酒寄進一のレビュー一覧

  • 弁護士アイゼンベルク 突破口

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    弁護士アイゼンベルク第2弾。

    恋人を遠隔操作で爆殺した容疑で、映画プロデューサーのユーディットが逮捕されてしまいます。
    偶々目の前でその逮捕劇に居合わせたラヘルは、ユーディットから弁護を依頼されて渋々引き受けますが・・。

    ユーディットが容疑者になった件の事件の経過と、5年前の女性惨殺事件とが交互に展開されるという構成は、前作同様ですが、2つの事件がどう繋がり合うのかも含めてグイグイ読ませるものがあります。
    そして、前巻で示唆されていた“ラヘルの過去”もこの巻で明かされます。
    前巻でのラヘルの元カレのハイコの匂わせ具合から、かなり深い闇なのかな、と思っていたのですが(しかもこの巻ではラヘルの娘のザーラにチクるという陰湿っぷり)、実際は確かに重いといえば重いですが“でも、これは事故の範疇だよね?”という印象でした。
    それはさておき、本筋の方は勾留審査での検察側とのスリリングなやりとりや、話が進むにつれて明かされる意外な背景や繋がりへの持って行きかたもお上手で、特に終盤の手に汗握る展開は目が離せませんでした。
    因みに今回、ラヘルとタッグを組んで真相を追うのは、地味だけど敏腕な探偵のバウムで、彼の“危ないから止めておけ”という警告をほぼ無視して危険に飛び込むラヘル。という感じで、何だかんだでラヘルにイニシアティブを握られていましたが、なかなかええキャラだと思うので、今後もレギュラーで登場してほしいと思った次第です。

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    2022年11月23日
  • 終戦日記一九四五

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    戦争末期から終戦後にかけて書かれたドイツの作家ケストナーの日記。ナチスドイツでの人々の様子が、作家の細やかで皮肉のこもった筆致で書かれていて、同時代史料としてとても興味深かった。終戦後に強制収容所を生き延びた人物からホロコーストの実態を初めて聞いた際の驚きを極めて冷静に書き残そうとした様子がうかがえる。
    ケストナーが「一九四五年を銘記せよ。」と記したように、このような時代を書き残すことは作家にとっての責任なのかもしれない。

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    2022年12月16日
  • デーミアン

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    ネタバレ

    主人公の内面描写が細かい分、モヤっと感じることが多い作品でした。特に最初がそう感じられ、主人公幼少期の裕福で温かい世界と級友の貧乏で必死に生きている世界との対比は、互いの世界のルールは通じない。一歩足を踏み入れてしまえば、もう前と同じように戻ることはできない、という苦難と憂鬱さが描かれていました。にも関わらず、青年期に再度踏み入れていく、というジレンマは人間の複雑さを伝えてくれます。やがてデーミアンを通じて知る“自分の意思に従い生きていけるか”ということは、現代の私たちに共感できる場面が多いと思いました。

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    2022年11月07日
  • テロ

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    9.11なども経て創作された架空裁判劇。二幕終わりに観客に投票を促し、その結果で結末も変わる。二幕の検察、弁護士それぞれの主張がおそらく重要だが、劇として上演するには少し固いかもしれない。それまでの被告、証人の証言の方が自分の身に迫ってくるところはある。被告の行いを受け手にゆだねるやり口は、森鴎外の『高瀬舟』に近しいものもあるなあと。

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    2022年10月09日
  • 弁護士アイゼンベルク

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    読み応えありの、ドイツリーガルミステリ。

    女子大生の猟奇的な死体が発見され、元大学教授のホームレス・ハイコが逮捕されます。
    弁護士のラヘル・アイゼンベルクは、ハイコの友人のホームレスの少女から彼の弁護を依頼されますが、なんとハイコはラヘルの元彼で・・・。

    息もつかせぬ、先の読めない展開で一気に引き込まれます。
    中盤まで女子大生の猟奇殺人事件の件と、コソボから逃亡してきた母娘が大ピンチに陥っている様子が交互に展開されるのですが、これらの要素がどう繋がっていくのか・・・二転三転するプロットに続きが気になりすぎてページを繰る手が止まらん!という感じです。
    いかにも“バリキャリ”なラヘルのキャラも良いですね(好き嫌い別れると思いますが・・)。彼女の私生活の場面もドイツ特有(?)の文化やライフスタイルが描かれていて、興味深かったです。
    ドキドキハラハラの終盤を経て、ラストはホッと一息、と思いきや、エピローグではラヘルの“秘密(闇?)”を示唆したまま、“え?どういうこと?気になるんだけど!”という意味深な終わり方でした。
    これは続編を読むしかないですね!

