あらすじ
海辺の温泉街で旅館を営む旧友の坂口が逮捕された。街一帯を牛耳っている下山観光の事務所で刃物を振り回したのだという。坂口は決して人に刃物をむけるようなやつじゃない。真相を探るために坂口の親友である新藤剛はこの街にやってきた。下山観光と坂口の間に何があったのか。坂口を留置場から出そうと、新藤は体を張って動き出す……。痛み、傷つき、彼らは命がけで己を生きる。血よりも濃い男の友情、生き様に熱く震える、語り継がれる北方文学の傑作が、装いも新たに登場。
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Posted by ブクログ
北方謙三『友よ、静かに瞑れ』ハルキ文庫。
再読になる。北方謙三の初期ハードボイルド小説が5ヶ月連続で再刊されるという。その第1弾がこの『友よ、静かに瞑れ』である。本作は藤竜也主演で映画化されている。
今や歴史小説家に転身してしまった北方謙三のハードボイルド小説は全て読んでいる。北方謙三の歴史小説にも少し手を出したが、ハードボイルド小説ほどの面白さは見当たらなかった。
現代に於いて日本人のハードボイルド作家はもはや絶滅してしまったと言っても良いだろう。今となってはハードボイルド小説を読むためには海外翻訳作品に頼るしかないのだ。
現代は女装した男性が平然とテレビに登場する時代だ。昔は男は男らしくと言われていたのに今ではそれは問題発言だと言われる始末。日本の男は軟弱になり、それと共にハードボイルド小説の需要は無くなったのだろう。
さて本作。古のオーソドックスなハードボイルド小説と同じように一人称の文体で極めて淡々と物語が描かれる。迫力のある肉体闘争の描写、男が男らしくあるために、友のために如何に行動するべきか、北方謙三のハードボイルドは失われた日本男児の生き様を教えてくれる。
船を降りたばかりの船医、新藤剛がふらりと山陰にある海辺の温泉街に現れる。新藤の旧友で温泉街で旅館を営む坂口が街一帯を牛耳る下山観光の事務所で刃物を振り回したとして逮捕されたというのだ。新藤はその真相を探るためにこの街にやって来たのだ。
下山観光と坂口の間に何があったのか。坂口を留置場に留めていたのは下山観光と癒着している刑事の安井だった。新藤は坂口を留置場から出そうと体を張って動き出す。
再読してみると色々と突っ込みどころがあるなと言うのが正直な感想であるが、今から40年前に最初に読んだ時には全く気にならなかった。主人公の新藤剛が学生時代に3年ばかり剣道を経験しただけの外科医であるにも関わらず、やたらと喧嘩に強かったり、温泉街を牛耳るヤクザのような企業がまるでマカロニ・ウエスタンのようだったりする。それでも、自分の青春期は北方謙三のハードボイルド小説にどっぷり浸かっていたのだ。
本体価格780円
★★★★★