【感想・ネタバレ】犯罪のレビュー

あらすじ

一生愛しつづけると誓った妻を殺めた老医師。兄を救うため法廷中を騙そうとする犯罪者一家の末っ子。彫像『棘を抜く少年』の棘に取り憑かれた博物館警備員。エチオピアの寒村を豊かにした、心やさしき銀行強盗。――魔に魅入られ、世界の不条理に翻弄される犯罪者たち。高名な刑事事件専門の弁護士である著者が現実の事件に材を得て、異様な罪を犯した人間たちの哀しさ、愛おしさを鮮やかに描き上げた珠玉の連作短篇集。クライスト賞ほか文学賞三冠、2012年本屋大賞「翻訳小説部門」第1位に輝いた傑作。単行本より改訂増補された最新決定版!/解説=松山巖

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Posted by ブクログ

以前にも読んだことがある作者のデビュー作。短編でありながら、短編ごとに長編を読んだ時と同じぐらいの満足感を得られるから、気に入っている作者の1人。
人が罪を犯す瞬間とそこに至る過程を通して、「犯罪とはかくも複雑なものである」と淡々と描いている。その、平坦さが好きだなと思った。

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2025年08月16日

Posted by ブクログ

ネタバレ

<(前略)私には参審裁判所で裁判長を勤めたおじがいました。故殺や謀殺などの殺人事件を扱っていました。おじは私たち子どもにもわかる事件の話をしてくれました。でも、いつもこういってはじめたものです。「物事は込み入っていることが多い。罪もそういうもののひとつだ」

おじのいうとおりでした。私たちはさまざまな物事を追いかけています。ところが物事の方が速すぎて、どうしても追いつけないものです。私の話に出てくるのは、人殺しや麻薬密売人や銀行強盗や娼婦です。それぞれにそれぞれがたどってきた物語があります。しかしそれは私たちの物語と大した違いはありません。私たちは生涯、薄氷の上で踊っているのです。氷の下は冷たく、ひとたび落ちれば、すぐに死んでしまいます。氷は多くの人を持ちこたえられず、割れてしまいます。私が関心を持っているのはその瞬間です。幸運に恵まれれば、なにも起こらないでしょう。幸運に恵まれさえすれば。(後略)>

 まさに本書「序」のとおりだ。たまたまそれが可能な状況や環境が訪れた/いつの間にかそのような事態に陥ってしまった彼ら“犯罪者”と、まだ罪を犯してない私たちとの差など紙一重なのだろう。作者が描く数々の罪はどれも異様で不可解なものばかりだが、それは私たち人間そのものを描かんという意図の表れではないだろうか。

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2024年09月17日

Posted by ブクログ

ネタバレ


「順調なときにだけ約束を守るというのではだめだ。」

フェーナー氏が立てた誓いは、最期まで守られたのだろうか。法廷で、今でも妻を愛していると、そう誓ったからだと、話す場面が目に浮かびます。ついでに涙も
それがいつか身を滅ぼすとしても、立てた誓いを破るわけにはいかない。それは裏切りになるから。ほんとうに、痛いくらい素直で泣きたくなるほど優しい人なんでしょうね
何度読んでも、『フェーナー氏』 は泣いてしまいます。

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2024年01月20日

Posted by ブクログ

「物事は込み入っていることが多い。罪もそういうもののひとつだ」
序章の一文が象徴するように、この短編集は、いろいろな出来事が積み重なっていき、後戻りできない犯罪を犯す人々を描いている。
犯罪を犯す刹那は、今まで踊っていた薄氷が不意に割れて、冷たい氷の下に落ちてしまう瞬間のようだ。誰だってそうなる可能性はある。
作者も言う。「幸運に恵まれれば、なにも起こらないでしょう。幸運に恵まれさえすれば」。

あくまで淡々と事実を積み重ねるクールな筆致ながら、行間に溢れ出すようなやるせなさや、切なさや、時には幸福感などの叙情を感じざるを得ない文体、ものすごく好みだった。
例えば最初の『フェーナー氏』、フェーナーの心情は一度もはっきり書かれない。フェーナーは、ラストに「しわくちゃになった封筒」から出した新婚旅行の写真の、妻の顔を親指でなでる。その写真は「保護膜がはがれ、彼女の顔はほとんど真っ白になって」いるのだ。
その描写で、フェーナーのいろいろな込み入った思いが伝わってきて、胸がいっぱいになる(読めば分かります…!)。

特に好きなのは『タナタ氏の茶碗』『チェロ』『正当防衛』『エチオピアの男』。
『チェロ』の最後、『華麗なるギャツビー』からの引用の「さあ、櫂を漕いで流れに逆らおう。だけどそれでもじわじわ押し流される。過去の方へと」も、胸が締め付けられる(こちらも読めば分かります…!)。
『エチオピアの男』は、泣ける!!

