★で――でしゃばりたいわ(p.105)
■五つのメモ
・1980年代のできごと。瀬戸大橋は着工はされているがその姿はいまだ海上には現れていない。舞台は備讃瀬戸の「横島」。将来瀬戸大橋の橋脚が立つ島となることが確定している。
・横島には(ある種の)天才建築家十文字和臣が設計し自ら変死した別荘があり、そこに変死事件のあったとき滞在していた者たちが再度集められた。その中に岡山県警捜査一課の若手刑事相馬隆行と女探偵小早川沙樹もいた。二人とも康子夫人の親戚(的なもの)で関係者ではある。
・館は正六角形で中央に螺旋階段があり、螺旋階段の周囲に謎の余白もあるので、いかにも部屋を間違えたり階段部分が回転したり上下したりうっかりニンゲンが落っこちたりしそう。
・当然ながら殺人事件が起こり、当然ながら台風で警察は来られない。閉鎖空間の中で若手刑事とおんな探偵は捜査を始める。まあ、正直、犯人が誰かということ以外はほとんどの人が読みはじめてすぐに解いてしまえるとは思います。
・果たして相馬隆行刑事はおんな探偵小早川沙樹を押し倒すことができるのか!?
■てきとーなメモ
【一行目】十文字和臣の名は岡山では知らない人がいないほど有名であり、岡山以外では知ってる人がいないほど無名である。
【青柳新之助/あおやぎ・しんのすけ】別荘の常駐管理人。
【エンピツ回し】《八十年代におけるもっとも洗練された思索的なポーズのひとつ》p.269
【オーシャンドリーム号】十文字家のクルーザー。
【神山/かみやま】警部。岡山県警捜査一課の大黒柱。
【栗山智治/くりやま・ともはる】フリーライター。雑誌『建築現代』の取材で来ている。
【小早川沙樹/こばやかわ・さき】女探偵。十文字康子の姪。数多くいる十文字家の親戚の中ではかなり近い。美人ではあるようだ。脚線美のモチヌシでもあるようだ。烏賊川市シリーズの朱美さんに近い性格かと。《あたし社会派は苦手なの》p.246
【小早川隆生/こばやかわ・たかお】この巻では登場しないが女探偵と若手刑事の間に生まれる予定の子。ということで若手刑事は無事おんな探偵を押し倒すことに成功したということですね。数十年後に十文字別荘がある島の近くの島で起きた事件を解決する探偵となっている。この時点で十文字邸はほぼ廃墟となって白く輝いていた。二つの事件の間にはなんの関係もない。
【沙樹】→小早川沙樹
【三郎】→十文字三郎
【下津井電鉄】岡山の瀬戸内寄りの出身なので下津井電鉄にはとても馴染みがあります。この本の事件の数年後には廃線になったようです。原風景のひとつではありました。
【十文字和臣/じゅうもんじ・かずおみ】(ある種の)天才建築家。十文字工務店を一代で地元の優良企業に育て上げた立志伝中の人物。経営者としても建築家としても一流。六角形の別荘で死んでいた。
【十文字組】十文字工務店の子会社。和臣直属で彼が作りたい「芸術的な」建築を赤字覚悟で作る会社。赤字分は親会社が広告宣伝費として補填するというプロ野球に似たシステム。和臣の死と共に解体されたがユニークな集団だったようだ。もしかしたら残党が邸にいるかもしれない?
