海外ミステリー - グーテンベルク21作品一覧
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-「思考機械」(Thinking Machine)とはそもそも何者なのか。これはれっきとした探偵の名前で、アメリカ生まれのシャーロック・ホームズの仲間だ。「いかなる問題も、すべて単純な知的操作によって数学的因子に還元されるはずなのだよ」オーガスタス・S・F・X・ヴァン・ドゥーゼン教授(これが彼の本名だ)は、力を込めて言った。作者フットレルは、ジョージア州生まれで、一九〇五年、「思考機械」の別名を持つ探偵が活躍する推理小説「13号独房の問題」を発表して人気を集めた。以後、「思考機械」ものの推理小説で欧米の人気をさらったが、奇しくも一九一二年、タイタニック号の遭難事故で死亡した。「思考機械」ものの推理小説は、ポーストの「アブナー伯父」と並びアメリカン・ミステリの古典として高く評価される。
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-「ロンドン・レヴュー」誌の寄稿家トッドハンターは、大動脈瘤であと数か月の寿命と宣告された。彼は熟考のすえ、余命の残るあいだに「有益な殺人を犯そう」という結論に達する。めざす人物はすぐに見つかった。それは「吸血鬼」とよんでもいいような酷薄非情な女だった。ファローウェイ一家はその犠牲となってあえいでいた。彼は拳銃を忍ばせて夕闇のなか女の家を訪れ、椅子にすわる女めがけて発砲した…「殺意」とならぶバークレーの代表作。
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-酔いどれ弁護士マローンとジェイク&ヘレンのおなじみ3人組を主役にすえた爆笑トリオ登場の第2作。ここではジェイクとヘレンはまだ結婚していない。「ジェイク、あたし、脅迫されてるの」ラジオ・ショーのスター歌手ネルはそう言い残して、姿を消した。マネージャーを務めるジェイクは、彼女の元恋人ポールのもとを訪ねてみるが、出迎えたのはポールの死体だった。ジェイクはあせってスキャンダル隠しに奔走、だが、そうするうちに死体が現場から消失、旧友の弁護士マローンの助けを借りることに。1930年代のラジオ業界を活写するライスのユーモア・ミステリ。
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-海辺を散策していた推理作家ハリエット・ヴェーンは、遠望する岩礁のうえに動かない人物を発見した。それは喉を剃刀で切られた男の死体だった。だが、浜辺には男のものと見られるひとすじの足跡しかなかった。やがて死体は満ちてきた潮に流されて行方不明になる。……錯綜する謎また謎。ウィムジー卿はこの難事件を解けるのか? シリーズ屈指の重厚な長編。
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-時計師の家の天窓の下の部屋では、完全殺人の計画が進行していた。表のドアがあけはなたれて、死の罠へおびきよせられた犠牲者の押すベルが鳴る。中では男がピストルを持って待ち構えていた。しかし扉を開けて入って来た男は、相手がピストルを撃つ前に倒れていた。被害者は首を時計の針で刺されて、死亡していたのだ。しかもその遺体は別の殺人事件を追ってやって来た刑事だった! おなじみフェル博士が登場し、陰で微笑をもらす冷血な真犯人と対決する。初期のカーを代表する作品。
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-アイリッシュの叙情性がうかがわれる表題作をはじめ、「高架殺人」「リンゴひとつ」「コカイン」「夜があばく」「日暮れに処刑の太鼓が鳴る」「妻が消える日」の7作を収めた傑作短編集続編。どの一編にも、サスペンス・スリラー第一人者のうまさが堪能できる。
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-ドナーのパンチが決まり、オデアのからだはロープを背にして急に跳ねかえり、そのまま前方へ頭からリングにころがった。ドナーは八百長試合を裏切ったのだ。だがリング上には見えない死神がいた。オデアは撃たれて死体になっていた!……この表題作のほか、「消えた花嫁」「墓とダイヤモンド」「殺人物語」「検視」「チャーリーは今夜もいない」「街では殺人という」の7編を収録したアイリッシュ短編傑作集。