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    2022年09月28日
  • 禁忌

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    本を閉じてカバーを外してじっくり眺めて、あ゛〜。そして最初のページから読み直して愕然、というか底知れぬ味わい。なんか凄い。これまでのシーラッハの作品らしさを感じながら、より真摯に人間の内面を見つめている。芝居にもなるみたいだけど、上演台本難しそう。芸術ってホントややこしい。読み終わって、あれ?アレ?ってページを前にめくりだす体験って素晴らしいかも。

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    2022年09月27日
  • 終戦日記一九四五

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    "数字が生きたり、死んだりするだろうか。ポーランドの広場でドイツ軍の機関銃の前に並ばされたとき、ユダヤ人の母親たちは泣いている子どもたちを慰めた。母親たちの列は数列と同じだろうか。 その後、精神科病院に入院させられた親衛隊分隊長は数字だろうか。"(p.14)


    "自他ともに理解することが必要だ。といっても、理解することは納得することではない。すべてを理解することとすべてを許すことは、決して同じではないのだ。"(p.241)

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    2022年09月18日
  • 聖週間

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    面白い。一気に読み切った。犯人と被害者との面識に少し違和感はあるが、この作者の登場人物の描き方でひとつの家族のドラマとしても成立する。ヴァルナーやミーケには応援せざるを得ないが、クロイトナーの小狡さもなんだか憎めなくなった。

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    2022年09月16日
  • 咆哮

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    面白いものは面白いんだなぁ~

    ヴァルナ―とクロイトナー
    絶妙の緊張と緩和、あっという間に読み終わってしまった。

    この物語は酔っ払い警官のクロイトナーが偶然死体を見つけるところから始まり、そして最後も……。
    苦労して犯人を絞りこんでいくヴァルナ―、直観で行動するクロイトナー
    で、この2人はチームでもバディでもない。え?なにそれ!

    ドイツの警察小説ということで読み始めたが、いい意味で裏切られた。
    愛と人生とトラウマを帰納法で証明しようとするシュリンク
    犯罪心理を因数分解で明らかにしようとして、結果「わからない」とするシーラッハ
    こんな人ばかりと思っていたら、こんなミステリ小説もあるんだって感じ。

    バッハやメンデルスゾーンのなかに美空ひばりを見つけた気分

    あとがきに、クロイトナーによる南部ドイツの旅行案内のおまけ付

    シリーズものなので、がぜん次が読みたくなった。

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    2022年09月02日
  • 母の日に死んだ

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    ここ最近のノイハウスの作品は、読み通すのに根性がいりますね。なかなか、全貌が見通せない。いったい何が起こってるんだかよく分からない。最後はそれが全部つながるのが凄い。
    全然作風は違うんだけど、京極夏彦の『姑獲鳥の夏』とか『絡新婦の理』を思い出した。複雑に入り組んだ人間関係の網の目に絡み取られる感覚。何が起こっているのか分からず眩暈がする感覚。
    そして何より、どんどん分厚くなる。

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    2022年08月28日
  • 咆哮

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    ドイツ南部ミースバッハ郡の小さな湖で、厚く凍りついた湖面の下から16歳の少女ピアの死体が発見された。謝肉祭のプリンセスのようなドレスを着て、口の中には数字の書かれたブリキのバッジが押し込まれていた。
    第一発見者のクロイトナー上級巡査は自身が手柄を立てようと躍起になるが、ミースバッハ刑事警察署に特別捜査班が立ち上がり、ヴァルナー捜査官が指揮を執ることになる。

    捜査が進む中、新たに13歳のゲルトラウトの死体が見つかった。現場はなんとヴァルナーの自宅の屋根の上。
    ピアと同じようなドレスを着て、口の中からは数字の書かれたバッジが見つかった。
    捜査線上にピアの通う学校の教師が容疑者として浮かぶが、700キロ離れたドルトムントの港で少年の遺体が引き揚げられ、少年の遺体にも少女二人との共通点が見つかって――。

