酒寄進一のレビュー一覧
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倫理や法律について論理的且つシニカルな短い逸話が繰り返されるが、多くが伝聞や書物に基づくものでサッチャー元首相の逸話なども事実か物語なのか迷わせる。
人権の話で、ドイツ基本法第1条では、「人間の尊厳は不可侵である」と定められているにも関わらず、2017年にベルリンで前年比60%増の947件の反ユダヤ主義の事件が起きており「私たちは言葉の外へは出られない。私たちの理解できるのは、理性だけだ。説明することを可能にするのは、つねに概念だ。 他に方法がない。しかし自然や生や宇宙にとって、そうした概念はなんの意味も持たない。重力波に善も悪もない。光合成に良心などない。 重力に対して、われわれは無力だ。」と法の無力性が語られる。
「ヨーロッパで活動するユダヤ人は全て、ヨーロッパ文化の敵」と演説しウィーン帝国総督で約6万5000人のオーストリアのユダヤ人を死のキャンプに送った祖父については分量的にこの本では語り尽くせない為か寡黙になっている。逸話の更に深い詳細を期待したくなる一冊でした。 -
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オーストリアの作家「アンドレアス・グルーバー」の長篇ミステリ作品『黒のクイーン(原題:Schwarze Dame)』を読みました。
『夏を殺す少女』に続き、「アンドレアス・グルーバー」作品です。
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保険調査専門探偵「ホガート」は顧客からある依頼を受けた。
プラハの展覧会に貸し出した絵画が焼失、調査に派遣した絵画専門の調査員は行方不明になった。
調査員の安否と保険詐欺のことを調べて欲しいというのだ。
プラハに飛んだ「ホガート」は、そこで猟奇連続殺人事件に巻きこまれる。
首と手を切りおとしビロードにくるんだ死体の謎。
『夏を殺す少女』で衝撃のデビューを飾った、オーストリア・ミステリの名手が仕掛ける巧妙な罠とは?
訳者あとがき=「酒寄進一」
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2007年(平成19年)に刊行された作品… 翻訳されたのは『夏を殺す少女』の方が先ですが、実際に刊行されたのは本作品の方が4年早いようですね、、、
『夏を殺す少女』は、二人の主人公の視点からの描き方、視点の切り替えタイミングが絶妙だったし、スピード感もあって、素晴らしい作品だったので、それに比較すると物足りなさがあるのは事実ですが… 事件を解決に導こうとする男女二人の探偵の魅力は劣っていなかったし、複数犯による猟奇的な殺人事件の真相も意外で、ミステリ作品を手掛けることになった初期(もしかしたら初?)の作品としては評価できるんじゃないかと思いましたね。
ウィーンに住むフリーランスの保険調査専門探偵「ペーター・ホガート」は、大手国際保険会社支社長「ヘルムート・ラスト」からある依頼を受けた… ウィーンの美術館がプラハの展覧会に貸し出した絵画が焼失、調査に派遣した絵画専門の調査員で「ラスト」の姪「アレクサンドラ・シェリング」は、焼失した絵画はすり替えられた偽物だったとの報告を残し行方不明になった、、、
その「シェリング」を見つけだしてほしいというのだ… プラハに飛んだ「ホガート」は、ひとりの女探偵「イヴォナ・マルコヴィチ」に出会う、、、
彼女が調査しているプラハの連続殺人事件(ビロード殺人事件)の話を聞くうち、「ホガート」は被害者のうちの一人が「シェリング」ではないかと疑い、「イヴォナ」や彼女の弟「オンドレイ」、その相棒「イジー」等と事件の真相を追う… 「ホガート」は、遺体に残された手掛かり等から、二人の犯人がプラハの街をチェスボードに見立ててチェスのプレイを再現しながら犯行を続けていると推理し、伝説的なチェスプレイヤー「ヒエロニムス・ヴェセリー」の力を借りながら、次に狙われる人を推理していく。
そして、ビロード殺人事件の最初に被害者「ハナ・ザイツォーヴァ」の周辺を洗い直すうちに、「ザイツォーヴァ家」の忌まわしい事実を知り、「ザイツォーヴァ家」の次男「ミーハ・ザイッチ」が事件に関わっているにではないかと疑いをもつ… もう一人の容疑者として魚市場の鮮魚店店主「アントニン・ロメグ」が浮上、犯行は「ミーハ」と「ロメグ」によるものなのか!?絵画のすり替え事件は解決できるのか!?
