井伏鱒二のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
確かに文豪が書いた傑作だ。
8/6新聞コラムでこの作品のことを知った。
書店の推薦棚に並ぶのを見て購入。
読み出すと僅かの前振りもなく広島の原爆投下の阿鼻叫喚地獄に引き込まれる。
筆者の渉猟した悍ましい痕跡の数々が痛切を極め、
想像を超えた現実が読者にひたひたと覆い被さる。
臨場感溢れる表現で当該地生活者の得体の知れない恐怖と不安、不条理な絶望を活写する。
広島市内に住む中年夫婦と適齢期の姪の話だ。
彼女は勤労動員中で被爆は避けたが、中心部で直撃された女学生奉仕隊にいたと噂され、見合いの度に原爆症を疑われ破談する。
夫婦は預かっている責任を強く感じ、姪の健康を証明するため原爆投下日以降8月2 -
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Posted by ブクログ
戦争を題材にした小説で有名な作品、井伏鱒二さん著「黒い雨」
前々から、それこそ30年前から知っている作品だったが今回初めて読む事ができた。
調べてみれば1966年初刊との事、1945年8月が原爆•終戦の年なので、戦後20年に書かれた作品ということになる。
現在戦後80年、となれば約60年前の作品でありながら、投下された原爆のもたらした凄惨さ、生々しさ、人々の混乱、都市の壊滅状態等々が恐ろしくリアルに伝わってくる。
現実にあった惨劇だけに恐ろしい作品。
それこそ自分が生まれる前の惨劇なのに、人々の声が今まさに真に迫って聞こえるようだった。
現在のように事ある情報が瞬時に得られ、その情報やそれに -
Posted by ブクログ
オーディブルにて。
8月に入り、終戦記念日に近づくにつれて増えるコンテンツの1つとして読んでみた。年に一度でも戦争について考えるこのような機会は必要だと感じた。
5月にイギリスに行った際、VEデーという終戦記念日があった。イギリスにとっては戦勝記念の晴れやかな日であること、ドイツ降伏の日である5月8日で定めているため、その後日本は3か月間も孤軍奮闘していたことに今更ながら衝撃を受けた。
本作の主人公が言うように、ピカドンが落とされる前に降伏できたのではないか、というのは本当にその通りだと思う。広島や長崎の人は原爆を落とされる必要があったのだろうか。あまりにも大きすぎる代償である。 -
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Posted by ブクログ
ジョン万次郎に興味があって、3つの短篇のうち「ジョン万次郎漂流記」を最初に読んだ。勝手に司馬遼太郎の『菜の花の沖』(やはり江戸時代にロシアに拿捕された商人、高田屋嘉平を描いた小説)みたいな壮大な娯楽物語を想像しながら読み始めたが、すいぶん雰囲気が違う。大げさな感情描写や細かい時代背景の説明などはほとんどないまま、淡々とした描写が続く。それでいてじわじわ伝わる何とも言えない滋味深さ。読み始めの拍子抜け感から一転、うなりながら読み終えた。次に読んだ「さざなみ軍記」にはさらに感じ入った。一度では味わい尽くせない、文学作品の魅力がすみずみに。またうなる。再読必至。(「二つの話」はちょっとピンとこなかっ