あらすじ
身体が不自由で孤独な一青年が、小倉在住期の鴎外を追究する芥川賞受賞作『或る「小倉日記」伝』。旧石器時代の人骨を発見し、その研究に生涯をかけた中学教師が、業績を横取りされる『石の骨』。功なり名とげた大学教授が悪女にひっかかり学界から顛落する『笛壺』。他に9篇を収める。
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社会派推理小説作家として名を馳せる前、初期の作品を集めた短編集。作者自身を投影させた作品群にはコンプレックスを跳ね除け大きな仕事をしてやろうという気概が滲むようだ。その作風にはすでに推理小説作家としてのセンスも感じさせる。
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とあるブックカフェで出会った作品です。
自分で選んでたらまず手に取らなかったなぁと思う
全9篇の作品でわたしは、1と7が読んでみて面白いなと思ったし、今でもこういう人達は場面は違うがいるんだろうなぁと思った
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新潮文庫の「松本清張傑作短編集(一)」は推理小説でもなく時代小説でもなく、現代小説をまとめたということです。昭和40年初版発行ですから、この文庫になさるとき、著者自身も存命で何らかのかかわりを持たれていたのではないか、ですから自信作ではないかと。今回その個々の作品を再読してみまして、たしかに清張さんの特徴が一番よく出ている作品群だなと思いました。
市井の研究家は努力してよくできれば怨まれるし、出自学歴によってさげすまれもし、いじめにも会い、世間の風は冷たい。
例えば「石の骨」
人骨化石を嵐の後の崖崩れから拾い、古代の研究をひそかにしているので知識豊富なれば、旧石器時代の人骨と確信し発表する。しかし発掘ではなく拾ったということで、中学教師だからということで、その発見者の名を学会という組織に横取りされる。
短編末尾、主人公の原稿文(少々長いですが)
「くりかえして言うけれども、人骨は私自身が原地層から発掘したものでなかったために、一部の学会から深い疑惑の眼をもって見られた。その方々がご心配くださったように、この化石人骨は崖の上から転落したものでもなく、また波にのって打ちあげられたものでもない。崖の堆積層が前夜の風に崩れ落ち、それと同時にこの世の空気にさらされたものだということを、つよく申し上げておく。私は学者的良心をもって断じて噓は申し上げない。それでもなおかつ、認めていただけなければ、容れられる時期まで耐えるよりほかなはない―――」
そんなに悲痛に苦しまなくてもよいではないか「気楽に気楽に明るい面をとらえていこう」という考え方もあるだろう。けれども人はみな何かしらのコンプレックスを抱えているものだ。その心の闇が清張さんの小説をささえて普遍的な関心をよぶものにしている。
個人個人が一つの研究課題あるいは目的を持って活動に専心するには、他者との関係、その人の置かれた環境によって、理不尽も起これば、不遇も味わう、過酷な歩みであると。そのことが好きで努力して人より秀でても嫉妬を持たれるし、その環境が潤沢にあるわけではない。
その機微が名文となって短編に昇華されている。その作家が松本清張さん。
もちろん清張さんは身をもって苦労なさって、40歳というと年齢になってから作家として成功なさった方、もろもろの艱難を突き抜けた方というわけです。
他の収録されている短編は
或る「小倉日記」伝 菊枕 火の記憶 断碑 笛壺 赤いくじ 父系の指 青のある断層 喪失 弱味 箱根心中
どの作品にも苦しみうごめいている人々が文学的に描かれているのです。
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小倉の松本清張記念館に2回も行ったけど、点と線しか読んだことがなかった。これは濃ゆい。短編集なのになかなか読み進めなかった。
人間の生き様の描かれ方が文字通り「濃密」なんじゃないかと思う。
実在の人物をモデルにした作品は特にすごい。
あまりにも不器用というかそんなんじゃ生きづらいだろうなぁでもそうしか生きられないんだろうなぁと思うようなところが何よりその人の魅力であるというあたりがすごい。