終盤、「ホガート」と「イヴォナ」が犯人を追い詰め、人質をとった犯人と対峙… そして、「ホガート」と「イヴォナ」が正しいと信じる行動に出て、事件を解決に導く展開は一気読みでしたね、、、
「ホガート」を主人公とした物語は、本国では続篇が刊行されているようですが、日本語に翻訳されていないようなんですよね… 翻訳される日を心待ちにしています。
以下、主な登場人物です。
《ウィーン》
「ペーター・ホガート」
フリーランスの保険調査専門探偵
「ヘルムート・ラスト」
保険会社メディーン&ロイドのウィーン支社長
「コールシュミット」
保険会社メディーン&ロイドの外勤課課長
「ヴァルター・ゼードラック」
保険会社メディーン&ロイドの保安課課員
「アレクサンドラ・シェリング」
保険会社メディーン&ロイド専属の美術品の保険調査専門探偵
「クルト」
ホガートの弟
「エーファ」
ホガートのもと恋人
《プラハ》
「ウラディーミル・グレコ」
暗黒街のボス。別名"プラハの王"
「アンナ」
グレコの娘
「ディミトリ」
グレコのボディガード
「トマーシュ」
グレコのボディガード
「イヴォナ・マルコヴィチ」
私立探偵
「オンドレイ」
イヴォナの弟
「イジー」
オンドレイの相棒
「ヤロスラフ・ザイッチ」
ドイツ大使館の参事官
「ハナ・ザイツォーヴァ」
サイッチの妻。ビロード殺人事件の最初の被害者
「ロマン・コジツェ」
ザイッチの長男
「ミーハ・ザイッチ」
ザイッチの次男
「ヒエロニムス・ヴェセリー」
伝説的なチェスプレイヤー
「エヴジェン」
ヴェセリーの妻
「ヤン・プリーコパ」
国立美術館の展示品の監視員
「アントニン・ロメグ」
魚市場の鮮魚店店主
「ヤン・モラク」
殺人課の主任捜査官
「トマーシュ・ノヴァチェク」
殺人課の警部
「スヴァテク」
殺人課の刑事 -
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オーストリアの作家「アンドレアス・グルーバー」の長篇ミステリ作品『夏を殺す少女(原題:Rachesommer)』を読みました。
オーストリアの作家の作品は初めて読みましたね… この前まで読んでいたドイツミステリと同じドイツ語圏なのですが、この作品を読んだ限りではオーストリアミステリの方が好みかな。
-----story-------------
酔った元小児科医がマンホールにはまり死亡。
市議会議員がエアバッグの作動で運転をあやまり死亡。
一見無関係な事件の奥に潜むただならぬ気配に、弁護士「エヴェリーン」は次第に深入りしていく。
一方ライプツィヒ警察の刑事「ヴァルター」は、病院での少女の不審死を調べていた。
オーストリアの弁護士とドイツの刑事、ふたりの軌跡が出会うとき、事件がその恐るべき真の姿を現し始める。
ドイツでセンセーションを巻き起こした、衝撃作登場。
訳者あとがき=「酒寄進一」
*第9位『IN★POCKET』2013文庫翻訳ミステリーベスト10/読者部門
*第17位(新人賞第4位)『ミステリが読みたい!2014年版』海外編
*第20位『週刊文春 2013年ミステリーベスト10』海外編
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2011年(平成23年)に刊行された作品… 「アンドレアス・グルーバー」は、元々はホラーやSF作品を得意としていた作家のようですが、この作品のちょっと前くらいからミステリ作品も手掛けるようになったみたいです、、、
ふたつの国で起こったふたつの事件、それを追う二人の人物… 二人の視点で目まぐるしく場面が変わり、その変わり目に事件の鍵が巧く埋め込まれていて、どんどん先が読みたくなり、惹きつけられる展開と、魅力的な二人の主人公が印象的な作品、面白かったです。
ウィーンの弁護士「エヴァリーン(リニー)・マイヤース」は、少女時代に妹「ザンドラ」とともに誘拐・監禁され妹が命を失ったというトラウマを抱えていた… 彼女はマンホールに落ちて溺死した元小児科医「ルドルフ・キースリンガー」の事故の調査と、勤務先の弁護士事務所の共同経営者で先輩弁護士「ペーター・ホロベック」がマンションのベランダから墜落死した事故に奇妙な一致点を見出す、、、
さらに「エヴァリーン」は、勤務先の弁護士事務所の経営者「クラーガー」の息子で私立探偵の「パトリック」の協力を得て、真相を探るうち、山道の運転中にエアバッグの作動で運転を誤り死亡した「ハインツ・ブランゲ」の事故にも関連性を見出す。
ライプツィヒ刑事警察の刑事、喘息持ちでヘビースモーカーの「ヴァルター・プラスキー」は、妻の「カーリン」を病気で亡くし、娘の「ヤスミーン」を男手ひとつで育てている… 彼は入院中に自殺したと思われた少女「ナターシャ・ゾマー」の死に不信を抱き、捜査を進めるうちに同じ病院で入院していた少年「マルティン・ホルナー」が不審死していたことを知る、、、
さらに「ヴァルター」は、同じ境遇の少年「ゼバスティアン・ゼンメルシュレーガー」が別な病院で不審死したことや、同じ病院に入院していた少女「レーシャ・プロコポヴィチ」が命を狙われる場面に遭遇し、彼らにの過去に共通するオックセンツォル精神病院へ向かう… 「エヴェリーン」も豪華クルーズ船フリートベルク号の10年前のツアー客名簿等の手掛かりから、事件に共通して登場する謎の少女が事件の鍵を握ると推理し、少女が入院するオックセンツォル精神病院へ向かっていた。
入院している少女「リザ・グルジエフ」を護ろうとしている「ヴァルター」と、犯人として追う「エヴェリーン」の真逆の見解を持つ二人… オックセンツォル精神病院でふたつの軌跡はひとつとなり、別々と思われた事件が、ひとつの輪となって繋がっていく、、、
二人がお互いの情報を交換し、徐々に恐るべき事件の真相が明らかになってきますが、ここからの展開も一筋縄ではいかず、なかなか愉しめる展開でしたね… ここからエンディングまでは一気読みでした。
「ヴァルター」と「エヴェリーン」は、いずれも正しいと思う方向に向かい猪突猛進型で突き進むキャラで好印象でした、、、
