濱野大道のレビュー一覧
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ジェフリー・ケイン『AI監獄ウイグル』新潮文庫。
現地取材と約3年間にわたる168人へのインタビューにより中国新疆ウイグル自治区の隠された真実を暴いたノンフィクションの文庫化。
近未来のディストピアを描いたフィクション小説を読むかのようだった。
世界の工場と呼ばれるまでに急成長した中国は、自国の領土と支配地域の拡大を止めようとしない。ウイグルやチベット、台湾と中国による圧力は留まるところを知らない。そして、日本にも魔の手を伸ばそうとする中国。
まるで有りもしない自らの敵を自らの手で生み出そうとしているかのようだ。ロシアと同様に余りにもやり過ぎだ。いずれ、大きな悲劇が起きるのは間違い無い。
本書に描かれているように中国政府による新疆ウイグル自治区の少数民族に対する弾圧は常軌を逸している。
少数民族は犯罪者になる可能性が高いという考えから、新疆ウイグル自治区では何百万台もの監視カメラ、SNS、IDスキャンの行動履歴で収集した膨大な個人情報のデータをAIによって処理し、市民の『信用ランク』を決定するのだ。そしてAIの判定により『将来の犯罪者』と認定されると、無実であろうと収容所に送られ、洗脳教育や強制労働を命じられるのだ。
頭の狂った指導者が最先端のテクノロジーを監視と抑圧に使う恐ろしさ。モラルの欠片も無い大国が最先端のテクノロジーを扱うことの恐ろしさ。異常に不衛生な武漢の生鮮市場で発生した新型コロナウイルスを食い止めることの出来なかった大国の最先端テクノロジー。
そんな大国も、ほころびが露呈し始めているようだ。
本体価格1,000円
★★★★ -
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未解決事件を、数十年かけてとうとう犯人逮捕まで追い詰めた科学捜査官。
一言で言えばそうなんだが、実のところそんな「格好いい」話では全くなかった。
著者はおそらく使命感で立ち向かったよりは、こうした事件に依存しないと生きていけなかったのではないかと感じた。事件解決というより、この人の人生の展開を見るような内容だ。
私生活で奥さまやお子さまとどう向き合って、何が破綻したのかなんか、本当は気にならないようなもんなのだが、この本に限って言えば、意味があったような気がする。
本当は、家庭が必要なかったのかもしれない。
でも、家庭がなかったらどうなっていたのか。
その家庭、特に奥さまが、あたしを見て、それが家庭なのよというのが、この国らしいというか。
「昔の」日本だと、この旦那さんの仕事を支えるんだろうな。どっちがいいのかはともかく、社会にとっての家庭のあり方も、考えるところがあって。
執念と、科学の進歩が解決に寄与した。
捜査のドロドロした現実も、十分に描く。メインの事件は解決したが、そこに至るまでは何度も挫折があったし、未解決のままの事件もある。
何より。
こういう犯行が現実に行われているという恐ろしさ。
我と家族に、いつ降りかかるかわからない恐怖。
ほんと、やだわ。 -
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ピーターラビットやワーズワースを読んで憧れて、旅行したときには景色の美しさに感動した湖水地方、そこでの羊飼いの暮らしが描かれている本だというので興味深く読んだ。
「羊飼い」という言葉にはなんとなくのどかな印象があるが、実際は、当然のことながら厳しい。しかし著者は、家業だから仕方なく継いだのではなく、好きだから自分で選び、誇りを持って続けているということが伝わってくる。
ビアトリクス・ポターは湖水地方の景観を保全するためには、ハードウィック種の羊での農場経営が重要だと考えていた。著者はそれを実践している人たちの1人だ。ワーズワースは湖水地方を独自の文化と歴史が根づく場所と考え、訪問者もそれを理解しなければ訪問者自身がこの地を特別たらしめるものを消し去る負の力になってしまうと主張していたそうだ。著者も同様で、農場経営は著者自身の生活のためというだけでなく、独自の文化と歴史、美しい景観を守るために自分が果たす役割だと考えている。ピーターラビットや詩を軽く読んだだけでは読み取れていなかったことを、この本を読んで理解できた。
著者の半生が描かれているが、時系列ではなく、章立ては季節ごとになっている。農場での仕事は季節ごとにやることが決まっており、天候や羊の状態によって調整はするものの、基本的には同じことをコツコツと、何百年も前から続けてきたし、これからも続けていく。そんな書き方でいながら、著者が子どもの頃から今までどんなふうに生きてきたのかがちゃんとわかるようになっているのもおもしろかった。 -
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“私たちのような家族は長い絆を護りながら、時代を超えてお互い寄り添い続ける。人は生まれて死んでいくが、農場、羊の群れ、昔ながらの家族のつながりはずっと続いていく。”
土地に染み込んだ家族の記憶、土地の景観を形作った何世紀にも渡る牧畜のシステム。自らはその一部なんだ、自分の後にも続いていく大きな流れに含まれているんだという帰属感が、著者の人生を形作る。
しかし著者は伝統を重んじて、ただ家業を継いだ訳ではない。
