井伏鱒二のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
昔読んだはずのオットセイの脱出劇が、どんなんだったかなーと思って再読。記憶にあった感じより脱出劇は短くて、後半4・5部はサーカスいろいろだった。
読んでみて思ったこと
・登場する動物(と人間)たちがイキイキしてやっぱりわくわくするな~ということ。どこを切り取っても自分だけの絵ができあがるような。人間でも動物でも同じ所、人間と視点が全然違う所、両方を感じながら、場面を想像して読ませる面白さは変わっていなかった。それって今更だけど結構すごいと思う。
・小学校中級以上対象とあったけど、欧米文化の下敷きがないと意味が分からん部分あるかなーと。「ズングリムックリ・デッカク」(マザーグース)とか、「日本語以外なら何語でも」(習得難度の高さで知られた)とか、「パンタルーン」(道化の型の一つ)とか。欧米の子供向けに書かれた文章だから?今はネットで何でも調べられるからいいのかな?でももったいない気もするなーと思ったり思わなかったり。
・先生の金銭感覚について。いつも文無しでもケセラセラ。なぜなら周りの動物たちが助けてくれるし、必要なら知り合いから借りればいいから。でも返す気はあるんだかないんだか、借金持ちの身で、目についた動物のために金をつぎ込み、受け取るべき報酬の催促を嫌がる。
…鈍感って悪意より罪。こんなの子供向けの文章に出していいのだろうか。天才ってどっかズレてる人多いけど。それともこんな大人になっちゃいけませんという反面教師?ダブダブの耳元で逃げちまえよと囁きたくなった。 -
Posted by ブクログ
戦後間もない悲惨な社会生活を背景にしつつも、どこかユーモアを湛えている井伏鱒二の短編2編。
『搖拝隊長』は元陸軍中尉で任務中の事故が原因で頭がおかしくなった岡崎悠一を中心に、周囲の皆が彼の言動に困惑・翻弄されながらも、戦中と戦後の分かち難い社会思想の断絶をユーモアを交えながら描いた作品です。
何と言ってもこの作品の可笑しみは、いまだ戦争中だと錯誤している岡崎元中尉が突発的に繰り出す軍隊号令で、たまたま周囲にいた人間が否応なく巻き込まれてしまう様がとても面白かったです。狂人の言うことだとわかってはいても、これに面倒くさいながらも波風立てず従うか、あるいは逃げ出すか、または彼の自宅へ連れ戻すかの選択を迫られるわけで、そうした状況がとてもユーモラスに描かれています。
一方で、戦争中にさんざん聞かされ続け、しかも与太話に過ぎなかった戦争思想や軍隊号令を、戦後においてもさえ聞かされ続ける周囲の者にとってみれば、とてつもなくブラックユーモアな話であり、そうした彼らの反応の描写は反動としての戦後社会の風刺にもなっています。
解説によると、著者はマレー作戦に従事していたとのことで、途中で挿入されるリアルな軍任務の描写がその後の奇妙な狂人のふるまいに違和感なく直結していて、これまた見事な構成でした。
しかし、何かにつけて達観している岡崎元中尉の母親がもっとも凛々しく、この短編を大いに引き立てていたとも思います。
戦中・戦後の社会思想の変化を題材として、井伏ならではのユーモアに満ちた佳作だったと思います。
『本日休診』は東京は蒲田で開業した産婦人科医・三雲八春先生を中心に周囲で巻き起こるもろもろの出来事を描いた作品です。
おそらく当初は、たまたま休診日に一人病院にいることとなった三雲先生が、休診にもかかわらず忙しくも立ち振る舞うことになった様子をユーモアたっぷりに描く構想だったと思われますが、途中からあれっ?休診日でない話にぽんぽんと移っていって、う~む、これはさてはネタ切れだなと思っていたら(笑)、解説によると3回くらいに分けた雑誌連載物だったということなんですね。それで途中で構想が変わったということか。合点。(笑)
産婦人科医とはいいながら、専門外の盲腸手術をしたり刺青抜き手術をしたりと、大忙しの三雲先生には終始なぜかユーモアが漂っており、もう少し連載が続いても良かったのになと思わせる働きぶりでした。(笑)
それぞれのサブストーリーで三雲先生が診ることになった患者の多くは、戦後間もない頃の誰もが極貧の中にあり、またそれが故に社会からはみ出した者もいて、そうした世相がきっちり描かれているのですが、三雲先生の穏やかでほのぼのとしていそうな性格描写がこうした悲惨な社会の様子を和らげ、あまつさえユーモラスにも見えるという井伏らしい結合を見事に成し遂げている作品であったと思います。
作品自体はどこかユーモラスに覆われながらも、ラストはやはり社会への皮肉を重視した余韻溢れるものになっています・・・。 -
Posted by ブクログ
1937年(昭和12年)。
訳詩が素晴らしい。孟浩然『春暁』を直訳と井伏訳で比較すると(カッコ内が井伏訳)、
春眠暁を覚えず
(ハルノネザメノウツツデ聞ケバ)
処々啼鳥を聞く
(トリノナクネデ目ガサメマシタ)
夜来風雨の声
(ヨルノアラシニ雨マジリ)
花落つること知んぬ多少ぞ
(散ッタ木ノ花イカホドバカリ)
直訳の格調高さも良いけれども、井伏訳の大らかな自然体も捨てがたい。
そして何と言っても、于武陵『勧酒』の訳の完成度は一頭地を抜いている。いつか自分がこの世に別れを告げる時もこんなふうに飄々と去っていけたらいいな、なんて思ったりする。
君に勧める金屈巵(きんくっし)
(コノサカヅキヲ受ケテクレ)
満酌辞するを須(もち)いず
(ドウゾナミナミツガシテオクレ)
花発(ひら)けば風雨多く
(ハナニアラシノタトヘモアルゾ)
人生 別離足(おお)し
( 「サヨナラ」ダケガ人生ダ) -
Posted by ブクログ
堅気な商売のようだが実は江戸前の粋な世界に浸りながら、駅前旅館の番頭におさまる主人公の、活き活きとした立ちまわりを回想体の文章により表現した著者ならではの面白小説。
まず、その語り口が「古き良き」昭和の旅館とその周辺を再現していて面白い。べらんめい調だったのが、語り調になったり、旅館の隠語がみだり飛んだりと変幻自在だ。
ひとつの話も脱線して別の話になっていきそれがまた面白く、実はさっきの話の前振り話だったのかと戻ってくることもしばしば。なかなかついていくのも大変です。(笑)
番頭仲間でつるんだりとぼけたりする話や、旅館の泊まり客の様子も面白いが、主人公の派手だが結局はしぼむ淡い恋愛模様もそこはかとなく彩りを加えます。数々の与太話!も微に入り細に入る説明でついつい笑みがこぼれてしまいます。(笑)
話が唐突に終わったような感じだったが、もっと続いていても良かったな。