読後に冷静に考えると、年寄りとか細い女性が、この犯行が実行できたのか… という面では、ちょっとご都合主義を感じる部分もありましたが、読んでいるときは全く気になりませんでしたね、面白かったー
以下、主な登場人物です。
「エヴァリーン(リニー)・マイヤース」
ウィーンの弁護士
「パトリック」
私立探偵
「クラーガー」
弁護士。エヴァリーンのボス
「ペーター・ホロベック」
弁護士。クラーガーの共同経営者
「エドワード・ホキンスン」
フリートベルク号の船主
「グレータ・ホキンスン」
エドワードの娘
「ルドルフ・キースリンガー」
引退した小児科医
「ハインツ・ブランゲ」
ミュンヘン市会議員
「パウル・シュモレ」
引退した船長
「アルフォンス・ボルテン」
元少年裁判官
「リザ・グルジエフ」
入院している少女
「マヌエル」
リザの弟。故人
「ジュビル・ヴォスカ」
リザの友だち
「ヴァルター・プラスキー」
ライプツィヒ刑事警察の刑事
「ヤスミーン」
ヴァルターの娘
「ホルスト・フックス」
ライプツィヒ刑事警察の課長
「ナターシャ・ゾマー」
病院で死んだ少女
「マルティン・ホルナー」
病院で死んだ少年
「ゼバスティアン・ゼンメルシュレーガー」
病院で死んだ少年
「レーシャ・プロコポヴィチ」
入院している少女
「ゾーニャ・ヴィルハルム」
ナターシャの心理療法士
「コーラー」
検察官。ゾーニャの元夫
「クラウス・ヴィンターエッガー」
ザクセン州刑事局の刑事
「ラース・ゴタイニク」
ザクセン州刑事局の刑事
「コンラート・フォベルスキー」
ブレーマーハーフェン病院の内科医長 -
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ドイツの作家「フェルディナント・フォン・シーラッハ」の長篇ミステリ作品『コリーニ事件(原題:Der Fall Collini)』を読みました。
『罪悪』に続き、「フェルディナント・フォン・シーラッハ」の作品です。
-----story-------------
新米弁護士の「ライネン」は大金持ちの実業家を殺した男の国選弁護人を買ってでた。
だが、被疑者はどうしても動機を話そうとしない。
さらに「ライネン」は被害者が少年時代の親友の祖父だと知る。
──公職と私情の狭間で苦悩する「ライネン」と、被害者遺族の依頼で裁判に臨む辣腕弁護士が法廷で繰り広げる緊迫の攻防戦。
犯人を凶行に駆り立てた秘めた想い。
そして、ドイツで本当にあった驚くべき“法律の落とし穴”とは。
刑事事件弁護士が研ぎ澄まされた筆で描く圧巻の法廷劇。
訳者あとがき=「酒寄進一」
解説=「瀧井朝世」
*第4位『週刊文春 2013年ミステリーベスト10』海外編
*第8位『ミステリが読みたい!2014年版』海外編
*第16位『このミステリーがすごい!2014年版』海外編
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2011年(平成23年)に刊行された「フェルディナント・フォン・シーラッハ」初の長篇作品… といっても200ページくらいなので、短めの長篇ですかね、、、
ボリュームが、ちょっと物足りない感じもしますが… 気合いを入れなくても一気に読めるので、これはこれで読みやすかったですね。
2001年5月ベルリン、67歳のイタリア人「ファブリツィオ・アリア・コリーニ」が殺人容疑で逮捕された… 被害者は大金持ちの実業家「ジャン=バプティスト(ハンス)・マイヤー」で、新米弁護士の「カスパー・ライネン」は気軽に国選弁護人を買ってでてしまう、、、
だが、「コリーニ」はどうしても殺害動機を話そうとしない… さらに「ライネン」は被害者が少年時代の親友の祖父であることを知り、公職と私情の狭間で苦悩する。
そんな状況下で公判は始まり「ライネン」と被害者遺族の依頼で公訴参加代理人になり裁判に臨む辣腕弁護士「リヒャルト・マッティンガー」は、法廷で緊迫の攻防戦を繰り広げることに… 「コリーニ」を凶行に駆りたてた秘めた想い、そして、ドイツで本当にあった驚くべき“法律の落とし穴”とは、、、
地味な感じのリーガルサスペンスですが、「シーラッハ」らしい研ぎ澄まされ淡々とした筆致が物語にリアリティを与え、犯行動機が徐々に明らかになる中盤から終盤は、どんどん先を読みたくなるような展開でしたね。
そして、第二次世界大戦下のイタリアで起こった悲劇… パルチザンに対するナチスの非情な措置や、戦後のドイツ法改正によりナチス戦犯の犯罪が時効扱いとなった歴史的な問題を告発するような作品でした、、、
「コリーニ」がずっと心に抱き続けていたのは、姉の姿だったんでしょうね… 読み進めるうちに、残忍な殺人者が、血肉の通った人間だと気付かされ、印象が360℃変わってしまう展開、最後の写真のシーンが印象に残りましたね。
以下、主な登場人物です。
「ファブリツィオ・アリア・コリーニ」
元自動車組立工
「カスパー・ライネン」
弁護士
「ジャン=バプティスト(ハンス)・マイヤー」
マイヤー機械工業元代表取締役
「ヨハナ・マイヤー」
ハンス・マイヤーの孫
「フィリップ・マイヤー」
ヨハナの弟
「ケーラー」
捜査刑事
「ライマース」
上席検察官
「リヒャルト・マッティンガー」
弁護士
「ホルガー・バウマン」
マイヤー機械工業法律顧問
「ヴァーゲンシュテット」
法医学者 -
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ドイツの作家「アンドレアス・フェーア」の長篇ミステリ作品『弁護士アイゼンベルク(原題:Eisenberg)』を読みました。
「ハラルト・ギルバース」の『オーディンの末裔』に続き、ドイツ作家の作品です。
-----story-------------
凄腕の女性刑事弁護士「アイゼンベルク」は、ホームレスの少女から弁護を依頼される。
友人のホームレスの男が、女性の殺害容疑で逮捕された件だという。
驚いたことに、彼は「アイゼンベルク」の元恋人だった。
物理学教授の彼がなぜホームレスになり、殺人の被疑者に?
