乙一のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレもう、本筋と関係ないところからして、怖いんです。
人への好意で目玉をえぐり出すカラスとか。
それでなくてもカラスに襲われてから、カラス苦手なのに。
だけどさすが乙一。
怖いんだけど、グロいんだけど、切ないところもちゃんとある。
初の長編小説らしいけど、やっぱり巧い。
ネタバレになるから詳しくは書けないけれど、犯人である人物の、痛みに対する無感覚が恐ろしい。
痛くないから何もない、わけではない、のに。
語り手の菜深(なみ)は、事故で失った記憶と左眼を失った。
が、記憶にない、リアルな夢を見るようになった。
その代わり、頭が良くて明るくて運動神経が良くてピアノの得意だった菜深は姿を消し、何を -
Posted by ブクログ
分冊化その2です。映画化されなかった5編+単行本未収録の超短編(4p)1編が収められています。
『ZOO1』のレビューで、共通テーマはないと書いてしまいましたが、強いて挙げると「生と死」でしょうか‥。ただ、本作もそれぞれテイストが違うというか、タイプが異なる作品が並んでいます。
乙一さんの個性豊かな作品群と言うべきか、ひょっとしたら実験的な取り組みをしているのか、とさえ思ってしまいます。
『ZOO1』以上に、ホラーとギャグ、ドタバタの共存? ブラックコメディ? の気も加わっているのが新鮮です。そのジャンルの域を超越した多種多様な作風は、デパ地下の美味しいものを摘み食いする感覚です。
-
Posted by ブクログ
★3.8
たとえば、恋人が植物状態。唯一残された感覚は、皮膚だけ。そんな、儚くて残酷な設定が貫かれる乙一の短編集。
本書にはゴシックホラーのような、どこか神秘的な、切ないストーリーが溢れている。
幻想や死、孤独や嘘。どの短編も、何かが“失われて”いく。しかし読後に残るのは痛みではない。喪失を通してしか見えなかった、誰かの輪郭や想いがある柔らかな余韻だった。
静かで残酷で、そして優しい物語が詰まっていた。
「見えない」ものや「なくなった」ものが、
こんなにも物語を語れるのかと、少し驚いてしまった。
失われたものたちが、確かにそこに在るような気がした。
ページを閉じたあとも、なお。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ久しぶりの乙一さん。
おそ松さんの話は私のタイプではなかったけど、その他のお話は前向きな気分にしてくれるのでとっても良かった。
「そしてクマになる」は「熊」になって家族虐殺!みたいな展開になるのかなと思いきや、浮気相手かと思っていた男が自分であることに安心して、リストラされたのを打ち明けるのが良かった。奥さんも受け入れてくれたし、がんばれお父さん!
「家政婦」は、この設定で他のお話も読んでみたいなと思う内容だった。幽霊をスルーするスキルを完璧に身につけている山田さん、すげえ。玄関で幽霊が蠢いてる(?)のに考え事に気を取られてスルーしてるところは笑った。でも最後、ちゃんとゾッとさせるのがさす -
Posted by ブクログ
乙一さんらしい、やさしく切なく、そして少し恐ろしさも伴った短編集でした。
よろよろと生きている人たちにそっと綿のようなやさしさをかけてくる温かみと、あえて俗っぽい心象でくすりとさせられる小気味よさ、そしてすっと研いだ刃物を首筋に当てられたかのような恐ろしさ。それぞれの短編に、異なるテイストでそれらがあわさって、作者らしさを満遍なく楽しめました。
一番の好みは「悠川さんは写りたい」です。幽霊と心霊写真捏造が趣味の青年の奇妙な交流から始まる物語はコメディチックに進みながら切なさも漂わせ、やがて失ったものとの一瞬の邂逅の温かみに感動させつつの、ラスト一行の鮮やかさ。これぞ、という巧さでした。