立派な羊飼いである祖父に憧れた幼少期、農場経営方針で父親と対立し新しい生き方を模索して大学に通う青年期、牧畜を生涯の仕事でと定めて家庭を築き、そして家族経営農場で子供達を育ていく著者の半生記が、夏・秋・冬・春の各章にて湖水地方の情景と四季に応じた仕事の描写に織り交ぜられて語られていく。
大学やロンドンでの都市生活、ユネスコの観光プログラムアドバイザーとして各国の伝統的農業地域を巡る中で、もはや事業としては成立しなくても、次世代へ牧畜技術を繋ぐことの重要性と湖水地方の牧畜が持つ文化的意義を、著者は再発見していくのだ。
時制を軽やかに超えることで生き生きと伝わる文章、美しい自然描写など読みどころが多いが、農場での仕事に対する溢れんばかりの愛情と自らの生き方への充足感がひしひしと伝わるところが最大の魅力だろう。
羊の品評会で賞を獲得するビアトリクス・ポターに対して羊飼い達が敬意を表するエピソードや、著者の人柄が偲ばれる謝辞ー特に子供達への想いーには、ほっこりとする。
読後に、改めてカバー写真を見る。
羊の赤い背中や、遠く離れた場所で牧羊犬の活躍を見る人影など、最初に手にした時とは違う視点で美しい風景を見れることだろう。
清々しい気分で読み終えた。
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12年前の震災で児童74人が津波の犠牲になった大川小の悲劇と、遺族による県・市を相手取った訴訟の行方を、外国人ならではの視点で追ったルポ。特徴的なのは、幽霊目撃、憑依など被災地に頻発したという心霊現象にも着目している点。地元住職が主宰する移動傾聴喫茶「Cafe de Monk」の活動を初めて知ったが、最後に語られる除霊のエピソードには心が痛んだ。
どれだけ時が経っても、当事者にとってあの悲劇の幕が閉じることはない。遺族の中にも忘れたいと願う人と、忘れてはいけないと思う人がいて、そこに葛藤が生じ、一つの結論で片付けられなくなる。誰かの是は誰かの否でもある。一枚岩に見えるグループの中でさえ、個々の目標はバラバラで方向性が食い違っていたりする。子どもの遺体捜索や、逃げ遅れの真相を求める活動の現実を知るにつけ、物事を一面だけで判断してはいけない、という思いも改めて強くした。そもそも海外向けらしいので、できるだけ多くの国の人に読んでもらいたい良書。 -
Posted by ブクログ
ひつじ好きとしては読まねばならぬと思っていた本。
湖水地方を「夢の場所」として描く作家たちに反感をおぼえる若い頃の著者。まあわからなくもない…大切なのは、そのあと、「本当の」湖水地方について書こうと考えたこと、だと思う。言葉にするのって、本当に大事。
仕事はぜんぶ祖父に教わったという。そうやって受け継がれていくことがある一方で、家族というものはままならないなあと思う。
母親が冷蔵庫に貼ったマグネットに「つまらない女性の家は汚れひとつなくピカピカ」と書いてあったというのが、とても、とても…そのマグネットほしい!
ところで、冬はひつじを羊舎に入れたらダメなのかな…過酷…
羊飼いの杖かっこいいな…角を加工するのとか憧れるよねえ。
羊毛を売っても利益にならないというのが悲しい。羊毛の活用については言及されてなくて、ちょっと残念。
著者のTwitterを見ると、高原にひつじの群れ!
日本では見ない品種のひつじ!
やっぱりひつじ好きには夢の場所では…と思ってしまう。
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Posted by ブクログ
『サピエンス全史』や『銃・病原菌・鉄』のような人類学系の本。そういうジャンルの好きな人は面白く読めると思う。
表紙や帯に書かれているような内容だが、今回面白いと思ったのは「赤道に近づくほど宗教、言語が増え、自民族中心主義になる」理由。熱帯地方ほど病原体の密度が高く、病原体への脅威こそが象徴的偏見の根本となるという。確かにそれはそうだと納得した。簡単にいうと、小さな集団を作り、他の部族との交流を最小化することで病気をもらわず生存確率を上げることができ、自然と言語や宗教も局所化する。
日本は島国であった上に温帯だが湿気も多く病原菌が繁殖しやすいので村社会を形成しやすい民族を進化させたのだろう。
他にもこんな話がたくさんあって楽しいですよ。しかし、『サピエンス全史』もまだ読んでない人はそっちも読んでくださいね!
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Posted by ブクログ
まさに「ランドスケープ=風景そのもの!」
イギリス湖水地方に代々続く羊飼いの四季の営みを綴ったもの。
美しく豊かな風景がそこに存在するということ。それはつまりその風景を守り維持する生活が根ざしているということ。
四季を通して羊飼いの過酷な生活が綴られ自然の美しさと厳しさも綴られている。著者のユーモアを交えた文章にどんどん引き込まれる。
著者は羊飼いの息子として生まれ、後にオックスフォード大学を卒業、現在はユネスコのアドバイザーとしての一面もある(著者紹介より)
ランドスケープ、里山などの持続可能な開発...
それらの仕事に携わる人たちにも是非一読してほしい本だと思う。
目の前にひろががる広大で美しい風景...
そこには四季があり、生活があり、そしてそれは一夜にしてできたものではなく何世代と途切れなく続いた営みに支えられている...とういうことを忘れてはいけないと思う。そんな一冊であった。
素晴らしい!