あらすじ
身体が不自由で孤独な一青年が、小倉在住期の鴎外を追究する芥川賞受賞作『或る「小倉日記」伝』。旧石器時代の人骨を発見し、その研究に生涯をかけた中学教師が、業績を横取りされる『石の骨』。功なり名とげた大学教授が悪女にひっかかり学界から顛落する『笛壺』。他に9篇を収める。
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Posted by ブクログ
初めて読んだ松本清張の本。或る「小倉日記」伝が目的だったが、最近読んでいる、ある意味読みやすい日本語とはまた違った、重みのある文章の良さにドキドキしながら読みました。どの物語も嫉妬。読んでいて苦しくなるような文章であったけど、これが人間らしい。人は喜びに対して貪欲だし、その代償なのか、人は自分で自分の身を滅ぼしていく。これは誰のせいでもないのだなぁと思う。それを受け止めながら、正直に生きていく、まともに。自分に正直だからこそ自分勝手な人たちについて行く相方もまた強さを持っている。私なら逃げてしまうと思うけれど、辛抱強く人を支えるのもかっこいい生き方な気がした。
或る「小倉日記」伝、私は耕作は幸せな人生の最期ではなかったかと思う。長生きして、もっと聞いて回りたかっただろうと思うけど、彼の書き上げる小倉日記を読んでみたかったけれど、小倉日記の発見を知らずにいられたことは幸せだったと思う。耕作が聞いて回った話を知りたい。きっと鷗外自身の書くものと違う話があっただろうから。
Posted by ブクログ
学芸等へ没入する人シリーズの迫力。
それと連なるところがあるように思えてしまう自伝的作品。
あと、不倫したら必ず事故とかに遭う王道パターン
Posted by ブクログ
松本清張の短編集.
森鴎外の小倉日記を読んでいるので,芥川賞受賞作の『或る「小倉日記」伝』が読みたくなった.小倉日記は森鴎外が小倉に赴任していたときの日記だが,長く紛失して行方がわからなかった.まだ小倉日記が発見される前に,小倉での鷗外の足跡を明らかにしようとした田上耕作の奮闘と,その母親の献身を描いた小説.田上は生まれつき体に障害を持ち,自分の意志を通じることも時として難しかったようだ.断片的な事実をつなげていく様は推理小説の謎解きの趣もある.日記の発見で一見無駄になったようにみえる田上の報われない努力を読者の目の前に提示することが松本清張の意図であろう.
他に「笛壺」「石の骨」を読んだが,この両方にも同じタイプの人間が登場する.さまざまな犠牲を払い,凄まじい努力をしても,世間に認められず,学問以外の大切であったものまで失ってしまう.
どれも,重苦しい主題の小説だが,文章は軽めで,読みやすく,すでに後年のベストセラー小説への流れが見えるようだ.