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久しぶりに読んだ。『ある「小倉日記」伝』は覚えていたが、他の作品は忘れているのも多かった。ていうか、若い頃にに読んだ時はなんとも思わなかった作品が今読むとほんまにズッシリとくることに存外ドキドキした。短編だが、1つ1つがヘビー級なので満足感大、というよりもコレより長くなると辛すぎる、、というテーマばっかり。各作品に漂う作者自身のマイナーコンプレックスの噴出らしきキャラクターや苦悩が伺える。
或「小倉日記」伝、菊枕、火の記憶、断碑、笛壷、赤いくじ、父系の指、石の骨、青のある断層、喪失、弱虫、箱根心中。
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ほとんど本を読み直すことはしない。
ふとしたきっかけでふたたび小倉日記伝を読んだ。
人生の不遇さと耕作のひたむきさになみだががこぼれた。
以前に読んだ時はなにもかんじなかった。
本はとても面白い、自分の人生も作品に投影されるようだ。
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初めて読んだ松本清張の本。或る「小倉日記」伝が目的だったが、最近読んでいる、ある意味読みやすい日本語とはまた違った、重みのある文章の良さにドキドキしながら読みました。どの物語も嫉妬。読んでいて苦しくなるような文章であったけど、これが人間らしい。人は喜びに対して貪欲だし、その代償なのか、人は自分で自分の身を滅ぼしていく。これは誰のせいでもないのだなぁと思う。それを受け止めながら、正直に生きていく、まともに。自分に正直だからこそ自分勝手な人たちについて行く相方もまた強さを持っている。私なら逃げてしまうと思うけれど、辛抱強く人を支えるのもかっこいい生き方な気がした。
或る「小倉日記」伝、私は耕作は幸せな人生の最期ではなかったかと思う。長生きして、もっと聞いて回りたかっただろうと思うけど、彼の書き上げる小倉日記を読んでみたかったけれど、小倉日記の発見を知らずにいられたことは幸せだったと思う。耕作が聞いて回った話を知りたい。きっと鷗外自身の書くものと違う話があっただろうから。
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松本清張デビュー作にして芥川賞受賞作だそうです。作者は若い頃から転職を繰り返し、新聞記者から作家に転身。その文章技術と経験から多彩な世界を描けるのだと思いますが、アンダーグラウンドな舞台の多さから作者自身の生きてきた本当の世界が私は気になります。
本作のラストにはびっくりしました。
追記) 看護、介護問わず福祉に関わろうとする者なら一読の価値はあろうと思います。
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「昭和十五年の秋のある日、詩人K・Mは未知の男から一通の封書をうけとった。差出人は、小倉市博労町二八田上耕作とあった。」
とは、
なんとまあ、愛想のない書き出しだろう。
カッコよさ・オシャレ感ゼロ、難しさもあざとさもゼロ。
しかし。
しかしである。
ええ?!なに?なに?それで一体なにがあったの?!ここからなにが起こるの?と、ものすごく気になるではないか。
「或る『小倉日記』伝」とは、大体、タイトルからして、まったく愛想がない。
でも、つかまれてしまう。それで?それで?と、どんどん引き込まれていく。淡々と事柄を重ねていくだけなのに、ぐいぐい引っ張られ、最後まで連れて行かれる。
そしてこのラスト。
無常感とわずかな感傷。
これがごく初期の作品だったのだから、なんとも恐ろしい新人だった、と言わずにおれない。
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学芸等へ没入する人シリーズの迫力。
それと連なるところがあるように思えてしまう自伝的作品。
あと、不倫したら必ず事故とかに遭う王道パターン
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人間の弱さとそんな人間を生きさせる希望とそれを支える愛。それは少しずつなんとか倒れないように、それでも少しでも良い体勢になるように努力をするが、やはりいずれ崩れてしまう。その滅びの美しさ、怖さが凝縮された小説たち。どの作品も徐々に崩壊していく登場人物たちの世界が愛おしくなるほど哀しい。
