あらすじ
東京の或る交響楽団の主席トランペット奏者だったという犬伏太吉老人は、現在、岩手県は遠野山中の岩屋に住まっており、入学したばかりの大学を休学して、遠野近在の国立療養所でアルバイトをしている“ぼく”に、腹の皮がよじれるほど奇天烈な話を語ってきかせた……。“遠野”に限りない愛着を寄せる鬼才が、柳田国男の名著『遠野物語』の世界に挑戦する、現代の怪異譚9話。
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
遠野旅行をした折、土産店で本書を購入。安野光雅のカバー画もよい。
旅を終えてからも遠野の箱庭的魅力をじんわり味わえる、いい物語。「新釈」というのは言い得て妙で、遠野物語を下敷きにしつつもまっさらの物語世界を構築していて夢中で読んでしまった。
際どいお話ばかりなので(1話目がいきなり下ネタオチで、こりゃあすごいなと思ったら回を重ねるごとにそのすごみが増して、二重に驚いてしまった)、お子様にはあまり勧められないが、遠野で語り継がれていた民話も本来はこれくらい生々しいものだったのだろう。エリート官僚・柳田國男の味付けで文学性が増し、今は子ども向け絵本も出ているくらいだが。
遠野物語の中では私はオシラサマ伝説がいちばん凄みというか深みを感じて、文字として記録されている以外の秘密があったのではと感じたけど、井上ひさしもそうだったのだろうか。本書でも馬との悲恋を題材にしたお話がもっとも印象深かった。
ところでオシラサマは、遠野の女子どもの間で主に行われてきた風習(?年間行事?)だという。厳しい村の暮らしで男に頼るしかなかった悲しさややるせなさ、絶望のなかの仄かな希望、ささやかなロマンなどを反映したものだったのかなと思う。そして女子ども間の秘め事である故に、佐々木喜善や柳田國男が汲み取りきれず、井上ひさしもつかみきれず、その全貌が明らかにされていない気がする。これを題材に女性作家が物語を書いたらどうなるだろう……?と夢想してしまう。
Posted by ブクログ
井上ひさしの代表作ともいえる連作小説集。たぶん、新潮文庫の百冊にも入っていたような記憶がある。
収録されているのは、「鍋の中」「川上の家」「雉子娘」「冷し馬」「狐つきおよね」「笛吹峠の話売り」「水面の影」「鰻と赤飯」「狐穴」の9編。
民俗学者柳田國男が書いた「遠野物語」の中に収録されている伝説や昔話を、井上ひさし流に新たな話として現代に蘇らせたものである。
どこか聞いたことのあるような親しみのある話が、笑い話や怖い話、不思議な話と生まれ変わっている。
この本を最初に読んだのは、高校生ぐらいの時、それから何度も読み返しているし、本自体2冊目になっている。
ストーリーもあらかたわかっているのにもかかわらず何度も読めてしまうのは、井上ひさしの冗長なぐらいのと言いつつもテンポの良い、独特の文体に引き寄せられてしまうところがあるのかもしれない。
また、話のいくつかは、艶っぽい女性が出てくる(これも井上ひさしらしいが)。こういう大人の女性は、歳を経ないとわからない所があるよね。(まあ、今になってもわかっているとはいいがたいが・・・。)
こういった所も何回も読める所なのかもしれない。
もとになっている話も、何処かで聞いたことがあるよなあと思う話が料理されているのでその事もあるのだろう。
この本は1976年に筑摩書房から単行本が出版され
1980年に文庫化されている。
思ったより出版が古いなあ。(笑)
Posted by ブクログ
軽快な語り口。巧妙なプロット。読後に味わう悲哀。東北の山水とそこに生きる人びとの奇譚。いずれも印象深い話だった。川での生死をめぐる話『川上の家』と『鰻と赤飯』の余韻は忘れがたいものだ。
Posted by ブクログ
遠野物語をもとにしたと思われる短編集。これはおもしろい。
遠野物語の原作を読んだことがないので、どのくらい原作に忠実なのかわからないけど、どこか胡散臭い犬伏老人の語る話は幻想的な話や怪奇的な話などバリエーション豊かでテンポがよく、ハズレ無しの面白さ。
