井上ひさしのレビュー一覧
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2000年刊。井上ひさし『パロディ志願』や『風景はなみだにゆすれ』など11冊のエッセイ集(1977-94年)から、自伝的要素の強い33篇を自選。いま読むと、笑いよりも先に、懐かしさが来る。
「昭和二十二年の井伏さん」――井伏鱒二のエッセイによると、昭和30年の春、初めて山形県の「川西町小松といふ物悲しい町」を訪れ、井上という旧家で美術品を見せてもらったという。その旧家は井上ひさしの本家。しかし、ひさしは、その8年前の昭和22年の冬に、本家の障子の隙間越しに、東京から訪ねてきた井伏という有名な小説家を覗き見していた。ふっくらとした丸顔、にこにこしながら盃をゆっくり口に運んでいた。いったいあれはだれだったのか。
「わが人生の時刻表」――Boys, be ambitious! 肝要なのは明るい未来の計画を立てること。東大在学中にイタリア留学、その後下積みをせずに映画監督、そして女優若尾文子と結婚する。数年すると、実現困難とわかり、計画変更、でも最後は若尾と結婚。さらにその数年後、計画はさらに凋むが、最後は若尾と結婚。(仙台の高校時代、若尾は男子生徒みなのマドンナだった。)
「捨て子」――少年時代に世話になった仙台の孤児院。マイケルというカナダ人修道士がいた。子どもを預けに来る親にいつもしつこく説教していた。彼が亡くなった時に、井上はそのしつこい説教のわけを知る。33篇の感動的なラスト。
表紙カバーは、なんと「井上家・若尾家」の結婚式の画。新郎はいかにも井上ひさし、でも新婦は若尾文子には見えない。安野光雅画伯らしいお遊び。 -
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素晴らしい「はじめに」で、さすが、井上ひさし!
今現在、戦争が身近に迫っているような怪しい状況下にあるので、子供のみならず、大人ももう一度、日本国憲法を噛み締めて欲しい。
〈本から〉
はじめに
いまでは信じられないことですが、昭和二0(1945)年の日本人男性の平均寿命は、たしか二三.九歳でした。戦地では兵士たちが戦って死ぬ(あとで分かったのですが、戦死者の三分の二が餓死でした)、内地では空襲で焼かれて死ぬ、病気になれば薬がないので助かる命が助からぬ、栄養不足の母親を持った幼児たちは栄養失調で死ぬ。\そこで大勢が若死にしたのです。女性の平均寿命も、三七.五歳だったはずです。
そんな時代ですから、私たち国民学校生徒も先生たちから、「きみたちも長くは生きられないだろう」と言い聞かされていました。(略)
ところがあの八月一五日を境に、なにもかも変わった。「きみたちは三〇、四〇まで生きていいのです」というのですから、頭の上から重石がとれたようで、しばらく呆としていました。この状態を大人たちは「開放感」というコトバで言い表しておりましたが。
その呆とした気持ちがシャンとなったのは、敗戦の翌年、日本国憲法が発布されたときです。「君たちは長く生きられまい」と悲しそうにしていた先生が、こんどは朗らかな口調で「これから先の生きていく目安が、すべてこの百と三つの条文に書いてあります」とおっしゃった。とりわけ、日本は\もう二度と戦争で自分の言い分を通すことはしないという覚悟に、体がふるえてきました。
二度と武器では戦わない。ーこれは途方もない生き方ではないか。勇気のいる生き方ではないか。
(略)
剣よりも強いものがあって、それを戦わず生きること。そこことを剣豪たちはその生涯の後半で汁が、いま、私たちはそれと同じ境地に立っている。なんて誇らしくて、いい気分なんだろう。
