北方謙三のレビュー一覧
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「退け。退き鉦」
初めて岳飛はそう言った。しかし、遅い。「珪」の旗が、すぐそばにあった。
それからどうしたか、わからない。駆けに駆けた。追撃が熄んだ時、一万騎は七千に減っていた。
そのまま隆徳府の軍営に駆け込んだ。馬を降り、顔をあげて営舎に入り、ひとりになると膝を折った。床に額を叩きつけた。流れた血が、視界を塞ぐ。(略)
「会議を開く。敗因について、俺が説明する」
「そこまでしなくても」
「いや、俺の誤りで負けた場合は、それは説明すべきだ」
徐史は、迷っているようだった。岳飛は、大声で従者を呼んだ。
隆徳府の軍営にいた将校は、全員集められた。岳飛は出動し、斥候を出したところから説明を始めた。壁 -
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楊令の国造は財源確保の為にシルクロードから東北藤原京までの道作りを目指そうとしていた。発想やよし、まだ鎌倉幕府誕生まで間がある、史書には載っていない彼らの国だけど、見守りたい。
「役に立つのかな、それ?」
「ああ」
「よかった。あたしは、働いたよね」
「働いた」
徐絢が、眼を閉じた。唇は、動いている。羅辰が、かすかに首を横に振った。縫った傷のところから、出血が続いている。
「死ぬのかな、あたし」
「俺がついている」
おまえには俺がいる。いまさら言っても、空しいだけだった。
「何か、足りない、と思ってた」
徐絢が眼を開いた。
「いつも、なにか、足りなかった」
徐絢の眼から、涙が流れ出してきた。