最終話でキッチリとオチまでつけてくれる丁寧さで、大満足の一冊でした。
Posted by ブクログ
遠野近在の国立療養所でアルバイトをしている“ぼく”は、その山中に住む犬伏老人に出会う。老人は“ぼく”に、遠野に伝わる奇天烈な話の数々を語って聞かせた。柳田國男の名著「遠野物語」を井上ひさし氏が新釈したもう一つの「遠野物語」。
話し上手な犬伏老人のインチキ話の数々に、誇大癖のある“ぼく”は当初疑心暗鬼になりながらも暇つぶしと思って話を聞き入るが、しだいに“ぼく”は老人に次の話を乞い始める。老人が語る9つの話は、木々や動物といった遠野の美しい自然を背景に今も昔も変わらない人間の滑稽な姿を浮彫にする。印象的だったのは「雉子娘」「笛吹峠の話売り」、そして最後の「狐穴」。
後悔先に立たずなオチはどれも秀逸で、読んでいる方は自分自身も話の登場人物のようにラストで途方に暮れるが、それがまた不思議と心地いい。「やられた」の一言。
Posted by ブクログ
誇大癖のある"ぼく"と、語り部である
いんちき臭い犬伏老人が「遠野物語」の序文に
なぞらえつつ紹介され、つるりと始まる物語。
山の緑の稜線に重なる白い夏雲。
世界が反転するような不思議で美しい
桜の花びらほどの大きな雪の舞う景色。
美しい描写にうっとりしながら、
老人の話す怪異に夢中になりページをめくると、
それはいつしか艶っぽい話、悲しい恋の話、
残酷な話、悲しく面妖な話へと様変わりしていく。
本家遠野の話を小さな骨組みとして
話は隆々と肉をつけ、種を知っているはずの
手品が鮮やかに趣向が変わり、感嘆し、
最後には井上氏の愉しい試みに口角が上がる。
遠野とどこかしら地続きでありながらも、
延長線上のオマージュに留まらず、
再構築され生まれ変わる遠野。
"ぼく"となった聞き手の私は
犬伏老人の話を心の底から楽しみ魅了される。
見事な筆致にまさしく、どんとはれ!!
Posted by ブクログ
久々に手に取り読みました。
もともとは柳田国男が遠野地方にまつわる民話・伝説を集めたものですが、これは何度読んでも、不思議な気分にさせられる本です。
Posted by ブクログ
goole mapとwikipediaを見れば、だいたいのことは分かってしまう世の中だけど、それが完全に思い込みであることを教えてくれる1冊。
目の前にいる人は、人間なのか、獣の類なのか。
ここからあそこへは、近いのか、遠いのか。
全ては、やってみなきゃ分からないんだ。
Posted by ブクログ
「遠野物語」は柳田国男が佐々木鏡石から聞いた遠野地方にまつわる民話・伝説を集めたもの。
本書は、その「遠野物語」にインスパイアされた物語。
「犬伏」という名の老人から聞いた物語を「ぼく」が書きとめた、という設定。
「遠野物語」は語る側も聞く側も誠実な人物だったが、「新釈遠野物語」では語る側は、いんちき臭く、聞く側は誇張癖がある、という事になっている。
犬伏老人が語る物語は、山の民、動物、妖怪、人間が対等な立場で関わりあう。全て犬伏老人が関わった話ばかりで、なぜ、こんなに怪異に関わるのか、とツッコミを入れたくなるほどだが、それは最後の物語で全て分かる趣向になっている。
怪異の物語ではあるが、どこか懐かしい感じもする。
夏祭りの夜、人通りの少ない裏通りに入ってしまったような、
すぐ近くに「普通」の世界があるにも関わらず、少しだけ異なる「異世界」に踏み込んでしまったような、
「大人向け日本昔話」
と言ってしまってもいいかもしれない。
Posted by ブクログ
初めて読んだのは高校生の頃だったか。。
その後、時折、読み直してしまい、結局何度読み直したことか。
読み直すたびに、気付かされることがある。
「笛吹き峠の話売り」が一番好き。
Posted by ブクログ
じわりとした恐怖や、じわりとにやり。
遠野の世界は、こんなところ?
