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【第56回吉川英治文学賞受賞作】
『後巷説百物語』で第130回直木三十五賞、『西巷説百物語』で第24回柴田錬三郎賞を受賞――本作でシリーズ三冠!
「遠野は化け物が集まんだ。咄だって、なんぼでも来る」
盛岡藩筆頭家老にして遠野南部家当主の密命を受けた宇夫方祥五郎は、巷に流れる噂話を調べていた。
郷が活気づく一方で、市場に流れる銭が不足し困窮する藩の財政に、祥五郎は言い知れぬ不安を感じる。
ある日、世事に通じる乙蔵から奇異な話を聞かされた。
菓子司山田屋から出て行った座敷童衆、夕暮れ時に現れる目鼻のない花嫁姿の女、そして他所から流れて迷家に棲みついた仲蔵という男。
祥五郎のもとに舞い込む街談巷説、その真偽は――。
ハナシは、やがて物語になる。どんどはれ。
〈巷説百物語〉シリーズの集大成!
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Posted by ブクログ
盛岡。甲斐源氏の流れを汲む名家・南部氏が治めてきた豊かな土地だ。だが天保の世になった近年、領内には不穏な空気が漂っていた。
事態を憂えた盛岡藩筆頭家老で遠野鍋倉城主の南部義晋は、腹心の宇夫方祥五郎に自領内の実情を探るよう命じるが……。
長耳の仲蔵の異能が冴え渡る、シリーズ第6作。第56回吉川英治文学賞受賞作。
◇
暦の上ではまだ春なのに、今日の空はまるで藍玉でもぶちまけたように蒼い。そんな初夏を思わせる陽気に見舞われた遠野の町を、宇夫方祥五郎は眩しげに目を細めながら歩いている。
ここでは毎月「1」のつく日に市が立つ。交通の要衝でもある遠野保は、もともと人通りが多いのに加え、海山物や他国の名産品が集まる市の日は、いっそう賑やかなことこの上ない。
米は今年も豊作になりそうだ。海でも豊漁続きだと言う。ますます遠野が活気づく材料は揃っている。
だが近年、遠野は深刻かつ不可解な問題を抱えていた。
ここ数年、遠野の市場に流れ込む銭が妙に不足している。つまり、通貨としての銭がないのだ。
銭不足は物価に直結する。特に供給過多の魚が深刻だ。取引される値が著しく下落しているので、売れども売れども収益は上がらない。
おまけに加工品は物量に対する課税となるため、安定した収入源だった干物などへの税負担は重くなる一方だ。
実入りがなく日々の食料さえままならなくなった遠野の漁民は、魚ばかり食って糊口をしのぐほかなかった。
金がないのは民草だけではない。盛岡藩もまた、苦しい財政を強いられていた。
藩の現状を憂えた筆頭家老で遠野鍋倉城主の南部義晋は、腹心の祥五郎に密命を授け、領内の実情を探らせることにした。
祥五郎は、領内での出来事やそれについての領民たちの噂を収集するため、幼馴染の乙蔵に情報を集めさせた。
祥五郎は今、その乙蔵が待つ場所に向かって歩いているのである。 ( 第1話「歯黒べったり」) ※全6話。
* * * * *
時系列では、最終巻『了巷説百物語』後の話になります。
舞台は岩手県の遠野。早池峰山を望む広大な盆地で、数々の伝説奇譚を持つ民話の郷としても有名な土地です。
当然、妖怪についての伝承も多いため「化け物使い」には好都合。おまけに遠野に腰を据えて仕掛けを演出するのが「長耳の仲蔵」ときては、もう期待で胸がワクワクしっ放しです。
さらに、仲蔵を輔けるのが「亡者踊りの柳次」です。
この柳次、表向きの商売は献残屋 ( 大名家や公家などから安く買い上げた献上品を売り捌く仕事 ) ですが、裏の稼業は死んだはずの人間をまだ生きているように見せかける「亡者踊り」と呼ばれる芝居工作です。
柳次の見せる巧みな芝居や流れるような口上は名人級と言ってよく、仲蔵の作る仕掛けをさらに効果的に演出します。
