松本清張のレビュー一覧
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「推理小説の結末が気になって寝る間も惜しんで頁をめくる」というベタベタな読書体験ができた。松本清張の代表作のひとつ。”動機”を重要視する清張先生らしく、意外なところに収束してゆく結末には素直に驚かされ、『ゼロの焦点』というタイトルの重みも後からじわじわと感じた。途中やや冗長な感じがするものの、情報と論点が次々に整理されてゆくので読みやすい。しかし昭和30年代といえば私の両親が生まれた頃だけど、こんな時代だったのだな。戦争の傷も癒えきらず、お見合い結婚が普通にあって、個人情報保護とか皆無で……。禎子がお見合い結婚したばかりの夫・憲一のためになぜこれほど一生懸命になるのか、そして憲一も久子がいるのになぜお見合い結婚をすることになったのか、疑問だったが、それはそういうものだったとしか言えないのかもしれない。
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迷走地図(下)
寺西正毅は現総理桂重信から禅譲が見込まれている第2派閥の長である。妻の文子は、内助の功と周囲からは高評価されていたのだが、、、。下巻では文子の秘められた行動がストーリーの中核となる。
外浦卓郎は寺西に請われて、東方開発から移籍し彼の秘書を務めていたが、惜しまれつつ社へ戻り、副社長としてチリ東方開発へ渡航した。外浦は渡航にあたって大学の後輩の土井信之へ貸金庫に預けたものを託す。土井は貸金庫の代理人となりその鍵を預かる。
土井信行は、アダムズホテルに事務所を構え、議員のスピーチや著書の代筆を生業としている。土井は寺西の伝記を頼まれるのだが。
外浦はチリで車を運転中に激突事故を起こし亡くなってしまう。土井は貸金庫を開ける、驚くべき人物からの伝言メモが束ねてあった。
土井はこのメモを読んで、驚きとともに思いを巡らす、絶対に他人に見られてはならないと画策するのだったが、、、、。 -
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松本清張『金庫 清張短編レアセレクション 男性篇』中公文庫。
全4巻で刊行される松本清張の珍しい短篇をテーマ別にセレクトしたオリジナル短篇集。第2巻は男性篇で嫉妬や疑惑、不信、復讐を胸に秘めながら騙し合い、競い合う男の世界を描いた短篇全9篇を収録。
先に読んだ『氷雨 清張短編レアセレクション 女性篇』に収容された7篇はミステリー色が薄かったのだが、こちらの『金庫 清張短編レアセレクション 男性篇』では殆んどがミステリー短篇であった。犯罪の陰に女性ありなどと言うが、実際のところ犯罪に手を染めるのは男性の方が圧倒的に多いのだろう。
『金庫』。物語の筋は江戸川乱歩の初期短篇『二銭銅貨』と酷似している。『二銭銅貨』は、2人の貧乏学生が大金を奪った犯人を羨み、犯人が残したとされる二銭銅貨の中に仕込まれた紙片の暗号から犯人が隠匿した大金を探し出すという筋書きである。阿津川辰海の解説でもこの2つの短篇を比較していたので、自分の見立ても満更では無いと思った。松本清張は江戸川乱歩の初期短篇を敬愛していたようだ。安い賃金で東京の郊外にある運送店で働く主人公の田村は同じ職場で働く柿田省一という友人を持つ。金が無いことを嘆く2人は昼休みに取り留めのない話をしているうちに最近、新聞を賑わせた啓道会事件に話題が及んだ。その事件とは新興宗教団体の啓道会の支部長の菊川さき子が出資を募り、貸付を行って使途不明金を作った事件で、さき子は逮捕され、服役していた。柿田はさき子が使途不明金を隠匿し、服役後にその金を使おうとしているのではないかと推理していた。
『理由』。これも江戸川乱歩の『赤い部屋』短篇のような筋書きである。所謂、プロバビリティの殺人というものだ。結婚して8年になる和島秀夫は出来過ぎた妻の多記子との微温湯に浸かったような刺激の無い暮らしに嫌気が差し、離婚したいと思うようになった。その多樹子が家出をして伊豆の西海岸で投身自殺を図る。遺書には夫以外の男性と過ちを犯したことを詫びるという文章が綴ってあった。しかし、その多樹子の死に疑問を持った人物が1人居た。
『途上』。1人の男の再生の物語。誰もが一度は人生で躓くが、もう一度前を向いて歩こうと立ち上がる人も居れば、躓いたまま二度と立ち上がれない人が居る。胸を病みながら歩き続け、喀血して行き倒れになった36歳の男は市営の更生施設『愛生寮』に担ぎ込まれる。その施設に収容された老人たちや病人たちと暮らすうちに男はもう少し生きてみようと思い、施設を脱走する。