    弁護士アイゼンベルクのシリーズは読んだことがある。ネレ・ノイハウスよりもライトな筆致で読みやすい。

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    2022年08月15日
  • 終戦日記一九四五

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    戦中日記第四弾。高見順「敗戦日記」、「大佛次郎敗戦日記」、「吉沢久子、27歳の空襲日記」の次にお読みください。1945年5-6月の日記。ここで、初めて田辺聖子の日記が登場して、大阪空襲を語る。更には、ケストナーにとってはヒトラー死亡が確定して、ドイツでの「内的亡命」が終わりを告げるのである。また、高見順たちの鎌倉文庫は予想外の好調を示した。

    エーリッヒ・ケストナー(1899-1974)。「エミールと探偵たち」「飛ぶ教室」などで、既に著名な児童文学作家であり、詩人で脚本家であった。翻訳者の酒寄氏は、ドイツ文学者は迎合者、亡命者、内的亡命者の3つに分かれたと書いているが、ケストナーは3番目の内的亡命者だった。本書は1941年から2回の中断を挟んで、「青い本」という束見本の本に速記文字で書かれた日記の、最後の半年分の内容である。「将来書く長編小説のため」の日記であると「まえがき」に書いてある(結局実現しなかった)。確かに日記にしては、「読ませる」工夫に満ちている。しかし、公表は1960年まで待たねばならなかった。ケストナーは3月9日までベルリン、そのあと6月15日までチロル地方のマイヤーホーフェン村へ、6月18日から28日までバイエルンへ、そのあとマイヤーフォーフェン村、またバイエルンのシュリアゼー村へ居を移した。


    5月1日
    大仏次郎  ○ムッソリーニが殺害せられミラノの広場にさらされし由。新聞には遠慮して出していないが逆さつりにしてモッブの凌辱に任せたそうである。ベルリンもほとんど陥落。ヒトラーも死んだらしい(次の日新聞で正式に報道)。

    高見順 開店。遮二無二、(鎌倉文庫の)開店という感じだ。
    「よくまぁ予定通り開きましたな」
    と言われ、
    全くーと私自身が言うのだった。これで私もひとまずほっとした。引き受けておいて開けなかったら、面目丸つぶれだ。しかしこれからが大変だ。
    久米さん夫婦、川端夫人、中山氏夫妻、小島さん夫婦、横山隆一、清水、大仏次郎、林房雄、永井龍男の諸氏、まず総出動の形で、手伝ってくれる。100名あまりの申し込みがあった。現金千余円。派手なようで、これは預かりの金だ。
    ムッソリーニ逮捕される。
    ドイツ降伏説あり。
    ←大佛次郎はこの時も鎌倉文庫のこと書いていない。

    5月2日
    ケストナー  最新の説によると、ヒトラーは危篤なのではなく、「ベルリンで戦死した」という!死に方にはいろいろあるが、戦死は戦った場合に限るから、ヒトラーが戦闘に加わったことになる。これはありえないだろう。そんな場面は想像もできない。
    シュタイナー家の居間に集まる面々に、下士官2人が加わった。(略)ヒトラーの死にかんするニュースが流れるのを待っている間、2人はいろんな話をした。(略)ロシアやポーランドで行われたユダヤ人銃殺、特にユダヤ人には見えなかった美しい少女や若い母たちを撃ち殺した話。

    ←ヒトラー死亡の確定は、遠く離れた日本よりも、結局2日遅れてやってくる。けれども、みんなヒトラー死亡を確信している。何故ならば、下士官までもが絶対話すこと叶わなかったドイツ軍の非道な仕打ちを打ち明け出したのだから。

    5月4日
    ケストナー  オストマルクは再びオーストリアとなった。断末魔の苦悶は終わりを告げた。クリオ(※)はお子様死亡証明書を交付した。死ぬまいとあがく政権はもはやここには存在しない。※ギリシャ神話の女神。英雄詩と歴史を司る。

