北方謙三のレビュー一覧
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呼延灼があの双鞭が、穆凌を呼延凌だと言った。やっと、だ。巻頭の書には「張平」とある。楊令は張平に笛を持たせた。この笛がいずれ馬麟に関わるのか、燕青に関わるのか、不安が広がる。7巻で心揺れたのは、兵站部隊の件だ。いま、兵站部隊は李立が率いていて、彼らは兵糧が足りないときは兵糧を食べない。運ぶだけである。それだけで李立を印象づけられるのに、「誰が決めたわけでもないが、そうゆうことが当たり前だという雰囲気を作ったのは、曹正や蒋敬や李立」とある。曹正と蒋敬の兵站の戦いに奥行きが出て、わたしは本当に嬉しい。野戦以外の戦いも細かく描かれているのが『水滸伝』『楊令伝』の好きなところである。解説は宇梶剛士。なんと本当に宇梶屋惣右衛門(『林蔵の貌』)のモデルやったらしい。驚きである。ひくほど長いレビューになってしまったのは、病院を予約している時間がまだ先だから。白勝と文祥の医学の対立も今後描かれるのであろうか。白勝も好きだな。さあ、8巻は弔い合戦だ。
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中華を分断するように国がまとまる兆しがみえつつあります。
時代の流れに乗って大国に乗り出した「金」。
旧宋の裏の組織だった青蓮寺が水面下で準備をし、万全の形で頭を出した「南宋」。
この後は、この二つにまとまるのでしょうか。
今はまだ、梁山泊はあり、誰もがうらやむ国の形を守り続けています。旧宋が重税を課し、民から搾取し続けた形ではなく、税は一割、交易の道を作りあげ、その利益で国を養っているのです。帝はおらず、民が民政をまとめ、民がすべての中心。
ただ、これまでの歴史の中で、帝のいない国など存在しませんでした。
中華全体のうち、一部の領土だけが切り取られ、異質な存在。
中華統一の流れの中では、どこから見ても邪魔な存在でしかありません。
今後、梁山泊をつぶしにかかる他国との争いがどうなっていくのか。
楊令伝も残すところ2巻になりました。
かつて替天行道を志し、闘ってきた者たちもどんどん世代交代をしています。今後の流れがどうなるのか、どう終結するのか、とても楽しみです。 -
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「何もかも、『替天行道』が悪いのじゃよ、宣賛」
「おかしなことを、言われますね」
「いや、悪い。悪いということにしておこう。宋江殿はあれに、新しい国を作る夢まで書かれてしまった」
杜興の言葉に、冗談を言っている響きはなかった。
「腐敗した権力を倒すべし。それだけが書かれていたら、宋を倒して、梁山泊の闘いは終わりであった。新しい国は、誰か別の者が作ればいい。梁山泊で闘った者は、人民の海に消えていくだけで良かったんじゃ。そしてまた、権力が腐敗すれば、 『替天行道』 を読み継いだ者が、立ち上がればよい。闘いの輪廻はあっても、闘う者たちはそのたびに変わる」
「新しい国を作ることは、間違いだと言っているのですね」
「そんなことは、言っておらん。そこまでできるのだろうか、と言っている」
「おかしなことを、言われます。現に、この梁山泊は」
「うまくいっておるのであろうな、多分」
「まだ、この世に顔を出したばかりの国ですが」
「難しいな。ここは国なのか?」
「国です」
なんという話だ、と思っても、杜興は途中でやめない。
「わからんのう」(213p)
大いなる不安の中で、梁山泊は苦しんでいた。杜興は小さな綻びを直す為に、自ら命を落とす。古株たちも水滸伝の英雄に負けない見事な最期を遂げたが、 私はこの古狸の死に方が1番心に残った。思えば、楊令が初めてみんなの前で新しい国つくりの理想を語ったとき、一番冷静に沈思して聞いていたのは、この杜興だった。
「のう、宣賛。いま梁山泊はいい夢の中じゃ。夢は醒める。醒めた時、いい夢が現実になっておる。そうするのは、おまえたちの仕事じゃよ。わしは、もうきつい仕事はできん。おまえたちが、やれ」
いま日本は、外面は穏かな大木だが、中味はグズグズに腐っている陽だまりの樹なのではないか。真の意味で、憲法が暮らしの隅々まで活かされている国、そんな未来は果たして来るのだろうか?もし出来た時、私たちはもしかしたら、途方に暮れるのではないか。そんなことさえ、思ったのである。私は、杜興の立場か、宣賛の立場か。