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2023年06月02日

Posted by ブクログ

ネタバレ

「物事は込み入ってることが多い。罪もそういうもののひとつだ」。当事者でない人たちがいくら物語を作ろうともそれは真実ではない。。
それでも、作者は現役の刑事事件弁護士なので(こういうこともあるかも…)のリアルさがあります。冷静だけど冷徹ではなくて、情緒もあるけど大仰ではない文章、好きです。
お話は特に「ハリネズミ」「緑」「エチオピアの男」が好き。
怖いのは「正当防衛」「愛情」。「愛情」には佐川一政の名前が出てきてタイムリーでした。世界的にも有名なんだな。
「棘」も、一人の人が壊れていく過程が描かれててゾッとしました。職務怠慢だ。。
“弁護人が証人に尋問する場合にもっとも重要なのは、自分が答えを知らない質問は絶対にしないということだ”…これにはしびれました。裁判は検察と弁護人どちらが場や流れを支配するかバトルもあるのだろうからそれはそうなんやろけど。
「タナタ氏の茶椀」(わんの字が出ない)も、、5人よりタナタ氏側の方が裏社会って事だったんだろうな。チンピラ3人が小心者で良かった…一人、ギリシア人なのにフィンランド人だと言い張ってる人はどうかしていて面白かったです。「家族はみんなギリシア人だけど、俺まで一生ギリシア人になってうろつきまわることもないだろ」(???)

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2022年12月10日

Posted by ブクログ

精神科をやっているからかもしれないけど、こういうことは本当にありうるし、現実でも息を飲むことがある。それをミステリーに変えて商品化した本としてはすごいとおもう。りンゴねぇ。

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2021年12月03日

Posted by ブクログ

すごかった…うまく言えないけどすごく引き込まれる短編集。二作目から読んだけれどストーリーにはなんの支障もなかった。今作の方がまだ、事件が読みやすいかも。(個人的には二作目のあのもやっとする感じもとても好きだけれど)
どれもすごかったけれど、タナタ氏はなんか怖いけどすごく印象に残る。チェロのやるせなさもいい、棘と愛情も。なによりエチオピアはぐっときた。

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2019年07月18日

Posted by ブクログ

弁護士である「私」が携わった事件、その背景を追いかけながら、被告人たちの真実を描く11篇の連作短編集。
現代ドイツを舞台にしているのだが、難解で共感も困難な事例が多く出てくる。それを一番感じたのは、移民や難民などの他民族他国籍の人々との絡みだった。「この民族は〜な性質」「この国籍は〜レベル」といったような暗黙の既成観念があるように感じ、それを覆せなかった人々による犯罪は、日本にいるとあまりピンとこないように思った。読み進めると、痛々しくて生々しい人々の叫びが文中から聞こえてくるようで、淡々とした「私」視点も相まって、一篇一篇にキツイ読後感を味わうこととなった。
後書きを読んでもう一度本文を読み直したのだが、確かに全部の話にリンゴが登場しており、作者の仕掛けたちょっとしたトリックに驚かされた。「これはリンゴではない」なるほど、確かに。

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2025年02月03日

Posted by ブクログ

「さあ、櫂を漕いで流れに逆らおう。だけどそれでもじわじわ押し流される。過去の方へと」

「物事は込み入っていることが多い。罪もそういうもののひとつだ」

・様々な原因があって人は罪を犯してしまう。自分が今犯罪者にならずにいるのは、幸せなのだと気づいた。作者の言っていた通り、幸運に恵まれさえすれば何も起こらない。幸運に恵まれさえすれば。

・特に3つ目のチェロの話が好きだった。
幸せになろうとしても、押し流されてしまう。彼女が罪を犯さずに幸せになれる方法が思いつかない。

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2024年09月08日

Posted by ブクログ

本物の弁護士が書いたミステリーで、「現実の事件に材を得て」とあったので、とてもリアリティーを感じました。
一般的なミステリーとは違って、いろんな境遇の人たちの感情を描いた作品になっています。それでいて文体は極めて簡潔で、冷静なものです。
描き方も一捻りあって、中には最後まで読むと「?」となり、頭から読み直したくなるものもありました。

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2024年05月01日

Posted by ブクログ

こういう本を読むと、彼の国はそんなことになってるのねー、と興味深い。ドイツの本てのもなかなか読む機会ないしね。
EUでは優等生のドイツだけど、暗部も抱えていそうで。でも金のあるところには人も犯罪も集まるということで、やっぱ活気があるんだろうな。
というわけで色々と犯罪ネタがあって興味深い。よくある移民ネタもあるけど、国産品もいっぱいで、特にフェーナー氏とエチオピアの男は社会派っていうかね、人情派っていうかね、グッと来るものがあるよね。何故に飛んでアジスアベバーって意味わからんけど豪快で好きよ。