    ←人々は基本的にはこの変化を歓迎している。しかし、女教師養成学校の校長の家族と友人の家族5人がピストル自殺を遂げている。

    5月19日
    ゲストナー  西側のプロパガンダはどうしてこうも上品なのだろう。絶好の機会をなぜ利用しないのだろう。民衆は建設的な話をソ連よりも西側からたっぷり聞きたがっている。(略)ドアは開いているのに、西側列強はいつもそのドアの前で足踏みし、スターリンに言う。「どうぞお先に!」
    上品さを履き違えとはどういうことだろう。民主主義は良いものだから、勧める必要はないと思っているのだろうか。負けた者の取り合いは余計なことだと言うのだろうか。品位にかけるとでも言うのか。これは取り返しのつかない重大な勘違いだ。
    私の母は皮肉っぽい気分になるとよくこう言う。
    「気高さが世界を滅ぼす」
    民主主義の世界は、勝利を放棄しないように警戒する必要がある。戦争が終わった今こそ、民主主義の世界が平和を手にしなければ、確かに世界は滅びるだろう。降伏後の最初の数週間は歴史にとって貴重な瞬間だ。いつまでも待ってくれないし、やり直しもきかない。
    ←つくづく、ケストナーは凄い。
     後でも展開するが、日本にはケストナーのような「成功した」文学者で、このような見解を示した文学者は居なかった。

    5月24日
    ケストナー 復讐心を乗り越えなければだめだ。さもないと、勝利のファンファーレが響く中、平和は見失しなわれてしまう。こちらの平和とか、あちらの平和とかではない。あらゆる前線で平和が失われるだろう。破壊はうまくいったのだから、今度は建設を成功させなくては。
    ←日本の文学者が、終戦後20日後ぐらいにこんなことを言っただろうか?


    5月7日
    大仏次郎  宇佐美氏、(略)山下太郎満鉄の社宅造営、台湾の米などを入れて1代で産を作りし人、楠木公同族会長、秋田人。今年の暮れには2千万人が餓死するだろうと言う説があると平然として言う。不思議な神経だし計算違いしているのではないかとこちらは疑う。当人は真面目らしいし動揺がない。1つのタイプであろう。僕らは10人の餓死者が出たと聞いても平気ではいられぬ。帰ってから酉子にこの話をし、いよいよ日本も支那に似てきたよと言う。
    ←この時点で、大陸で横暴のかぎりを尽くした人間からすると、敗戦の場合、そのように予想するのもあり得るかと思う。宇佐美氏は随分荒んだ神経だとは思う。しかし大佛次郎も少しのんびりしすぎているし、支那の現実を作ったのは日本にも責任があるという視点が抜けているのでは?と思う。



    5月31日
    田辺聖子 町会でやっている3月13日の(第一次大阪大空襲の際に)防空壕で蒸し焼きにされた人間の死屍が発掘された。
    (略)
    「どこなの、どこ」と私が言うと「お嬢ちゃん、それ、そこ、そこ」と隣の人があわてて指差した。ぎょっとして思わず飛び退く。土運びの筵の上に、土にまじってなるほど、牛肉の筋に似てぷよぷよと赤い土まみれのひと塊の肉が見える。
    (略)
    このときくらい、人間がいかにも物質的に思われたことはない。
    「ええ肥料になりますやろ」
    と、おばさんが残忍な諧謔を弄してエヘヘと笑うと、日よけの手拭をかぶり直した。そうかと思うと、
    「肉の特別配給だっせ。ご馳走したげましょう」
    と年よりまで言う。あたりの人は胸わるそうに顔をしかめたが、年より婆さんは、きゃらきゃらと笑った。(略)

    ←ここの描写はほとんどそのまま小説として使ってもいいくらい。もちろん「年より婆さん」の素性は、誰が読んでも直ぐに知れると思われるので、作品化されなかったのかもしれない。でも、非常にリアルだ。婆さんの心情は、私は想像がつく。冗談を言わないとやっていられないと言う大阪特有の空気もあったろう。一方で、罹災者の死体はどんな形であろうとも、葬らないといけないという、人としての義務感もあったはずだ。吉沢久子の日記にもあった。つい最近、私は「ウクライナ戦争が五年前に終わった」2030年のウクライナの近未来を描いた「アトランティス」という映画を観た。そこでは、やはり、半分ミイラになりかけている遺体を「発掘」していた。最初主人公はもどしてしまう。義務感としてのボランティア活動である。同時に、人間としての(悲しいという)感覚もなくってゆく雰囲気がリアルに描かれていた。

