橘玲のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
序説「これからのリバタリアニズム」について
本稿はウォルター・ブロックの『不道徳な経済学』の訳者である橘 玲によって書かれた序説である。橘 玲は小説からビジネス書まで幅広く手掛ける作家。
本稿では、他の政治哲学との比較からリバタリアニズムを独自の視点でわかりやすく説明している。また、アメリカ社会において、なぜ敗者であるプアホワイトと勝者であるリバタリアンが手を組むのか。政治思想の構図を交えて説明する。さらにリバタリアンから進化したサイバーリバタリアンにも説明は及ぶ。リバタリアンはテクノロジーの力を手に入れ、より過激なサイバーリバタリアンへと進化した。彼らは、選ばれしものだけの究極に自由な世界を創造しようとしている。
<これからのリバタリアニズム 要約>
英語の自由にはフリーダムとリバティの2つがある。リバティは責任を伴う自由で、フリーダムは制限なき自由(好き勝手、自由奔放)の意味である。政治哲学的な自由主義はリバティを語源に「リベラリズム」、その信奉者を「リベラリスト」と呼ぶ。しかし、このリベラリズムには単なる自由主義だけでなく、別の意味合いも付加されてしまっている。それが人権と平等だ。国の徴税により再分配を行い、福祉を充実させる。また雇用をつくり、必要なライフラインを手厚く提供する。
こうなると純粋な自由主義と反するため、市場原理主義を信奉する経済学者は、アダム・スミスから続く正統派という意味合いで「古典的自由主義」を名乗った。後にこの純粋な自由主義を信奉する者たちは「リバタリアニズム」「リバタリアン」という造語をつくった。
自由の尊重に加えて、伝統や文化、それらを維持する共同体を重んじる政治哲学がある。これを「コミュニタリアニズム(共同体主義)」という。国家の役割を大きくし、人々の統治をより強めていくため、リバタリアニズム、リベラリズムとは相いれない。なお、日本では個人よりも世間(共同体)を重んじるため、欧米型のリベラリズムは定着していない。日本的リベラリズムはコミュニタリアン左派のことだ。日本では左派、右派ともにコミュニタリアンに属することになる。
リバタリアン、リベラル、コミュニタリアニズムは自由を基礎として、それぞれの意味合いに若干の修正が加えられる。
人は自由に生きるのがすばらしい。(リバタリアニズム)
人は自由に生きるのがすばらしい。しかし平等も大事だ。(リベラリズム)
人は自由に生きるのがすばらしい。しかし伝統も大事だ。(コミュニタリアニズム)
これら3つの思想は自由が価値の源泉となっている。原理主義は、何らかの価値の源泉があらかじめ存在すると考える。一方で「功利主義」は、この自由という価値の源泉を持たない。功利主義は「最大多数の最大の幸福」を目指す思想だが、その前提に原理は存在しない。あらかじめ何が正しいかはわからない、いろいろ試してうまくいったものが結果正しい、と考える。これを帰結主義、プラグマティズムという。原理による善悪の判断はなく、損得勘定のみで判断する冷徹さがある。
平等や伝統といった価値にも縛られない功利主義はリバタリアニズムとは相性が良い。これらが重なる政治哲学をネオリベラル(新自由主義)と呼ぶ。
近年の米国社会ではリベラリストとマイノリティが手を組む。リベラリストは平等を重んじるため、アファーマティブアクションなどマイノリティの優遇策を支持する。ここに反発するのがプアホワイトという層だ。米国では高卒の労働者が、仕事とコミュニティを失い、酒やドラッグに溺れて、結果早死にや自殺してしまう「絶望死」という現象が起きている。厳しい状況に置かれたプアホワイトの矛先は、安い労働力を持つ中国や外国人労働者に向かう。そして彼らが誇れるものは白人であるということだけ。こうしてプアホワイトを中心に、白人アイデンティティ主義が台頭していく。