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2023年07月03日

Posted by ブクログ

ドイツの作家「フェルディナント・フォン・シーラッハ」の短篇集『犯罪(原題:Verbrechen)』を読みました。

ドイツの作家の作品は… 「エーリヒ・マリア・レマルク」の長篇戦争小説『西部戦線異状なし』や、幼い頃に読んだり、聞かせてもらった「グリム兄弟」の童話『ヘンゼルとグレーテル』や『赤ずきん』、『ブレーメンの音楽隊』、『白雪姫』くらいしか手に取った記憶がないですね。

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【本屋大賞翻訳小説部門第1位】
グリム兄弟
一生愛しつづけると誓った妻を殺めた老医師。
兄を救うため法廷中を騙そうとする犯罪者一家の末っ子。
エチオピアの寒村を豊かにした、心やさしき銀行強盗 ──魔に魅入られ、世界の不条理に翻弄される犯罪者たち。
弁護士の著者が現実の事件に材を得て、異様な罪を犯した人間たちの真実を鮮やかに描き上げた珠玉の連作短篇集。
2012年本屋大賞「翻訳小説部門」第1位に輝いた傑作!
解説=「松山巖」
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2009年(平成21年)に刊行された短篇集で、以下の11篇が収録されています… 1作品が20ページ前後なので、とても読みやすかったですね、、、

『東西ミステリーベスト100』で海外篇の52位として紹介されていた作品です。

 ■序
 ■フェーナー氏(原題:Fahner)
 ■タナタ氏の茶碗(原題:Tanatas Teeschale)
 ■チェロ(原題:Das Cello)
 ■ハリネズミ(原題:Der Igel)
 ■幸運(原題:Gluck)
 ■サマータイム(原題:Summertime)
 ■正当防衛(原題:Notwehr)
 ■緑(原題:Grun)
 ■棘(原題:Der Dorn)
 ■愛情(原題:Liebe)
 ■エチオピアの男(原題:Der Athiopier)
 ■解説 松山巖

「フェルディナント・フォン・シーラッハ」は現役の弁護士… 刑事事件を専門にする高名な弁護士らしく実際に経験した事件を元に、小説を書いたようですね、、、

ということで、本書に収録されている物語の語り手はすべて「私」という弁護士で、彼が関わった刑事事件を扱っているという設定になっています… 以下は11篇のサマリーです。


『フェーナー氏』は、地域社会で高名な医師として信頼されていた「フリートヘルム・フェナー」と、若かりし頃に性的な魅力に惹かれて結婚し、長年連れ添った妻「イングリット」との愛憎絡み合った凄惨な事件の顛末を描いた物語、、、

「フェナー氏」の人生には「イングリット」との件を除けば特筆すべきことはなかった… 彼女は悪妻だったけど、「フェナー氏」は耐え続け、彼女との誓いを守り通したんですよねぇ、そして、あることをきっかけに犯行に至ります。

罪には間違いないですが… 「フェナー氏」を批難する気持ちにはなれないですね、、、

不思議な魅力のある人物… そして、独特な余韻が残る作品でした、


『タナタ氏の茶碗』は、「サミール」、「マノリス」、「オズジャン」の3人により、家宝の茶碗や現金等を盗まれた日本人富豪「タナタ氏」が裏社会の手荒な手段で報復する物語、、、

「サミール」たちの犯行を知り、茶碗を奪った街のならず者で極悪非道な男「ポコル」は、拷問を受けて惨殺される… 軽い気持ちで空き巣に入った「サミール」たちは、「ポコル」の死に怯え、弁護士を通じて茶碗を「タナタ氏」に返却し事無きを得るが、盗みを手引きした掃除婦は2年後にバカンス先のトルコ・アンタルヤの海水浴場で水死します。

うーーーん、日本人って怖いよ… って作品でしたね。


『チェロ』は、母親を早くに亡くし、建設会社を経営する富豪の父親「タックラー」からは愛情を注がれずに育った「テレーザ」と「レオンハルト」の姉弟は父を嫌い「テレーザ」の音楽大学への進学を契機に実家を出るが、不運続きの果てに迎える悲劇を描いた哀しい物語、、、

「テレーザ」はチェロの才能に恵まれ、二人は演奏旅行をしながら生活を営むが、シチリア島でベスパに乗っていて事故を起こし、「レオンハルト」は障害を負ってしまう… 「テレーザ」は懸命に看病を続けるが、「レオンハルト」は身体中に壊疽を起こし四肢を切断せざるを得なったうえに記憶を失い、さらに新たに覚えたことも3~4分後には忘れてしまう症状に陥り、「レオンハルト」は次第に「テレーザ」に性的欲望を抱くようになる。

