井上ひさしのレビュー一覧
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ネタバレ手紙形式で綴られた12の短編からなる連作小説です。各話は独立していますが、最終章で登場人物たちが交錯し、全体として巧妙な構成が明らかになります。以下、各短編の詳細なあらすじを紹介します。
1.プロローグ:悪魔:上京した柏木幸子は、就職先の社長・船山太一と不倫関係に陥ります。彼の「妻と別れる」という言葉を信じていましたが、それが嘘であると知り、絶望の末、社長の娘を殺害してしまいます。拘置所からの最後の手紙で、彼女の悲劇的な運命が描かれます。
2.葬送歌:劇作家志望の女子大生・小林文子は、自作の脚本を恩師の中野慶一郎に送り、批評を求めます。しかし、彼からの返信には意外な事実が綴られており、彼女の -
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手紙など書物媒体が使われた短編小説の傑作。
そして小説特有のあざとさを極力排除した作品でもある。結末を違う形に脚色すればもっとドラマティックなストーリーが期待できるのをあえて素っ気なく終わらせる(もちろん意外な結末の作品もある)ことで、その演出により物足りなさよりも現実世界の有り様を淡々と提示する、人生ってこんなモノというリアリティ効果をもたらすことにも成功している。さらに、プロローグと呼応したラストの短編は各短編の主な登場人物たちが一堂に会するという趣向も素晴らしい。
そして最後まで読んで、各短編でのあざとさの排除は、実はエピローグで出てくる登場人物たちのその後を示唆するためだったのがわかる -
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情報小説
三読目。日本SF大賞受賞。
小説全体、たいへん下世話で、下ネタが苦手なひとは読まないほうがいい。とにかく性器、性行を連想させる下ネタばかり。下ネタ大好き中学生ならぐいぐい読める。
ストーリー展開が奔放でめっぽうおもしろい。東北から吉里吉里国が独立するのだが、そのための切札をたくさん控へてゐる。その説明で蘊蓄の渋滞だが、とにかく説得力が高い。おれにでも分離独立できるのではないか、と感じ入ってしまふ。
中巻でケイコ木下が出てきたあたりから、すこしダレてくる。
ところどころ、都合よく進展させるために、古橋といふこの単純な人物造形にしたのだらうと気づいた。
比喩は下手。この -
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文庫本(三部作)に改訂する前の単行本で読んだ。
読みはじめ、何度も「何でこんなのを読まなければならないのか」の自問に襲われ、エンジンをかけるのに手こずった。
この作品は壮大な構想のもとで、奇想天外・パロディ・下ネタエロ・ダジャレ・ギャグ・ユーモア・類語反対語羅列‥‥冗談のようなノリの文章が延々と続き、常識をひっくり返しまとめ上げたユートピア創造の長編小説である。話題の事柄や背景を克明に説明し作者の洽覧深識をこれでもかと描く。一国独立の法的根拠などいろいろなことをよく調べその描写がとにかく長い。読んでるのが馬鹿らしくなり、ついていくのを止めようと思う。読者の許容範囲の限界ギリギリを挑発し、楽しん -
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▼中高生の頃、というと1980年代だったんですが。携帯以前、そして書籍界的には「BOOKOFF以前」だったあの頃、首都圏郊外の小さな「駅前本屋さん」の文庫本コーナーに文字通り日参していました。毎日買うわけではなく、毎日のように文庫本コーナーで、文庫本の「背表紙の紹介文」をとっかえひっかえ読む。割と毎日のように読む。当然ながら同じものを何度も読む。そうやって気になったものをやがて買う。同じような思い出がある人は、この世代には多いはず。
▼そんな時期によく井上ひさしさんを読んでいました。そして、この本はその頃からのお付き合いで、なんだけどなんとなくご縁がなく未読だったグループの一員。幾星霜を経て