『閉鎖』。確かに長男というのは貧乏籤を引くことが多い。九州のとある村で百姓を営む25歳の山崎平二が心理学者に宛てた手紙という形でストーリーは進行する。平二が手紙に綴った内容によると2年前に兄の久太郎が農協へ供出米代の二百円を受け取った後、姿を晦まし、家族や親戚で付近を捜索したところ、近くの崖付近で久太郎のコートや衣服のボタンと何者かと争った痕跡が見付かったと言う。また、近所では怪しい浮浪者の姿も見掛けられており、久太郎は浮浪者と争い、二百円を奪われ、崖から突き落とされたのではないかと思われた。
『断崖』。サスペンスフルな短篇。北海道の日本海に面したエンキ岬に佇む町営センターでは谷口彦太郎と向井万吉という2人の老人が管理人を務めていた。エンキ岬は自殺の名所としても知られており、谷口は度々、自殺志願者の命を救っていた。ある晩、町営センターの扉を弱々しく叩き、妙齢のワンピース姿の女性が谷口の前に現れた。寒さで震える女性に谷口は風呂と食事、寝床を提供する。
『「静雲閣」覚書』。戦争という悲劇は戦地に赴いた者だけでなく、残された家族たちをも不幸にした。元楢尾子爵邸の高級割烹旅館『静雲閣』を買取った男が語る建物にまつわる過去の因縁。
『尊敬』。現代よりも昔の方が皇室や皇族の方々は人びとに崇められていたと思う。現代では週刊誌やYoutuberなどが根も葉もないゴシップを垂れ流しており、失礼極まりないことだと思う。昔なら銃殺かその場で斬首だろう。この短篇では市井の人の元皇族に対する復讐劇を描いている。大正天皇の御病気の平癒祈願のために宮様が九州各地の神社へお成りになることになった。宮様の車を先導する大役を任された多田良作警部は緊張の余り、道順を間違えてしまい、県知事は進退伺いを提出し、多田は辞表を提出、署長が割腹自殺を図ると多田も縊死を選択する。それから20年後、自殺した多田の息子の貞一は29歳となり、働いていた印刷所が潰れ、日雇労働者となっていた。
『信号』。珍しい文壇を舞台に作家の人間模様を描いた短篇。広島のデパートの宣伝部で働く白石信一は、作家の穂波伍作の著書の量が身長に達した自祝の会に出席するため、穂波の家のある呉市に向かう。
『「過去の女」報告書』。男という生き物は不思議と過去の女のことを何時までも覚えているようだ。57歳で銀行重役になった畑川寿一郎が昔の知友を思い出す中、過去に付き合った女のことを思い出す。中でも13、4年前に九州の支店で手を出した当時は23、4の尾形妙子のことが気になっていた。畑川は興信所に彼女の現代の状況を調べてもらう。
本体価格980円
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松本清張『氷雨 清張短編レアセレクション 女性篇』中公文庫。
全4巻で刊行される松本清張の珍しい短篇をテーマ別にセレクトしたオリジナル短篇集。第1巻は女性篇で岐路や窮地に立っ女性たちを描いた短篇全7篇を収録。
今だに松本清張の小説の人気は高いようだ。かく言う自分も再読を含め、松本清張の小説を度々読んでいる。ミステリー小説もさることながら、市井の人びとの人生を描いた小説にも魅力を感じる。自分が松本清張の小説を初めて読んだのは高校生の時で、芥川賞受賞作の『或る「小倉日記」伝』が初めての小説だったと記憶している。それ以来、現在に至るまで思い付く度に松本清張の小説を読み続けている。
『氷雨』。女性同士の冷たい争いを短篇の中に凝縮している。ミステリーの要素は全く無い。割烹料理屋『ささ雪』の女中の加代は馴染客を若い後輩女中の初枝に奪われそうになり、思い切った行動に出る。
『旅さき』。出る杭は打たれるの例えか。特に女性同士の中での争いは厳しいものがある。この短篇にもミステリー色は無い。年に2、3度旅に出る物書きの伊村が知人から聞いた話が綴られる。伊村も泊まったことのある能登半島の旅館『能景荘』は元々は『福浦屋』という名前の旅館で、女中頭の政江が主人たち以上に盛り立てたことで建替えるに至った。やがて、政江には佐藤という馴染客が出来て、佐藤の出資で東京に小さな旅館を出すことになった。
『突風』。夫の浮気を探る妻の行動がミステリーと言えば、ミステリーかも知れない。夫の浮気相手を知った妻は相手の女に別れてくれるよう頼む。浮気は男の甲斐性なんて言われた時代もある。葉村明子の夫で41歳の商事会社の総務部長に昇進した寿男は昇進するや出張や付き合いが増えて、浮気しているのではないかと思われた。明子が出張から帰って来た寿男の荷物の中に女性物の洗面具を見付けたり、Yシャツの襟にルージュを付けていたり、見慣れないハンカチやネクタイを身に着けていたりと疑いは明らかであった。
『結婚式』。男というのは単純で地位や権力を手にすると、当然の如く女へと走るのは今も昔も変わらない。そして、女へと走った男は全く周りが見えなくなるのだから始末に負えない。新聞社の広告部次長の吉村はかつての同僚の新田徹吉が独立して広告取扱店を立ち上げたことを羨ましく思っていた。やがて内助の功もあり、新田の広告取扱店が軌道に乗ると新田の浮気が始まった。あろうことか新田の浮気相手は社員の佐伯光子だったのだ。新田の妻から相談を受けた吉村は新田に忠告を与える。