このような現象は世界的に見られる現象だ。所得が伸びずに中流層が没落している状況は多くの先進国で起きている。ヨーロッパでも移民排斥運動やブレグジットなどの動きが起きている。日本のネトウヨも白人アイデンティティ主義と根底は同じだ。
プアホワイトたちは、マイノリティへの優遇に怒りを覚える。私たち白人の国でマイノリティが不当に優遇されていると。マイノリティたちと手を組むリベラリストにもその矛先は向けられる。リベラリズムを支持する人たちの多くは、金融やメディア、教育、ITなどの職に就き、東部や西海岸のクリエイティブ都市に住んでいる。インテリかつ裕福な層である。プアホワイトは、彼らリベラリストはマイノリティのみを不当に優遇する一方で、私たちをホワイトトラッシュと冷笑し、差別していると考える。
そこでプアホワイトはリバタリアンたちと手を組む。リバタリアンはエンジニアや起業家、投資家など、リベラルよりもさらに裕福な富裕層であることが多い。なぜ負け組が最大の勝ち組みと手を組むのか。それは両者ともにマイノリティの優遇を不当だと考えるからだ。リバタリアンは能力主義者であり、国家が意図的に何かを優遇することを嫌う。
こうしたプアホワイトたちによるリベラルへの反乱がトランプ大統領を生んだ。その裏には政治思想の衝突と、連帯という構図が浮かびあがる。
リバタリアンはさらにサイバーリバタリアンへと進化する。その代表格であるピーター・ティールはペイパルの共同創業者であり、フェイスブックに初めて投資を行った人物だ。シリコンバレーのドンと目されており、彼はリバタリアンを自認している。
彼は国家からの統治を逃れるために、サイバースペース、アウタースペース(宇宙)、シーステディング(海洋都市国家)に自由な領域をつくろうとした。ティールは「ダーウィン主義はほかの文脈では筋の通った理論かもしれないけれど、スタートアップにおいてはインテリジェントデザインこそが最適だ」と語る。ティールはインテリジェントデザイン(神による世界の創造)を「インテリジェントから”特別な才能を与えられた者たち“が、テクノロジーの力によって世界をデザインする」のだと読み替える。
ティモシー・メイはインテルで働いた後に、クリプトアナキストという思想をつくった。彼らは国家による監視と強権によるディストピアから逃れるためには、暗号技術によって個人の自由を守る必要があると考えた。自由を実現するには「安全な暗号通貨」「匿名でウェブを閲覧可能なツール」「追跡されずにあらゆるものを売買できる市場」「匿名の内部告発ツール」が必要であると考えた。これらは現在においては、それぞれブロックチェーン、Tor、シルクロード、ウィキリークスとして実現している。
彼らはこれらの技術で国家からの統治を逃れ、利益を同じくする集団でオンラインのネットワークをつくり、自由な経済活動を行うことを目指す。しかし、そこでは国家による規制や保護は何もない。機会を掴むことができる者、売れるだけの価値がある者、ごく一部の勝者だけが生き残る世界である。
メイは語る。「私たちは、役立たずのごくつぶしの命運が尽きるところを目撃しようとしているんですよ」「この惑星上の約40~50憶人の人間はさるべき運命にあります。暗号法は、残りの1パーセントのための安全な世界を作り出そうとしているんです」 過激なサイバーリバタリアンは、選ばれしものだけの完全に自由な世界を創造しようと目論む。
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Posted by ブクログ
主に進化心理学や行動心理学などの面から資本主義の現在を生き抜くための残酷な真実を紐解く。
努力をすることが能力向上になるのかはたまた無駄なのか?