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-アイリッシュの短編集続編。独特の緊迫した雰囲気をともなうサスペンスは不滅で、読者を魅了せずにはおかない。本巻には「青ひげの七人目の妻」「死の治療椅子」「殺しのにおいがする」「パリの一夜」「生ける者の墓」の5編を収録した。
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-ホームズの世界を楽しめる作品。名だたるホームズ嫌いがアメリカ映画「まだらの紐」の脚本担当になったため、「ベイカー・ストリート・イレギュラーズ」の会員からの非難が相次いだ。一計を案じた会社は嘱託として会員をハリウッドに招待する。ところが、パーティの席に現れた当の脚本家が殺される。しかも、死体が消えた! 暗号・密室・国際的陰謀……シャーロキアンがもてる知識をフル動員して推理に当たる。
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2.0
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-ディクスン・カーの、ヘンリー・メリヴェール卿を探偵役とするシリーズ第三作。この作品も一種の「密室の殺人」を扱っているのだが、本書に取り上げられた「密室」はちょっと毛色が変わっている。一面に雪の降り積もった銀世界、そこにぽつんと立てられている「白い修道院」という名の離れ家で殺人は起こる。だが、犯人の足跡は全くない。あるのは死体を発見した者の足跡だけ。この人物は犯人ではあり得ないのだ。大自然が構成した密室の謎を、H・Mはいかにして解決するのか? 江戸川乱歩が密室を越えた不可能興味と絶賛した作品。
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-アガサ・クリスティは犯罪もの、怪奇サスペンスものでも見事な作品を残した。この短編集には犯罪もの「うぐいす荘」「事故」、怪奇もの「最後の降霊会」「第四の男」の、代表作4編を収録した。
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-「13の秘密」はパリを舞台に、探偵趣味のルボルニュ青年が新聞記事を手がかりに13の犯罪の謎を解明する連作短編集。有名なミステリー評論家アントニー・バウチャーは「純粋に頭脳だけで事件を解決するという点でルボルニュに比肩しうるのは『隅の老人』だけだ」と絶賛している。「第一号水門」はメグレもの初期の長編…老船頭のガッサンは運河に落ちるが、救出される。同じ場所で、界隈の河川運行を仕切るデュクローが、痛手を負い意識を失っていたところを助け出される。デュクローの息子ジャンが、父を襲ったのは自分だと告白する手紙を遺し自殺を遂げる。翌日、さらにベベールなる水夫がシャラントンの水門で縊死死体となって発見される。
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-額縁作り職人ガストン・ムーランの伯母が殺され、貯めこんでいた小金が奪われた。密告する者があり、ムーランに不利な証拠も出て、彼は逮捕され、犯行否認のまま起訴された。ムーランに白の心証をいだいたメグレはその後も捜査をつづけ、律義なムーランとはあまりにも対照的な妻ジネットに疑いを持った。法廷でジネットの素行が明るみに出されて、裁判の成行きは一転し、ムーランは無実の評決を得る……
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4.0かつてマレーネ・ディートリッヒの主演で映画化されて有名になった名編「情婦」のほか、愛すべきポワロが活躍するクリスティの珠玉の短篇「西方の星」「首相誘拐事件」「ダベンハイム氏の失踪」「クラパムの料理女」「イタリア貴族の怪死」「エジプト人墓地の冒険」を収録したハンディな1冊。誰でも親しめるポワロ入門。
