京極夏彦のレビュー一覧
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生涯もっとも面白い小説かもしれん。このたび文庫化を機に再読。初読の際、シリーズ既作品の物語・登場人物を忘れていていまいちピンとこない部分があったため、今回はシリーズこれまでの六冊および江戸怪談シリーズ三冊を読んでから本作に臨んだ。すると面白い面白い。登場人物の会話中の細部のあちこちに前作までの物語への言及がありたまらない。ある意味、これまでの九作品すべてが伏線であり、本作で回収されるという趣で、まさしく集大成。京極夏彦の構想力構築力に驚嘆感動する。物語は『続』で暗示されていた支配者中枢との闘い(ではないかもしれんが)が描かれる。しかも、新たな登場人物、支配者から小悪党達の探索を依頼された、噓を見抜く技をもつ稲荷の藤兵衛の視点で全編貫かれ、藤兵衛の目から見た小悪党の動きが描かれる。その藤兵衛の人物造形、洞察力、細やかさ、優しさ、しゃべり方が良い。また中禅寺秋彦の曾祖父も登場し憑き物落としを行う。小悪党どうしの交誼、互いへの強がりを含む思いやりに泣ける泣ける。また、壮大なエンタメであるとともに、政の根本を語り、この国の歴史への、資本主義への、現代社会への鋭い批判でもある。すばらしい。
しかしあの愛すべき化物使い、小悪党達にもう会えないのか、嗚呼。 -
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京極作品にしてはやたら薄い本だな?と思い手に取ると十代の若者向け講座を文字起こししたものだったらしく、全編話し言葉で書かれていてあっという間に読んでしまいました。
講座のタイトルが「たたかわないために〜語彙と思考」だったようで、つまりこの世を地獄と見立てた上で言葉と思考でこの地獄を乗り切るにはどうすればいいか、という内容でした。
第一部では人間が言葉を会得して世界の認識をどのように変えたか、言葉の利点と欠点、言葉によって生じる思い込み、思い込みで感情や思考、行動を操作する、操作されうる危険性、そういった前提を語り、後半の第二部では実際の地獄では言葉を使ってどうやってたたかわずに済ますかを教えます。
口調が京極堂だったのでまるで自分が関口になった感じで基本ニヤニヤしながら読んでいたのですが、ところどころ真顔になるところもあり、やはり京極さんは信頼できる書き手だなぁと思いました。それは何回りも歳下の若者に対する京極さんの愛、ではなく真心から出るものなのでしょう。
SNSや政治に関するところは自分の思っている事と同じ危機感を語っていたので、講座のあった当時より悪くなっている現状を思うと、この本を若者だけでなく一家に一冊国は配った方が良いんじゃないかと思ったのですが、いや国としては国民に小利口になってもらうと困るだろうからやらないな、とも思い、ならば自衛のためにみなさんぜひ読んで!と強くお勧めする次第です。 -
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ネタバレホラーではない。これは「恐怖」「怖い」についての物語。ストーリーは単純。視点人物である女性が、同棲しているパートナーを置いて、最近亡くなった(会ったこともない)曾祖母の住んでいた限界集落(と思しき)岡山の山村へ、相続関係の手続きの一環として赴くというだけ。章立てもなく(時間が飛ぶところはあるが)、視点人物の見聞きした物事、思考、他の登場人物との会話が延々と続き、特別事件や怪異は起こらないまま300頁以上進む。件の集落、別段因習もオカルトめいた秘密といった横溝正史的要素は何もなく、集落へ至る途中の心霊スポットとされる隧道も怪異とは全く関係ない。かといって退屈かというとそういうわけではなく、会話や思考を通して、ホラー小説にありがちは舞台立てについてのメタな思考が展開され、なぜか夢中で読んでしまう。いろんなホラー的装飾が剥ぎ取られ終盤、純粋な恐怖が剥きだしになり、そしてラスト! いかようにも解釈のできる物語として閉じる。さすが京極。面白かった。
