山田美明のレビュー一覧
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ネタバレアスペルガー症候群の元となる症例を発見したアスペルガー医師によって自閉症が「見出されていく」過程を、丁寧に説明していてとても面白かった!発達障害とかの本を読むほど(結局自閉症の定義ってなんやねん…)となってしまう理由の一端が、見えた気がした。
日本でも最近大人の発達障害がよく取沙汰されるけど、ある種の特質を、差別とは言わないまでも区別する“自閉”という概念が、「個人は共同体に参加しなければならい」というナチスのイデオロギーから発生しているというのは、なんだか怖い。
「自閉症と診断された子どもは、そのような診断のために、その行動が常に自閉症特有の行動なのだと見なされ、その子の個人としての独自性が考慮されなくなってしまう」ということを危惧する筆者のエピローグがよい。 -
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【生き延びられるかどうかは、自分の苦しみを忘れ、自分より苦しんでいる人間を助けられる人がいるかどうかに左右される場合もある】(文中より引用)
デンマークでカメラマンとして仕事を始めたダニエルは、戦場の実態を伝えたいという思いで戦乱が広がるシリアへ入国する。しかし、現場に不慣れであった彼は「イスラム国」(IS)へとつながる男たちに拉致されてしまい、そこから地獄のような13ヵ月を過ごすことになり......。著者は、デンマーク放送協会の中東特派員を務めるプク・ダムスゴー。訳者は、英語とフランス語の翻訳家として活躍する山田美明。英題は、『The ISIS Hostage: One Man's True Story of 13 Months in Captivity』。
一人の人間が絶望をくぐり抜けてどのように生還に至ったかという観点から読み進めることが有意義であるのはもちろんのこと、テロ組織が関与する国際的な誘拐事件に関する貴重なケース・スタディーを提供してくれる作品。政府のスタンスやコンサルタントの使用など、認識を深める上で非常に参考になりました。
痛々しい描写もありますが☆5つ -
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【アメリカは、夢想家たちによる夢の世界の創造物だ】(文中より引用)
アメリカの歴史を「ファンタジー(幻想・空想)」という視点から大胆に論じ上げた作品。建国以来、エンジンにもなればトラブルの素にもなってきたファンタジーの数々をたどりながらアメリカの本質に迫っていきます。著者は、『ニューヨーク・マガジン』誌の編集長を務めたカート・アンダーセン。訳者は、英語・フランス語の翻訳家として活躍する山田美明とイギリスで西洋社会政治思想を学んだ山田文。原題は、『Fantasyland - How America Went Haywire: A 500-Year History』。
端から見たときに「ぶっ飛んでるなぁ......」と感じられるアメリカの一側面を論理的に説明してみせた秀作だと思います。ファンタジーの有用性も見据えながらその問題点についても論じており、バランスの取れた作品であるとも感じられました。
本書以後はアメリカのエンタメ作品への見方が変わりそう☆5つ
※本レビューは上下巻を通してのものです。 -
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ゴッホに関して知っていると思っていたこと。例えば、アブサンの飲み過ぎで精神的におかしくなっただとか。ゴーギャンとの関係は愛憎悲喜交々であったとか。そのような話が如何に後から脚色された虚飾であるかを、膨大な資料を文字通り掘り起こし系統建て積み上げた事実に基づいて質す。その執念のような仕事ぶり。美術史家でもなく伝記作家でもないイギリス人の著者が、ゴッホが切り取ったとされるものが耳たぶのみなのかそれとも耳の大部分なのかを解き明かそうと試みる。徐々に明らかとなるゴッホの人生の一部についても当然興味深いが、著者の積み上げる断片的な資料が徐々に形を成し百年以上昔のフランスの片田舎を活き活きと蘇らせる様そのものがとても興味深い。推理小説から感じる興奮とよく似た感情の高ぶりを覚える。