二転三転する事態と熾烈な裁判の果てに明らかになる、あまりに意外な真実。
一気読み必至の傑作エンターテインメント!
解説=「川出正樹」
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紅毛緑眼、デザイナー眼鏡がトレードマークの女性刑事弁護士「ラヘル・アイゼンベルク」を主人公としたシリーズの第一作です、、、
「ラヘル」は、20人の職員を抱えるアイゼンベルク&パートナーズ法律事務所を率いる刑事事件専門の敏腕弁護士… ミュンヘン市内の高級住宅地ニンフェンブルクに思春期真っ只中の娘「ザーラ」と暮しており、法律事務所の共同経営者で契約や会社法の専門家である夫「ザーシャ」とは、1年前に彼が事務所の司法修士生だった若い女性「パウラ・ホルベルク」と浮気したため別居中だが、仕事の利便上、やむ得ずパートナーシップを継続しており、法律事務所内の空気はぴりぴりしている。
そんな中、「ラヘル」はホームレスの少女「ニコレ・ベーム」から、殺人犯の容疑で逮捕されたホームレスの男「ハイコ・ゲルラッハ」の弁護を依頼される、、、
2015年(平成27年)4月、鋭利なナイフで両手を切り落され、その両手を頭部に釘で打ちつけられた女子大生「ヨハナ・メント」の遺体が発見され、「ハイコ」は、犯行時刻に犯行現場近くで目撃された証言と映像記録、被害者の遺体に付着していた毛髪等のDNA鑑定結果から、容疑者として逮捕されたのだった… そして、「ハイコ」は「ラヘル」の昔の恋人で、元物理学者だった。
その3ヵ月前の2015年(平成27年)1月の雪の舞う寒い夜、コソボからドイツに逃げて来た「レオノーラ・シュコドラ」と「ヴァレンティナ」の母娘がオーストリアとの国境を越えて南ドイツの山道を車で走行していた… そんな彼女の動向を追っていた二人の男、「パトリック・ランゲ」と「アルノルト・マルクヴァルト」は林道に潜み、目の前を通過した「レオノーラ」の車を追うべく車を発進させた、、、
「ハイコ」にとって致命的な証拠を揃えて堅固に築かれた検察側の主張を、「ラヘル」はいかにして切り崩すのか?
そもそも、大学の物理教授だった「ハイコ」は、なぜ路上生活者となり、事件の被疑者となったのか?
「パトリック」と「アルノルト」に終われる「レオノーラ」と「ヴァレンティナ」の母娘の運命は?
そして、それらはプロローグで触れられた「ラヘル」の絶体絶命の状況に、どう繋がっていくのか?
「パトリック」と「アルノルト」の悪事を暴き、「ラヘル」が「ハイコ」の無罪を勝ち取るまでの展開は、法廷での検察vs.弁護士というリーガルサスペンス要素が強かったのですが… その後、「ラヘル」の身に危険が迫り、別荘に監禁される展開は、エンターテインメント性が高いサスペンス要素が強くなり、どんどん作品の中に引き込まれていきましたね、、、
ここまでの展開で脇役的な存在だった「ラヘル」の依頼人で男爵の「フォン・メットゲニヒ=ホイエルスバッハ」が活躍する場面は意外でしたね… そして、エンディングで仄めかされる「ラヘル」の姉「ハナ」の死にまつわる「ラヘル」のトラウマの存在。
第二作も読んでみたくなる終わり方でしたね… 読んでみたいな。
以下は、主な登場人物です。
「ラヘル・アイゼンベルク」
刑事弁護士
「ザーシャ・アイゼンベルク」
ラヘルの夫。弁護士
「ザーラ・アイゼンベルク」
ラヘルとザーシャの娘
「パウラ・ホルベルク」
ザーシャの恋人
「カルステン・ディルブレック」
ラヘルとザーシャの同僚。弁護士
「ヤニーナ・エーベルト」
ラヘルとザーシャの同僚。弁護士
「ラウラ・シュトック」
ラヘルの部下
「ヨハナ・メント」
大学生
「ニコレ・ベーム」
ホームレスの少女
「ハイコ・ゲルラッハ」
ホームレス。元物理学教授
「ヘンリク・シュヴィント」
上級検事
「ザビーネ・ヴィットマン」
検察官
「エマヌエル・シュタング」
法医学研究所所長
「フォン・メットゲニヒ=ホイエルスバッハ」
男爵。ラヘルの依頼人
「ミロスラフ・オックスミヒェル」
クラッカー
「カスパー・ハイム」
ザーラの同級生
「レーザ・ハイム」
カスパーの父親。弁護士
「レオノーラ・シュコドラ」
コソボからドイツに来た女性
「ヴァレンティナ・シュコドラ」
レオノーラの娘
「アルビーナ・ツィンマーマン」
レオノーラの友人
「パトリック・ランゲ」
警察官。レオノーラを追う
「アルノルト・マルクヴァルト」
上級警部。レオノーラを追う
「ヴェルナー・オービンガー」
上級巡査
