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Posted by ブクログ
これは傑作。センスオブワンダーに溢れてるし、その描写がいちいち美しい。短い1文にもハッとするフレーズがあちこちにあるのだが、水族館に捕まってしまったフィジットの妹クリッパが故郷、憧れの海を思い出す場面が特に素晴らしい。「すてきな、ひろびろとした、なにもかもすがすがしい、わが家のような海!貿易風がおこす波のしぶきなどものともせずに、大西洋の波濤をとびこえて、うずまく青い波の底におりてゆくなんて、なんてすばらしいんでしょう!空が夕焼けで、波のあわがピンク色に映える夏の夕暮れどき、もしも小エビを追いかけてゆくことができるなら!ひっそりとした無風帯の昼さがり、波の上にねころんで、熱帯の太陽に、おなかを暖めることができるなら!インド洋の大きな海草の林の中を、手に手をとって通りながら、おいしいポップポップの卵をさがすことができるなら!真珠やミドリ石の窓が海底にかがやいている南アメリカ北岸の、サンゴの町の竜宮で、もしも、かくれんぼができたなら!南洋の海の、かすかに青い、うすむらさきのイソギンチャクの野原にピクニックにゆけたなら!メキシコ湾の、よくはずむ海綿の寝床の上で、トンボがえりができたなら!沈んだ船の中を歩きまわる、あの冒険ができたならーそれからまた、北東の風に波のあわだつ冬の夜、寒さをのがれて、暖かい暗い海底めがけてもぐってゆけたなら!」
私、水族館は大好きなのだけど、こんな美しい海から遠ざけて狭いアクリルの水槽に魚たちを閉じ込めてると思ったらこれからは申し訳ないって気持ちになってしまうかもしれないな…。
じっくり丁寧に英国ドリトル先生の日常を描いた後の航海のテンポの良さ、そして後半、意図せずに王様になってしまい、なった以上は王としての務めを果たし続けようとするあまり、本当の自分がやりたいことはなんなのかを見失ってしまうドリトル先生の姿に身につまされるものがあった。
ここは白人優位主義というよりも、人間と文明の歴史を寓意的に描いてると感じた。火を持たない地元の民に火を教える所で危うさを感じたが、その後、ドリトル先生は王となり、赤ん坊を救ったり、劇場を建てたり、学校で教えたり、たぶん自分自身が理想とする支配者であるべく昼夜を問わずに統治を行う。良い独裁者であり続けるためには自分を捨てて尽くさねばならず、先生の本当にやりたいことは、個人の趣味や関心は捨てねばならない。ドリトル先生は今回は自分を優先して王座を捨て島から出ていったが、島に残っていたとしてもいずれは死ぬのだから、独裁者に頼らずに住民自らの手で文明を手懐ける仕組みを導入すべきだったかもしれない。優秀すぎる人はなんでも自分でやってしまうんですよね…。
おうむのポリネシアが策略を使ってドリトル先生をドリトル先生自身の心から救い出すところ、説教くさくなくていい。それと準備周到な仲間たち(笑)。ドリトル先生が王を辞められない言い訳に対してポリネシアが言うセリフも良かった。劇場建設なんか遅れたっていいし、赤ん坊の病気も疝気くらい、昔からかかってるって。そりゃそうだ。英国に戻ってのエンディングもシニカルで良くて、これ本当に子供向けなのかなと。
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