そんな状況の中で「テレーザ」は弟を殺害し、自らも命を絶つことを決意する… 悲しみで彩られた作品でした。


『ハリネズミ』は、窃盗、強盗、詐欺、脅迫、偽証等の犯罪者一家「アブ・ファタリス家」の9人兄弟の末弟で唯一人真面目で利口な息子「カリム」が、強盗事件で検挙された兄「ワリド」を救おうと裁判で策略を巡らせる痛快な物語、、、

「カリム」は、兄たち同様に馬鹿扱いされていたが、実は類稀な知性を備えていた… そんなことはおくびにも出さず、彼は兄たちとは距離を保ち、密かにFXや株投資で資産を築いており、「ワリド」の裁判においても、愚か者を装いながらも、自らの資産を使って強奪された金を返し、兄弟が非常に似通っていることを逆手にとり、他の兄「イマド」が真犯人だと証言し、検挙された「ワリド」を釈放させた。

警察は「カリム」が犯人として名指しした「イマド」を検挙しようとするが、「イマド」には完全なアリバイがあり、「カリム」は兄を救うことに成功、、、

犯罪は赦されるべきではないですが、末弟「カリム」の成功に拍手喝采してしまいました… 気持ちヨイ幕引きの作品でした。


『幸運』は、戦争で故郷を追われベルリンに流れ着き娼婦となった女性「イリーナ」の客が突然死してしまい、同棲していた青年「カレ」に殺害、死体遺棄の容疑がかかるというトラブルに巻き込まれる物語、、、

客の死体を目の前にした「イリーナ」は途方に暮れて外出… 外出先から戻った「カレ」は死体を発見し、「イリーナ」が客を殺してしまったと思い込み、死体を解体して公園に埋めてしまう。

「カレ」は殺害者として逮捕され、「イリーナ」を守ろうとして証言を拒否… しかし、「イリーナ」が事情を説明することにより「愛のための死体損壊」として情状酌量を認められ、囚われるのではなく、イリーナとともに国外退去処分となる、、、

死体を解体するシーンでは、おぞましい描写がありましたが… 愛し合う二人が幸運をものにしたラブストーリーして読める作品でした。


『サマータイム』は、お金を稼ぐことを目的に実業家「ボーハイム」と性的関係を持っていた「シュテファニー」がホテルの一室で惨殺されて発見された事件の真相を追う物語、、、

カジノに嵌り借金を抱えた「アッバス」は、返済が滞り命の危険に晒されていた… 恋人「シュテファニー」は、彼のために恋人募集欄に広告を出し、「ボーハイム」と出会い、お金での割り切った関係で密会を続けていた。

その「ボーハイム」との何回目かの密会後、「シュテファニー」は殺害され、容疑は「ボーハイム」に向けられる… ホテル駐車場の監視カメラに残った映像が証拠となると思われたが、カメラの時間が冬時間に設定されており、記録された時間は、実際の時間よりも1時間遅い時間だったことから、「ボーハイム」の容疑は晴れ、逆に「アッバス」が容疑者として浮上する、、、

その後、「ボーハイム」が離婚したことは納得かな… イチバン、ミステリーっぽさが強い作品で愉しめましたね。


『正当防衛』は、駅のホームでネオナチの「レンツベルガー」と「ベック」に絡まれたサラリーマン風の男が、金属バットとナイフで脅された後に反撃し、逆に二人を殺害してしまった物語の顛末を描いた物語、、、

男の行動が正当防衛にあたるかどうかが焦点になるのですが、男は何も喋らず、指紋は登録されておらず、身分証明書も不所持、そして、奇妙なことに靴下や下着に至るまで衣服にメーカー表示がない… 刑事は、男の身元を証明するものが皆無であることと、近辺で発生した明らかなプロの仕業による殺人事件との関連性が疑われることから過剰防衛を主張する。

しかし、男の正体は掴めず、結局は正当防衛が認められる、、、

ネオナチの二人の運命は仕方ないとは思いますが… 不気味さの残る作品でした。


『緑』は、羊の眼球をくり抜く異常な犯罪を執拗に続ける「ノルトエック伯爵家」の息子「フィリップ」が心に抱える病を描いた物語、、、

16歳の少女「ザビーネ」が行方不明となり、彼女が行方不明となる前に一緒に行動していた「フィリップ」に容疑が向けられる… 警察が屋敷を調べたところ「ザビーネ」の写真が見つかり、その写真の眼の部分には穴が開いていた。

「フィリップ」は身柄を拘束されるが、明らかな証拠や遺体は見つからない… 近所の人々から、明らかに犯人扱いされ、「ノルトエック伯爵」にも批判が集中する、、、

「フィリップ」が真犯人だと思い込んでしまう心理状態、精神を病んだ人への偏見や疑惑の眼… 身近でもありそうなことだと思いながら読んだ作品でした。


『棘』は、ちょっとした手違いで配置転換もないままにずっと同じ場所を警備することになった市立古代博物館の警備員「フェルトマイヤー」が徐々に精神を病んで行く姿を描いた物語、、、