まるで漫才コンビのような掛け合いを見せる仲蔵と柳次の「仕事」の数々。その鮮やかさと痛快さは、読み終えるのが惜しくなるほどでした。
さて、本作で仲蔵が出現させた「化け物」を紹介しておきます。
第1話 歯黒べったり
美しげな女の姿をした妖怪です。
道ばたの暗がりに後ろ向きに佇んでいて、通りがかった人が思わず見とれたり声をかけたりするとゆっくり振り返るのですが、女の顔には口だけあって目鼻がありません。
腰を抜かさんばかりに驚く人を見て、いきなり大口を開けてケラケラ笑う女。その剥き出しになった歯にはお歯黒がべったり付いているそうです。
このお騒がせ妖怪は、ただ不気味なだけであって、決して危害を加えたりすることはありません。
第2話 磯撫
サメに似た姿の、怪魚の妖怪です。
普段は海中に潜み、船が通りかかると強い北風とともに海上に姿を現すのですが、まるで海面を撫でるような静かさとスピードでもって船に近づいてくるため、巨体にも関わらず船員に気づかれることがありません。
そうして、無数の細かい針が並んだおろし金のような尾びれを船上に振り上げ、乗員を引っ掛けて海中に引きずり込んで喰い殺してしまうという、非常に恐ろしい怪物です。
第3話 波山
赤々とした鶏冠を持つ怪鳥です。
普段は山奥の竹薮に棲んでいて人前に姿を見せないし、口から吐き出す赤い炎は狐火同様に熱を伴わないため、火災を起こすことはありません。
稀に深夜に集落に降り立つことがあり、その際にバサバサと不気味な羽音をたてたりするところから、「婆娑婆娑」と呼ばれたりします。
そのように人を驚かすこともありますが、決して害をなさない妖怪です。
第4話 鬼熊
長い歳月を経て変化した熊の妖怪です。
山奥深くに棲んでおり、普段は人前に姿を現すことはありませんが、夜更けに人里に降りて来ることが稀にあるそうです。
鬼のような怪力と立ち歩きできる器用さを持っていて、家畜の牛馬を軽々と担いで山へ持ち帰(り、食ら)ってしまったりします。
普通の熊の3倍ほどもある巨大さで、享保初期には畳6畳分の大きさの鬼熊が仕留められたという記録が残っているそうです。
第5話 恙虫
人の血を吸って死に至らしめるという虫の妖怪です。
夜な夜な民家に入り込んでは寝ている住人の生き血を吸うのですが、この虫は小さいながら恐ろしい毒を持っていて、噛まれた人間はその毒にやられて急に高熱を発して苦しみだし、半月ほどで死んでしまうと言います。
第6話 出世螺
深山の土中に棲むという巨大なホラガイの妖怪です。
このホラガイは、山、里、海で、それぞれ3000年ずつ棲むことで龍に化身すると言われていて、最初に山から抜ける際には轟音とともに大規模な山崩れを起こすと言われています。
ちなみに、抜け出た跡にできる窪地や大きな穴を「出世のほら」と呼び、ホラガイの最終化身である龍を「出世螺」と呼びます。
以上のような伝説をもとに仲蔵が一計を案じて人助けをしていくというのが、本巻の主要なストーリーです。
この「長耳の仲蔵」、妖怪と見紛うような異様な風貌ですが気性はきわめて臆病です。
そして、頭の回転の速さや全体を見通せる小股潜りのような眼力はないし、相手をねじ伏せる玉泉坊のような膂力や剛強さも持ち合わせていません。
つまり、戦闘力はゼロと言っても過言ではないのです。
なのに「化け物使い」の中では特異な存在感を放っているのは、仲蔵の発想の柔軟さと創作の巧みさが際立っているからに他なりません。
本巻では、その仲蔵の真骨頂を存分に味わうことができます。
さて、仲蔵の策のキモは、いかにして「人死に」を出さずに事を収めるかにあります。
いわば「人助け」に主眼が置かれているため、仲蔵と言えどもうひと捻り知恵を絞る必要があります。そのあたりも読んでいておもしろい。
ところで、その策ですが……。