「カイ・フェルバーベック」
ラヘルの元依頼人 -
Posted by ブクログ
文章は理知的。怪異譚もクラシカルな趣きで端正。しかし登場人物の心は揺らぎ、不安定な危うさを秘めている。
すっと読み通せるが、収められた各短編には読み流すことを許さない、しっかりとした手応えがある。
表題作は、外国人労働者への依存と無理解、エッセンシャルワーカーの仕事に価値をおかない世界に対する批評が想起される寓話。
『見知らぬ土地』では、“人間性という壊れやすい幻想がささいなことで消し飛ぶ”様が描かれる。戦後ドイツの連合国による占領地域にて、敵国の軍人と居合わせることによる緊張がサン=テグジュペリの名前を出すことによって緩和されていく。しかし、その交流は脆く、苦い思いが残る。ヒューマニズムを否定した作品ではない。見知らぬ人、見知らぬ土地が与える不安が題材である。
『白熊』で交わされる夫婦の会話に込められた緊迫感にも引き込まれる。明かされるラストで妻が抱える衝撃。
しかし、〈僕の白熊〉という可愛い渾名に込められた皮肉は、幸せそうな夫婦の足下に深い亀裂が潜んでいたことをジリジリとあぶり出して、怖い。 -
Posted by ブクログ
小説とエッセイと観察記録が入り混じっているのだが、その区分けの曖昧さが面白い。
シーラッハが弁護士だということを初めて知った。
事実は小説よりも奇なりという言葉があるが、裁判というのは、言い方は悪いけれど、類稀なるドラマが展開されている場と言えるのではないか。
仕事で、裁判の傍聴をしたことがあるのだが、その人が「語られる」こと、そしてその「語り」を聴いている当事者がいる空間。
これを、私自身はどんなスタンスで聴けばいいんだろうと、戸惑ったことを思い出した。
この作品では、誰もが震撼するような事件が扱われているのではない。
事実があり、そこに誰かが、何かが解釈を施すことによる「え?そういうエピローグなの?」と首をかしげる。そんな違和を、ポンと、置いていく。
相変わらず面白い。 -
Posted by ブクログ
戦後ドイツを代表する女性作家の傑作選。全15作。
ふわっとしていて、灰色で、どこか不安になるお話のあつまり。「長距離電話」が好き。わかりやすかった。怖かったのは「いいですよ、わたしの天使」→
もう、死ぬほど怖い。ホラーじゃないんだけど、なんか、怖い。こんなのおかしいよ!って叫びたくなる。読み直したらまた怖かった……。
「ルピナス」は切ない。切なすぎる。「白熊」や「精霊トゥンシュ」「その昔、N市では」あたりは日本の昔話にありそう。
「いいですよ、わたしの天使」はコロナ陽性が出てまぁまぁしんどいタイミングで読んで、だいぶんやられた(笑)怖かったよー。でもある意味1番印象残ったわ。たぶん忘れない……。
全体的には、とても上質な短編集って感じ。面白かったです。 -
Posted by ブクログ
二か月前に航海中に失踪した少女が、同じ船の航海中に突然現れる。
豪華客船に潜む謎の失踪事件、そして主人公の妻と子の自殺の謎。
豪華クルーズ船の旅、それはステータスであり憧れの対象。一方で、確かにこの本にあるように、大洋航海中に飛び込めば捜索は困難で、自殺にはもってこいの場所である。さらに、いったん外洋に出てしまえば、次の寄港地までは閉ざされた空間となってしまう。
憧れの場所とは似つかないこの現実が、物語の異様性を構築する絶好の舞台となった。
読んでいて、投げやりになった囮捜査官という主人公マルティンの置かれた状況にやや違和感を感じるも、帯の宮部みゆき氏推薦「ジェットコースター・スリラー」のとおり、登場人物の謎の行動と出来事でとまらない読書となった。
映像化はないのかなぁ……。 -
Posted by ブクログ
ドイツの作家「ペトラ・ブッシュ」の長篇ミステリ作品『漆黒の森(原題:Schweig still, mein Kind)』を読みました。
「フェルディナント・フォン・シーラッハ」、「ハラルト・ギルバース」に続きドイツ作家の作品です。
-----story-------------
取材で黒い森(シュヴァルツヴァルト)を訪れた編集者の「ハンナ」は、トレッキングの最中に女性の死体を発見してしまう。
被害者は10年前に村を出て帰郷したばかりの妊婦だったが、胎児が消えていた。
村に伝わる“鴉谷(からすだに)”の不吉な言い伝えや、過去の嬰児失踪事件と関わりが?
堅物の刑事と敏腕女性編集者が、閉ざされた村での連続殺人を解き明かす。
ドイツ推理作家協会賞新人賞受賞の清冽なデビュー作!