『黒い血の女』。稀代の悪女を主人公にした犯罪小説。ここまで残虐な悪女の姿が描かれるとは予想もしなかった。誰かモデルにした悪女が居たのだろうか。和歌山県の海辺の村の警察署に渕上リウとその妹のツマの殺人を訴える匿名の投書が舞い込む。リウは 財産目当てで藤三郎の元に嫁ぐが、藤三郎の商売が傾くや、実家の西野家の財産を我が物にしようと妹のツマに自分の情夫を婿にと押し付ける。
『紙碑』。報われぬまま夭折した画家である夫の名を残し、再び脚光が浴びることを願う妻の姿を描く。亡くなった画家の重田正人の妻の広子は人からの勧めで校長を務める北野孝平と再婚する。ある日、A社が『現代日本美術大辞典』を刊行することを耳にし、元夫の重田の名を載せてもらえるようA社の担当に依頼する。
『呪術の渦巻模様』。何とも意味深で不穏な物語である。評論家で作家の肩書を持つ田代は大学時代の友人でダブリンで銀行の支店長を務める小村憲吉に会うためにダブリン行きの飛行機に搭乗する。小村には画家を目指す杉子という妹が居り、爬虫類の鱗をモチーフにした奇妙な絵を描いていた。
本体価格980円
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映画を観たことがあったので結末は知っていましたがとても興味深く読みました。
時代設定は戦後まもなくなので、よくドラマや映画で見たことのある、いわゆるパンパンと呼ばれていた女性たちが登場したり、個人情報保護の概念が無かった時代でしょうから捜索方法も今では全く成り立ちませんが、その時代の空気感を感じられました。
後半になってくると、主人公の女性がそれまで調べたことを頭でまとめようとするシーンが何度か出てきますが、さっきも同じようなことを書いてなかったかなと思うことが多々あって、ちょっとうるさく感じました(松本清張を始めて読んだのでよく用いられる手法なのがどうかわかりませんが)。
私は結末を知っていましたが、犯人がわかるのがちょっと唐突じゃないかと思いました。 -
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西南戦争で薩軍が発行した軍票「西郷札」の“政府買い上げ”噂に、敗残の下級武士が一攫千金を賭けて転げ落ちていく短編です。
覚書一枚を追いかけて過去へさかのぼる語り口に、最初から引き込まれました。
西南戦争直後、「西郷札」の買い上げ話を巡る欲と体面の駆け引きが、敗残の下級武士を中心にじんわりと崩れていくさまは痛切です。
金と名誉に群がる人間の浅ましさと裏側を、硬質な視線で切り取るところに著者らしさを感じました。
一方で、人物の心情描写には短編ゆえの粗さもあり、「なぜそこまで追うのか」が曖昧なところも少なからずありますが、短い中に鮮烈な余韻と清張の若き刃を感じる味わいがあり、古典として読まれるには十分な一冊だと感じました。 -
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上巻も下巻も、続きが気になって気になって、仕事どころではなかったですw
そして、思うのは、この小説に「砂の器」というタイトルを付けた松本清張氏のセンス。すごく美しいですね。脱帽です。
作中の風景描写も表現が美しいと感じました。
2004年にドラマ化された際の主題歌は、ドリカムの「やさしいキスをして」。
これを読んだ後に聴くとまた格別ですね。
いつの世も、女性の愛は一途で美しい。
傍から見たら"どうかしている"状態であるほど、本人の中では純度を増していく。
そこにはまさに「幸か不幸かは私が決める」という強い意志がある。
美しさの核はそれかなと思う。
そして、それを体現して生きていきたいものだなと。
という思いで、吉田美和様はあの歌詞を書いたのかなと予想…というか、妄想しました。 -
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犯罪の回送
北海道北浦市(小説内の架空の市)の春田市長が、陳情で東京出張中に行方不明となり、日野市の林の中に埋められた死体となって発見される。警視庁の田代警部、岡本刑事、青木刑事が真相を追う。他派閥で政争中の田代も時を同じくして東京に来ており怪しまれるが、北海道へ帰郷した彼は水死体となって発見される。北浦市には、札幌のクラブママあがりの妻美知子、弟雄治がいた。はたして春田市長は、どこで殺害され現場へ「犯罪の回送」となったのか。本当に東京で殺害されたのか、いかなる理由で殺されたのか、田代警部は解き明かしていく、この小説の核心となる。