井伏鱒二のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
読み返したいなと思っていたドリトル先生シリーズ。
まずは初めの『アフリカ行き』は昔からの井伏鱒二翻訳、次の『航海記』は河合祥一郎の新訳完訳で読んでみます。
ヒュー・ロフティング本人の挿絵が懐かしい!!(^o^)
翻訳の口調は「ドリトル先生は〇〇をなさって」のように丁寧です。
巻末が豪華!
翻訳者井伏鱒二や、井伏鱒二に紹介した石井桃子のあとがきからは、戦後に子供たちに豊かな児童文学に触れてもらいたい!という真摯な気持ちが感じられます。
日本に紹介してくださったみなさまへの「ありがとうございます!」の気持ちを深く感じます。
さらには登場人物・動物紹介、二巻以降のあらすじ紹介もあります。
さすが -
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他の戦争映画に比べて、心がひどく痛むことがなかったのが不思議。自分の想像力が貧困なせいなのか。
一般市民の日常風景が淡々と描かれていて、やたらと戦争を非難する書き方はされていない。
重松が泣いたり喚いたりすることなく、原爆前と変わらず性格がぶれることなく、生活を続けているからだろうか。その点は、妻シゲ子も矢須子も大袈裟に悲惨な顔はしていない。
壁にかかった「撃ちてし止まん」が虚しさの象徴に思えた。広島長崎の人たちは終戦のラジオ放送を呆然と聞いただろう。安心と不毛な気持ちがごちゃ混ぜになったような。
“もう負けていることは敵にもわかっていたはずだ。ピカドンを落とす必要はなかったろう”
そのとお -
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ネタバレ戦時中であれ存在していた「日常」を原爆は無残にも奪い去った。日記形式で語られる被爆後の広島の様子はとても惨い。
閃光は一瞬だが、戦後数年経っても日常を侵し続け、黒い雨を浴びていた主人公の姪はついに原爆症を発病してしまう。
主人公が虹に祈りを託す場面で物語は幕を閉じる。姪はその後どうなったのだろう。悲しい運命の想像ばかりが頭を過る。
市井の人の視点且つ、抑えた筆致だからこそ余計に悲惨さが伝わるし、反戦の直接的な表現が無いにも関わらず、作者の抱く怒りや悲しみが全体から浮かび上がる。原爆の恐ろしさを今に訴える不朽の戦争文学だと思う。 -
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戦争文学としてあまりにも有名な井伏鱒二の『黒い雨』
戦後80年だしと思ってようやっと手を出したのであった。小学校のころから知っていた作品だけど『黒い雨』というタイトルが禍々しすぎてずっと読まずにいた
『黒い雨』を読み、戦争の終わりが必ずしも平和の始まりではないことを痛感した。原爆投下の惨状は、日記を書き写すという形で再現され、過去の記録と現在の生活が交錯しながら物語が進む。その構成が出来事の記憶とその影響がなおも続いていることを強く印象づける。被爆による病や偏見、婚姻問題など、原爆が奪ったのは命だけでなく、人としての未来そのものである。これからも日本が唯一の被爆国であるべきだと強く思う。同じこ -
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「山椒魚」だけで星5つけられる。
短編集の中で面白い話はいくつかあったが、「山椒魚」だけは別格なように感じた。読後感がスゴイ。2025年7月までに読んだ本で今年1番面白かった。
「山椒魚」は以前から気になっており、井伏鱒二の本は今回初めて読んだが、なんとなく独特な雰囲気が伝わった。特に作中のさまざまな地方の方言や、余韻のある読後感がすごかった。終わり方が独特なので、「え、ここで終わるの?」という終わり方のやつも多かった。長編の一章しか読めてない感覚。
好きな作品をメモっておく
「山椒魚」
「屋根の上のスワン」
「夜ふけと梅の花」
「寒山拾得」 -
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ネタバレゼミで取り扱われるので、「遥拝隊長」だけとりあえず読んだ。一言で言って、どう読んだらよいものか、よく分からなかった。
復員しても、いまだに戦争中だと錯覚している元中尉の以上な言動を描いて、戦争と戦争思想の愚劣さを痛烈にあばき、真の戦争犠牲者に対して強い同情をよせた『遥拝隊長』
(新潮文庫版、裏表紙のあらすじより)
文庫版のあらすじの書き方からすると、「戦争と戦争思想の愚劣さ」に対する批判の物語ということになる。
戦争中、陸軍中尉で小隊の隊長としてマレーに派遣された悠一は、遥拝が好きであった。ラジオで朗報があるたび、自分の小隊を整列させ、遥拝をさせていたことから、彼の小隊は「遥拝小隊」と呼ば -
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時は昭和30年頃、上野駅近くの大きな旅館、酸いも甘いも嚙み分けた番頭のまわりで起こる数々の出来事。脇役たちもいい味を出していて、文句なくおもしろい。
客の呼び込みと案内の一部始終、修学旅行や社員旅行の「おのぼりさん」たちが繰り広げるドタバタ、当時の上野界隈の賑わいや熱気も感じられる。
もちろん、色恋もある。主人公が思いを寄せる女性と、飲み屋のカウンターで膝と膝とが触れ合う場面は、読んでいて胸がどきどきする。
番頭にも脇役たちにもモデルがいる。ほぼ同時期に出た『珍品堂主人』もそうだが、井伏は、驚くほど丹念に取材している。しっかりしたディテールをもとに要所要所をちょっと脚色、これぞ井伏流の魔法。