【感想・ネタバレ】平成はなぜ失敗したのか 「失われた30年」の分析のレビュー

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Posted by ブクログ 2022年07月24日

バブル崩壊後の平成時代の日本経済の低迷の原因は何なのか、というテーマに関しての本を続けて何冊か読んでいる。
本書も、そのようなテーマに関しての本である。世界経済は、1990年頃を境に大きく構造を変えているが、日本はその構造変化に対応することが出来なかった。ばかりではなく、古い産業構造を温存することに...続きを読むなる経済政策を続けてしまい、古い、競争力のない産業を保護し存続させてしまっていることを筆者は指摘している。古い産業構造を温存することになる経済政策とは、例えば、金融緩和や円安誘導、さらには例えばエコカー減税のような支援策や、雇用調整助成金のように競争力のなくなった産業での雇用を継続させるような施策を指している。すなわち、目の前の現状(例えば目の前の競争力のない産業の雇用)を守る、要するに現状維持を図るために色々なことをやり、現状維持は図れたが、世界の変化から取り残されてしまった、ということだ。この議論は、非常に説得力のある議論のように感じた。
バブル崩壊後、かつ、リーマンショック前の2004年頃、一時的に為替が円安に振れて輸出企業、特に電機会社の業績が回復したことがある。その際に、電機会社のいくつかは、日本に大型の工場をつくることを選択した。例えば、シャープ亀山工場であり、パナソニック茨木工場である。よく覚えているが、その当時、「亀山ブランド」という言葉があった。シャープの亀山工場は液晶テレビを製造する工場であったが、品質の良さ(すなわち不良率の低さ)を誇っていた。円安はいつまで続くか分からない中での国内工場建設への大型投資を正当化する(為替にかかわらず品質の良さで勝っていける)ためのスローガンであったと思うが、当時、この「亀山ブランド」という言葉に違和感を覚えた(電機産業以外の)サラリーマンは非常に多かったと思う。電機製品はどんな製品であれ、コモディティ化していくはずであり、早晩、日本以外の国も品質面では簡単に追いつくこととなり、更に円高方向に為替が振れた時に、亀山工場は立ちいかなくなるはずであると、割と多くのサラリーマンが感じていたはずである。結果はその懸念の通りとなった。シャープは経営破綻し、台湾の鴻海に買収された。鴻海はフォックスコンの親会社であるが、フォックスコンはアップル製品、iPhoneやiPadの製造を受託する会社である。すなわち、時代はアップルのように自社で製造工場を持たずに開発に特化する会社と、フォックスコンのようにそういった会社の製品を受託生産する会社の水平分業の時代に入ったのであるが、それにシャープやパナソニックは気がついていなかったということだ。整理して言えば、製造業においてすら、もはや製造すること自体は競争力の源泉にならず(フォックスコンのように、それを、これまでとは全く異なるレベル・規模で徹底すれば別だが)、製品企画力・開発力にしか競争の源泉は存在しないにもかかわらず、古いタイプの産業モデル(製造すること自体を競争力として、輸出で稼ぐ)に固執した結果、日本の企業は競争力を失っていった、という議論である。

日本経済の不調は構造的な問題であるというのが筆者の主張であるが、それに対して、筆者は次の3つの課題を解決することが必要であると主張している。
1) 人口の高齢化によってもたらされる問題に対処すること。とりわけ、労働力不足の問題と、将来の社会保障支出の問題に対処すること
2) 変化する世界の条件、とくに中国の急速な成長に対処すること
3) 改革の遅れを取り戻すこと。とりわけ、企業のビジネスモデルを転換させ、生産性の高い新しい産業を作りだすこと

現在の政府・日銀の政策の考え方は、「日本の衰退の原因は物価の下落だから、金融を緩和して物価を引き上げれば解決する」というものであり、それが現在の異次元金融緩和政策のベースとなっている。実はこの政策を取り始めたのは2013年であり、もうすぐ10年になる。この間、日本経済は好転の兆しを見せておらず、そもそも、金融緩和策によって(今年に入ってからを別にすれば)物価は上がらなかった。
私自身は、筆者の主張(日本が構造的に立ち遅れている)の方が合理性があると感じる。
最後に本書は2019年の発行であり、コロナ前の状況をベースに執筆されている。コロナ禍によって、また、ロシアのウクライナ侵攻によって世界の状況は更に変化しているが、その間に日本の産業競争力は世界に追いつこうとしているかと言われれば、全くそんなことはなくて、むしろ差は開きつつあるように思える。

引き続き、バブル崩壊後の平成日本経済の低迷の原因を探った本を読み続けるつもり。

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Posted by ブクログ 2019年04月20日

 バブル時代から現在までの平成の経済をコンパクトにまとめ、今後の指針も示した。
 著者の個人史も面白い。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2019年02月16日

平成の時代に何が起こったのかというと「新興国の工業化とIT革命」である。平成が停滞した30年になったのはこの変化に日本が対応できなかったこと。野口先生の言葉でいえば「脱工業化を図り、産業構造を大変換」すべきだったのにそれができなかったということ。新興国が工業化するということは、製造業において「垂直統...続きを読む合から水平分業へ」という動きが起きたことに他ならない。具体的には、中国が大量生産分野を担当して生産を行なうことで、工業製品の価格は世界的に下落。  日本の製造業が中国メーカーと製造過程でのコスト競争を行なっても、消耗するだけ。一方英国は、金融業で復活。

日本企業が世界経済の変化に対応できなかったのは「組織に対する無定量の依存心と組織の絶対性への信仰があったから」だと先生は言う。考えないということでしょうか。それと、「金融政策で『引く』ことはできても『押す』ことはできません」というのも印象的。マネタリーベースを増やしても、借り入れ需要がない経済ではマネーストックは増えないということ。余ったお金はバブルを生む。