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芥川賞受賞作。障がいを持つ田上耕作が森鴎外の小倉日記を探求する短編。笛壺は大学教職の現生を捨てて生きていく姿を描く。健常人と障がい者の対比や俗世に流される生き方の是非を考えさせられた。情景の浮かぶ筆力はさすが松本清張、ドロドロした推理小説とは違ってこれも良い、
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「松本清張」の短篇集『或る「小倉日記」伝 傑作短編集〔一〕』を読みました。
『聞かなかった場所』に続き「松本清張」作品ですね。
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『松本清張傑作短編集』は、現代小説、歴史小説、推理小説各2巻の全6巻よりなる。
本書は現代小説の第1集。
身体が不自由で孤独な一青年が小倉在住時代の鴎外を追究する「芥川」賞受賞作『或る「小倉日記」伝』。
旧石器時代の人骨を発見し、その研究に生涯をかけた中学教師が業績を横取りされる『石の骨』。
功なり名とげた大学教授が悪女にひっかかって学界から顛落する『笛壺』。
他に9編を収める。
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嫉妬や劣等感、様々な葛藤等の人間の闇の部分を抱えた人物の悲哀を描いた、どちらかというと陰鬱で重々しい物語を中心に以下の12篇が収録されています。
■或る「小倉日記」伝
■菊枕
■火の記憶
■断碑
■笛壺
■赤いくじ
■父系の指
■石の骨
■青のある断層
■喪失
■弱味
■箱根心中
現代小説を集めた作品集なので、テーマに類似性が感じられ、ある程度カテゴライズができました。
『或る「小倉日記」伝』、『菊枕』、『断碑』、『石の骨』は、考古学や俳壇等の特定の専門分野等において優れた才能を持ちながら、様々な原因から世の中から認められず、もがき苦しむ模様や、それを支える家族を描いた作品。
『或る「小倉日記」伝』の、白痴のような風貌と歩行が不自由な障害を持つが頭脳は明敏で「森鴎外」が小倉に滞在した際の事績調査に執念を燃やす「田上耕作」、、、
『菊枕』の、その境遇から才能を開花させることができないコンプレックスに悩みながら、世俗的な成功を夢見る俳人の「杉田久女」、、、
『断碑』の「木村卓治」と、『石の骨』の「黒津」は、いずれも不遇な考古学者、、、
どの作品の主人公も、認められたいという欲求が満たされず、コンプレックスを感じながら、過激な行動に移ったり、夢を諦めたり… 薄幸な生涯の悲劇性が前面に押し出された作品群でしたね。
『青のある断層』は、ちょっと趣向は異なりますが、才能を持つ人間の悲劇性を表した部分については、その延長線上にある作品かな。
『火の記憶』、『笛壺』、『赤いくじ』、『父系の指』、『喪失』、『弱味』、『箱根心中』は、理屈では割り切れない男女の関係や、そこから生じた悲劇、肉親だからこそ存在する愛憎について描いた作品。
これらの作品は、後々のミステリー作品にもエッセンスが引き継がれている感じがします。
その中でもイチバン印象に残ったのは『火の記憶』、、、
幼い頃のおぼろげな記憶に残る、暗闇の中に見える赫い火の情景… 自分のルーツを探る、ある意味、ミステリーっぽさのある作品でしたね。
作品の性質上、気持ちが暗くなっちゃう作品が多かったですが、これが現実なんですよねぇ… 他人事じゃないと感じました。
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巨匠の傑作短編集。
推理小説ではなく現代小説に属す。馴染みのない文化人達を材に取り著者自身を投影しているように見えるし『火の記憶』は自伝的にも見える。どの作品も余韻を残すのが多い。
『箱根心中』の勇気の喪失が意志を奪うという辺りが教訓になる。
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昭和40年に刊行されたこの短編集には昭和28年に芥川賞を取った『或る「小倉日記」伝』などが収められている。