夥しく挿し込まれる注釈の殆どは一次資料への参照であり、一般的な読者には無機質な文字の羅列のようにしか思えない。しかしそのことが正に著者バーナデット・マーフィーの積み上げたものの確かさを支えている証拠でもある。特にアルルの市井の人々の実在を教会や病院の記録から立ち上げ、署名を一つ一つ突き合わせて真贋を見極め、コッホに係わった人々のその性格のようなものまで詳らかにしようとする徹底ぶりには唖然とさえする。そして、ゴッホが耳を届けたとされる女性に関する事実の解明に関する下りにはよく出来た法廷ものの小説を読むような興奮すら覚える。ラシェルなのかギャビーなのか、何故その混乱が起きたのか、その女性は本当に娼婦だったのか。もちろん最後の最後まで何故ゴッホが耳を彼女に渡したのかという問いに対する確実な答えには辿り着くことは出来ないのだが、手渡した耳とされるものが何であったのかを含め諸々の伝聞を事実に落とし込み解明する。何度も言うがその徹底ぶりには脱帽する。
ゴッホ〜最後の手紙、世界で一番ゴッホを描いた男。何だか最近ゴッホに引き寄せられているようだ。 -
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専門知識を必要とする仕事がまるっと機会に置き換わるわけではない。
ただし専門知識をもとに案を出すという最も価値のあった部分がAIに置き換わる。
あとはそれを人に説明したり、関係者の調整を行うという極めて人間的な部分が人の仕事として残る。
ヒューマンスキルがあればあとは誰でもできる、機械と人の仲介役の仕事に成り下がる。
■拡張
自動化でなく人のできることを拡張する。
宇宙観察や新薬開発など膨大な終わりのない作業。
※ただし拡張を進めると結局自動化にいくのでは?
・高度な能力
人間の判断のサポート、人間には測定できないことを可能にして人に判断させる
・便利ツール
面倒な作業を代行
・ステップ・アップ
全体を構想、管理する
・ステップ・アサイド
人とAIの間をつなぐ
・ステップ・イン
AIの現場装着
・ステップ・ナロウリー
AI化しないマイナー領域
・ステップ・フォワード
AIを導入する -
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著者はイギリス生まれでプロヴァンスに住む美術史教師だったが、病気をして暇ができたのを機に、ゴッホの耳切り事件のことを調べてみようと思い立った。ゴッホは耳を切ったというが、耳を全部切ったのか一部だったのか。切った耳を誰に手渡したのか。いったいなぜそんなことをしたのか。
専門家もびっくりの執念深い調査で彼女が明らかにしたことは3つ。1つは、いくつかの資料が伝えるようにゴッホが切り落としたのは「左耳の一部」なのか、ゴーギャンが言っているように左耳全部なのか。これについては、耳を切ったゴッホを最初に診察したレー医師が後年、『炎の人ゴッホ』の著者アーヴィング・ストーンに耳の切り方を図解したメモを発見する。事件から40年以上もたってからのメモだが、これは記憶違いをするような事柄ではないのでかなり信憑性があるとみていいだろう。
第2に、ゴッホが切った耳を近隣の娼館の娼婦ラシェルに手渡したと当時の新聞に書かれているのだが、この人物を特定したこと。それは娼婦でもなければラシェルでもないのである。
第3は、アルルの人々がゴッホを危険な狂人だとして騒ぎ立て、当局に嘆願書を提出して彼を追い出し、そのために彼はサン−レミの精神病院にはいることになるのだが、この嘆願書がアルルの人々の総意ではなく、ごく一部の人の利害に基づく、一種の隠謀だった証拠を発見したことである。
肝心のなぜゴッホが耳を切ってそれをラシェルならぬ、娼館の小間使いをしていたガブリエルなる少女に渡したのかである。しかしこれはゴッホの内面に関わることであり、彼がその内心を吐露した手記でも見つからないかぎり何ともいえないことである。著者の推測によれば、それはとても利他的な意図を持った行為であり、しかも誰にも理解されないような論理に駆動された行為なのである。著者の推測が当たっているかどうかはわからないが、それなりに説得力はあると思う。まるでゴッホは宮澤賢治的に思えてくるのだが。
ともあれ、ミステリを読むような面白さであった。 -