同じ場所で警備をしているうちに彫像「棘を抜く少年」に狂おしいほどの興味を持ち続けた「フェルトマイヤー」は、来る日も来る日も、彫像のことを考え続けるうちに精神に変調をきたし、靴に画鋲を入れるいたずらをすることによって、不安感を解消するようになる… やがて、数十年が経ち、定年間近になった「フェルトマイヤー」は、彫像を破壊してしまう。

博物館側は、器物損壊で「フェルトマイヤー」を告訴する予定だったが、人事異動が行われていない事実(手違い)を踏まえ、起訴しないことを決定する… 同じ場所で、長期間単調なことを繰り返すと、自分だって、こうなってしまうのかもなぁ、と感じましたね。


『愛情』は、女性への愛が異常な欲望を生み出し遂に凶事を招いた青年「パトリック」の哀しい心の闇を描いた物語、、、

「パトリック」は、恋人「ニコル」を愛していたが、愛するあまり彼女の背中をナイフで切ってしまう… 「パトリック」は事故と証言するが、実は「愛しすぎているが故に、傷つけてしまう」という衝動に取り憑かれていた。

弁護士はカウンセリングを受けることを勧めたが、「パトリック」は拒否… 弁護士を解任してしまう、、、

そして、数年後、「パトリック」は付き合っていたウェイトレスを殺害してしまう… 「佐川一政」が具体例として出てきましたね。

こういう気持ち、心理状態は理解できないなぁ… 倒錯した異常な愛情表現ですね。


『エチオピアの男』は、ドイツでの不幸な境遇から偶然エチオピアの寒村で幸せを掴んだ男「ミハルカ」の波瀾万丈な人生を描いた物語、、、

「ミハルカ」は、親にも捨てられ、周囲からも阻害されて育ち、酒に溺れるような生活の中で銀行強盗を犯し、エチオピアへと逃亡… そこで、貧しい村に住む人々が、コーヒー農園で収益を上げられるようにし、子供たちに教育を施し、医療を受けられるようにしたことで、村に溶け込み、慕われる存在となり、そして、結婚、子供も授かり、幸せを掴んだかに思われたが、彼の存在を訝しんだ外部の人間により、密入国者と明かされてしまい、銀行強盗を起こしていたことが露呈してドイツへ強制送還される。

彼は数年の刑期を受けることになり、その間も、妻や子供のことをずっと考え、過ごしていた… 仮出所中、彼はすぐにエチオピアの家族のもとに向かいたかったが、渡航費がなく、仕方なく、彼は再び銀行強盗を起こしてしまう、、、

しかし、彼には、逃亡する気力・体力が残っておらず、銀行の前の公園で呆然としているところを逮捕される… だが、彼のエチオピアでの行動が判明したことにより、情状酌量による刑期の短縮が行われ、数年後、「ミハルカ」は同情した周囲の支えにより、エチオピアに永住することができた。

罪って、その人がどう生きてきたかで違ってくるんだろうなぁ… と感じました、、、

人間の善意を改めて信じ直させてくれる物語で、イチバン印象に残る作品でした。


一篇、一篇に味わいがあり、一つひとつの事件には、それぞれ異なる込み入った事情があるんだなぁ… と感じさせる一冊でしたね、、、

他の作品も読んでみたくなりました。

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2022年11月25日

Posted by ブクログ

小説とルポタージュの境目を漂い、不思議な読書感を味わう。

作者は弁護士という職業から見た、様々な刑事事件を小説にしたという。
(守秘義務から実際に担当した内容は用いていないとあとがきにあったけど)
そこには大掛かりな組織犯罪や陰謀もなく、サイコキラーなどの強烈な犯罪もない。
一歩逸れれば誰にでもありうるところから、「少し」異常な犯罪に至る状況を淡々と描くことで、かえってその人物の心情を読み手に想像させる、または、時には読み切れない状態で謎を残す。

読者は、そのあやふやさもまた現実であろうことと、感じとることになる。

日本の裁判判例は、ネットで内容を検索することができる。
かつて、仕事上の必要から、民事事件のいくつかを読み込んだことがあった。
文章構成などに読み慣れて、それほどの苦もなく理解できるようになると、中には「名文」と思えるような「判例」に出会うことがある。

人が生きていくと、そこには必ずドラマがある。
そんなことを思い出した。

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2021年09月30日

Posted by ブクログ

評判通りのすごい短編集だ。
犯罪にいたるまでの経緯を事細かに描写したもの、事後の顛末を描いたもの…どの話も興味深く、かといって興味本位だけで終わらず、何かしら考えさせられる。
犯罪の内容も様々、中にはショッキングなものも出てくるが、最後の「エチオピアの男」のおかげで読後感はいい。

残念ながら誤訳が多いようで、「シーラッハ『犯罪』の誤訳」というサイトで補填しながら読むのがよさそう。
(文庫版ではほとんどが修正されていたが、一部まだ残っている)