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-パリ郊外のドーブレック代議士の別荘に押し入ったルパン。高価な美術品を奪う計画は成功したかにみえた。だが、事態は急変、ルパンは手下を置き去りにして命からがら逃走するはめに。この手下どもはその屋敷で、何やら別の品物を物色し、それをめぐって取っ組み合いの喧嘩まで繰り広げた。ルパンはそれを奪って逃走したが、家に帰り着いてから見てみると、それは水晶でできた水差しの栓にすぎなかった。だが一夜あけたとき、マントルピースの上に置いた栓は跡形もなく消えていた!……水晶の栓をめぐって複雑にからみあう謎また謎、ルパンは政治陰謀と裏切りの渦中にいやおうなく巻き込まれ、最大の強敵に立ち向かう。危うしルパン! 「水晶の栓」はルパン長編ものの最高傑作のひとつ。
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2.0イギリス中の興味と関心をあつめたスタイルズ荘の事件は、ヘイスティングズ大尉が友人の別荘に招かれたときに起こった。再婚して間もない友人の義母エミリーが毒殺されたのである。嫌疑は一族のみんなにかかる。ベルギーから英国に亡命してまもなくエミリーに住まいを世話されたポアロは、恩義も感じて事件解決に乗り出す。…不滅の探偵を生み出した「ミステリの女王」の新鮮さのあふれる処女作。
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-デラとともに船のデッキに立ち、ハワイの灯影に名残りを惜しんでいたメイスンのまえに、思わぬ依頼人が現れる。夫のカール、娘のベルの三人でハワイの休日を楽しんで帰国するところだったニューベリ夫人である。夫人は、突然大金を手に入れたらしい夫を調べてほしいという。帳簿係の職を急にやめ、逃げるように引越し、その後は身分不相応なハワイ旅行。どうやってその金を手に入れたか、夫はけっしてしゃべろうとしないというのである。そのうち、夫人の耳に、夫がやめた会社で使いこみがあり、追及がはじまっているという噂がはいってきた。しかもその朝、荷物のなかに入っていたベルの写真が、彼女そっくりの女優の写真にすりかえられていた。船内の誰かが、一家の身元を調べている疑いがあった。興味を持ったメイスンは、調査の準備にとりかかった。だがその矢先、嵐の晩に、複雑怪奇な殺人事件が突発した……。シリーズ初期の名作。
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5.0カメラマンのビンゴと助手ハンサムは、ニューヨークの街頭写真師だ。通行人や旅行者の写真を撮ってカードを渡し、25セントを送ってきた客にできた写真を送るのが商売。ハンサムは背が高く二枚目で、ご婦人方にもて、そのうえ、新聞に出ていることならなんでも憶えているという超人的な記憶の持ち主。その日も、二人は、セントラル・パークで、観光客相手に写真を撮っていた。7年前、公園の名物男ピジョン氏が、五十万ドルの生命保険をかけたまま謎の失踪を遂げたところだ。「ピジョン氏が失踪したその場所で撮ったあなたのお写真、すばらしい記念品になります」そう言ってカードを差し出すと、だれもが受けとった。商売は上々だった。だがその夜、暗室で昼間の写真を引き伸ばしていたハンサムは、笑っている男女を撮った写真の背後に、あのピジョン氏が写っているのを発見した!
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-ホームズの模倣作のなかで、一番正統な「嫡子」が本書のソーラー・ポンズだ。作者ダーレスはドイルに対して、「もうホームズものは書かないのですか」という手紙を書き、本人から「そのつもりはない」との返事をもらい、「では私が書きましょう」といって書き始めたのだから。著名な文学史家ハワード・ヘイクラフトは「シャーロック・ホームズの生まれ変わり(reincarnation)」という表現でソーラー・ポンズを評している。13編を収めた本邦初の作品集。
