濱野大道のレビュー一覧
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ピーターラビットやワーズワースを読んで憧れて、旅行したときには景色の美しさに感動した湖水地方、そこでの羊飼いの暮らしが描かれている本だというので興味深く読んだ。
「羊飼い」という言葉にはなんとなくのどかな印象があるが、実際は、当然のことながら厳しい。しかし著者は、家業だから仕方なく継いだのではなく、好きだから自分で選び、誇りを持って続けているということが伝わってくる。
ビアトリクス・ポターは湖水地方の景観を保全するためには、ハードウィック種の羊での農場経営が重要だと考えていた。著者はそれを実践している人たちの1人だ。ワーズワースは湖水地方を独自の文化と歴史が根づく場所と考え、訪問者もそれを理解しなければ訪問者自身がこの地を特別たらしめるものを消し去る負の力になってしまうと主張していたそうだ。著者も同様で、農場経営は著者自身の生活のためというだけでなく、独自の文化と歴史、美しい景観を守るために自分が果たす役割だと考えている。ピーターラビットや詩を軽く読んだだけでは読み取れていなかったことを、この本を読んで理解できた。
著者の半生が描かれているが、時系列ではなく、章立ては季節ごとになっている。農場での仕事は季節ごとにやることが決まっており、天候や羊の状態によって調整はするものの、基本的には同じことをコツコツと、何百年も前から続けてきたし、これからも続けていく。そんな書き方でいながら、著者が子どもの頃から今までどんなふうに生きてきたのかがちゃんとわかるようになっているのもおもしろかった。 -
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“私たちのような家族は長い絆を護りながら、時代を超えてお互い寄り添い続ける。人は生まれて死んでいくが、農場、羊の群れ、昔ながらの家族のつながりはずっと続いていく。”
土地に染み込んだ家族の記憶、土地の景観を形作った何世紀にも渡る牧畜のシステム。自らはその一部なんだ、自分の後にも続いていく大きな流れに含まれているんだという帰属感が、著者の人生を形作る。
しかし著者は伝統を重んじて、ただ家業を継いだ訳ではない。
立派な羊飼いである祖父に憧れた幼少期、農場経営方針で父親と対立し新しい生き方を模索して大学に通う青年期、牧畜を生涯の仕事でと定めて家庭を築き、そして家族経営農場で子供達を育ていく著者の半生記が、夏・秋・冬・春の各章にて湖水地方の情景と四季に応じた仕事の描写に織り交ぜられて語られていく。
大学やロンドンでの都市生活、ユネスコの観光プログラムアドバイザーとして各国の伝統的農業地域を巡る中で、もはや事業としては成立しなくても、次世代へ牧畜技術を繋ぐことの重要性と湖水地方の牧畜が持つ文化的意義を、著者は再発見していくのだ。
時制を軽やかに超えることで生き生きと伝わる文章、美しい自然描写など読みどころが多いが、農場での仕事に対する溢れんばかりの愛情と自らの生き方への充足感がひしひしと伝わるところが最大の魅力だろう。
羊の品評会で賞を獲得するビアトリクス・ポターに対して羊飼い達が敬意を表するエピソードや、著者の人柄が偲ばれる謝辞ー特に子供達への想いーには、ほっこりとする。
読後に、改めてカバー写真を見る。
羊の赤い背中や、遠く離れた場所で牧羊犬の活躍を見る人影など、最初に手にした時とは違う視点で美しい風景を見れることだろう。
清々しい気分で読み終えた。
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12年前の震災で児童74人が津波の犠牲になった大川小の悲劇と、遺族による県・市を相手取った訴訟の行方を、外国人ならではの視点で追ったルポ。特徴的なのは、幽霊目撃、憑依など被災地に頻発したという心霊現象にも着目している点。地元住職が主宰する移動傾聴喫茶「Cafe de Monk」の活動を初めて知ったが、最後に語られる除霊のエピソードには心が痛んだ。
どれだけ時が経っても、当事者にとってあの悲劇の幕が閉じることはない。遺族の中にも忘れたいと願う人と、忘れてはいけないと思う人がいて、そこに葛藤が生じ、一つの結論で片付けられなくなる。誰かの是は誰かの否でもある。一枚岩に見えるグループの中でさえ、個々の目標はバラバラで方向性が食い違っていたりする。子どもの遺体捜索や、逃げ遅れの真相を求める活動の現実を知るにつけ、物事を一面だけで判断してはいけない、という思いも改めて強くした。そもそも海外向けらしいので、できるだけ多くの国の人に読んでもらいたい良書。 -
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ひつじ好きとしては読まねばならぬと思っていた本。
湖水地方を「夢の場所」として描く作家たちに反感をおぼえる若い頃の著者。まあわからなくもない…大切なのは、そのあと、「本当の」湖水地方について書こうと考えたこと、だと思う。言葉にするのって、本当に大事。
仕事はぜんぶ祖父に教わったという。そうやって受け継がれていくことがある一方で、家族というものはままならないなあと思う。
母親が冷蔵庫に貼ったマグネットに「つまらない女性の家は汚れひとつなくピカピカ」と書いてあったというのが、とても、とても…そのマグネットほしい!