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2021年08月03日

Posted by ブクログ

本屋大賞のみならず、各所で評価されているのを見て、これは是非!ということで。実際に自分が扱った案件を元にしたフィクション、ってのが売りみたいだけど、確かにそういう目線で見ると、事実は小説よりも奇なりを地でいくというか、なかなかにゾッとするものがある。背景になった事実の方を知りたい、みたいな気持ちにもさせられる。面白かった。

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2021年06月15日

Posted by ブクログ

同業者の友達に勧められて読む

ベルリンって、こんなに治安が悪いの?と思ったが、いやいや、これはフィクションで、この描写がベルリンの全てではないと思い直す
それでも、ネオナチや移民の存在感は日本では想像できないものだった

著者が弁護士であることもあり、描写が細かく具体的でリアリティがある 被告人に対する視線にも共感が持てる

「弁護人が証人に尋問する場合にもっとも重要なのは、自分が答えを知らない質問は絶対にしないということだ」
そう、分かってはいるんだけど

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2021年03月22日

Posted by ブクログ

「物事は込み入ってることが多い。罪もそういうもののひとつだ」読み始めたら一気読み。犯罪に関わった人たちの人生を語るこの途轍もなく面白い元弁護士による短編集は不思議な気持ちにさせる。弘兼憲史『人間交差点』か安倍夜郎『深夜食堂』みたいな味わいだ。登場人物は様々で極悪人もいれば誠実な人、運が悪いだけの人、精神病の人もいる。実録のようなリアルさだ。気になるのは側から見ると気の毒な人たちの話。極貧の中で育った乞食と立ちんぼの恋と相手を守るための犯罪。愛するがゆえに妻を殺さざるを得なかった老人の気持ち。これはおセンチな話ではない。彼らは刑罰より大事なものを守ろうとした。それを守った時に目的は達成され犯罪はその結果でしかなかった。だから罪を犯した反省もないし無罪や減刑を求める気もない。そこは人生のおまけ部分でしかないのだ。そんな気持ちがよくわかる。そもそも罪人の気持ちを理解しようとするのは嫌いだ。理解すると心が苦しくなるからだ。しかし彼らの気持ちに触れると逆にその枷が無用なもののようなさっぱりした気にさせられる。本屋大賞受賞作。つまらない訳がない

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2020年11月22日

Posted by ブクログ

一生愛しつづけると誓った妻を殺めた老医師。兄を救うため法廷中を騙そうとする犯罪者一家の末っ子。エチオピアの寒村を豊かにした、心やさしき銀行強盗。―魔に魅入られ、世界の不条理に翻弄される犯罪者たち。弁護士の著者が現実の事件に材を得て、異様な罪を犯した人間たちの真実を鮮やかに描き上げた珠玉の連作短篇集。

「コリーニ事件」に続いて、翻訳一作目を読む。うまい。

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2020年06月28日

Posted by ブクログ

11の短編を読み終わった時は、ほとんどの作品が怖かったと思った。殺人の描写がリアルすぎて想像できてしまうからだ。私は、あまりサスペンス系を読まないのでそう感じただけかもしれない。しかし、解説を読んで一気に見方が変わった。細かいところに張り巡らされている作者の文章を描く能力。あっと驚かされた。1番最後のこれはりんごではない。というのがすごく考えさせられる文で、今までこんなような作品はなかったから面白かった。

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2025年11月28日

Posted by ブクログ

弁護士である『私』が出会った11の異様な『犯罪』を通して描かれるのは一見その辺にいるような『普通の人々』がふとしたことをきっかけとしてあっという間に『一線を越えてしまう』姿でありました。重いです。




表紙のおどろおどろしさに惹かれてつい入手して読んでおりました。筆者は現役の弁護士にして祖父はナチ党の幹部で全国青少年最高指導者という肩書きを持ったバルトゥール・フォン・シーラッハという方なのだそうです。

ここに収録されているのは全編が短篇小説で、その調書のような独特の乾いた文体で、『一戦を踏み越えてしまった人々』犯罪者達のありようやその人生を描いていきます。全編を貫くのはある種の『不条理さ』であり、一見、何の変哲も無い普通の人があることをきっかけに犯罪者へと転落していく姿がとてもやるせないものを感じさせてくれました。

そこに展開される哀しさや愛おしさというのはあるのかもしれませんが、やっぱりつらいものがあります。筆者はこういうことにおそらく日常的に接しているのでしょう。だからこういう本を書けたのかもしれませんが…。

『フェーナー氏』では『一生愛し続ける』と誓った妻を殺すという話で、『あれはしゃあないわなぁ…』と読み終えた後に感じておりました。

『タナタ氏の茶碗』はとある日本人実業家の家から街のゴロツキが金庫を盗むところから始まります。被害者は家宝の茶碗を是が非でも取り戻したいとあらゆる手を尽くすのですが…。『ガロテ』というキーワードを久しぶりに聞きました。