    6月1日
    吉沢久子  ぜいたくは敵だといわれるけれど、今、私の1番したい贅沢は、二日間くらいぶっ通しで静かに眠ること。それだけ眠ればどんなに元気になれるだろう。

    ←今年、水島空襲に遭った当時7歳の女子の体験を聞いた時に、「戦争中全然眠れなかった。終戦と聞いても3日ぐらいねむれなかった」と言っていた。それほど辛い経験だったのだ。昼間の疲れで、ふとぐっすり眠った時に爆弾が落ちて死んだら、死んでも死にきれない、と思うのは当たり前だったろう。ウクライナは、空襲警報もなくミサイルが飛んでくる。どんな心持ちなのだろう?

    田辺聖子は大阪大空襲(6月1日)の次の日、まるでそれが義務かのように本書にして8ページに渡って、河内小阪の女専寮から大阪駅近くの実家まで歩いていった空襲当日の様子を詳細に書いている。

    6月2日
    田辺聖子 土曜日 曇ときどき雨 風加わる
    母とのいさかいや、死体の発掘などの平和的事件の次に、こんなにもおそろしい、終生忘れられ得ない様な、痛手を与えられた事柄が起ころうとは、誰が一体予知し得たであろうか?
    (一時限目の授業の時に空襲警報、その後、「大阪がやられた」との報に、鶴橋まで電車で行き、実家が心配で級友と共に歩いてゆく)
    (略)
    梅田新道はものすごい。まだ炎炎と燃えさかっている。真っ赤な火だ。
    のどが痛く、目がしむ。第百生命は全滅だ。きれいに中が抜けている。閉じたガラス窓からプゥーと黒煙が噴き出している。ざわめきながら通る通行人は、それぞれの家が心配らしく目もくれない。わずかな荷物を持ち出して、呆然と立っている罹災者。
    (略)
    お母さんは、私を見つけて見るみる目をうるました。
    「聖ちゃん、家が‥‥家がやけてしもうた‥‥」
    その声は涙で曇って鼻声になっている。私は不覚にも涙がこぼれた。
    「あんたの本なあ、たくさんあったのが出してあげたかったんやけど、出すことが出来なんだ‥‥」
    「‥‥」
    私は何も言えなかった。鼻がじんと痛くなり、涙がぽとぽと水槽の水の上にこぼれおちた。
    (略)

    ← こんな日記が、今まで全く発見されず、彼女の死後2019年に見つかったのは、改めてビックリする以外にはない。昨年12月に刊行されたが、もっと読まれるべき(近いうちに必ず文庫化されると思う)「作品」だと思う。

    ←この後田辺聖子一家は、知人宅を転転とし、6月27日、尼崎市稲葉荘という所に小さい家を借りた。田辺聖子は家の仕事をしながら、小説を書いて過ごす。

    高見順 
    平和な時代に彼は月並を嫌い、にくんだ。
    異常な時代になって、いち早くそして最も月並みな男になったのは、その彼だった。
    彼は利口ぶることが好きだった。
    彼は愚鈍な男だったから。
    愛想よくしようと努めるほどいっそう無愛想になる彼。

    ←だんだんと心情の吐露が多くなっている。

    6月4日
    大佛次郎 10時過ぎに起床、沖縄のために 朝を完了。朝刊を見ると那覇首里もいよいよだめらしいので全編について多少調子を変える必要が生じた。「急迫」と報道せられると玉砕と続くものとみなければならぬ。(略)米国は31日に沖縄占領を発表した。また通信連絡は既に絶えているのである。例によって発表は遅くその間「急迫」やら何やらが穴埋めするのだ。1番戦争を知らぬが戦争の専門家なのである。
    ←この意見は達見。

    高見順
    店へ行く。夜、川端さんと久米家に行き、配当金を封筒に入れる。
    久米正雄 911.44円
    大佛次郎 659.20円
    高見順  472.33円
    (略)
    川端康成 129.46円
    片岡鉄平  89.30円
    (略)
    吉屋信子  56.38円
    (略)
    小林秀雄   2.82円