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-フリーマンは、ソーンダイク博士を主人公とした推理小説で人気を博した。倒叙推理小説の創始者として有名だが、他にも多くのソーンダイクものがあり、それらの中から短編を選りすぐって2巻にまとめたのが本書だ。なお、倒叙形式の作品だけ5編を集めた短編集「歌う白骨」全訳は、このタイトルのまま弊社から刊行されている。その最初の作品「オスカー・ブロズキー事件」を除く4編は、本書1にも重複して収められている。「ソーンダイク博士が、頭のはたらきのにぶいワトスン役のジャーヴィス医師にともなわれて、庭を散歩するようにロンドン中を歩きまわるすばらしい描写」については、レイモンド・チャンドラーがとくに指摘している。
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-米国の貧乏青年トムはひょんなことから、富豪グリーンリーフに息子を連れ戻してほしいと頼まれ、礼金欲しさにイタリアへと旅立った。現地でトムが出会ったのは、金にも女にも恵まれた放蕩息子ディッキーだった。裕福で自由奔放なディッキーに羨望を抱くトムは、自分を下男同様にこき使うディッキーに殺意をも抱くようになる。そしてディッキーの許婚マージをも手に入れようと画策する。自分とディッキーの容貌が酷似しているのに気づいたことが、そのきっかけに……。サスペンスの巨匠ハイスミスの代表作。ルネ・クレマンの映画で有名になったが、原題は「才子リプリー」で、典型的なピカレスク・ロマンだ。
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-フィリップ・マーロウは、行方不明になったアメリカ古金貨の捜索を頼まれる。依頼人のマードック夫人は、歌手あがりの息子の嫁を疑っていた。だがマーロウは、この一家に、はるかに複雑で不吉なものがうごめいているのを感知する…探索をすすめうちに、マーロウは事件の鍵をにぎると思われる3人の人物の死をもたらしてしまう…ハードボイルド・ミステリーの雄、チャンドラーの初期代表作。
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-アンはロンドンの地下鉄ホームの端っこで、嫌いなナフタリンの臭いを発散させた男に気づく。次の瞬間、男はアンの後ろにいた人物に仰天したかのように顔を引きつらせて後ずさりし、あっという間に線路上に転落し、送電軌条にふれて焼死した。近くにいた医者があらわれ、死を確認すると足早に姿を消した。そのとき医者は一片の紙切れを落としていった。それを拾ったアンは紙切れにも強烈なナフタリンの臭いが染みついていることに気づく……冒険にあこがれるアンはいつのまにか国際犯罪に巻き込まれていく。巧みな構成、ユーモア感覚にあふれたクリスティの長編第4作。
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-正統派ハードボイルドの巨匠レイモント・チャンドラーの中短編全集第1巻。本巻には、チャンドラー自身の序文を巻頭に置き、「脅迫者は射たない」「赤い風」「金魚」「山には犯罪なし」の傑作4編を収めた。哀愁とサスペンスを背に不朽の主人公フィリップ・マーロウがロサンゼルスのネオン街を歩き去る。「レイモンド・チャンドラーはアメリカについて語る新たな方法を発明し、それ以来我々にとってアメリカは全く違ったものとして映るようになった」ポール・オースターはこんなふうに書いている。
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-宝石と切手のコレクターで出版社の経営者でもあるドナルド・カークは、ニューヨークの中心街に事務所をもっていた。ある日の夕刻、中年太りのさえない小男がたずねてくる。カークは留守だったので、秘書のオズボーンはカークの事務室で待つように案内する。用件を聞いても、男は「内密の用件」としか答えない。約一時間後、カークはたまたま階下で出会ったエラリーを連れて帰ってくる。秘書の話を聞いて二人が事務室に行くと、男は脳天を割られて死んでいた。そして部屋にあるあらゆる物が動かされて「あべこべ」になっていた。中国福州で発行された「エラー切手」にからむ密室殺人!
