記録によれば「戦後経済史」というこの本の著者・野口氏の本を2017年に読んでいます。彼は2015年のデータを基に書いていますが、それから10年経過してからの改訂本になります。この10年間で日本の経済的地位が低下してしまったことを明確なデータで示しています。失望的なデータを示すだけでなく、その原因(中国の工業化・IT革命への対応遅れ)であり、人口減少以外の点を示しています。
日本はこの30年間経済的地位を低下させ続けてきました、失望するデータが並んでいますが、これらも「生産性の向上」が不十分であったからと解説されています。それを阻害しているのは、成功体験を積んだ人達の様です、生まれた時から「IT機器」に触れている若者に期待したいです。
以下は気になったポイントです。
・高度成長を実現したのは、 通産省による経済統制の仕組み だとされることが多いが、実際に重要な役割を果たしたのは、 戦時中に導入された終身雇用 などの 雇用体系や、 直接税 中心の税制、 そして 大蔵省と日本銀行による資金 コントロールの仕組みである。 これを1940年体制と呼ぶことができる(p76)
・80から90年代に起きた大きな変化とは、 第一には中国の工業化であり、 第二には IT革命である。 この2つの大きな変化に日本が対応できなかったために、 日本経済は長期停滞に陥った。日本がナンバーワン と評価されている間に、世界がこのように変化した(p135)
・中国の工業化に対して、 一つ目の方策としては、 技術開発や ビジネスモデルの開発などによって中国製品との差別化を図ることである。 2つ目の方策は、 価格を引き下げて中国製品と価格面で競争することである、日本は2つ目の方策を取ったために、国内の賃金を抑え、かつ 為替レート円安に誘導した(p152)
・日本が IT 革命に遅れた原因は複数あるが次の点が重要である、1) 企業文化の 保守性である。伝統的に長期雇用と内部昇進を重んじる傾向があり、 外部からの新しいアイディアや革新的な技術を取り入れるのが遅れがちである。 この文化が新しい技術を採用することを妨げる要因となった。2)規制の問題である、日本の情報技術に関する規制は厳しく、 そのために新しいビジネスモデルやサービスが市場に導入されるのが遅れた。 特に通信業界では国が強い 規制を行っており 新規参入 や革新的なサービスの展開が制限されていた(p165)
・携帯電話は日本のメーカーも作ったが、 従来の 固定電話を持ち運べるようにしたものに 過ぎなかった、 iPhone は そうしたものとは異質で、従来のコンピューターと同じであり、 それに 通信機能を加えたものであった。 つまり iPhone は携帯できる 電話ではなく携帯できるコンピューターに電話機能を加えたものであった(p173)
・ リーマンショック後に円高が進み、2010年頃には ユーロ 機器の影響もあってさらに円高が進んだので、 円安を求める声が広がった。 円安になると企業利益が増加する、 それは円ベースでの売上高が自動的に増加し、かつ 原価の値上がり 分を消費者価格に転嫁するからだ、 円安に依存した日本企業は 技術開発を行った(p204)
・2000年頃からアメリカでは Apple などに見られるように、世界的な水平分業が進み 製造業がファブレス化した。新興国や中国の発展によって こうした方式が有利になったからである。 それに対して日本では垂直統合型の巨大構造の建設が進んだ、 しかし 採算に合わず 大型構造の稼働率は長年 低迷し 撤退を余儀なくされた。リーマンショック以降、 高度成長期とは違って 政府の補助に依存するようになった(p225)
・ 2013年からの異次元金融緩和政策はいくつかの点で問題を含むものであった、1) 物価上昇率 を目標にしたこと、 物価上昇率が高い状態と失業率が低い状態は単なる 相関関係であって 因果関係を示すものではない、 つまり 物価が上がれば失業率が低下するという保証はない(p231)、2)2016年には 量的緩和政策から イールドカーブ コントロールを開始した 、2022年秋から冬にかけて 地方債の発行 利回りが急速に上昇した、 これらは 購入対象( 10年国債)ではないので 市場原理に基づく 金利が成立した、 つまり 日銀が直接コントロールしてないところでは金利が上がり始めた。 これが イールドカーブ コントロールの問題点であった(p242) 2022年12月20日 日本銀行は長期金利の上限を引き上げた、 つまり イールドカーブ コントロールをやめた(p266) 2024年3月にはマイナス金利政策 を解除した、 2025年1月には 0.5%に引き上げた(p267)
