濱野大道のレビュー一覧
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ネタバレ作者はイギリス湖水地帯で600年続く牧羊農場に生まれた。イングランド北西部、マターデールと呼ばれる渓谷で、遠くにペナイン山脈を望むこの地で、フェル(小さな山)で在来種の羊、地域に合った伝統的な羊(ハードウイック種)をいかに持続させていくかを考えながら牧羊を行ってきた。
この風景はここに住む人々が作ってきたものであり、その名はここに住むものしか知らない。彼は「おそらく100年後には、私が羊を山で放牧していたことなどなんの意味もない事実になる」と自嘲気味に語っているが、この本によって、少なくとも人々の記憶には残り続けるだろう。(2023年には続編『羊飼いの想い』も書かれている。未読)
羊飼いたち -
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邦題があまりにクソ過ぎない?
内容としては「貧困の経済学」をもっと身近に感じられるよう、先進国の貧困層にスポットを当てて書いている形。横田増生「仁義なき宅配」のイギリス版といったところか。しかし読むだけでも地獄のような職場の連続でよく精神が保てたものだとちょっと感心する(コールセンターは明らかに楽だったみたいだが)。
こういう労働環境に問題意識は持ちつつも、結局何かしらのサービスを使わずにはいられないし、自身の人生選択ではなるべくこういう道は避けようという感情が多分に働くのも事実。良心と偽善の狭間で何を思うかは読者の社会階層次第とも言え、中々に評価が難しい。こういう世界があると知れるだけでも良 -
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ネタバレ3.8かな。面白かった。しかし、著者自身の話が多いところと、時系列がいじられててわかりにくいところが難点。
著者のポールの生い立ちや最初の妻のローリーの話、二人目の妻のシェリーの話など、私生活の話がいろいろ出てくる。最低限度より多く、ノンフィクションであるなら、別に省いても良いような話。
この本の読者が求めているのは、どうやって犯人を見つけたり、捜査をしたりしたのかであり、ポール自身の私生活についてはさほど興味が無いんじゃないかなと思った。つまり自分がそうなので。
だが、書かれている。
ということは、捜査官も一人の問題を抱えている人間だとアピールすることで、どれだけ犯人の思考をたどれても(犯 -
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ネタバレロシアのプーチン大統領がなぜウクライナを侵攻したのか?その理由の一端を説明している本。
しかし、プーチン大統領個人を分析するだけでは、現在のロシアの行動をすべて説明はできまい。実際には、ロシアがいくら独裁国家といえど、プーチン大統領個人だけで重要な政策決定を勝手に下せるとは思えないので、この本だけでウクライナ侵攻含めたロシアの行動の背景すべては説明できないだろう。
だからといって、最高権力者である大統領の頭の中を理解することの重要性はもちろん薄れない。
筆者はハーバード大で博士号を取得する程の明晰な頭脳を持つ、フィオナ・ヒル女史。本書の刊行は2024年2月24日以前のことである。今回の侵攻 -
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ネタバレ【個人的経験と社会のつながり…疑うのは自分の認識】
前作の第一感と、
少し重なるようで、
でも今回はさらに人間を扱う。
知らない人に対するバイアス、
判断を謝り、
誤解がどのように生まれ、
時に取り返しのつかない事件を生むか。
警官の暴力、スパイ、独裁者、小児性愛者、…
扱う事例、伝えたい現実が、重い内容だからこそ、
伝え方でどれだけ伝わるかが変わってくるお話。
巧みなストーリー展開で、自分事として考えることのできる本になっていました。
・・・
・トゥルースデフォルト理論
真実を見抜くより、嘘を見抜く方がまちがいやすい、との研究結果があるらしい。
疑いが十分でないから信じる。
この状 -
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ネタバレ「異常殺人」という邦題からはシリアルキラーの捜査を中心に書かれるのかと思っていたが、どちらかというとポール・ホールズさんの自伝のようなものだった。
「未解決殺人クラブ」でミシェル・マクナマラさんの話が出てきていたので、もう少し登場するかと思ったが、ミシェルさんはホールズさんの捜査官人生の中ではほんの少しの期間しか接触していなかった。しかし最後の最後にGSKの逮捕の重要人物になったのもミシェルさんとの関わりの中で起こったことだったし、もう事実は小説よりも奇なりを地で行くような話だったなあ、と思う。ミシェルさんの死が薬物過剰摂取というのが哀しい。
日本では、シリアルキラーがパッと思い浮かばない。 -
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「風光明媚な湖水地方で農業なんて、きっと毎日が美しくて素敵!」そう思って本を開く人は、農業が直面する「現実」にきっと衝撃を受けるだろう。大規模で工業的に行われる農業の影響で農産物の価格が下がり、中規模で家族経営の農家の経営が厳しいものとなっている現実。生と死が身近にあり、疫病や担い手の減少など美しい事ばかりではない現実。