    沖縄の急迫化を新聞は伝えている。那覇市内、首里城跡に敵は侵入したという。沖縄も駄目なのだろうか。沖縄が敵の手に落ちたら、どうなるのだろう。

    ←高見順が第三位の本の供出をしていたとは驚いた。大佛次郎は、やはりこのことを記していない。小林秀雄の少なさにはビックリ!(←よほど蔵書がなかったか、出し惜しみしたか)高見順は沖縄の「急迫」をそのまま受け止め、大佛次郎は「玉砕」と読む。


    6月22日
    大佛次郎 夜に鎌倉文招待にてニ楽荘に集まる。長田秀雄老もいる。久米正雄より報告あり本の保証金一万五千円終始減らず会員700名を超ゆと。
    ←鎌倉文庫に大佛次郎も関わっている事を初めて明らかにした。

    高見順 二楽荘の集まりのこと記す。「鎌倉文庫も軌道に乗ったので、雑誌を出そう」との提案。小林秀雄が責任者。「自らのジャーナリズムをつくってお互いに仕事をさせること、これが肝要だ」
    ←大佛次郎とは視点が全く違う。

    一応、田辺聖子の日記原作で15日(月)11時よりNHKドラマがあります。原作の雰囲気は全くないと予想はされますが‥‥「セイコグラム 転生したら戦時中の女子学生だった件」。

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    2022年08月15日
  • デーミアン

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    ネタバレ

    感受性の高いシンクレア少年と大人びたデーミアンとの奇妙な出会いと別れまでのお話。内気で孤独なシンクレアの唯一といってもいい心の支えだったデーミアンが、最期の最期に語りかけた言葉が切なく、優しく、それでいてちょっと残酷だなと思ってしまった。

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    2022年06月04日
  • EXCELLENT 卓越した自分になるための9つの行動

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    ネタバレ

    開放性、内省、やる気、健康、統制、共感、アジャイルマネジメント、共鳴、リーダーシップ
    この行動をエクセレントに操ることで自分が進歩していく。
    各章にまとめがついているのでかいつまんでそれを読めば良い。

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    2022年05月26日
  • デーミアン

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    自分の魂と繋がり生きることが大切、しかしそれにはさまざまな苦難が待ち受ける、それでもそうやって生きていくしかない。
    少年愛っぽいシーンもありますが。

    この訳はとても読みやすかった。

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    2022年05月01日
  • コリーニ事件

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    わずか190ページの長編(?)だが、重い。
     
    舞台はドイツ。
    新人弁護士の主人公が担当してしまったのは、家族同然の友人の祖父を殺害した男の弁護だった。

    ネタバレになるのでこれ以上は慎みますが、付いている帯を読むと予想できてしまう。
    が、分かっていてもおもしろい。
    いや、おもしろいなどという感想は不謹慎かな。
    腹にズシンとくる重みがあります。

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    2022年03月05日
  • 白雪姫には死んでもらう

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    このドイツ警察小説シリーズは面白い。事件そのものだけではなく警部補とそのチームの人間性がよく描かれている。特に警部補がプライベートで悩む姿を描くところも気に入った。この後まだ未読のシリーズがあるので順番に読んでいく。

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    2022年01月15日
  • 母の日に死んだ

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    死体がゴロゴロ出て、最後は映画向きな派手な展開。
    オリヴァーがまともになった。ちゃんと仕事している。
    エンゲル署長が良い人になった。
    ヘニングの小説はどうだったのか気になる。

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    2022年01月13日
  • 罪悪

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    感情を抑えた文体で、とつとつと語られるように感じるが事件の内容自体は非常に凄惨なものも多くあった。翻訳小説が苦手な私でも読みやすく感じました。

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    2021年12月29日
  • コリーニ事件

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    筆者のフェルディナント・フォン・シーラッハさんのファンで、自分が小説を書くならこういうのが書きたいと思ったのがシーラッハさんの「罪悪」でした。
    著者が勝手に盛り上がらずに、読者の気持ちを盛り上げてくれるのが読んでて落ち着く。

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    2021年12月26日