『チェロ』は裕福な家に生まれながらも、父親を嫌って家を飛び出し、二人だけで生きようとする姉弟のお話です。事故によって弟に障害が残り、チェロで生きていこうとした姉は…。というお話でこれも切なかったです。

『ハリネズミ』は犯罪一家に生まれた一人の人間が、警察に捕まった兄のためにあらゆる術を使って『無罪』を勝ち取る話です。主人公の末っ子は回りからバカにされていますが、実は驚くほど怜悧な頭脳の持ち主で、彼がそれを駆使する姿は圧巻でした。

『幸運』では戦争から逃れるためにドイツに不法入国し、売春で生計を立てる女性と、その恋人のお話です。『仕事中』に死んでしまった名士の遺体をどのように扱うかで物語が展開されていきます。運命に翻弄される二人が切なかったです。

『サマータイム』は不倫相手の女子大生を殺してしまったということで逮捕されてしまった実業家とその女子大生の彼氏との間で繰り広げられる三角関係を描いたお話で、ちょっとしたボタンの賭け違いが大きなずれになっていくということを実感しました。

『正当防衛』これが正直僕の中では一番好きな話で、電車の中で二人のネオナチに絡まれた男が、彼らを冷徹に殺し、警察に拘留されるという話で、彼は正当防衛を適応を検討するかどうかがミソなのですが、彼には自分を証明するものが一切無く…。そこが気に入らないということで、やきもきする刑事と弁護士である筆者とのやり取りは面白かったです。

『緑』は羊の目を恐れ、羊を殺しては眼球をくりぬくというグロテスクなことを続ける伯爵家の御曹司が主人公で、父親が持ち主の農夫にすでに弁済を済ませていたのですが、近所の少女は行方不明になるというお話です。少年が見つめていたものは…。ラストが少しつらかったです。

『棘』は彫像の『棘を抜く少年』の棘がどうなったか気になって仕方のない博物館警備員のお話で、最後の最後のカタルシスによって彼は救われたのかと未だに首を傾げてしまいます。

『愛情』は愛する女性の背中をナイフで切った青年が主人公で、本人は『事故』だと主張するのですが…。ラストを見て複雑な気持ちになりました。

『エチオピアの男』これはとても感動的なお話で、うまくいかない人生の末に銀行強盗をやらかした男がエチオピアに逃れ、逃亡先の町を豊かにするというお話で、この物語が唯一といっていいくらい『希望』をはっきりと感じさせるラストでございました。

何というのか…。全てのお話は『一筋縄ではいかない』ものばかりですが、よろしければ一読をという表現とどめます…。

※追記
本書は2015年4月3日、東京創元社より『犯罪 (創元推理文庫)』として文庫化されました。

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2025年04月29日

Posted by ブクログ

2010年クライスト賞(ドイツ)
2012年本屋大賞〈翻訳小説部門〉
『このミステリーがすごい!2012年版』海外編第2位
週刊文春2011ミステリーベスト10 海外部門第2位
『ミステリが読みたい!2012年版』海外篇第2位

いわゆるミステリー小説ではなく、様々な「犯罪」の話を刑事事件専門の弁護士である著者が語る11編からなる短編集。
伏線やどんでん返しのようなドキドキする展開はなく、被告人が罪を犯すに至った過程を読み、客観的に罪について考えさせられる。
被告人は善人だったり、精神を病んでいることが多く、ただ犯罪者とくくれない複雑さがある。
やるせない気持ちでちょっと重たい気持ちになった。

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2024年08月30日

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ネタバレ

・あらすじ
刑事事件専門の弁護士である作者が罪を犯した人々を描く短編集。

・感想
シーラッハ3作目なんだけど特徴的な修飾のない平易な文体は読んでると自分が参審員になった気持ちになる。
罪に問えない、問いたくない…物事は全て複雑。
特に好きなのは序、フェーナー氏、棘、エチオピアの男。
最後の「これはリンゴではない」という一文と解説を読んで前編にリンゴが出てるのに気づいた…w

「緑」で最後に「自分の数字は緑」と言うんだけど…これはどういう事なんだろう?
さっぱり意味がわからない…。

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2024年03月02日

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ネタバレ

大好きな本屋大賞、2012年の翻訳小説部門第1位作品、このミス第2位等々、多くの賞の受賞作ということで手にした一冊です。

著者の作品は初読みでしたが、著者がうまいのか、訳者がうまいのか、やはり両者がうまいんでしょう。
※翻訳がうまいと感じたのは「獣どもの街(ジェイムズ・エルロイ)」の田村義進さん以来です。

11の短編は全てが刑事事件の弁護人として罪と犯罪者に向き合います。

1話あたりざっくり20P程度なんですが、なにせ描写がうまい。

特に印象に残ったのは「棘」、精神が崩壊していく様、そしてそこから立ち直るラスト、なるほど。

これってあり得なくないよなぁ...って思いながら、この時の犯罪者の心理って...なるほど、こんな感じなんだ...