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再読「巷説百物語シリーズ」通し読み第四弾。御行の又市が山岡百助と知り合う前の江戸を舞台とした物語集。大坂で下手を打ち林蔵と共に江戸へ流れてきた若き又市は、ゑんま屋から裏の仕事を請け負うようになる。人の命を取ることを極端に嫌う又市が智恵をふりしぼり、元締めの描いた図面をなんとか引き直し落とし所を探す。ここでは又市はまだ若い双六売り。ひとつひとつの仕事に関わりながら、本当にこの図面で良かったのか、もっといい絵図は描けなかったものかと自問自答する青臭さがよい。やがて恐るべき敵と対峙する中で、読者にはすでにお馴染みの面々と出会う。その出会いの描き方がファンにはたまらん。また本作で馴染みになった仲間との切ない別れ、そして最後に双六売りの若者が「御行の又市」へと成長する。あちらこちらで泣いた。
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「このままではあんた、ニッポンはおかしくなりますよ」
実名小説、あまりみないので面白かった。スターシステムなども大好きなのでとても良い。
エンターテイメント小説として、実名がスパイスとなって、リアルとフィクションの狭間が出来上がっているのが良い。内容にもフィットしていて巧妙だと思う。
たまたま印刷博物館のイベントで京極氏の本を持っていくと名刺がもらえるイベントがあり(結局行けなかった)、持ち運びしやすい本を探していた所出会ったシリーズだが、丁度ゲゲゲの映画のブームが起こっていて、タイミングよく出会えた本だった。
水木御大のユニークな雰囲気も大変良かった。エンタメとして。京極堂シリーズのエノさんポジかも。 -
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ネタバレ多様な視点多様な語りで闇に巣食う小悪党達の活躍を描いた前作から変わって、今回はずっと山岡百介視点からの語り。中にはこんなことはないやろ? と思えるような設定もあるが、悪の造形の仕方、その解明の仕方、解決の仕方、本当によくぞこんな風に物語を構築するものだと舌を巻く。さらに! 各話物語内容と登場人物の資料を作りながら読んでいると楽しい楽しい、そして良く分かる、京極さんの世界・物語構築力の凄さよ。前作『巷説百物語』の各話との有機的結合がなされているだけではなく、すでに、次次回作『前の巷説百物語』の内容にも筆が及んでいる。ひょっとしてシリーズ七作品全体の構想を立てた上で、一作一作書いている? と思いながら読み進めると最終話『老人火』! これ、『了巷説百物語』の後の話ではないか! 初読の際にはそんなこと知る由もなかったが、『了』を読んだ後で読むと感慨深く、涙が出る。やはりシリーズ全体を構成してから書いているんだわ。恐るべし京極夏彦。シリーズ再読通し読み思い立ってよかった。
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あの京極夏彦が、人情噺を書いた!という感想です。
殊に最終話の「頓死肝虫」は、これは絶対人情噺ですよね。
舞台を貧乏長屋にしたのが、まずは秀逸。じっくり住人のことを整理してみたら、この人たち、結構な曲者ですよ。
でも、人物紹介的な扱いで、この一冊ではそれなりにあっさりとした雰囲気で噺は進みました。
なんといっても棠庵さんが強烈なので、他の登場人物、長屋の住人の印象が薄くなる傾向にありますが、棠庵さんをちょっと寄せて読んでみると、長屋の住人は皆、曲者揃いです。
藤介も魅力的なキャラクターですが、それ以上に父藤左衛門の意味ありげな笑顔が、チェシャ猫の顔のように、頭に張り付いて離れません。
こんないたずらを仕掛けてくるのも、まさに京極夏彦ですね。十分に楽しみました。
繰り返しになりますが、最終話は、もう、素敵な人情噺。誰か当代の名人に騙っていただきたいと思うくらい。
悪役になるべき「虫」ですが、その風貌は憎めない造形。
これも参ったなあ。
何から何まで、してやられた感のある本作でした。
楽しみました。ありがとうございます。