遺伝子が能力に大きく関わることがわかる。現在は言語・数学的論理能力が優れた遺伝子を持ったものが評価される時代であるため、その遺伝子を持たざる者はその努力をしても無駄である。無駄なことに努力するのであれば、やってもむだ、と割り切り受け入れて他のことへ力を注いだ方がよいと。
また、幸せとは資本主義社会に合わせてお金を稼ぐことよりも、無償であっても評価を得られることの方が喜びや幸福を感じるように進化してきている。
優秀な遺伝子持ちとは競わず、小さなステージ、環境、分野であったとしても、自分の得意で好きなことを行い、その範囲で上位となること。まずは自分が輝ける環境を見つけてそれをマネタイズしていく工夫をすべきなのだ。 -
Posted by ブクログ
相変わらず橘玲の著作はおもしろい。進化論的考察はいつものことでだいぶ慣れてきたが、毎回なるほどなあ、と思う。
大学の研究者が意味のある実験統計データを取るために行なっている工夫というのは大したものだと感心する。
P200
ここからわかるのは、女は男より競争に消極的なのではなく、「勝率を冷静に計算している」らしいことだ。成功の見込みが高いと思えば、女は男より冒険的になる。「女性は戦略的に競争に参加するかどうかを考え、きわめて慎重に行動している」のだ。
P246
男は「単純」で女は「複雑」だ。
これは、性愛において、男は「競争する性」、女は
「選択する性」として進化してきたことから説明できる。 -
Posted by ブクログ
リバタリアンの視点から、人々が眉をひそめる行動が、実は大切である、と説く本。
全体として、ケーススタディが続くのだが、各ケースを読むことでリバタリアンの主張がわかるようになっている。
・売春婦
・ポン引き
・女性差別主義者
・麻薬密売人
・シャブ中
・恐喝者
・ツイッタラー
・学問の自由を否定する者
・満員の映画館で「火事だ!」と叫ぶ奴
・ダフ屋
・悪徳警察官
・ニセ札づくり
・どケチ
・親の遺産で暮らす馬鹿息子
・ヤミ金融
・慈善団体に寄付しない冷血漢
・土地にしがみつく頑固ジジイ
・飢饉で大儲けする悪徳商人
・中国人
・ホリエモン
・ポイ捨て
・環境を保護しない人たち
・最低賃金法を遵守しない経営者
・幼い子どもをはたらかせる資本家
また、それ以外にも章はあるらしいが、時代背景に合わない章は割愛しているとのこと。
それも含めて、原著の雰囲気を再現している。
リバタリアンの主張がわかる、その一点のみにとても価値がある本。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ現状認識は全く同感。
リベラル化していること、その結果が能力のみによる選抜となること、それに対して従来のマジョリティ、既得権益層の反発が各国で起きていること、彼らの主張が非論理的であること、リベラル派のダブルスタンダードが弱点であること、いちいちごもっとも。
しかし、著者の結論であるさらにリベラル化、グローバル化をすすめるべきというのには疑問。これまでの歴史の失敗例である理性万能主義を感じる。
本の中にもあるが、人間はそれほど理性的か?現在のリベラルの考えは19世紀にはあったが、遅々として進まなかった。
国家や地域の中間団体、家族が残る限り、すべてが個人として平等に扱われることはないだろう。
しかし、リベラル化と反対派の摩擦はますます大きくなっていく。
なお、著者のリベラルと保守の遺伝子とか匂いで同種の異性がわかるとかトンデモくさいし、人種による知能指数と同じ傾向を感じる。両極端は一致するか。 -
Posted by ブクログ
金融関連本の著者というイメージが合ったので、橘玲さんはこんな本も書くのか、と思わず読み終わった後に著者経歴を見直してしまった。
男女の差異がデータに裏付けされた研究結果をもとにまとめられていて非常に参考になったし、面白かった。
かなり生生しいものもあったが、面白かったものを列挙すると
①魅力的だと思う異性の年齢は、女性がどの年齢層でも自分と同じくらいの年の人である一方、男性はどの年齢層でも20~25前後である
②父子の血縁関係を調べた結果、”実子であることを確信している”グループでは1~3%、”実子であることを疑っている”グループでは15~40%の割合で托卵
③結局、外見とカネ
④女性が活躍できる環境作りにはプレッシャー(本書ではセクハラ、パワハラが言及されている)を抑えることが重要
⑤男性は子どもの存在が野心を高めるが、女性にとって子どもの存在は野心を弱める(被験者はアメリカ地方議員)
⑥主観的な”勝ち”が見えた場合、男性より女性の方が野心が高まる(女性は戦略的に競争するか否かを考え、慎重に行動する傾向がある)
⑦男性は外見が魅力的な女性からの意見に協調する傾向にある
など・・
私自身は30代前半で独身女性で配偶者を持ったり、子どもを産んだりする選択肢がある。その立場からでも、⑤に関しては多くのキャリア女性が子どもを持つことを躊躇する、少子化の原因の一つであると思う。一方、子どもがいること・女性であることは、現状は出世優位になりやすく、⑥を促す環境でもある。例えば私のいる外資系企業であれば男女比率のターゲット数値が決まっているため、多少の能力・経験の差があったとしても、男性より女性を積極的に昇進させている。今は過渡期であり、これまで男性優位であったことを考えると多様性が定着するまでこの方針は問題ないと私個人的には考えている。
あくまでもデータに裏付けられた傾向として上記の結果を受け入れ、”ステレオタイプの内面化”と同様、消極的インプットとならないよう意識したい。