井上ひさしのレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
この作品は物凄く混沌としている様に見えるよう作られている。読みにくいとか余計な脱線があるという意見もあるようだけれど、世の中、世知辛さ、情、抵抗活動、どうにもならないもの、無念、舞台は田舎であるし、秩序でできた煌めく小綺麗な文章でこの独立運動がもし書かれていたら、それは吉里吉里人の話ではない。
現代のコスパタイパ思想に浸かってしまう学生時代に、この作品を読めて良かったが、社会人など時間に追われるようになると、この作品の無駄さ、豊かさなどは、味わうのは難しいかも。
それと政治の諸問題をこんなに分かりやすくした物語は珍しかった。
日本から独立するって話は、昔、村上龍なども書いていたように記憶して -
Posted by ブクログ
いやぁ、とんでもなく面白かったです。一気読みでした。
手紙という形式だけで語られる、様々な人間模様を描いた連作短編小説。意外性やおどろき、そして悲哀やユーモアも交えて語られます。
どの作品もよかったのですが、「鍵」がベストですかね。感情の振れ幅が半端なかったです。それをいえば「葬送歌」も感情があちこちに行って面白かったです。
「赤い手」もすごいです。小説としてはあり得ない形式なのに、そこに記されてある年月日から必死に何かを読み取ろうとしてしまいます。
そしてエピローグです。これは正直、必要あるのかどうか微妙なところですが、これがあるからこその想いというものも存在します。なのでそれを考え -
Posted by ブクログ
死んでしまったあの人のことを思うと自分は幸せになってはいけない という気持ちを本当の本当に理解することはできるだろうか。幸せになっていいかどうかというより、今もうすでに幸せである。
と考えると、被曝体験は想像することもできないくらいの次元の違う悲惨さだっただろうと思った。被曝以前に、自然な老い以外で身近な人と死に別れてしまった経験がない、被災の経験も幸いなことにない。
平和な人生に心から感謝。
この悲惨さを本当の本当に理解できてはいないだろうから難しいしおこがましくもあるけど、どうにか後世に伝えていくことはしないとならない。
こういう本とかに子供と一緒に触れて、一緒に想像する、みたいなことを -
Posted by ブクログ
まさに名人芸のような井上ひさしさんの遺作。素直に面白いと思いました。
本書は「縁切寺」と呼ばれた北鎌倉の東慶寺が舞台。妻の側からの離婚が難しい時代、寺の境内に身につけているものを投げ込めば、駆け込みは成立。そして駆け込み人が東慶寺で24か月過ごせば、夫は絶縁状を書かねばならないというシステム。井上さんは、このシステムを女性のためのアジール(聖域)として「素晴らしい発明」と評しています。井上さんは居を鎌倉に定めていることもあり、東慶寺を愛しているのでしょうね。楽しんで書かれたのがわかる作品となっています。
本書は「オール讀物」に1998年から足かけ11年にわたって連載された全15話をまとめた短