解説=「穂井田直美」
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「ペトラ・ブッシュ」のデビュー作で、ドイツ推理作家協会賞新人賞を受賞した作品で、「エルリンシュピール首席警部」と「ハンナ・ブロック」が活躍する物語、、、
「モーリッツ・エルリンシュピール首席警部」と「ハンナ・ブロック」のシリーズは現在のところ3作品が刊行されているらしいです。
トレッキング・ガイドブックのための取材中に出版編集者「ハンナ・ブロック」は南ドイツに広がる<漆黒の森(シュヴァルツヴァルト)>の一角、鴉谷(からすだに)で若い女性の遺体を発見する… 女性は妊娠していたが、腹部を切り取られ、臨月前の胎児が連れ去られているという猟奇殺人事件であった、、、
犠牲者は地元の小村の村長「ヘルマン・ゾマー」の妹「エリーザベト・キューン」で、ここ10年前に村を出て消息不明となっていた人物だった… ベルリンで幸せに暮らしていた彼女は、父「ヨーゼフ」の60歳の誕生日を祝うために村に戻ってきていたのだが、彼女の帰郷は村に深刻な事態を引き起こすことになってしまった。
フライブルク刑事警察の主席警部「モーリッツ・エルリンシュピール」らが捜査を始めるが、よそ者を受けつけない閉鎖的な村人たちを前に捜査は難航する… 「ハンナ」もまた、疼き出したジャーナリスト魂の赴くままに独自に聞き取り調査を進める、、、
「ハンナ」が村人たちから得た情報や、「モーリッツ」粘り強く聞き込みにより、村に伝わる鴉谷の不吉な言い伝え ―理不尽にも無実の罪で絞首刑となった男の亡霊が鴉男として彷徨っているという重苦しい伝承― や、10年前の嬰児失踪事件 ―当時16歳だった「ジーナ・フォーゲル」が出産したが、愛児「フェリクス」は生後4日目に何者かに連れ去られた― が明らかになってくる… また、被害者「エリーザベト」の実家「ゾマー家」は複雑な家庭環境で、自閉症の末息子「ブルーノ」を溺愛する母「フリーダ」や、事あるごとに「フリーダ」と対立する夫の「ヨーゼフ」と長男「ヘルマン」とその妻「レナーテ」が奇妙なバランスの上に成り立っていることも判明する。
容疑者として、「エリーザベト」の幼なじみで、彼女の遺産を相続することになっていた「ジーナ」、「エリーザベト」の元恋人で村内で最後に「エリーザベト」と会っていたこと「ヨハネス・バイヤー」、そして自閉症で状況によっては手が付けられないことのある「ブルーノ」等が浮上する、、、
そんな中、第2の殺人事件が発生… 容疑者のひとり「ヨハネス」が「ブルーノ」が花を栽培している温室で撲殺され裸となった姿で発見されたのだ。
そして、現場検証を行う中で、「ヨハネス」のものではない肉片が温室から発見され、それは「エリーザベト」の胎児のものと特定される… また、「ゾマー家」の冷蔵庫からルミノール反応が出て、その血液も同じ胎児のものと特定されたことから、容疑は「ブルーノ」に向けられる、、、
漆黒の森で何が起きているのか? 閉ざされた小さな村に隠された忌まわしい秘密とは何か?
10年前に発生した「ジーナ」の愛児「フェリクス」の失踪事件の真相や、16歳で出産した「ジーナ」を妊娠させた相手が判明すること等により、徐々に事件の全貌が明らかになる、、、
取り調べの中で、「ブルーノ」が単なる自閉症ではなく、ある特定の分野に限って優れた能力を発揮するサヴァン症候群であり、その天才的な分野を兄「ヘルマン」に利用されていたことが判明… 「ブルーノ」は、従順で純粋だっただけなんですよねぇ。
なかなか哀しい結末でした、、、
村の伝承や行事、閉鎖的な村社会での絡み合うような人間関係… という古い部分と、警察の鑑識技術、科学捜査、調査、分析結果… という新しい部分が、巧く組み合わされて、深みが感じられる作品でしたね。
事件を追う「モーリッツ・エルリンシュピール首席警部」と「ハンナ・ブロック」の対照的な行動が絶妙に組み合わされて真相が明らかになり、当初、反発しあっていた二人が、その過程で、お互いが惹かれ合っていく展開も、2作目以降に期待を抱かせる内容でした、、、
2作目以降も読んでみたいけど… まだ本作しか翻訳されていないようなので残念です。
以下は、主な登場人物です。
「ハンナ・ブロック」
ハンブルクから来た編集者
「モーリッツ・エルリンシュピール」
フライブルク刑事警察首席警部
「パウル・フライターク」
フライブルク警察警部
「ラインハルト・ラーソン」
法医学者
「ルーカス・フェルバー」
鑑識課課長
「ロレーナ・シュタイン」
上席検事
「モニカ・エーヴァース」
地元の派出所の上級巡査
「ヘルマン・ゾマー」
村長
「エリーザベト・キューン」
ヘルマンの妹
「ブルーノ・ゾマー」
ヘルマンの弟
「レナーテ・ゾマー」
ヘルマンの妻
「ヨーゼフ・ゾマー」
ヘルマンたちの父
「フリーダ・ゾマー」
ヘルマンたちの母
「ジーナ・フォーゲル」
エリーザベトの親友
「アントン・フォーゲル」
ジーナの父親
「ダーヴィット・ラヴィー」
ジーナの恋人
「ヨハネス・バイヤー」
エリーザベトの元恋人
「マルガレーテ・バイヤー」
ヨハネスの妻
「ベルタ・ヴェーバー」
村の老婆
「ブラント」
村の医師
「ヴィリ」
熊手亭の店主
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Posted by ブクログ
ドイツの作家「フェルディナント・フォン・シーラッハ」の短篇集『犯罪(原題:Verbrechen)』を読みました。
ドイツの作家の作品は… 「エーリヒ・マリア・レマルク」の長篇戦争小説『西部戦線異状なし』や、幼い頃に読んだり、聞かせてもらった「グリム兄弟」の童話『ヘンゼルとグレーテル』や『赤ずきん』、『ブレーメンの音楽隊』、『白雪姫』くらいしか手に取った記憶がないですね。
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【本屋大賞翻訳小説部門第1位】
グリム兄弟
一生愛しつづけると誓った妻を殺めた老医師。
兄を救うため法廷中を騙そうとする犯罪者一家の末っ子。
エチオピアの寒村を豊かにした、心やさしき銀行強盗 ──魔に魅入られ、世界の不条理に翻弄される犯罪者たち。
弁護士の著者が現実の事件に材を得て、異様な罪を犯した人間たちの真実を鮮やかに描き上げた珠玉の連作短篇集。
2012年本屋大賞「翻訳小説部門」第1位に輝いた傑作!