はるか昔の先祖の代から湖水地方で羊飼いとして暮らしてきた著者だからこそ書ける日々の暮らしや農業に対する意見は、日々オフィスで働く現代人にとって一読の価値があると思う。
スーパーに並ぶ肉や野菜はどういった過程でここに並んでいるのか、その生産は今後も持続可能なのか。
当たり前にそ -
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ジェフリー・ケイン『AI監獄ウイグル』新潮文庫。
現地取材と約3年間にわたる168人へのインタビューにより中国新疆ウイグル自治区の隠された真実を暴いたノンフィクションの文庫化。
近未来のディストピアを描いたフィクション小説を読むかのようだった。
世界の工場と呼ばれるまでに急成長した中国は、自国の領土と支配地域の拡大を止めようとしない。ウイグルやチベット、台湾と中国による圧力は留まるところを知らない。そして、日本にも魔の手を伸ばそうとする中国。
まるで有りもしない自らの敵を自らの手で生み出そうとしているかのようだ。ロシアと同様に余りにもやり過ぎだ。いずれ、大きな悲劇が起きるのは間違い無い -
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未解決事件を、数十年かけてとうとう犯人逮捕まで追い詰めた科学捜査官。
一言で言えばそうなんだが、実のところそんな「格好いい」話では全くなかった。
著者はおそらく使命感で立ち向かったよりは、こうした事件に依存しないと生きていけなかったのではないかと感じた。事件解決というより、この人の人生の展開を見るような内容だ。
私生活で奥さまやお子さまとどう向き合って、何が破綻したのかなんか、本当は気にならないようなもんなのだが、この本に限って言えば、意味があったような気がする。
本当は、家庭が必要なかったのかもしれない。
でも、家庭がなかったらどうなっていたのか。
その家庭、特に奥さまが、あたしを見て -
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ピーターラビットやワーズワースを読んで憧れて、旅行したときには景色の美しさに感動した湖水地方、そこでの羊飼いの暮らしが描かれている本だというので興味深く読んだ。
「羊飼い」という言葉にはなんとなくのどかな印象があるが、実際は、当然のことながら厳しい。しかし著者は、家業だから仕方なく継いだのではなく、好きだから自分で選び、誇りを持って続けているということが伝わってくる。
ビアトリクス・ポターは湖水地方の景観を保全するためには、ハードウィック種の羊での農場経営が重要だと考えていた。著者はそれを実践している人たちの1人だ。ワーズワースは湖水地方を独自の文化と歴史が根づく場所と考え、訪問者もそれを理解 -
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ー コロモジラミのDNAの突然変異の数からは、我々の先祖が少なくとも7万年前には裸で走り回るのをやめていたと結論できる。
ー ストロンチウムはカルシウムと同じように体内に取り込まれる金属で、主に骨や歯の中に蓄積する。古代人の歯のストロンチウム比が、その地域の岩盤の比率と一致すれば、歯の持ち主は、歯が見つかった地域で育ったことが断定できる。すると、大きめの歯はその場所の地質と一致したが、小さめの歯は一致しないことがわかった。一般的に男性の方が女性よりも大きな歯を持つため、近親交配を避けるため、集団が離れたのは女性である可能性が高いことがわかる。
…という風に色んな証拠を辿りながら人類を解き明 -
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“私たちのような家族は長い絆を護りながら、時代を超えてお互い寄り添い続ける。人は生まれて死んでいくが、農場、羊の群れ、昔ながらの家族のつながりはずっと続いていく。”
土地に染み込んだ家族の記憶、土地の景観を形作った何世紀にも渡る牧畜のシステム。自らはその一部なんだ、自分の後にも続いていく大きな流れに含まれているんだという帰属感が、著者の人生を形作る。
しかし著者は伝統を重んじて、ただ家業を継いだ訳ではない。
立派な羊飼いである祖父に憧れた幼少期、農場経営方針で父親と対立し新しい生き方を模索して大学に通う青年期、牧畜を生涯の仕事でと定めて家庭を築き、そして家族経営農場で子供達を育ていく著者の -
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12年前の震災で児童74人が津波の犠牲になった大川小の悲劇と、遺族による県・市を相手取った訴訟の行方を、外国人ならではの視点で追ったルポ。特徴的なのは、幽霊目撃、憑依など被災地に頻発したという心霊現象にも着目している点。地元住職が主宰する移動傾聴喫茶「Cafe de Monk」の活動を初めて知ったが、最後に語られる除霊のエピソードには心が痛んだ。
どれだけ時が経っても、当事者にとってあの悲劇の幕が閉じることはない。遺族の中にも忘れたいと願う人と、忘れてはいけないと思う人がいて、そこに葛藤が生じ、一つの結論で片付けられなくなる。誰かの是は誰かの否でもある。一枚岩に見えるグループの中でさえ、個々 -
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