井上荒野のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
昔、後妻に入るなら、「死別」より「離別」の方がいいという一説があった。
「離別」は、お互いに納得してあるいは愛想を尽かして縁を切ったのだけれど、「死別」は想いを残しての別れであり、思い出はどんどん美化されていくから生身の後妻は比べられては不利だということだ。
では、「失踪」された場合は?
失踪から七年経てば「失踪宣告」し、法律上は死亡と見做されるから、再婚は可能になる。
しかし、はっきり別れたわけでも、亡くなったわけでもない。どこかで生ている可能性だってあるし、どこかに埋まっている可能性もある。
残された人たちや、その人と関わる人たちは、それを考え続ける事になる。
「いなくなった人」の「存在感」は、一見矛盾しているようだが大きいのである。
夫と4才の娘を残して31才で失踪した、小堺晶(こさかい あき)の気配と記憶は、染み付いて取れない影のようで、なんだか恐ろしいものに感じる。
失踪直後の、幼稚園児の結生(ゆき)の様子を夫の伸伍(しんご)がつぶさに語る。4歳児の心の中では何が起きているのだろうと無限に考えられる。結生自身も、常に「なぜ母はいなくなったのか」と考えながら成長したのだろう。
それも吹っ切れたか、穏やかな終焉と新しい一歩が見えたかなと思えた次の最終章。
突如、それまで出てこなかった名前に・・・
見知らぬ誰かの、分岐点の選択一つで多くの他人の人生が変わってしまったのだ。
やはり、あの口紅をつけてはいけなかったのだろうか?
「しずかなパレード」とは、もしかしたら葬送とか葬列をイメージしているのかな。 -
Posted by ブクログ
かつての恩人に会いに馴染みの街へ行くことになったので、向かう方向とリンクするタイトルのこの本を鞄に入れていた。(……が、その予定は赤子の発熱で泣く泣くリスケとなってしまった。涙)
タイトルの「海」は、場所ではなく登場人物の少女の名前である。主人公の有夢と瑤子は自転車を走らせて、転校してしまった海の住む街を目指す。仲が良さそうな2人なのに、ところどころきな臭いものが見え隠れする。明言はされないが、過去に事件があり、そしてそれがまだ継続していくぞ、という示唆に、一章から何とも言えない苦しさに胸がつまった。
中高一貫女子校における、いじめを題材としたストーリー。遠く離れてしまったが、かつていち少女だった自分にとって、その同調圧力と逃げられない窒息感には覚えがある。だから緻密に描かれるそれが、ぐさり、と刺さるのだ。
視点は主に有夢と瑤子だが、親や先生といった周辺の大人や、いじめ当事者のルエカの主観も描かれる。結果として見て見ぬふりをしてなかったことにする大人、家庭内のストレスで認知が歪まされる子ども。そしてその全ての捌け口となってしまった有夢と瑤子は「ペルー」を目指すことになる。そこまで追い詰められるの、分からなくないけれど、親となった立場で読んでいくの、めちゃくちゃしんどくて悲しい……。ただ作中のアーティスト、リンド・リンディのインスタ投稿の描写が色鮮やかで、その明るさは救いだった。
このまま悲しいだけで終わるかな……と思ったら、最後には光がさした。そこは本当に良かった。絶望の「ペルー」が、未来につながる「ペルー」に。海の母・和子の職場のおばあはん、波多野さんも印象的で好きなエピソードだ。
タイトルは「海へ」となっているけれど、海に会いに行く行程は河口から上流へ遡っていくの、意味と方向が逆転していて面白い。苦しみ抜いたあとの海の、その力強さに眩しさを感じたのだった。 -
Posted by ブクログ
ネタバレとてもすてきなお話だったー!!
照子も瑠衣もカッコよくてすてきなおばあちゃん。
おばあちゃん然としていなくて、とても若々しい。
照子はもともと主婦で旦那の世話ばかりしていたけど本当は活動的だし、瑠衣は生きるために働くという逞しい考え方が染み付いている。
長野の別荘地のなかで、いろんな人たちと関わり合いながらストーリーが進んでいくが、個人的にお気に入りの登場人物は静子さん。
カラフルなお召し物を着こなしてるおばあさま、好きなんだよなぁ…
冬子との再会もただただ感動というよりかは、わかる人はわかってるというふんわりとオシャレな感じだったし、全体的に漂う雰囲気がとても良き小説でした。
70歳と高齢ではあるものの、これからも生き続けることに対して前向きな二人がとてもすてきだった。
私もゆくゆくはこんなおばあさんになりたいな…。 -
Posted by ブクログ
この作品が描く「いない」には二種類ある。物理的に存在しない者と、確かに実在しているのにいなかったことにされている存在。そのどちらがより救われるべきなのか、読み進めるほどに答えは曖昧になっていく。
人を通じて形成された記憶は、その人が今そこにいるかどうかとは無関係に、生活のあちこちに染みついている。ふとした匂い、食卓、夜の静けさの中で、思い出は勝手に立ち上がる。その影を懐かしむのか、煩わしく感じるのかは、記憶そのものではなく、今の自分の心の在り方に左右されるのだと気づかされる。
思い出に付随する感情を完全に消し去ることはできない。ただ、どの瞬間にそれを掘り起こしてしまうのか、その引き金を知り、少しずつ扱い方を覚えていくことはできる。生活を重ねるとは、そうした感情との距離を測り直し続ける行為なのだろう。
少し手の込んだ料理を作りたくなる夜や、酔いに任せて誰かに肩を貸したくなる瞬間、視界に映るものすべてに恋の残像を重ねてしまう感覚。そんな人間の弱さと愛しさを、静かに肯定してくれる一冊だった。 -
Posted by ブクログ
本の裏のあらすじから受けたイメージよりは生々しくなく読みやすかった。
ハラスメントもDVも、受けている当事者はその時には特にそれだと気付きにくのだと思う。
後になって少し自分を客観的に見られるようになると、あれは絶対そうだったと思えるし、その時にだって周りから見たら明らかにそうだと分かるし、そう言われる。
けど、当事者はなぜか分からない。辛いし何とかならないかと思うけど、自分にも原因があるんじゃないかとか、皆んな多かれ少なかれ同じ思いをしているんじゃないかとか考えてしまう。
この本は色んな意味で行きすぎていなくて、それがより現実的な感じがして良かった。