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ネタバレ「自動運転」の現在のみにフォーカスをあてず、長年の研究の系譜に置こうとしていることが分かり、バズワードさが消えていて冷静に捉えている印象を受けた。
ようやく自動運転カーを実現するための環境や技術がととのってきた、という論旨になっている。
何が欠けていたのか、というと「物体を認識するための中位制御技術」であり、カメラやセンサーの類いと、それを理解するための人工知能。
生物の進化と重ね合わせている点も面白く、視覚情報を獲得したことにより爆発的に進化が起ったように、自動運転でも「センサー」という視覚とそれを理解する頭脳を得たことで、実現に向けた環境が整い始めている。
著者は(安全な)自動運転の実現に向けては、グーグルと同じアプローチを採ることが良いという認識のようだ。
つまり人間とソフトウェアが混在しない形での自動運転システム。
いわゆる定義されているレベル3からこの状態に入っていくが、確かにグーグルの実験にもあるように、当初は慣れていないこともあり、慎重になるだろうが慣れちゃうと確かに怖い。気を抜けないくらいなら、自分で運転しようか、ともなりかねない。
と、欠点や危険性の指摘もなされている一方で、採用の基準なども提言がされており、体系的な理解に非常に役に立った。 -
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デンマーク人のダニエル・リューは体操選手を目指していた。デンマーク
代表も夢ではなかったが、練習中の怪我で体操の道を断念した。
大学で写真を学び、報道写真家に師事して自身も写真家になるという
新たな目標を掲げた。その第一歩として選んだのが徐々に内戦が激化
していたシリアだった。戦火の中でも生活する人々の姿を写真におさめ
たい。そんな気持ちからだった
しかし、ダニエルの計画は当初から狂ってしまった。案内役を依頼した
人物が待ち合わせ場所に現れず、代理を頼まれたという人物と共に
シリア入りこそ果たしたものの、早々にISに拘束された。
ここから、ダニエルとその家族の悪夢が始まる。本書はダニエルの拘束
から解放までを本人及び家族、関係者の証言で再現したノンフィクション
だ。
書いているのはダニエル本人ではなく、別のジャーナリストなのだが
ISに拘束されて以降の拷問の描写があまりに生々しい。人間以下の
扱いである。拘束当初はスパイ容疑での拷問だったが、スパイ容疑
が晴れてからは見張りの番兵の気まぐれな暴力に晒される。
ただ、これはISが独自に考えた虐待ではなんだよな。例えばアサド政権
による反体制派に対する虐待であったり、アブグレイブなどでアメリカ軍
が収容者に行った虐待を手本にしている。そう、あのオレンジ色の囚人
服と同様なのだ。
あまりの辛さに自殺や脱走を試みるダニエルだが、それさえ叶わない。
結局はISの虜囚として家族が身代金を調達してくれることが遺された
希望だった。
フランスやイタリア、スペインなどと違ってデンマーク政府はアメリカ・イギ
リス同様に、テロリスト組織との交渉は行わないことを旨としている。ただ、
ダニエルにとって幸運だったのはアメリカ政府のように家族が身代金の
為の募金活動までは禁止していない点だった。
拘束中のダニエルの様子を読みながら思った。ISに拘束・殺害された
湯川遥菜氏と後藤健二氏のふたりも、ダニエル同様の過酷な生活を
送り、ご家族はダニエルの家族同様に不安と焦燥の日々を過ごして
いたのか…と。
本書にはISとの交渉窓口となった民間コンサルタントが登場するのだが、
彼はダニエルの解放後にISによって殺害され、ネットに殺害の模様が
公開されたアメリカ人ジャーナリストのジェームズ・フォーリーをも担当
していた。そして、ダニエルも監禁施設で8か月間をフォーリーと共に
凄し、フォーリーの遺言になってしまった手紙を暗記し、家族の元へ
届けるという辛い役目を果たした。
このような人質事件がある度に、自己責任が云々される。私は嫌いなの
だけれどね、この自己責任って言葉は。危険を承知で行ったのだから
殺されても当然…なんてことはないと思うのだもの。
デンマークに帰国後、ダニエルは大学で写真について教えていると言う。
それでもきっと、彼には終生、拘束の記憶が付きまとうのだろうな。そして、
2016年5月末に動画が公開されて以降、なんの情報も伝わってこない
ジャーナリスト安田純平氏がどうなっているのか気になっている。拘束