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-謎の訪問者の来た夜は、あらしが吹き荒れていた。折からの停電で屋敷の中は蝋燭の光しかなく、一瞬、屋敷に落雷したかと思うほど凄まじい轟音がとどろいた。翌朝、書斎のドアから洩れる電燈の光に、不審に思った下男が窓からのぞいてみると、主人は、頭部をピストルで射抜かれて死んでいた。兇器はみあたらず、死体のそばには、一枚のカードが落ちていた。トランプに似た、八つの剣が星型に組み合わさった、死のカードだ! ギデオン・フェル教授は、殺人鬼が、まもなく次の犠牲者をねらうことを予感した……。
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-ブラウンは、奇抜な着想を卓抜な技巧でまとめていく才筆家として定評があるが、それとともに彼は、いつも作中の人物を温かいまなざしで見つめて描いていく作家である。この作品の主人公ベイリーも例外ではない。一青年のやるせない青春像を鮮やかに浮き彫りにしたサスペンス小説だが、基本のストーリー展開のなかにラジオ、映画、スポーツ放送、ビデオ、演劇等の台本の形式を挟んで、結末を小さな新聞記事で締めくくり、奇才ぶりを見せている。
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-派手なアクションを避け、地道にスパイの心理を追うスパイ小説の王道を切り開いたアンブラーの初期の代表作。「探偵小説味のある作品を書いている現役の作家で、文学者として最も優れた人は誰かと考えてみると、英のグレアム・グリーン、仏のジョルジュ・シムノン、それから英のエリック・アンブラー、この三人が特別に際立っている」江戸川乱歩はこう書いた。イスタンブールを訪れた英国人作家ラティマーは、秘密警察長官から、国際的犯罪者ディミトリオスが死んだことを聞かされる。だが、ディミトリオスの死体を眺めているうちに、ラティマーはこの男の謎につつまれた過去を洗ってみようという衝動にかられた。
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-錆びた真鍮(しんちゅう)のノブが付いたペンキ塗りの木製ドアが見ていた殺人犯の姿! 巧みに組み立てられた計画が、最後にドアひとつのために粉砕されようとは。事件後すでに何ヶ月も過ぎて、無数の手がノブに触れた。ドアのペンキも塗り直してあった…だが。
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-急死した新鋭作家の体内からは多量の砒素が見つかった。彼と同棲していた女流ミステリ作家は、偽名で砒素を購入していた。彼女は当然のように疑われ、起訴されたが…
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-不可解な殺人事件の解決に乗りだす犯罪研究サークルの6人の会員たち。それぞれが得意にするアプローチに頼って、推理をおしすすめるが…本格推理の種々の手法を縦横に駆使して読者をうならせる傑作。高村薫氏いわく「バークレーは名投手のピッチングのように、速球、変化球、内角外角、高さ低さを見事に使い分け、向かってきます」「解決場面だけが続くようなミステリーがあったら…と空想する人にはたまらない、夢のような本です」。
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-史上最も風変わりな探偵…それが本書に登場のネロ・ウルフである。1日にビールを6リットルちかくも飲み、フランス料理の専門シェフを雇うくらいグルメで大食、おかげでぶくぶくに太って、大好きな蘭を1万株も栽培する屋上に行くのも専用エレベーターの世話になる。つまり自分では動けず、完璧な安楽椅子探偵。指示を仰いで動き回るのは有能な助手のアーチーだ。本書は47作にものぼるシリーズ処女作で、むろん最高の出来という折り紙つきの作品。そもそも本書巻頭で、見知らぬイタリア女の不意の来訪を受けたのは、49の銘柄のビールを一本ずつ賞味しているときであった!
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-ローレライで名高い絶景のライン河畔にそそりたつ不気味な髑髏城。そこは稀代の魔術師メイルジャーの手によって成った幻想の城だった。しかし城の持主はライン川に変死体となって浮かび、あとをついだ俳優マイロン・アリソンは全身を炎につつまれて城壁から転落した。あいつぐ惨死事件の真相をさぐるべく、パリの名探偵バンコランとベルリン警察のフォン・アルンハイム男爵とのあいだに、しのぎをけずる捜査争いが展開する。本格派の巨匠カーが、魔術の世界を背景に、怪奇と不可能犯罪を描いた初期の代表作。
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-エラリー・クイーンは自分と同じ警察官の息子ボー・ランメルの発案で、いっしょに私立探偵社を経営することになった。ボーは金も出し、足回りの仕事はなんでもやるという。ある日、そこへ億万長者カドマスが現われ、将来、事件を依頼するからという怪しげな条件で、多額の契約金を払っていった。その数日後、依頼人は愛用の豪華なヨットの上で謎の死をとげる。巨万の富を相続することになる二人の娘をめぐってまき起こる怪事件に乗り出すクイーン! 謎ときの興味横溢する本格編! ギリシア神話のカドマスはドラゴンの歯を地中に埋めて多大なトラブルを生み出したのだが……。
