窪美澄のレビュー一覧
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心が疲れてしまった人たちを、一軒の喫茶店と一軒のメンタルクリニックが寄り添い、少しずつ癒していく物語。
キラキラした大学生活を頑張りすぎた女性「キャンベルのスープ缶」
自分はADHDではないかと悩み、自己肯定感の低い青年「パイプを持つ少年」
恋愛に依存し、「愛されたい」という思いに囚われる女性「アリスの眠り」
不妊治療を経て高齢出産した後、産後うつに苦しむ女性「エデンの園のエヴァ」
生まれたばかりの子どもを病気で亡くした母親「夜のカフェテラス」
産後うつの末、幼い子どもを置いて家を出てしまった女性「ゆりかご」
こうして箇条書きにすると、どこか創作として整理されすぎた印象を受けるかもしれません。
読み進めるうちに「これは誰にでも起こりうることなのだ」と感じました。どの登場人物にも、自分の心当たりが重なってしまう。思い出すのもつらい記憶がある一方で、「同じように苦しんだ人がいる」という不思議な安心感も覚えました。
以前は「うつは心の風邪」とよく言われました。
誰にでも起こりうるという意味では、その表現は間違っていないのかもしれません。しかし本書を読んで感じたのは、それだけではないということ。苦しんでいる人のそばにいる家族や友人もまた、心をすり減らし、ともに苦しんでしまう。そして、助けたいと思っても、その難しさに直面します。
本書は精神科医の監修のもとで執筆されており、あとがきもその先生が担当されています。そのためか、登場人物たちの心の揺れや回復への歩みには、静かな説得力がありました。 -
Posted by ブクログ
小説宝石に掲載された5篇の連作短編集。
神奈川のハズレにある、古い団地のある町が舞台。
連なっていくのは、今年55歳となる同級生たち。
古い団地に漂う、少し淀んだような空気。
日常に暗部を抱えた彼らが、いや 日常の多くが暗部の彼らが ほんの一瞬だけ光る。
「トワイライトゾーン」
黄昏の境界に埋もれる数学教師。
「蛍光」
小学生の頃の記憶とともに、沼に引き込まれる主婦。
「ルミネッセンス」
これは不倫なのか、自分でもわからなくなり、車の光に引き込まれるような最期を迎える男。
「宵闇」
顔に残った傷のためにいじめを受ける中学生は、暗闇から宵闇へ。
「冥色」
過去から団地へ逃げてきた男は、現実へ戻る。
タイトルは「トワイライトゾーン」「蛍光」「ルミネッセンス」「宵闇」「冥色」と、どれも怪しげな光と闇の色合い。
明るい光ではないですね♪
暗い場所にいる人たちが、一瞬だけぼうっと発光するような光でしょう。
窪さんの小説は、暗めのものが多いから、なかなか評価が上がらないけれど、私は大好きなんです。
みんな、崩れちゃえ! -
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ネタバレどんな小説か、前知識なく読んだ。伊吹有喜さんや古内一絵さんなど、すきな作家さんがいたから。いろんな作家さんの食べることにまつわる短編小説、と思ったし、途中中弛みして、最後まで読まなくてもいいか?と思ったが大間違いで、一番最後の窪美澄さんの作品が大号泣…お母さん、娘、定食屋の聡美さん、だれの立場も、優しく、切なく大号泣…読んでよかった。娘の巣立ちという、ある意味子育てでは成功だけど、空の巣症候群…なるよね、シングルマザーで頑張ってきたら特に。でも自分を変えなきゃ!と思って新しいことに挑戦するのとでよかった。ひいては娘の萌香さんが聡美さんも救った。なんていい話。
一つ前の古内一絵さんもさすが!ザおじさんが主人公だったのには驚いた。
時代遅れな昭和セクハラも、とても素直に自分を振り返り、妻の苦労を分かるおじさん。また、そのお母さん(もっともっとしょうわなのにさすが!)
素直な主人公たちは幸せになれる。 -
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ネタバレ【あらすじ】
人気作家6人による、ほろ苦くて味わい深い「食」と「人生」を描いた短編集。
■収録作
・幸せのカレーライス(伊吹有喜)
雨足が強い中、空腹に耐えきれず入ったお店で――。
・四十歳の栄養(中西智佐乃)
美容室で働く麻美。あまりの忙しさにバランス栄養食品をかじる日々……。
・フレンチと返報性(藤野恵美)
かなは大学で突然、それほど親しくない友人からフランス料理の食事に誘われる。
・二代目のミンチョさん(伊藤朱里)
アイス屋でよく見かける女性は、いつも違う男性と来店していた。
・五十の壁が高すぎる(古内一絵)
よく訪れる店で食事をしたときに、茂樹が感じた異変とは。
・真っ赤な林檎のその上で(窪 美澄)
娘の大学進学を機に一人暮らしとなり、食欲が湧かなくなってしまった。
【個人的な感想】
どの話もそんなにボリュームはないのに、そっと心に寄り添ってくれるような話が多くてほっこりしてたけど、飽きなかった。 -
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ネタバレ「『三人で撮ろうか』
僕がそう言って伯母と梓に声をかけると、母の両脇に二人が立つ。僕は三人の女に向けてシャッターを切った。僕を生かしてくれた女たちだ、と心のなかで思いながら」
DVを繰り返す父とそれから子供達を守ることができない母を持つ主人公、その妹と生まれた直後に捨てられた看護師が過去と向き合い、力強く自分の人生を歩み始める物語
前半の父親のDVの描写が過激で、過去に読んだ石田衣良の「北斗」を思い出した。 北斗は両親に反抗することができなかったけど、本作の主人公は父親に暴力という形ではあるものの立ち向かうことができて良かったと個人的には思う。
あの時に立ち向かったからこそ、より長く伯母と過ごすことができてそれが後々まで主人公の心の支えになり、一つの居場所になったのは大きかったと思う。
主人公と看護師が仲良くなるまでが恋愛ものっぽくて少ししっくりこないところもあったけど、二人のお互いの抱える怒りや憎しみの場面に立ち会うシーンや打ち明けるところは傷ついた人たちの再生の希望の可能性を示すものになるといいなとも思った。
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Posted by ブクログ
まず、タイトルが素晴らしい。
罪悪感や執着、初恋、過去といった、心に抱えた余計なものを手放し、まだ届かないけれど「希望という名の星」に向かって進もうとする強い意志が感じられる。
まさに、この作品のイメージそのものだと思った。
なかでも特に心に響いたのが『湿りの海』
心にぽっかり空いた穴を埋める何かを、人はどうしても求めてしまう。
過去を取り戻すことも、一度受け入れてしまった決定を覆すこともできない。
それでもなお、あの懐かしさの「代わり」を求めてしまう切ない心情が痛いほど伝わってきた。
主人公とは性別も違うのにすっかり感情移入してしまい、読んでいる間は、まるで周囲の音が消えたかのように引き込まれてしまった。
虚構だと頭の片隅でわかっていても、そのまま身を委ねたくなるほどの深い喪失感があった。
続く『星の隨に』では、子ども目線の純粋な愛情がまっすぐに伝わってきた。
表紙で本を読んでいる男の子は、きっとこの作品の主人公なのだろう。
ちょっと心と体が疲れちゃった大人たちに翻弄される物語なのだが、彼らを過剰に糾弾する展開にはならない。
登場人物の誰も突き放さず、みんなに優しい目線を送っている作者の温かい筆致が伝わってきた。
読後の余韻がいつまでも心地よく残る、まさに納得の直木賞受賞作品だった。