井上ひさしのレビュー一覧
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ネタバレ演劇も映画も通ったことがないのに、戯曲から入るのはアリなのか…?と思いながらも読み始めてみたら、やっぱり面白かった
世界でたった2つ、原爆が落とされた地、広島と長崎
今作は広島に住み、原爆ですべての身寄りを失った若い女性、美津江に焦点を当てている。
美津江が親友・父を失った時の記憶を語る場面では、やはり原爆の本当の苦しみは経験した人にしかわからないのだろうなぁと、戦争を自分と遠いものにしてしまいそうになったが、恋に落ちてしまい葛藤する美津江と、そんな美津江を優しく見守りながらも応援する父・竹造の広島弁でのやりとりが温かく、物語に入り込むことができた。
作者あとがきと解説にあるように、竹造 -
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離婚を望む女が駆け込む寺での様々な事情を描く短編連作集。駆け込み寺、三行半などの言葉は知っていてもこのような寺が実在することすら知らなかったので、これは作者の創作された設定かもと思うほどよくできている仕組みだなぁと。中盤くらいまでは面白く読み進めたが、後半は話の筋立てにやや無理があったりで長く感じるものもあった。主人公が医者の心得があり、小説を書くという設定かもを活かした章をもっと読みたかった。作中で書いた本は結局どうなったのだろうか。東慶寺とは関係なく主人公の話を読みたい気持ちになる。
巻末の「東慶寺とは何だったのか」も中々興味深く読ませていただきました。やはり女性は働き者で強いですね。 -
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本書は、日本語そのものを学ぼうというのではありません。
井上ひさしが考える、日本語の現状をさらっと把握して、「日本語とはどういう言語か」ということを考える書です。
気になったことは以下です。
・15歳を過ぎるとどんな言葉も覚えることができない
・母語は道具ではない、精神そのものである
・日本は、いつもそうです。世界で一番強い文明を勉強します。中国そして、欧州、戦後はアメリカです。
・日本には、自分の住んでいるところは大したことなくて、優れたものは他にあるという、そういう精神構造はいまだにあります。
・たいへん便利で、大きな文明が入ってくると、そこにもとからあったものはなくなっていって、大き -
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井上ひさしの長篇小説『一週間』を読みました。
『東慶寺花だより』、『モッキンポット師の後始末』、『イソップ株式会社』に続き、井上ひさしの作品です。
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最後の長編小説。
昭和21年、ハバロフスクの収容所。
ある日本人捕虜の、いちばん長い一週間。
『吉里吉里人』に比肩する面白さ!
昭和21年早春、満洲の黒河で極東赤軍の捕虜となった小松修吉は、ハバロフスクの捕虜収容所に移送される。
脱走に失敗した元軍医・入江一郎の手記をまとめるよう命じられた小松は、若き日のレーニンの手紙を入江から秘かに手に入れる。
それは、レーニンの裏切りと革命の堕落を明らかにする -
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井上ひさしの連作時代小説『東慶寺花だより』を読みました。
ここのところ、時代小説が続いています… 井上ひさしの作品は、6~7年前に読んだ『井上ひさしの日本語相談』以来なので久し振りですね。
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江戸の離婚は現代の二倍?
寺の境内に身につけているものを投げ込めば、駆け込みは成立する――。
離婚をのぞみ、寺に駆け込む女たち。
夫婦のもめ事を解きほぐすと現れるのは、経済事情、まさかの思惑、そして人情の切なさ、温かさ。
鎌倉の四季を背景にふっくらと描かれる、笑いと涙の傑作時代連作集。
十年の歳月をかけて書きつむいだ感動の遺作。
著者自身による特別講義を巻 -
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ネタバレ戦争で自分だけが生き残ってしまった娘の心中の葛藤が綺麗に文章によって著されていた。一人二役だが、そうに見えない。麦湯のシーンなど所々に垣間見える、父がこの世に居ないと表現する描写がとても良かった。
1人の娘としての幸せをつかみたいという希望が、父となって現れ、罪悪感に苦しむ娘を幸せに導いていく。しかし、最終的には父が娘との最期の別れのシーンをを語った。死者しか持ち得ない記憶を娘と語るこのシーンから、父は唯の娘の願望の擬人化ではなく、あの日原爆で亡くなった人々の思い出を含んでいたことが分かった。
原爆の苦しみ、取り残されたものの葛藤、死者との別れ様々な物が取り込まれ最後に綺麗に纏まって終わってい -
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最初の方はくだらない作品かと思って読んでいたけど、後半は結構良いことが書かれていた。
人は地位や名誉やお金に恵まれると、本当の自分がわからなくなる。だからブンはそういったものを盗んだと書いてあり、確かにそうだなと思いました。
お金がなくても、良い地位じゃなくても、本来の自分はあるはずで、楽しく日々を送れるはずです。子供の頃の私達がそうであったかのように。社会に出るとどうしてもお金とか地位とか名誉に目がいってしまいます。
30年前にこのような子供も読める小説の中で上記のことが書かれていることに衝撃を受けました。
大人も子供も読むべき本。特に今のこの世の中を生きる人達に読んで欲しいです。 -
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ネタバレ日本語教室
著者:井上ひさし
発行:2011年3月20日
新潮新書
2001年、当時、最も正しい日本語を使う作家とされていた井上ひさしが、母校の上智大学で4回にわたって日本語について講演したものを書き起こしてまとめた新書。軽いタッチで非常に充実した、しかも誰しもが興味津々となる内容でした。
著者が手書きで思いつくままにまとめた現在の日本語成立過程の図は圧巻でした。仙台一高出身の著者、縄文時代の標準語は東北弁だった、と主張。
主格を示す格助詞「は」と「が」の使い分けについても、我々が教えられた常識とは違うことで結論づけていて、誠に勉強になりました。
外来語の問題点
再生、改良、仕 -
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柳田国男の『遠野物語』とどれほど対応しているのかはわからない。
でも、河童や沼の主のウナギが登場したり、馬と人間の娘の恋など、多くの話が下敷きになっているのだろう。
大学を休学し、故郷近くの釜石の国立療養所で働く青年を視点人物に、山で出会った犬伏老人から怪異譚を聞くという設定になっている。
老人はいったい何者なのかという謎解きが、個々の怪異譚をくるむように配される。
老人の体験談として語られるため、東北の嘗めてきたつらい歴史も織り込まれている。
たとえば昭和恐慌で、多くの娘たちが身売りされたこと。
鉱山での恐ろしい労働。
私たち読者は、怪異譚を楽しみつつも、そんな悲しい歴史にも思いをはせる