ってな感じでサクッと読み終えました。

特に改行の使い方は計算されているなぁと感じた作品。

機会があれば他の作品も手にしてみたいと思います。


説明
内容紹介
【本屋大賞翻訳小説部門第1位】一生愛しつづけると誓った妻を殺めた老医師。兄を救うため法廷中を騙そうとする犯罪者一家の末っ子。エチオピアの寒村を豊かにした、心やさしき銀行強盗。──魔に魅入られ、世界の不条理に翻弄される犯罪者たち。弁護士の著者が現実の事件に材を得て、異様な罪を犯した人間たちの真実を鮮やかに描き上げた珠玉の連作短篇集。2012年本屋大賞「翻訳小説部門」第1位に輝いた傑作! 解説=松山巖
内容(「BOOK」データベースより)
一生愛しつづけると誓った妻を殺めた老医師。兄を救うため法廷中を騙そうとする犯罪者一家の末っ子。エチオピアの寒村を豊かにした、心やさしき銀行強盗。―魔に魅入られ、世界の不条理に翻弄される犯罪者たち。弁護士の著者が現実の事件に材を得て、異様な罪を犯した人間たちの真実を鮮やかに描き上げた珠玉の連作短篇集。2012年本屋大賞「翻訳小説部門」第1位に輝いた傑作!
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
シーラッハ,フェルディナント・フォン
1964年ドイツ、ミュンヘン生まれ。ナチ党全国青少年最高指導者バルドゥール・フォン・シーラッハの孫。1994年からベルリンで刑事事件弁護士として活躍する。デビュー作である『犯罪』が本国でクライスト賞、日本で2012年本屋大賞「翻訳小説部門」第1位を受賞した

酒寄/進一
ドイツ文学翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

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2022年05月04日

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一言で言うと生々しい。

元々海外の刑事ドラマが好きだったので、気になって購入したが、予想以上に生々しく描写されていてショッキングなシーンもあった。

正当防衛、縁、エチオピアの男の話がお気に入り。映画にでもありそうなストーリーと終わり方で個人的に好きでした。

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2022年09月10日

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ネタバレ

面白かった。フィクションということだけど、実体験に基づいている話も多いのでは、特に「エチオピアの男」が実話に近かったら良いな、と思う。
文章もすごく読みやすかった。原文もこんな感じなのかな。見倣いたい。

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2021年05月05日

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11編からなる短編集で、著者は屈指の現役弁護士であるドイツ人。本屋大賞を始めとした複数の文学賞を受賞した今作品は、自身の事務所で扱った事件を元に描かれているそう。いくつか心に残る話があったが最後の「エチオピアの男」に感動した。

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2020年08月26日

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2012年本屋大賞(翻訳小説部門) 1位。全11編からなる短めの短編ミステリー集。全て同じ弁護士が主役。ミステリーといっても謎解き要素は少なく犯罪の裏側の人間模様や背景が焦点。淡々と無駄を省いて選び抜かれた言葉で語られる文体は魅力的。全編にただよう真実に関する曖昧さ妙に心地よいが結末の意味がわからんのも半分ぐらいあってちょっともやっとしすぎってのもある。最後のやつはなんか泣けた。良い話。

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2020年05月24日

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本屋大賞一位ということで、初めて読んだ。
面白かった。

刑事事件専門の弁護士の著者が語る「犯罪」。
罪は、ときに救いようがなく、とんでもなく不可解で、あるいは何がいけなかったのかと、どこで間違えてしまったのかと思うような危うさの上に、淡々と揺るがずにのっかっているというか…
大袈裟な表現もなく、ただ淡々と、嫌悪感も同情もすこし離れたところにおいたまま。
不思議な読後感だった。
味わったことのない、辛いとか甘いとかもはっきりしないような、うま味?のような満足。

「序」にある、著者のおじがいう「物事は込み入っていることが多い。罪もそういうもののひとつだ」という言葉がストンと落ちてくる。


11篇の短編の中では、「フェーナー氏」「幸運」「正当防衛」「エチオピアの男」が良かった。

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2020年05月17日

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弁護士の著作。
犯罪者の心理を、作家視線の感受性で捉えてる、っていう印象。
こういう弁護士に出会えた犯罪者は救われる。
カニバリズムの犯罪者は自ら機会を逃して殺人を犯してしまったけど。

棘、の犯罪者の心理を繊細に描写していて、すごい弁護士!兼、作家さん!って感心した部分がある。

エチオピアの男も救われて、読後感が良かった。

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2020年04月07日

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2019年08月08日

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