最後に、日本の財政と労働力の話があった。何の根拠もないけれど、ハイパーインフレだけは勘弁してほしいな。それと「『雇用の確保』よりも『人手の確保』が重要な課題」と述べていますが、求められているのは高度な専門家なのでしょう。大切なのは規制緩和だと述べていましたが、少なくとも読後の完走は「日本のそして自分の今後に不安を感じました」ことでした。

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Posted by ブクログ 2019年02月10日

190210野口悠紀雄 平成はなぜ失敗したのか
「失われた30年」としての「平成敗戦記」 
78歳になる野口先生 憂国の書であるが
自身の主張が現実化しないことへの諦めも見える

工業立国からの転換、高度サービス国家への転換を訴える
国内の既得権益体制は現状維持
金融サービス、情報サービス、健康サー...続きを読むビスである
 ソフトウェア・インターネット・eコマース・金融・ヘルスケア
米国は金融・IT分野について日本の自立を許容するのか
むしろ終わった産業の受け皿 製造業・原子力発電

日本は「人口減少・高齢化」の問題に直面する
国家としての戦略明確化が不可欠と思うが
社会保障・財政・経済政策いずれもが目先の短期処方
日本は追い詰められるとますますその場凌ぎになる
昭和の満洲・中国侵略、アジアへの資源侵略、米国への戦争拡大
日本は「パラダイム転換」ができない 自滅まで

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Posted by ブクログ 2022年06月08日

平成が失敗した理由は色々と書かれているが、やはり、日本が世界の産業構造の変化について行けなかったことが最も大きな原因だと感じた。そして、その状況はまだ続いていることも忘れてはならない。
個人のレベルに落として平成の失敗を活かすのであれば、時流を見極めてそれにあったスキルを自分で身につけ、必要なら転職...続きを読むしてスキルを身に着けたり、給料を上げたりするのが解決策だと思う。

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Posted by ブクログ 2019年08月16日

評価3.5くらいですが、「平成は良かった」ではなく、「何でもかんでも悪い」でもなく、自らの世代の失策として失敗を冷静に説く。これは是非我々の世代も見習い、かつそれを成功にするための冷静な議論につなげたく4点。

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Posted by ブクログ 2019年08月15日

昭和46年生まれの私にとっては、過去を振り返るのに最適でした。
ただ、過ぎた過去を分析できたとしても、やって来る未来を予測はできましぇん…。

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Posted by ブクログ 2019年05月10日

目新しさはないが、平成という時代に置き去りにされてきた課題、令和を迎えたこれからをどのような方向性が必要かが理解できる。氏の自分史も一部入っているのも面白いです。

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Posted by ブクログ 2024年02月22日

大蔵官僚出身の学者が、「失われた30年」をわかりやすい言葉で分析している。

他の書籍などでも繰り返し語られているのと同じく、「既得権益」「問題の先送り」といったキーワードが出てくる。

過去の成功体験が転じて、日本が「安心安全」を追及し、ある程度それが実現した(してしまった)のが日本からチャレンジ...続きを読むや革新の気概を失わせてしまった根本的な問題なのかと思える。見方によっては「緩やかな衰退」が幸せなのかもしれない。SFモノで時々出てくる価値観だ。

中国や米国と日本の留学生の数の差が大きいというくだりでそれを感じた。中国も米国も、自分の国や通貨に頼らない(信用していない)がゆえにチャレンジするしかないという土壌の違いがあるのだと。

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購入済み

あまり感心しない

2022年05月30日

1990年代からこれまでのおよそ30年間の日本の失敗ぶりを振り返り、最後に今後なすべきことを提案している。丁寧に過去をたどってはいるが、同時代を生きてきた者としては、これまでさんざん指摘されてきたことの繰り返しに過ぎず、食い足りない。
最終章の今後への指摘事項をもっと掘り下げて新しい提案を聞きたい...続きを読む

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Posted by ブクログ 2021年07月23日

日本経済の停滞は、90年代からまことしやかに言われているようなデフレによるものではなく、変化する世界に対応できなかった・しようとしてこなかったツケである、ということを解き明かしてくれている本。
 
折々で著者の思い出話が挟まってくるのでエッセイのような側面もありつつ…苦笑
 
既得権益をぶっ壊す規制...続きを読む緩和が政府のなすべきことだ!個別産業に肩入れするのではなく人材育成のような基本的条件を整備しろ!というのは大いに賛成。

ですが女性の労働参加に関して
「子育て期の女性の労働力率を高めるには、子育て支援などの政策が必要です。それは、決して容易な課題ではありません。」で済ませてしまうのはちょっと片手間が過ぎるのではないかと。長時間労働を背景に家庭・子育てを"免除"されてきたのは父親の既得権益ではないですかね。
(もちろん人を長時間労働に至らしめるような低生産性・低賃金が温存されてきた構造があるとは理解しつつ。)

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Posted by ブクログ 2019年07月22日

平成を50〜70代で過ごした世代として、責任を果たしたか?と問われると失敗したと言わざるを得ない。世界経済の大きな変化に取り残され、国際的地位は低下した。世界的水平分業時代に、優位かつ付加価値の高いサービスに特化し、規制緩和で新事業や新サービスに産業構造を変化させるべきだった。

平成を牛耳っていた...続きを読む昭和おじさんの時代は終わった。がんばれ、平成おじさんたち。

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Posted by ブクログ 2019年05月29日

産業構造に変化できなかったらから日本は衰退した、という主張は大いに納得できる。
しかしながら、消費税増税と外国人労働者の受け入れに対しては大いに問題があるのではないか。

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