巻末などに初出年月が一切書かれていないのでとても困るのだが、比較的初期の作品ばかりのような気がする。『黒い画集』の諸作よりもエンターテイメント性や情動的な密度が低いように思える。
幾つかの小説は、全く架空の人物をいかにも本物の伝記らしく記述した、虚構の伝記スタイルである。松本清張はこうしたスタイルを得意とし、(比較的初期の頃?)多用したようだ。それぞれリアリティがあるので、虚構と分かっていても面白く読める。
この短編集の最後の方の幾つかは、これらの中では成熟してきているようで、文学的文体から匂い立つ情動が緊密だと感じた。
「もっと先を読みたい」「ページをめくる手がもどかしい」と読者に感じさせるための技巧としては、推理小説やサスペンス小説のようなプロットアイディアに依存した手段もあるが、そうした仕掛けに頼らずとも、文章と情動喚起が織りなす読書時間の緊迫化によって、読者をとらえて離さないような文学技法は可能である。
たとえば太宰治の傑出した独白体小説のいくつかは、そのような緊迫した「時間」を生成し、読者を強力に導くのであって、そこに推理小説の謎解きのような要素は全く不要なのである。
松本清張の文体と鋭い心理描写(人の心のちょっとした機微を的確に迅速に切り出す)もまた、そうした「濃密な読書時間」を形成することが出来るのだろう。
今回この短編集と東野圭吾さんの最初期の短編集を同時に読み比較してみて、清張さすがと思わせられたのは、そのような「時間の充溢」を看取させられたからであった。
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人は生きるだけで、辛い。
でも、ここで描かれる悲哀は、自分の欲望から生まれる物語。
サカナクションのエンドレスだ。
"この指で僕は僕を指す
その度にきっと足が竦む
見えない世界に色をつける
声は僕だ"
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松本清張といえば、ミステリー作家といった印象が強いですが、実はミステリーばかりを書いた作家という訳ではない。そして、直木賞ではなく芥川賞受賞者だったということも、イメージと異なるような気がいたします。
その芥川賞受賞作『或る「小倉日記』伝」をはじめとした短編が収録されいるのが本書。時代的な背景もあってか、どことなく暗いイメージが付きまとう作品が多いような気がしますが、それでもどの短編もドキッとさせられる結末。
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「点と線」や「ゼロの焦点」とは違う清張作品。ミステリは「火の記憶」だけ。ただ、この「火の記憶」絶品でした。表題作の田上の運命は報われなさ過ぎて切なくなる。それと正反対な「断碑」。歯噛みするほど悔しいだろう「父系の指」とか、自身を投影させた作品が多く感じた。何れも暗くて好い。ていうか松本清張って「或る〜」で芥川賞受賞してたのを解説で知った。
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人間の辛さ(からさ)、人生の辛さ(つらさ)が、しみじみと身に染みる。しかし、そこがいい。
松本清張は10代の頃に『点と線』と、あとアンソロジーに収録されているものをいくつか読んだだけだった。今になってこの短編集を読んで驚く。面白い。10代に読んだ時よりも、格段に面白いと思ったのだ。
嫉妬、愛憎、自負、そして劣等……
すさまじいエネルギーである。けれど、その根本にあるのは一個の人間の脆さ、いっそ儚いほどに切ない人間の等身大のちっぽけさである。
ガリガリの自負心≒虚栄心を描いたものは私自身、身に覚えがありすぎるだけに読んでいてとても辛く、ああ、自分はこういうものにもっとも「痛み」を感じるのか、とひりひりした。
それだけに、仄かにでも哀愁が感じられるもの、たとえ憎しみと半ばしていたり嫉妬に狂ったりしていても、素直な愛が感じられるものの方が物語として好きだと思った。作品名で言うと、「或る「小倉日記」伝」「喪失」あたり。
最後の「箱根心中」も、切々とした悲しみが最後まで抑えた筆遣いで描いてあり、余韻が尾を引いてラストにふさわしかった。というか、最後までガリガリのコンプレックスや虚栄の世知辛さを書かれてはやりきれないな、と心配していたので、正直ほっとした(^^;)。