解説=「松山巖」
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2009年(平成21年)に刊行された短篇集で、以下の11篇が収録されています… 1作品が20ページ前後なので、とても読みやすかったですね、、、
『東西ミステリーベスト100』で海外篇の52位として紹介されていた作品です。
■序
■フェーナー氏(原題:Fahner)
■タナタ氏の茶碗(原題:Tanatas Teeschale)
■チェロ(原題:Das Cello)
■ハリネズミ(原題:Der Igel)
■幸運(原題:Gluck)
■サマータイム(原題:Summertime)
■正当防衛(原題:Notwehr)
■緑(原題:Grun)
■棘(原題:Der Dorn)
■愛情(原題:Liebe)
■エチオピアの男(原題:Der Athiopier)
■解説 松山巖
「フェルディナント・フォン・シーラッハ」は現役の弁護士… 刑事事件を専門にする高名な弁護士らしく実際に経験した事件を元に、小説を書いたようですね、、、
ということで、本書に収録されている物語の語り手はすべて「私」という弁護士で、彼が関わった刑事事件を扱っているという設定になっています… 以下は11篇のサマリーです。
『フェーナー氏』は、地域社会で高名な医師として信頼されていた「フリートヘルム・フェナー」と、若かりし頃に性的な魅力に惹かれて結婚し、長年連れ添った妻「イングリット」との愛憎絡み合った凄惨な事件の顛末を描いた物語、、、
「フェナー氏」の人生には「イングリット」との件を除けば特筆すべきことはなかった… 彼女は悪妻だったけど、「フェナー氏」は耐え続け、彼女との誓いを守り通したんですよねぇ、そして、あることをきっかけに犯行に至ります。
罪には間違いないですが… 「フェナー氏」を批難する気持ちにはなれないですね、、、
不思議な魅力のある人物… そして、独特な余韻が残る作品でした、
『タナタ氏の茶碗』は、「サミール」、「マノリス」、「オズジャン」の3人により、家宝の茶碗や現金等を盗まれた日本人富豪「タナタ氏」が裏社会の手荒な手段で報復する物語、、、
「サミール」たちの犯行を知り、茶碗を奪った街のならず者で極悪非道な男「ポコル」は、拷問を受けて惨殺される… 軽い気持ちで空き巣に入った「サミール」たちは、「ポコル」の死に怯え、弁護士を通じて茶碗を「タナタ氏」に返却し事無きを得るが、盗みを手引きした掃除婦は2年後にバカンス先のトルコ・アンタルヤの海水浴場で水死します。
うーーーん、日本人って怖いよ… って作品でしたね。
『チェロ』は、母親を早くに亡くし、建設会社を経営する富豪の父親「タックラー」からは愛情を注がれずに育った「テレーザ」と「レオンハルト」の姉弟は父を嫌い「テレーザ」の音楽大学への進学を契機に実家を出るが、不運続きの果てに迎える悲劇を描いた哀しい物語、、、
「テレーザ」はチェロの才能に恵まれ、二人は演奏旅行をしながら生活を営むが、シチリア島でベスパに乗っていて事故を起こし、「レオンハルト」は障害を負ってしまう… 「テレーザ」は懸命に看病を続けるが、「レオンハルト」は身体中に壊疽を起こし四肢を切断せざるを得なったうえに記憶を失い、さらに新たに覚えたことも3~4分後には忘れてしまう症状に陥り、「レオンハルト」は次第に「テレーザ」に性的欲望を抱くようになる。
そんな状況の中で「テレーザ」は弟を殺害し、自らも命を絶つことを決意する… 悲しみで彩られた作品でした。
『ハリネズミ』は、窃盗、強盗、詐欺、脅迫、偽証等の犯罪者一家「アブ・ファタリス家」の9人兄弟の末弟で唯一人真面目で利口な息子「カリム」が、強盗事件で検挙された兄「ワリド」を救おうと裁判で策略を巡らせる痛快な物語、、、
「カリム」は、兄たち同様に馬鹿扱いされていたが、実は類稀な知性を備えていた… そんなことはおくびにも出さず、彼は兄たちとは距離を保ち、密かにFXや株投資で資産を築いており、「ワリド」の裁判においても、愚か者を装いながらも、自らの資産を使って強奪された金を返し、兄弟が非常に似通っていることを逆手にとり、他の兄「イマド」が真犯人だと証言し、検挙された「ワリド」を釈放させた。
警察は「カリム」が犯人として名指しした「イマド」を検挙しようとするが、「イマド」には完全なアリバイがあり、「カリム」は兄を救うことに成功、、、
犯罪は赦されるべきではないですが、末弟「カリム」の成功に拍手喝采してしまいました… 気持ちヨイ幕引きの作品でした。
『幸運』は、戦争で故郷を追われベルリンに流れ着き娼婦となった女性「イリーナ」の客が突然死してしまい、同棲していた青年「カレ」に殺害、死体遺棄の容疑がかかるというトラブルに巻き込まれる物語、、、
客の死体を目の前にした「イリーナ」は途方に暮れて外出… 外出先から戻った「カレ」は死体を発見し、「イリーナ」が客を殺してしまったと思い込み、死体を解体して公園に埋めてしまう。
「カレ」は殺害者として逮捕され、「イリーナ」を守ろうとして証言を拒否… しかし、「イリーナ」が事情を説明することにより「愛のための死体損壊」として情状酌量を認められ、囚われるのではなく、イリーナとともに国外退去処分となる、、、
死体を解体するシーンでは、おぞましい描写がありましたが… 愛し合う二人が幸運をものにしたラブストーリーして読める作品でした。
『サマータイム』は、お金を稼ぐことを目的に実業家「ボーハイム」と性的関係を持っていた「シュテファニー」がホテルの一室で惨殺されて発見された事件の真相を追う物語、、、