【十文字三郎】和臣と康子の三男。二十七歳。
【十文字信一郎/じゅうもんじ・しんいちろう】和臣と康子の長男。三十六歳。
【十文字正夫/じゅうもんじ・まさお】和臣と康子の次男。三十四歳。優秀な技術者。康子の連れ子なので和臣と血はつながっていない。
【十文字康子/じゅうもんじ・やすこ】和臣の二人目の妻。現在の社長。器としてもなかなかの大物と言えそう。
【信一郎】→十文字信一郎
【瀬戸大橋】完成したら横島は橋脚のある島となる。降りてくる道が作られる予定ではあるが。ぼくが岡山にいた頃はまだ「夢の大橋」とか「夢の架け橋」とか呼ばれており実体はありませんでした。当時は基本的に開発は「善」でした。青柳の考えでは本来「橋」というものは「島」に対して架けられるものであって「島」に奉仕するはずのものだが瀬戸大橋は「島」を足蹴にし「島」に奉仕させ跨いでいく想像外の代物。
【相馬隆行/そうま・たかゆき】岡山県警捜査一課の若手刑事。二十六歳。神山の部下。十文字康子とよくわからないくらい遠い親戚で、プライベートな立場で集まりに参加することになった。だが康子夫人を「おばさん」呼ばわりできる唯一の存在でもある。《あるはずの物が見当たらないのは妖精が隠しているからだ、といいますよ》p.14。
【隆行】→相馬隆行
【テキーラ】世界一陽気な飲み物。
【動機】動機を無視するのは三流だと沙樹は言ったが、たぶん別の機会には動機なんてどうでもいいと言いそうな気がする。
【奈々江】→野々村奈々江
【野々村淑江/ののむら・としえ】県会議員。十文字和臣変死時に邸に滞在していた。
【野々村奈々江/ののむら・ななえ】淑江の娘。高校を卒業したばかり。美人。意外に辛口。「つまり、昼間の紗樹さんはズバリ三流だったわけですね」p.200
【閉鎖空間】隆行は考える。「判らない。いったいなぜ、あんなふうになる? 全員で肩を寄せ合っているほうが、絶対に安全なのは判りきってるというのに。みんなはなぜわざわざ危険なほうを選びたがるんだ? 解せない」p.236
【別荘】(ある種の)天才十文字和臣が横島に建てた六角形四階建ての建物。外観はほとんどラブホテル。メタルカーテンウォールらしく外壁はステンレス製で銀色に輝き屋上には展望室ドームがある(ドームは廊下によって四つに分かれており廊下には屋根がない)。内装は和風旅館のようなしつらえ。中央部分が螺旋階段になっており十文字和臣はそこで墜落死していたが螺旋階段は墜落できるような構造ではなかった。ただいかにも回転したり間違えたりしそうな感じ。螺旋階段の周囲に余計な余白もあるし。屋上の構造もヘンだし展望室としては眺望が良くなさすぎる。建物は数十年後ほぼ廃墟となっている。
【部屋割】一月の事件のときに滞在していた者はそのままの部屋となっている。この手の部屋を間違えやすいタイプの建物では上下が重要やったりするので部屋番号優先でメモ。一号室は、一階が正面玄関、二階が十文字正夫、三階が空室、四階も空室。二号室は、一階が青柳新之助(管理人室)、二階は空室、三階も空室(後に三郎)、四階は小早川沙樹。三号室は、一階が厨房と洗濯室、二階が吉岡俊夫、三階が相馬隆行、四階が野々村奈々江。四号室は、一階が食堂、二階が十文字康子、三階が鷲尾賢蔵、四階が野々村淑江。五号室は、一階が居間、二階が十文字信一郎、三階が栗山智治、四階が図書室。六号室は、一階が応接室、二階が十文字三郎、三階が空室、四階も空室。屋上は六角形の内側に小さく円形に展望室が二つと階段の昇降口と十文字和臣の部屋が十字の通路で四つに区切られており十字の中央点に日時計があり仕掛け感満載。
【正夫】→十文字正夫
【康子】→十文字康子
【横島/よこしま】十文字家の別荘がある備讃瀬戸中の島。いちおう道路があり、車もいる。《なにもない島は、なにもないがゆえに静かで平穏である。》p.21
【吉岡俊夫/よしおか・としお】十文字家の主治医。おしゃれな眼鏡と知的で端正な顔。三十二歳で少し白髪があるのがむしろ魅力的。十文字和臣変死時に邸に滞在していた。
【鷲尾賢蔵/わしお・けんぞう】十文字和臣の右腕と呼ばれた。現在は副社長。実質的には十文字康子に社長の座を奪われた形。