物語にはやはり、ほんの少しでいいから、お話の神様の慈悲が欲しいものなのだ。
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重苦しい。信念はあるのに人格や運が災いして認められない学者。読者の心を抉る劣等感。少ないページ数で濃密に描かれています。障害や学歴は人生を狂わせ権力や見下げる視点は事実を歪ませる。気に入らない、面倒だと捨てられた側の否応なしの現実が辛いです。
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学問芸術の世界に没入して出世を目指すも自らの才能と境遇との落差に翻弄され、絶望し、破滅する--そのような者たちを描いた作品を多く読める短篇集。また学芸の世界以外が舞台の、やましい事情を抱えた人間の苦悩や破滅を描いた作品も収録。人や社会の暗く汚く嫌な部分を濃く巧みに描き出すこの作者には驚かされる。お気に入りは「火の記憶」・「青のある断層」・「箱根心中」。
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松本清張傑作短編集の第一作。12編の短編を収録。現代小説に分類されるが、第二次世界大戦ごろから昭和の中頃までの話で、歴史小説になりつつある。多くは個人の生き様を描いたもの。時代背景もあり、とにかく暗いなぁ。
Posted by ブクログ
ー或る「小倉日記」伝
1952年の作品で,第28回芥川賞受賞作。肉体的な欠陥を抱えながらも頭脳の明敏な一青年が,森鴎外「小倉日記」の巡礼を行う話。ある種のコンプレックスによる悲劇性を学問の追究へと昇華させた感じか。周辺人物も大事で,常に献身的な母や"コケットリイ"てる子,これらの存在が主人公の姿勢に影響する。
他の短編にしても書いてあることは似ていて,学者が表現者かであろうと夢中になる者,気分はどうあれ献身する者,機会があるごとに出し抜こうという雑な悪意,人々の生涯,あたりだろう。考古学や歴史学に対する考察の姿勢は,ひねくれた面はあるものの根は真摯そのものだと受け取った。また,人々の学究から推理の萌芽を感じ取ることもできる。
Posted by ブクログ
時代が古く違和感がある場面もあったが、ひとつひとつは面白かった。ただし、編集に難有り。清張の現代物の短編を集めた本だが、同系列の話が続いて食傷気味になった。
それが、読むのに時間がかかった所以。
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私が読んだ限り、清張の作品はどれも重苦しさが付きまとう。
主人公には低学歴の学歴コンプレックスが目に付く気がするなと思ったら、清張自身が低学歴(尋常高等小学校卒(修了時14才))であることが影響しているようだ。
学歴がないながらそれぞれの目標に向かってひたむきに生きる主人公たちが痛ましい。
推理小説ではないからか、考古学シリーズが続くと飽きてしまった。
『断碑』のシズエの健気さに涙。
(2015.1.21)
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松本清張の短編集.
森鴎外の小倉日記を読んでいるので,芥川賞受賞作の『或る「小倉日記」伝』が読みたくなった.小倉日記は森鴎外が小倉に赴任していたときの日記だが,長く紛失して行方がわからなかった.まだ小倉日記が発見される前に,小倉での鷗外の足跡を明らかにしようとした田上耕作の奮闘と,その母親の献身を描いた小説.田上は生まれつき体に障害を持ち,自分の意志を通じることも時として難しかったようだ.断片的な事実をつなげていく様は推理小説の謎解きの趣もある.日記の発見で一見無駄になったようにみえる田上の報われない努力を読者の目の前に提示することが松本清張の意図であろう.
他に「笛壺」「石の骨」を読んだが,この両方にも同じタイプの人間が登場する.さまざまな犠牲を払い,凄まじい努力をしても,世間に認められず,学問以外の大切であったものまで失ってしまう.
どれも,重苦しい主題の小説だが,文章は軽めで,読みやすく,すでに後年のベストセラー小説への流れが見えるようだ.