臆病な仲蔵は、自分の細工を最大限に活かすための準備を周到に行います。中心となるのは、情報操作でした。
もう少しだけ、仲蔵の手の内を明かしておきます。
仲蔵は、主君の密命で領内の情報収集に当たる宇夫方祥五郎とその情報屋である乙蔵の2人を、うまく利用しようとします。
祥五郎は、実直な忠義者であり、嘘はつけない男です。
一方の乙蔵は、ぐうたらな男ながら、伝説や怪しげな譚に詳しい「歩く民俗学」のような男であり、世俗の噂にも通じている「歩く週刊誌」のような男でもあります。
この2人が収集する「妖怪についての譚」や「世間を騒がしている噺」が、仲蔵の作り出す妖怪の出現に信憑性を与え、公然の事実として世に認知させるのです。
そしてここに、口八丁の柳次がバックアップに回ることで、仲蔵の策はいっそう強化されるのは言うまでもありません。
ということで、仲蔵のみごとな手並みのほど、ぜひお楽しみください。
Posted by ブクログ
江戸末期、盛岡藩で“御譚調掛”の宇夫方祥五郎は巷の噂話を集めていた。
どんなものでも作る仲蔵が中心となり仕掛けるので、毎回物語が派手で楽しい。宇夫方とのやりとりもマル。武士視点なので、後巷説百物語の空気感があって良き。シリーズ6作目。
今作はシリーズ内でもかなりキレイにフォーマット化された連作短編集という印象。
1話あたりの構成が全て同じ。読んでいて安心感が半端ない。好きすぎる……。
仲蔵がまたいいんよなぁ。柳次も好き。
今回は最終話も美しい。シリーズ作品の6冊目なんだけど、これ一冊としても完成されていて良き。
次で最終巻!!
京極御大はシリーズ作品でもそれぞれ独立しているから、だからこそシリーズ作品の最終巻にはワクワクが止まらない。
了巷説百物語はめちゃくちゃ分厚いし、読むのが楽しみすぎる。
Posted by ブクログ
巷説百物語シリーズの第6作目
舞台を江戸末期の遠野へと移し、盛岡藩筆頭家老の密命で巷に流れる噂話を調べる宇夫方祥五郎を主人公に物語が展開する。
全部で6話。
どの話も遠野の昔語りから始まって、巷の話、事件の当事者の話、最後にそれを解体する話という構成。
昔語りの遠野の方言はなんとも味がある。
ここまでのシリーズでも登場している
長耳の仲蔵、亡者踊りの柳次が主に妖怪変化の仕掛けを施して事件を解決していく。
今回は座敷童のような女の子、花が良いアクセントになっている。
又一が八咫の鴉(やた の からす)として最後の話「出世螺」に登場する。
これで続巷説百物語の後の話だとわかった。
Posted by ブクログ
シリーズ(文庫化済み)最新巻♫
「続〜」「西〜」「前〜」「後〜」で完結だと思っていただけに、1〜2年前に本作の存在を知った時には小躍りしたい位に喜んで、首を長くして文庫化を待ったものだった♫
さて、舞台は遠野。
京極ファン皆の大好きなあの男ではないものの、彼と同じ匂いのする男達の仕掛けの数々は皆、胸のすく解決をもたらしてくれ、最後まで楽しく読み進められた。
そして最終編。例の北林藩も絡んだ大掛かりな仕掛けの始末には あの男 も関わってきていて・・・
いいねえ、とてもいい。
★4つ、9ポイント。
2023.06.03.新
次作も連載中だとのこと。楽しみ♫
ただし「了〜」というのが寂しいかな。
世界観を読み切ってしまうのが寂しくて読まずにいた
「西〜」も、そろそろ流石に読もうかな。
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少年・青年マンガ
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小説・文芸
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