恥ずかしながら柳田国男を読んでいませんが、井上さんならではの優しさも、きっと込められているのだろうなぁと思いながら読みました。
Posted by ブクログ
言うまでもなく柳田國男の『遠野物語』へのオマージュですが、元本よりはるかに面白いです。というか全くの別ものです。
もう本当にこの人は天才です。稀代の作家です。
いろんな話がある中でも特に河童の話が好きでした。
『吉里吉里人』とか長すぎて手に取れない人は、この薄い本から読み始めるといいと思います。
Posted by ブクログ
子供向けの遠野物語を読み民話や伝承の魅力を改めて感じ、評価の高かった井上ひさしの新釈を手に取る。丁寧に編まれた方9つの短編は最後までしっかり読者を楽しませてくれる。物語を読んだ、という深い満足感を味わえる一冊。
物語は入れ子構造式に展開しており、作中ではある老人が時に本家の遠野物語について触れながら彼の経験した不可思議な出来事が語られている。
読みすすめていくと時に沼地に足を踏み入れたような、狐につままれているような不思議な感覚に襲われるが、最終的には世界というのは本来こういうものかもしれない、、と妙に納得して全てをそのまま受け止めてしまえる。
物語の世界と自分の世界の境界が曖昧になっていく感覚がとても心地良い。
あっという間に東北の仄暗い御伽話の世界に誘われ、井上ひさし氏の力量の高さを改めて実感した。
Posted by ブクログ
どの話にも民話らしい仄暗さや余韻がある。
狐や河童だけでなく、『雉も鳴かずば撃たれまい』『岩魚の怪』などの大胆な翻案も。
解説にもあったが、『遠野物語』にはない入れ子構造がとられているのも面白い。この本の語り手の「ぼく」と物語の語り手の「犬伏老人」との関係性がタテ軸になることで、単なる短編集ではない連続ドラマとしても楽しめる。
Posted by ブクログ
岩手旅行に行くので遠野物語を読もうと思い立った。中学生のころ、言葉遣いが難しく挫折した遠野物語。まずはライトなものを、と探していたら見つけた本書。オシラサマや河童の話を作家が煮詰めるとこうなるのか!と思った以上に面白い。
著者は実際に釜石療養所で働いていたようで、それだからか、本当に語られている昔話のようなリアルさがあった。
Posted by ブクログ
遠野物語は柳田国男の原作に限る。現代語訳や京極夏彦が脚色したものも読んだが、正直つまらない。遠野物語の迫力は柳田の文体により作られたものといえよう。
ただ、この新釈遠野物語は別物で、面白い。遠野物語の原作をそのまま使っているのではなく、材料をうまく戦後まもなくの時代に落とし込んでいる。遠野物語を読んだことのある人なら、ああ、あの話か、と分かる。このころまでは、柳田の遠野物語と地続きだったのだろう。
Posted by ブクログ
柳田国男の『遠野物語』とどれほど対応しているのかはわからない。
でも、河童や沼の主のウナギが登場したり、馬と人間の娘の恋など、多くの話が下敷きになっているのだろう。
大学を休学し、故郷近くの釜石の国立療養所で働く青年を視点人物に、山で出会った犬伏老人から怪異譚を聞くという設定になっている。
老人はいったい何者なのかという謎解きが、個々の怪異譚をくるむように配される。
老人の体験談として語られるため、東北の嘗めてきたつらい歴史も織り込まれている。
たとえば昭和恐慌で、多くの娘たちが身売りされたこと。
鉱山での恐ろしい労働。
私たち読者は、怪異譚を楽しみつつも、そんな悲しい歴史にも思いをはせることになる。
本作の特徴は、地形が目の前に見えてくるかのような描写だろうか。
昔、地理学を専攻する先輩が、村上春樹を読むと、その土地が目に浮かんでくると言っていた。
へえ、専門家(事実、彼は現在大学の教員になっている)は違うものだなあ、と思ったものだ。
本作は、シロートたる私が読んでも、土地のありさまが想像できた。
これを彼が読んだら、どう読むのだろう?
