井伏鱒二のレビュー一覧
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戦前・戦中・戦後(1921-58年頃)、井伏鱒二自身とその周辺の出来事についての随想。年季も入り(出版時83歳)、滋味にあふれる。回想記、交遊録、鎮魂歌として読めるが、でも荻窪や阿佐ヶ谷が舞台、風土記という呼び名が一番しっくりくる。
17の章からなる。読みどころは作家たちの人間模様を描いた「文学青年窶れ」、「阿佐ヶ谷将棋会」、「続・阿佐ヶ谷将棋会」。頻繁に飲みに出かけ、将棋をし、釣りをしている。仕事のほうはいつしているのか、少し心配になる。
個人的には、「二・二六事件の頃」、「病気入院」、「荻窪(三毛猫のこと)」がおもしろかった。「病気入院」では、発熱時に体験した幻覚の描写が印象的。
ある劇作 -
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太宰治について書いたエッセイ20篇と作品解説2篇。独特のユーモアが漂う。
ふたりの関係は、交遊とか友愛とか師弟愛といった生易しいものではなかった。才能と魅力はあるが、放蕩する息子と、その後始末をせざるをえない弱気の父親のような関係。しかしその関係がなにかしら不思議な感動を呼び起こす。
とくに印象に残るのは、太宰の最初の妻・小山初代のことを書いた「琴の記」、太宰の長兄のことを書いた「太宰治と文治さん」、石井桃子が最後に登場する「おんなごころ」。
放屁問答は2つのエッセイに出てくる。太宰は、「富岳百景」のなかで井伏が富士を見ながら放屁したと書いた。それを読んだ井伏は、していないと抗議したが、太宰は -
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さすが井伏鱒二、巧い、読ませる。骨董の魅力と魔力、それが余すところなく描かれている。料理も含め、ほれぼれするようなディテール。しかもユーモラス。「です・ます」と「だ・である」の混在もおもしろい。
モデルは骨董鑑定士の秦秀雄。北大路魯山人のもとで高級料亭(星岡茶寮)の支配人となったが、従業員をめぐって魯山人とトラブル。小説はこの騒動を描いている。これがあったのは戦前だが、小説の設定は昭和22年。戦後まもない時期に変えてある。
増補新版では、井伏が秦にどんな取材をしたかというエッセイが加えられている。そのほか、秦秀雄のことを書いた白洲正子による追悼エッセイも。 -
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8月6日の原爆投下の瞬間から、主人公だけでなく様々な被爆者たちから語られた想像を絶する惨状に言葉が出ない。8月6日以降広島の街がどんな状況だったのか、そこに住んでいた人々は死者から生き残った人々までがどのような苦しみを味わったのか、戦争を知らない私が初めて知る市井の人々の生の声が記されていた。平和記念資料館では隅から隅まで資料を熟読した訳ではないが、そこだけでは知り得ない当時の人々の暮らしも詳細に書かれている。悲惨という言葉では言い表せないほどの死体の山の描写に、感覚が麻痺してうまく想像も働かなかった。
原爆症の症状が出ていなかった矢須子の縁談が反故にされるなど、目に見える症状だけでなく日 -
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