・大規模金融緩和の真の目的は、 市場金利を下げ 為替レートを円安にし、 企業の利益を増大させて 株価を上昇させることだったのではないかと推察される(p239)
・ 日銀が国債を購入した結果、 マネタリーベースは増大したが マネーストックはほとんど影響を受けなかった。 マネーストックは貨幣であるから これが増えれば 物価が上昇する可能性はある、 しかし マネタリーベースは 人々が 決済に使えるものではないから これが増えたところで物価には影響しない (p259)
・ 賃金が伸びないのは非正規労働者が増えたからだとの意見があるが 因果関係は逆である、付加価値の総額が増加しなくなったから、 そして分配率が大きく変わることがないから 賃金の支払い総額が伸びなくなったのである。 このため非正規雇用者 という形態での短時間労働が増えざるを得なくなった(p278)
・ 2024年には名目賃金は上昇しているが、 日本経済の内在的な変化や政策でもたらされたものではなく 異常な世界 インフレという外的な要因によって生じたものである(p281) ここ数年のインフレで消費者が 価格上昇を受け入れるようになり 価格転嫁が容易になったので 名目賃金は上がるが 実質賃金がなかなか 安定的にプラスにならない、 消費者が賃上げを負担することになっている(p295) 賃金の持続的上昇を確実にするためには、生産性の向上・付加価値の高い 産業構造への転換が求められる がこれらは容易な課題ではない、 長い地道な努力が必要である。しかしそれを行わなければ日本の衰退が加速してしまうであろう(p298)
・年金・医療・介護などの社会保障の受給者は65歳以上人口の全てであり それに必要な費用は15から64歳人口の全てが負担するものと仮定する。つまり 2050年における生産年齢の1人当たりの負担額は20年と同一に保って高齢者の1人当たりの給付を切り下げる。2050年における社会保障負担の原資は 労働力人口の減少に伴って20年の 0.738倍になる。 従って 65歳以上の1人当たりの受給額はそれを 高齢者人口の増加率で割ると0.683倍になる、 つまり社会保障制度による給付 やサービスが3割以上をカットされることになる(p306)
・次に2050年における高齢者の一人当たりの受給額は2020年と同一に保つ「 負担調整型」を考える。 この場合 社会保障の給付額は高齢者人口の増加によって現在の1.08倍となる、 これを 現在の0.738倍の就業者で負担するので1人当たりの負担額は1.46倍になる。 つまり 現在より 5割 近くの負担 引き上げが必要となる。 このような負担増は到底実現できないので、 現実的には給付を切り下げる一方で 負担も引き上げるということになる(p307)
・世界競争力ランキングが開始されたのは1989年でこの時から1992年 まで 日本は世界1位だった、ところが 中国の工業化 や IT革命の影響が顕在化するようになり1995年には5位になった、日本の製造業が世界の動向に反して垂直統合モデルを目指し、かつ アベノミクスが投入されて ランキングは顕著に下落した、 2019年に30位となった。 2023年6月に公表された ランキングでは日本の国際競争力は 64カ国中 35位であった。アジアで日本より低いのはインドとフィリピンだけである、2024年6月には 38位となった(p332)
・1人当たりの GDP を見ると、1973年に OECD 平均 となり 1995年に OECD 平均の2倍となった、 それから下がり続けて 2015年には OECD 平均レベルとなった 、現在も 下がり続けていて2023年には 0.75 程度である、 このまま続くと日本の値は 2030年には0.5 程度になってしまうだろう、 つまり 日本は先進国とは言えない状態になってしまう(p349)
・1人当たりの GDP の低下傾向を日本は食い止めなければならないが そのような声は上がらない、 それどころか このような状況が進行してることに気づいてない人が多く 日本人の危機意識は極めて低い。 ここ数年 物価が上昇し始めたのでデフレからの脱却が可能になりつつあると考えている、 しかし 物価が上昇しても人々の暮らしは貧しくなるばかりである。 だから問題とすべきは物価ではなく1人当たり GDP に示される豊かさである。日本が成長しないことが問題である(p351)
2026年1月1日読破
2026年1月1日作成