスター」を置き換えることで対抗できる。また、複数のウイルス株や疾患に対応する多価ワクチンも、理論上は可能であり、すでにビオンテックのがん治療薬に採用されている。ウールによれば、mRNAは全体的に見て、ビオンテックに「医療を民主化する機会」を与えてくれたという。きわめて珍しい疾患や治療の難しい疾患でさえ、それを根絶する薬剤を生み出せるからだ。一例を挙げれば、同社はすでに、多発性硬化症の治療薬の試験を進めている。この治療薬では、mRNAの力を利用して、免疫反応を引き起こすのではなく抑制する。多発性硬化症は、身体が誤作動を起こして健全な細胞を攻撃することにより発症するからだ。この疾患に対する同社の先進的なワクチンでは、免疫部隊に正反対の指示を与える「指名解除ポスター」を送り込む。するとそれが、免疫部隊の警戒態勢を解き、敵と味方を適切に区別するよう促すのだという。
― 免疫系とコミュニケーションがとれるmRNAはいずれ、アレルギーから心臓病まで、あらゆる疾患への対応に利用されるようになるかもしれない(たとえば、心停止時に細胞が死ぬのを防ぐなど)。「理論的にはどんな機構であれ、そのメカニズムが十分に解明されているのであれば、それを操作することはできる」。そう言うエズレムは、将来的にはmRNAにより老化プロセスを逆転させることさえ可能だと確信している。
コロナワクチン騒動で微妙な印象がそのまま続いている気がするが(私はそうなのだが)、リテラシーを高めてmRNAを正確に理解し、実績を積み、不安なく効果を享受できる日が来れば良いと思う。