この子どものときの誇らしくていい気分を、なんとか今の子どもたちにも分けてあげたいと思って、私はこの本をてがけました
井上ひさし
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知之介さんのレビューで知った本。
子どものためではなく、自分のために読みました。
法学部出身なので学生時代に学んだ憲法ですが、憲法について考える私も、そして日本も当時と比べるとかなり変化しました。
どなたか国会議員の方にこの本を国会で音読してほしい。
政治家のみならず、全国民にそれを聞いてほしい。
政治的な発信はほとんどしない私ですが、頭の中で常に考えてはいます。他人事としてぼんやりしていると取り返しのつかないことになってしまうと恐れています。
日本国憲法は民定憲法であることに触れ、「民定憲法は、国民から政府への命令書ですから、国や政府の好き勝手は許されません」とありました。
なのになぜ、最近いくつものとても重要なことが国民を置いてけぼりにして決まっていくのでしょう。
30分もあれば読み終えられる本ですが、読んでいる間も読み終えた後も、ずっと考え続けています。
たくさんの方に読んでほしいなと思いました。
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大河ドラマ「べらぼう」の影響で、江戸時代の出版文化等に興味が少し出てきたので、その関連本という位置づけで読んで見た。
登場する戯作者は10人。
鼻山人
半返舎一朱
平秩東作
松亭金水
式亭三馬
唐来参和
恋川春町
山東京伝
芝全交
馬場文耕
鳥亭焉馬
いずれも戯作者として一時は名を馳せながらも、最後は失意の中で人生を終えた人々である。とにかく人を楽しませる、笑わせることに一生をささげた人たちである。
語り口は、十人十色、昔の嫁さんもいれば、友人、弟子などさまざな。いろいろな趣向で楽しませてくれる。
ときに「べらぼう」で活躍した恋川春町を、朋誠堂喜三二に語らせるのは粋な趣向という気がした。
井上ひさしが愛した江戸戯作の世界、これまで全く読んだことがない。これを機会に少しづつ読んで見るかな。
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ネタバレ今年の読み聞かせでは憲法や戦争に関するものを持っていこうと思っておりまして。
今週は憲法関係の絵本を多めに読むつもりです。
表紙はスッキリとしておりますが、中はいわさきちひろさんの優しい絵の絵本と、お話(小学生新聞で小学生にお返事したもの)の二部構成です。
絵本の部分は日本国憲法の全文と9条を小学生にも分かるように優しく噛み砕いてあります。
大人が読んでもすんなり心に入ってきます。
全文と9条に書かれていることは綺麗事だと言われてしまうかもしれない。
でも私はこれを信じて生きていきたいし、末永く守っていきたいと思う。
この国の生き方を決める力は私たち国民だけにある。
心を尽くして話し合い、そして力を合わせるなら、必ず戦はいらなくなる。
と決心した人たちが作った日本国憲法。
よく考え抜かれた言葉こそ、私たちの本当の力なのだ。
そのために、私たちは戦をする力を持たないことにする。
また、国は戦うことができるという立場も認めないことにした。
人間としての勇気を奮い起こしてこの国が続く限りその立場を捨てることにした。
って書いてあるのが第9条。
世界でも平和憲法として有名な9条。
これを読んでね、やっぱり私は今の内閣が憲法改正を声高に叫んでいるのは間違っていると思ったの。
憲法に縛られるのは権力者であり、国民が望んでいない憲法を改正しようとすることは憲法違反の大問題だと思うの。
考えてみて?
今の高市内閣は『心を尽くして話し合』っているの?
『よく考え抜かれた言葉』を使っているの?