Posted by ブクログ
遠野物語を下敷きにした物語集。筋はどれも陰惨にして哀切、だけども次が読みたくなる面白さがある。
一発目が夢オチなのでオチもなんとなく想像できてしまうが、読後感はスッキリ爽やか。
Posted by ブクログ
柳田国男の遠野物語は昔読んだことあってなんか不思議な物語だなぁ、と思った記憶があった。中途半端なところで物語が終わったり、話のつながりがなかったりしたところにそんなイメージを持ったのだと思う。
それから、10年以上経って再び本を読み始めると、いたるところで柳田国男と遠野物語の名前を見るようになった。これはもう一度読まねばと思っていた時に、ちょうどハマっていた井上ひさしさんの「新釈」バージョンを見つけたので思わず手に取った。
最初の感想としては、柳田国男の作品より読みやすい、という物であった。山奥の病院でバイトをしている僕に山伏老人が話を聞かせるという体で物語が進んでいくため、なんとなく全体的につながりがあるように感じた。絶妙なところで山伏老人がお茶を飲んだりキセルをふかしたりするためこちらも飽きずに話にのめりこめる。
また、これは扇田さんの解説を読んで思ったことだが、柳田国男が遠野に伝わる口語物語をまとめたのは、民俗学的に素晴らしいことだが、一部口語によって伝わったという文化が結果的になくなってしまった。(確かこんな感じの事だった)と書かれていたのが印象的だった。その点、この新釈遠野物語は、話を語って聞かせるという体で物語が進むため、口語という文化に折しも本を読んで触れられた。
ただ、幾人もの作家を引きつけてやまない遠野物語の魅力が私はまだ実感できない。だから、これからも遠野関係の本を読んでいきたいと思う。
Posted by ブクログ
肩肘張らずに読めて面白かったです。遠野物語をベースにしつつパロディではない。これは確かに「新釈」だなぁと妙に納得しました。柳田国男が読んだら、大喜びするんじゃなかろうか。
Posted by ブクログ
面白かった。
遠野物語自体はまだ読んでないが今度読んでみようと思う。
犬伏老人から語られる話はどれも興味深く主人公が夢中になるのもわかる。まあ割と血生臭い話も多いが。
途中時系列が合わないなとか老人についての謎が芽生えてきたところ、ラストで全部腑に落ちて「そりゃそうかー!」ってなった瞬間すっきり。
Posted by ブクログ
遠野物語をベースにしつつ、昭和28年頃に、山中に住む不思議な山男から聞いた話として、複数の小話が綴られている。
東北で語り継がれてきたであろう話がベースになっているものと思うが、一昔前の東北地方で苦しい生活を送っていた人たちの様子や、人間と動物の情愛など不思議な話が多く、変な話だと思いつつも、なぜか引き込まれて一気に読んでしまった。
Posted by ブクログ
「遠野物語」のパロディかと思って読み始めたが違った。そこに下地はあるものの独創的なファンタジーである。山の神、精霊、河童、狐付き。都市では失われた自然との交歓をユーモアたっぷりに語ってくれる。2021.2.4
Posted by ブクログ
井上ひさしの本をそういえばあんまり読んだことないな、と思って手に取る。昔話や妖怪の出てくる話。元ネタの、遠野物語を読みたくなる。
落語でも狸や狐に騙された小咄というのはよく出てくるけど、その感じととてもよく似ていて、既視感があったので少し評価は低めに。
里山や村などの自然と近い生活感が感じられるところがよかった。ちょっと自然に近い気持ちになれる。
短い話が続くので、気分転換したいとき、旅のお供におすすめ。小説も、ある意味では化かし合いだなあと思ったり、霞のかかったような本でした。表紙が可愛い。
Posted by ブクログ
タイトルに「遠野物語」が入っているからという先入観入りまくりで最初の話を読んでしまったので
最後に「ええー;」という感じに(笑)
でもオチまではどきどきしながら楽しく読めました。
他の作品も断言しない、言い切らない良さと
善と悪で容易に分けない良さがあり、
ただただ切ない話もあり…
特に妻の話の切ない事と言ったら…!
と 思っていたのに
最後の話を読んでまた「ええー;」という感じで終わるという(爆)
とても面白い一冊でした。
10年後くらいにもう1度読みたい一冊。
Posted by ブクログ
柳田国男の「遠野物語」を下敷きにして井上ひさし版の民話を9話収録している。作者自身であろうと思われる、大学休学中の「ぼく」が、遠野と釜石の間にある療養所で働く内に山にすむ犬伏老人と出会い、民話を聞くという筋立てだ。柳田版に比べれば格段に読み易いが、なにかやはりおどろおどろしい雰囲気は否めない。井上ひさしの文章だから読めるという感じで、他の人ならかなり怖い話である。
Posted by ブクログ
〈メモ〉とても上手く出来ている。
切なくなる物語もちらほら。
「遠野物語」を物語化・立体化し、ユーモアを加えた作品。解説が良い。
また読みたい。特に解説。