松本清張のレビュー一覧
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山狭の章
昌子は夫の堀沢と妹の伶子が時を同じくして行方不明となり、安否を気づかう。2人は、作並温泉の「山狭」で帰らぬ姿となって発見される。
経済計画庁に勤ていた堀沢は、有能な人物のようにみえるのだが、日々課長らに付随するのにあくせくしているようであった。昌子は、このような夫にしっくりしない想いを抱くようになっていた。
一方、妹の伶子は、堀沢を避けていた、このような失態を犯すはずがない、と晶子は確信していた。
昌子の真相究明がはじまる、堀沢の上司の課長ら、伶子の付き合っていた年配者や女性に面談し、思考をめぐらす。
東和財政研究所に勤める吉木は、昌子がずっと気になる存在だった。物語の後半で、昌子と吉 -
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ネタバレ海岸で見つかった男女の遺体。どうやら青酸カリをあおった心中らしい。二人の身元は、男のほうは省庁に勤める佐山で、女のほうは料亭の女中お時だと判明。福岡県警の鳥飼刑事は、二人で乗った鉄道の食堂車に佐山しか行かなかったことを不審に思う。女性はたとえ空腹でなかったとしても、連れが食堂車に行くなら自分もついていくのではないか、と考えたのだ。さらに、福岡に着いてからも二人がともに行動していなかったという事実から、実は女のほうは途中どこかの駅で下車して、後から福岡にやってきたのではと推理する。
鳥飼の推理に興味を抱いた警視庁捜査二課の三原刑事は、心中した二人が東京を経つところを目撃した証言が、あまりにもでき -
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頼りにならない夫と別れた恵子が魑魅魍魎とする出版業界で味わう受難を描いた長編の後編。本作は女流作家梶村の失踪を扱うがお馴染みの殺人とはならない。殺人でないが故に警察も介入せず薄汚い工作が行われている。恵子の義侠心は涼とすべきだが相手も方法もまずかった。ここは現実社会でも参考になるだろう。
昭和30年代の古き良き世界を描いた『三丁目の夕日』という漫画があるが本作はその真逆で昭和30年代の弱肉強食世界を描いているように思う。セクハラだけではなく全てのハラスメント要素があるオールハラスメントともいうべき酷さ。男達の獣欲に閉口しそうになるが悪い意味でもエネルギーには満ちていて高度経済成長(本作は196 -
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姑のいびりと夫の不甲斐なさから家を出た井沢恵子。かつての伝手で女流作家の家に行くが評論家大村から仕事のあてを紹介された事で魑魅魍魎な雑誌の世界に巻き込まれる話。タイトルと異なり全然美しくないように思えるが巨匠による意図か?
好色破廉恥漢な大村を始め出てくる男達が現代の価値観で言うところのクソ。連載時期が1962年と高度成長期にあたるので人権も何もなかったのだろう。仕事そのものは恵子の実力で取っているのに邪な気持ちを持つ連中が多すぎて本来の実力を発揮させないところが本当に酷い。綺麗事を並べるつもりは無いけど、こうやってせっかく輝きを持つ人物を社会的に封殺するという点で社会的殺人事件ともいうべきで -
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ネタバレ『砂の器』の時にも感じた、今の時代では使えない、当時だからこそのトリックに驚かされた。
結婚間もない夫の失踪、そのため夫の事情が何も分からない主人公、その中で少しずつ真相に近づいていく展開から目が離せなかった。
本多からの想いも、全く靡かないのが良かった。勝手なイメージだけれど、これが他の方が書いていると本多と道ならぬ恋…とかなっていそうだったので。身持ちの固い主人公だからこそ、まだ日の浅い夫のために駆けずり回る描写が違和感なく見られたのかなと。
ラストの沖に向かう船に乗った妻が崖の上の夫に手を振っていた、という描写がなんとも美しかった。死へ向かう残酷さが、その情景に言いしれない美しさを与えて