カジノに嵌り借金を抱えた「アッバス」は、返済が滞り命の危険に晒されていた… 恋人「シュテファニー」は、彼のために恋人募集欄に広告を出し、「ボーハイム」と出会い、お金での割り切った関係で密会を続けていた。
その「ボーハイム」との何回目かの密会後、「シュテファニー」は殺害され、容疑は「ボーハイム」に向けられる… ホテル駐車場の監視カメラに残った映像が証拠となると思われたが、カメラの時間が冬時間に設定されており、記録された時間は、実際の時間よりも1時間遅い時間だったことから、「ボーハイム」の容疑は晴れ、逆に「アッバス」が容疑者として浮上する、、、
その後、「ボーハイム」が離婚したことは納得かな… イチバン、ミステリーっぽさが強い作品で愉しめましたね。
『正当防衛』は、駅のホームでネオナチの「レンツベルガー」と「ベック」に絡まれたサラリーマン風の男が、金属バットとナイフで脅された後に反撃し、逆に二人を殺害してしまった物語の顛末を描いた物語、、、
男の行動が正当防衛にあたるかどうかが焦点になるのですが、男は何も喋らず、指紋は登録されておらず、身分証明書も不所持、そして、奇妙なことに靴下や下着に至るまで衣服にメーカー表示がない… 刑事は、男の身元を証明するものが皆無であることと、近辺で発生した明らかなプロの仕業による殺人事件との関連性が疑われることから過剰防衛を主張する。
しかし、男の正体は掴めず、結局は正当防衛が認められる、、、
ネオナチの二人の運命は仕方ないとは思いますが… 不気味さの残る作品でした。
『緑』は、羊の眼球をくり抜く異常な犯罪を執拗に続ける「ノルトエック伯爵家」の息子「フィリップ」が心に抱える病を描いた物語、、、
16歳の少女「ザビーネ」が行方不明となり、彼女が行方不明となる前に一緒に行動していた「フィリップ」に容疑が向けられる… 警察が屋敷を調べたところ「ザビーネ」の写真が見つかり、その写真の眼の部分には穴が開いていた。
「フィリップ」は身柄を拘束されるが、明らかな証拠や遺体は見つからない… 近所の人々から、明らかに犯人扱いされ、「ノルトエック伯爵」にも批判が集中する、、、
「フィリップ」が真犯人だと思い込んでしまう心理状態、精神を病んだ人への偏見や疑惑の眼… 身近でもありそうなことだと思いながら読んだ作品でした。
『棘』は、ちょっとした手違いで配置転換もないままにずっと同じ場所を警備することになった市立古代博物館の警備員「フェルトマイヤー」が徐々に精神を病んで行く姿を描いた物語、、、
同じ場所で警備をしているうちに彫像「棘を抜く少年」に狂おしいほどの興味を持ち続けた「フェルトマイヤー」は、来る日も来る日も、彫像のことを考え続けるうちに精神に変調をきたし、靴に画鋲を入れるいたずらをすることによって、不安感を解消するようになる… やがて、数十年が経ち、定年間近になった「フェルトマイヤー」は、彫像を破壊してしまう。
博物館側は、器物損壊で「フェルトマイヤー」を告訴する予定だったが、人事異動が行われていない事実(手違い)を踏まえ、起訴しないことを決定する… 同じ場所で、長期間単調なことを繰り返すと、自分だって、こうなってしまうのかもなぁ、と感じましたね。
『愛情』は、女性への愛が異常な欲望を生み出し遂に凶事を招いた青年「パトリック」の哀しい心の闇を描いた物語、、、
「パトリック」は、恋人「ニコル」を愛していたが、愛するあまり彼女の背中をナイフで切ってしまう… 「パトリック」は事故と証言するが、実は「愛しすぎているが故に、傷つけてしまう」という衝動に取り憑かれていた。
弁護士はカウンセリングを受けることを勧めたが、「パトリック」は拒否… 弁護士を解任してしまう、、、
そして、数年後、「パトリック」は付き合っていたウェイトレスを殺害してしまう… 「佐川一政」が具体例として出てきましたね。
こういう気持ち、心理状態は理解できないなぁ… 倒錯した異常な愛情表現ですね。
『エチオピアの男』は、ドイツでの不幸な境遇から偶然エチオピアの寒村で幸せを掴んだ男「ミハルカ」の波瀾万丈な人生を描いた物語、、、
「ミハルカ」は、親にも捨てられ、周囲からも阻害されて育ち、酒に溺れるような生活の中で銀行強盗を犯し、エチオピアへと逃亡… そこで、貧しい村に住む人々が、コーヒー農園で収益を上げられるようにし、子供たちに教育を施し、医療を受けられるようにしたことで、村に溶け込み、慕われる存在となり、そして、結婚、子供も授かり、幸せを掴んだかに思われたが、彼の存在を訝しんだ外部の人間により、密入国者と明かされてしまい、銀行強盗を起こしていたことが露呈してドイツへ強制送還される。
彼は数年の刑期を受けることになり、その間も、妻や子供のことをずっと考え、過ごしていた… 仮出所中、彼はすぐにエチオピアの家族のもとに向かいたかったが、渡航費がなく、仕方なく、彼は再び銀行強盗を起こしてしまう、、、
しかし、彼には、逃亡する気力・体力が残っておらず、銀行の前の公園で呆然としているところを逮捕される… だが、彼のエチオピアでの行動が判明したことにより、情状酌量による刑期の短縮が行われ、数年後、「ミハルカ」は同情した周囲の支えにより、エチオピアに永住することができた。
罪って、その人がどう生きてきたかで違ってくるんだろうなぁ… と感じました、、、
人間の善意を改めて信じ直させてくれる物語で、イチバン印象に残る作品でした。
一篇、一篇に味わいがあり、一つひとつの事件には、それぞれ異なる込み入った事情があるんだなぁ… と感じさせる一冊でしたね、、、
他の作品も読んでみたくなりました。