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5.0ハネムーンをエジプトに決めた大富豪の娘リンネットは、ナイル河の遊覧船で気持ちよい風を楽しんでいた。だが、そこには夫のかつての婚約者ジャクリ-ンの不気味な影が……はたして、乗り合わせたポワロの目の前でリンネットは殺される。そして殺人の連鎖反応。ジャクリーンにはむろん、文句なしのアリバイが……隔絶された船上を舞台にした難事件にいどむポワロ。
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-仲良しの友達トーマス医師と人気(ひとけ)のないゴルフコースでゴルフに興じていたボビイは、谷越えの17番でアイアンをしくじり、ボールは谷底に転がり落ちた。ボールを捜して坂道を下り始めた二人は、崖の下に転落したとみられる瀕死の男を見いだした。男は虫の息で「なぜ、エヴァンズに頼まなかったんだ?」という謎の言葉を残して息絶えた。
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-サスペンス・スリラーの第一人者ウィリアム・アイリッシュの傑作の粋を集めた短編集の続編。本書には、表題作のほか「三時」「命あるかぎり」「特別配達」「ハミング・バード帰る」「送って行くよ、キャスリーン」など11編を収めてある。大都会のなかの人間の孤独と、しのびよる死の影……意表を突く技巧とバラエティに富むテーマに加えて、なによりも光る哀切な雰囲気描写と緊迫したサスペンス……読者の心をつかんで放さない。
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-流れ出してきた有毒ガスに全員がたじろぐなか、ヘンリー・メリヴェール卿は部屋の中に突進していった。ストーブから、不気味な音とともにガスが吹き出している。その前には、断末魔の苦悶にさいなまれた動物園長の死体が! しかも、その部屋は内側からゴム引きの紙で目張りされていた。空襲警報が鳴り響く戦時下ロンドンの、有名な爬虫類展示館で発生した奇怪な密室殺人事件をメリヴェール卿が暴く。
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-ショッキングな書き出しではじまる本書は、妻を愛し、歓心を得ようとしながら、妻の心とはうらはらな言動をする異常性格の夫に献身的につくす健気な女の、内心の葛藤を描く犯罪心理小説。「世の中には殺人者を生む女もあれば、殺人者とベッドをともにする女もある。そしてまた、殺人者と結婚する女もある。リナ・アスガースは、八年近くも夫と暮らしてから、やっと自分が殺人者と結婚したことをさとった……」
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-アリンガムの作品には、現代の社会的背景が巧みに取り入れられているものが多いが、本作では、イギリスの出版社の内幕が詳細に描かれていて、特異なバックグラウンドをなしている。デリケートで、しかも鋭い性格描写、物質的な謎でなく性格にもとづく謎、老練な技巧による流動的な文章など、探偵小説として第一級のものであるばかりか立派な文学的価値をもつ傑作。『幽霊の死』に続くアリンガムの長編。
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-エレベーターの落下事故で富豪の息子が死んだが、銃弾が頭を貫いていた。警察は自殺とみたが、乗り合わせた父は納得しない。1年後、エレベーターに乗っていた全員がその老人の晩餐会に呼ばれた……この表題作のほか、「遺贈」「階下で待ってて!」「金髪ごろし」「射的の名手」「三文作家」「盛装した死体」「ヨシワラ殺人事件」の、都会派アイリッシュのバリエーション豊かな短編8編を収録。
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-魚雷攻撃で沈没寸前の英国汽船「ルシタニア号」上で、秘密任務をおびた男は見ず知らずの若い女に「アメリカ大使館に届けてくれ」と重要書類を託す。やがて大戦が終わり、恋人同士のトミーとタッペンスが起こした青年冒険家協会に、2人の依頼人があらわれる。2人の用件は、どちらも、ルシタニア号上で消息をたった男女に関するものだった! サスペンスあふれる異色作。
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-冬のロンドンのボウ地区で、ある朝、下宿屋を営むドラブダンプ夫人は戦慄の光景を目にした。喉を切られた下宿人の遺体が見つかったのだ。殺人かも知れず、有力容疑者を前に、ロンドン警視庁の敏腕刑事と元刑事が事件の解明に奔走する。本書は「密室ミステリの父」の手になる傑作中の傑作。ディクスン・カーも江戸川乱歩も「一大トリックを十分に書きこなしている古典」として絶賛している。
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-セイヤーズの処女長編。若い建築家の住むアパートの浴室で、ある朝、男の全裸死体が見つかる。身につけていたのは鼻眼鏡と金鎖だけ。たまたま前夜、金融界の大御所が謎の失踪をしていたが、関係があるのか? 死体はその男というわけでもなさそうだ…貴族探偵ピーター・ウィムジー卿はふとした機縁から、この事件を手がけることに。執事バンターとの息のあったやり取りはユーモラスで、余裕を感じさせるが、はたして首尾は?