そんな風に思えないの。
思い付きでその場しのぎで話しているようにしか見えないの。
5月3日憲法記念日、日本全国95,000の人が憲法集会やデモに立った。
ゴールデンウィークの最中にそれだけの人が動いた。
それだけ危機感を持っている人が大勢いるんだと思った。
私ね今回生まれて初めてデモに参加したの。
サイレントデモだから立ってるだけだけど。
若い女の人が多かった。
ウチと同じように小学生連れて参加してる人もいた。
でもこれさ、混ざるだけでもすんごい勇気がいったの。
だけど黙ってられなかった。
黙ってたけど。
このまま悪い方へ日本が向かっていきそうなのが怖い。
私が過ごしてきたようなポケ〜っと明日を疑うことなく平和に暮らせる毎日を娘たちに残したいだけ。
それだけのために、神社に行っても神棚にもお墓でも手を合わせる時は世界平和だけを祈ってる。
私は右でも左でもない。
むしろ右とか左とかなんなん?って思ってる。
政治の話なんかしたくない。
楽しいことだけ考えてたい。
でも当たり前にあった日本国憲法が改悪されそうなのを黙ってみてるわけにはいかない。
憲法に書いてあることをこの憲法を作った人たちの想いを子供達にも知ってほしい。
と思う人はきっと私だけじゃないから、こんなに憲法に関する絵本があるんだろう。
(絵本の部分まで読んで9分半)
2026.夏中2、中1 -
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書簡小説の短編集です。
その中に忘れられないお話があります。
お役所や学校などに出す届出の書類だけで綴られた前沢 良子(まえさわ りょうこ)さんという女性の一生のお話です。「赤い手」というお話です。
1 出生届
2 死亡届
3 死亡診断書
良子さんは昭和20年4月1日に千葉県市川市で私生児として生まれます。お母さんは出産の際に亡くなりました。
4 転入届
良子さんは生まれて半年で仙台市のキリスト教系孤児院に引き取られます。
5 欠席届
良子さんは冬には両手両足に赤切れができるたちで、ズック靴がはけなくて学校に行けませんでした。小6の冬でした。皆勤賞を逃しました。
6 洗礼証明書
14才の夏、洗礼を受けました。
7 修学旅行不参加届
修道女になる望みを持って特別に高校進学させてもらいましたが、園の他の子が行けないのに自分だけ修学旅行には行けないと言って、クラスメイトがお金を出してくれたのに参加を断りました。
8 転籍届
9 一年志願修道女誓願書
10ニ年志願修道女誓願書
11三年志願修道女誓願書
18歳の誕生日、女子修道会に入ります。
12 婚姻届
13 妊娠届出書
14 罹火災証明願
15 罹火災証明書
16 死産証書
17 死胎火葬許可申請書
18 家出人捜索願
19 誓約書
20 始末書
21 死亡届
22 死亡検案書
23 死体火葬許可申請書
24 起訴状
12番から24番までの書面の名前から良子さんに何が起こったか想像できますか?
23歳の2月、三年間の誓願が切れる前に良子さんは修道会を飛び出し、ある男性と結婚します。
そして妊娠、アパートの火事、2階の窓から飛び降りて授かった子を死産、夫の家出、キャバレーへの就職、アパートへの男性の連れ込み、飲酒運転の自動車にはねられて。。。
享年28歳。運転手は起訴されました。
25 そして手紙
良子さんが車にはねられた場所は修道会の前の市道でした。亡くなった良子さんは一通の手紙を携えていました。
そこに綴られていたのは。。。
淡々と事実が記載されているだけの書面の奥には、人の人生があるのです。
人生って何? と思わせてくれる作品でした。
古い作品ですが、心よりオススメします♡
書面の一行一行を噛みしめてお読みください
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1977年から78年に連載されたもの。時代設定は応じて古いが、世代的には十分理解できる程度の古さ。13篇すべて手紙の形式のみで綴られる小説。(一部、手紙ではなく、公文書や戯曲だったりするが、ほぼ書簡形式)
多くは、ミステリーの要素を含むどんでん返しで、エピローグではほぼ全ての登場人物が登場して、連作短篇のテイストも楽しめる。
井上ひさしさんがこういう作品をものするひととはつゆ知らず、たまたま手に取った本だったけれど、大当たりといって良いのではないだろうか。
全作品ハズレなしだったが、1番面白かったのは、「ペンフレンド」。オチも秀逸だし、オチを知ってなお知らぬふりをする本宮弘子のしたたかさに唸った。 -
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1984年刊。
谷崎、志賀、川端、三島、野間、鶴見、丸谷……。井上ひさしがいろんな文章読本を読みながら、文章について考える。いわばメタ文章読本。
随所で出てくるのは、格調の高い文章を重んずる三島由紀夫。メインターゲットはこの読本。たとえばオノマトペ。三島は、鷗外がオノマトペを極力使わなかったので、文章が格調高いものになったと主張するのだが、井上は鷗外が効果的にオノマトペを使っている例をいくつもあげている。
認識や記憶のプロセス、注意容量、短期記憶のスパンなどの点から、文章を考察している章はみごと。当時の専門的な研究者(認知心理学者)でも、ここまでわかりよくは書けないかも。
丸谷才一の文章読本には詳しく触れてはいないが、ベタ褒めしている。