ところで、冬はひつじを羊舎に入れたらダメなのかな…過酷…
羊飼いの杖かっこいいな…角を加工するのとか憧れるよねえ。
羊毛を売っても利益にならないというのが悲しい。羊毛の活用については言及されてなくて、ちょっと残念。
著者のTwitterを見ると、高原にひつじの群れ!
日本では見ない品種のひつじ!
やっぱりひつじ好きには夢の場所では…と思ってしまう。
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『サピエンス全史』や『銃・病原菌・鉄』のような人類学系の本。そういうジャンルの好きな人は面白く読めると思う。
表紙や帯に書かれているような内容だが、今回面白いと思ったのは「赤道に近づくほど宗教、言語が増え、自民族中心主義になる」理由。熱帯地方ほど病原体の密度が高く、病原体への脅威こそが象徴的偏見の根本となるという。確かにそれはそうだと納得した。簡単にいうと、小さな集団を作り、他の部族との交流を最小化することで病気をもらわず生存確率を上げることができ、自然と言語や宗教も局所化する。
日本は島国であった上に温帯だが湿気も多く病原菌が繁殖しやすいので村社会を形成しやすい民族を進化させたのだろう。
他にもこんな話がたくさんあって楽しいですよ。しかし、『サピエンス全史』もまだ読んでない人はそっちも読んでくださいね!
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まさに「ランドスケープ=風景そのもの!」
イギリス湖水地方に代々続く羊飼いの四季の営みを綴ったもの。
美しく豊かな風景がそこに存在するということ。それはつまりその風景を守り維持する生活が根ざしているということ。
四季を通して羊飼いの過酷な生活が綴られ自然の美しさと厳しさも綴られている。著者のユーモアを交えた文章にどんどん引き込まれる。
著者は羊飼いの息子として生まれ、後にオックスフォード大学を卒業、現在はユネスコのアドバイザーとしての一面もある(著者紹介より)
ランドスケープ、里山などの持続可能な開発...
それらの仕事に携わる人たちにも是非一読してほしい本だと思う。
目の前にひろががる広大で美しい風景...
そこには四季があり、生活があり、そしてそれは一夜にしてできたものではなく何世代と途切れなく続いた営みに支えられている...とういうことを忘れてはいけないと思う。そんな一冊であった。
素晴らしい! -
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ネタバレ<目次>
はじめに
第1部 スパイと外交官~ふたつの謎
第1章 フィデル・カストロの復讐
第2章 アドルフ・ヒトラー総統と知り合いになる
第2部 デフォルトで信用する
第3章 キューバの女王
第4章 佯狂者
第5章 事例研究 シャワー室の少年
第3部 透明性
第6章 『フレンズ』型の誤謬
第7章 アマンダ・ノックス事件について単純で短い説明
第8章 事例研究 社交クラブのパーティ
第4部 教訓
第9章 テロリストの心の内は覗けるか
第5部 結びつき(カップリング)
第10章 シルビア・プラス
第11章 事例研究 カンザス・シティの実験
第12章 サンドラ・ブランドに何が起こったのか
<内容>
我々は「見た目」や「経験」から初対面の相手でも、様々な判断を行っている。それを正しいと信じている。しかし、そうなのだろうか?著者は、”はじめに”のところで、一つの事例を提示する。警官と車を止められた女性の話だ。それは悲劇的な結末となった。それが何を意味したのか、多くの事例を挙げながら、我々の判断が間違ってきたことを示す。現在、アメリカでは警官による黒人殺害の事件から、人種差別撤廃の嵐が吹き荒れている。これもおそらく、この本で提示した課題が表面化した問題だと思われる。ちょっとしたボタンの掛け違いなのだが、初対面の両者が、違う認識を示し、それが確認されないまま時間が過ぎてしまうと、いくつもの事件となってしまうのだ。それは、「ヒト」の感覚の問題なのか、宗教的なものなのか、生理的なものなのか、心理学が解明できることなのか…。 -
Posted by ブクログ
〈かつて民主主義は革命やクーデターによって死んだ。しかし、現代の民主主義の死は選挙から始まる〉――アメリカの事例を中心に、民主的に選ばれた代表が「独裁者」になっていく道筋を提示している。
本来、民主的な制度のうちには「独裁者」が生まれるのを防ぐためのしくみが備わっているはずだ。ところが独裁者は巧妙にその「たが」を外していく。それをサッカーにたとえている部分(p105)が秀逸だ。
●審判を抱き込む
公務員や非党派の当局者をこっそり解雇し、支持者と入れ替える
裁判所を支配する
メディアの買収
●対戦相手を欠場させる
対立している相手を捜査、逮捕、投獄、訴訟
実業家を標的にする
文化人を抑圧する
●ルールを変える
選挙区の変更
投票の制限
●「危機」を訴えてこれらを正当化する
こうして並べてみると、安倍晋三がやっていることと驚くほど一致している。
また、本書が「民主主義のガードレール」と呼んでいる2つの規範、「相互的寛容」と「特権の乱用を避けること」についても、「執拗な民主党政権批判」「臨時国会開催の義務を履行しない」「恣意的な解散権の行使」など、ぴたりと当てはまる。
本書の定義によれば、日本ではすでに民主主義は半ば死んでいて、安部独裁が完成間近であるということになる。暗澹とした気持ちになる。