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-ウルフとアーチーは、エーミー・デノヴォと名乗る女性から父親捜しの依頼を受ける。彼女の母親は三ヵ月前に轢き逃げに遭い、エーミーは一人残された。父親は毎月母親宛に小切手を送り続けてきていたのだという。アーチーは、小切手の振出人割り出しから追跡を開始し、それが信託銀行の元頭取サイラス・M・ジャレットだったことを突き止める。エーミーの母親は当時別名でジャレット夫人の秘書を務めていた。だが、調査は暗誦に乗り上げる。ジャレットの息子も父親に該当しないことがわかる。ウルフは捜査中の轢き逃げ事件に着目し、その犯人からのアプローチを試みる。車の運転席に残されていた葉巻の銘柄が唯一の手がかりだった。
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-作者ベイリーはロンドン生まれで、オックスフォード大学卒業後はジャーナリストに。一時は従軍記者になったが、そのころから医者で探偵役もつとめるフォーチュン氏を主人公とする探偵小説のシリーズを書き始め、1948年まで長編・短編あわせて23冊もの人気シリーズとなった。欧米各国で広く愛読され、英国探偵小説家としてはセイヤーズ、クリスティ、クロフツ、フリーマンとともに5大家と評される。フォーチュン氏は高級な詩や深遠な学問的、哲学的考察から、チョコレート・クリームにいたるまで、およそ人間的な喜びといえるものはどれとも無縁ではないし、料理と酒に対する関心は人後に落ちない。
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-ロンドン警視庁内に設置された「不可能犯罪捜査課」の活躍を描いたシリーズ作品を中心にしたカーの短編集。独創的なトリックの数々を駆使して独自の世界が展開する。手袋だけで男が殺された怪事件の「新透明人間」、雪に残された足跡トリックの典型「空中の足跡」、四人組銀行強盗はつかまったが、肝心の金がみつからない「ホット・マネー」、評判ダンサーが楽屋でハサミを背中に刺されて死んでいた「楽屋の死」など10編。うち後半4編はシリーズ以外の怪奇事件を扱っている。
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-四人の男女が織りなす愛憎劇。ロバートは結婚生活に破れ、ペンシルヴァニア州の田舎町に越してくる。唯一の楽しみは隣家のジェニファーの暮らしぶりを覗きみることだったが、相手にさとられてしまう。だが彼女は彼を家の中に招き入れ、親しくなる。ジェニファーは一人暮らしをする銀行勤めの二十三歳の女性で、医薬品セールスマンのグレッグと婚約していた。だがロバートに惹かれてゆき、婚約を破棄するまでになる。収まらないグレッグは怒りと嫉妬にかられ、意地でも彼女を奪い返そうとする。それに手を貸すのがロバートの別れた妻ニッキーだ。売れない画家のニッキーは、ロバート同様のおとなしい男と再婚したが、ロバートへの嫌がらせをやめようとはしない。ニッキーはこれでもかと女のいやな部分を見せつける。
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-チェスタートンが晩年に書いたブラウン神父もの最後の短篇集。特有のユーモラスな味が一層濃厚になってきて、神秘的な雰囲気がやや薄れ、なかには、純粋のユーモア小説といってもおかしくないような作品もある。だが、どれも、含蓄のあるユーモアたっぷりな書き出しでちょっと滑稽な人物紹介をやってゆきながら、いつか深い瞑想の世界へ読者を引きこんでゆく。これは探偵小説の根本になるトリックが他の追随を許さないほど独創的で巧妙だからだ。本編には「ブラウン神父の醜聞」「手早いやつ」「古書の呪い」「緑色の人」「青君の追跡」の5編をおさめた。