しているのはISと袂を分かったヌスラ戦線らしいのだけれど。
貴重な体験の記録ではあるが、佐藤優氏の解説はいらなかったかも。 -
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本書はAI時代に人間に求められているスキルを場合分けして説明している。著者の本はどれも非常に説得的で、本書も例に漏れず面白かった。AIの進出とともに人間が駆逐されるのではないか、という話は昨今よく聞くが、著者はそのような意見に対してはどちらかというと懐疑的で、どうしてもAIにできない部分は必ずあるため、そこを人間が行い、人間の仕事とうまくコラボし共存していくことが望ましく、またそれが可能であると主張している。
やや脱線するが、AIの進出によって人々の所得配分比率は現状のままだとよりジニ係数が高くなるように作用する気がしてならないが、今一度どのような社会にしていきたいのかをよく見据えながら、それに向けて新しい社会の制度を構築していく必要があるように思える。 -
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年末で、「ク」から始まる2文字が付くほど忙しいさなか、寸暇を惜しんで読み耽りました。
国際テロ組織「IS」に13か月間もの長い間、拘束されたデンマークの写真家、ダニエルの、過酷と言えばあまりに過酷な体験を、つまびらかに書き下ろした衝撃のノンフィクション。
ISの拷問は酷いもので、たとえばタイヤの穴にダニエルの曲げた膝を押し込み、タイヤから突き出た膝の裏側に棒を通して身動きが出来なくしたうえ、パイプのようなもので容赦なく叩きのめします。
あるいは、ダニエルの手錠と天井に取り付けたフックをつなぎ、完全に身体が伸び切ったまま何日も放置します。
過酷な拷問に耐え切れず、ついにダニエルは自殺を試みますが、それも未遂に終わります。
脱走も試みますが、それも敢え無く失敗に終わり、さらに過酷な拷問を受けることになります。
常に死と隣り合わせの極度の緊迫感に包まれ、読んでいて何度も胸が塞ぐ思いがしました。
やがてダニエルは、自分と同じように誘拐された他の欧米人たちと厳重な監禁下で共同生活を送ることになります。
人質同士で励まし合いながら、いつか解放されることを信じて、運動をしたりゲームをしたり、できるだけ一定のリズムで生活を送ろうと努めます。
一方、ダニエルを何とか救い出そうと、ダニエルの家族と、ダニエルの家族から依頼を受けたテロ対策を専門とする民間コンサルタント会社社長のアートゥアが奮闘します。
ISから日本円で2億円余りもの莫大な身代金を要求され、東奔西走する家族の姿に同情を禁じ得ませんでした。
本書はこのように、ダニエルと、ダニエルの家族およびアートゥアの大きく2つのパートで、同時進行で展開します。
一人ひとりの人物が、何を思い、どう行動したかを実に詳細に調べ、優れた読み物に仕立て上げているのは、「読者を引き付け、この不条理な世界の現実に関心を持ってもらいたい」という強い熱意の表れでしょう。
さて、身代金の額に近付くにつれ、ダニエルに対する暴行はにわかに激しさを増します。
特に、ダニエルら人質たちが「ビートルズ」と名づけたイギリス出身のテロリストたちの暴力は執拗で、酷薄なものでした。
警棒で何十回と太腿を強打され、ついにダニエルは叫び声を上げます。
「やめてくれ。脚がつぶれる!」
ダニエルの家族は、ようやくISの求める身代金を集めることが出来ました。
アートゥアがISに指示された場所に出向いて身代金を引き渡し、数日後にダニエルは解放されます。
「落ち着いて排便ができることがあまりにうれしくて涙がこぼれた」
というダニエルの言葉に、人質生活の苛烈さを改めて噛み締めました。
ただ、そこから先に、さらなる地獄が待っていました。
ISに誘拐されて一緒に過ごした仲間が、砂漠の真ん中でのどを掻き切られて次々と殺されたのです(その残酷な映像はYoutubeにアップされました)。
同じ境遇に置かれながら、一方が生き残り、もう一方が死ぬと、生き残った方の人間は自らを恥じるのだそうです。
これほど残酷なことがあるでしょうか。
本書を読んで、世界の現実の一端をまざまざと見せつけられました。
今やテロ組織の代名詞となったISの実態を知る上でも貴重な資料なのではないでしょうか。
今年読んだ本の中で、間違いなく最高度の衝撃。