あらすじ
昭和23年1月26日、帝国銀行椎名町支店に東京都の腕章をした男が現れ、占領軍の命令で赤痢の予防薬を飲むよう告げると、行員らに毒物を飲ませ、現金と小切手を奪い逃走する事件が発生した。捜査本部は旧陸軍関係者を疑うが、やがて画家・平沢の名が浮上、自白だけで死刑判決が下る。膨大な資料をもとに、占領期に起こった事件の背後に潜む謀略を考察し、清張史観の出発点となった記念碑的名作。
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Posted by ブクログ
帝銀事件のノンフィクションです。
状況証拠と自白のみで死刑判決を受けましたが、冤罪の可能性もある謎だらけの事件です。
「日本の黒い霧」と併せて読むことをお薦めします。
Posted by ブクログ
気になってた事件
いかにも冤罪って話なのかとおもってたんですけど お金の流れとか 怪しい部分もあったりして ん…
でも なんだか 平沢さんを犯人に仕立てておくほうが事が無難に進む みたいな空気を感じてしまった
私がそう感じるのだから 松本先生はもっと強く思ったのでしょうね 小説帝銀事件とはなっていますが ノンフィクションですよね そして問題提議もしてますよね
最後の方に 警察の勘違いで無理やり自白?させられて逮捕されたけど 別件で逮捕された犯人が自白して 誤認逮捕だった…って話が載っていて 笑ってしまいました
自白がすべての旧刑訴法って 怖いですね
中野にスパイ学校があったとか
日本で封鎖預金が実施されていたとか知らない事が興味深かったです
Posted by ブクログ
帝銀事件の復習。平沢さんのコルサコフ症候群など詳しく知れたんだけど、やっぱり謎が多いなあこの事件。当時、青酸カリてすぐに手には入ったん?それも驚きました。
Posted by ブクログ
事件を客観的にグイグイと。
果たして真犯人は?証拠なく検察側の都合の良いように積み上げられた事象で犯人とされた平沢。戦後の法改正寸前の混乱期の様がうかがえる。
Posted by ブクログ
レビュー
歴史の教科書などで子どもの頃から知っていた事件ではあったが、都心で起きた事件だったのねという程度の認識だった。3年ほど前NHKスペシャルの未解決事件ファイルを視聴したことにより、興味の扉が開き、底なし沼に落ちていった。
さらにその頃実家の墓探しをしており、椎名町の寺に墓見学後、後日帝銀事件はその寺のすぐ裏手で起きた事件だったことを知り益々事件が身近なこととして感じられるようになった。
私にとって松本清張は若い時分にもちろん読んだことはあったが、代表作を数点読むのみで当時はあまりハマらない作家だった。
帝銀事件は松本清張の作品をまず基礎知識として読まないと始まらないというわけで、この作品から読み始めた。
丹念に調べ上げて一応フィクションという設定で作られている。
これを読む限り、警察の捜査は旧日本軍の731部隊関連まで追求していたにもかかわらず、名刺捜索班からあぶりだされた画家を犯人に仕立てあげられてゆく。
その画家は、性格的にも金銭的にも清廉潔白ではなかったことが災いしてしまったという筋書き。
個人的には名刺捜索班からあぶりだされた容疑者の中に歯科医がいてこの人のほうがまだ怪しそうだったが、事件後死亡していたのでそれ以上の探索はできなかったようだ。凶悪事件には生きている犯人の逮捕が必要なのだ。
物的証拠もないのに自白があったり、アリバイがない(実際はあるのだが家にいた、家族と一緒にいたはアリバイにならない)ことで犯人に仕立てられてしまう旧法の恐ろしさも思い知らされた。
当時から何でも犯人はGHQがらみだという結論に不満を訴える読者はいたようだが、GHQ占領後まだ日も浅い時期にこの内容を小説という形でも発表できた松本清張という作家はあらためてすごい。
満足度★★★★
小説帝銀事件 新装版
角川文庫
著:松本 清張1909-1992
ISBN:9784041227695
。出版社:KADOKAWA
。判型:文庫
。ページ数:288ページ
。定価:600円(本体)
。発行年月日:2009年12月
。内容紹介
占領下の昭和23年1月26日、豊島区の帝国銀行で発生した毒殺強盗事件。捜査本部は旧軍関係者を疑うが、画家・平沢貞通に自白だけで死刑判決が下る。昭和史の闇に挑んだ清張史観の出発点となった記念碑的名作。発売日:2009年12月25日
以上出版書誌データベースより引用
Posted by ブクログ
どのようにして、無実の人間が犯人に仕立てられていくのか、はたして平沢が本当に犯人なのか?疑問が残る実際にあった事件を記者の目線で書かれた小説。事件についての真相はわからず、作者も想像するしかなかった。
戦後という時代のGHQの影響力、細菌部隊(731部隊)の関与や陰謀説がしばしば噂された。
Posted by ブクログ
作り話かと思うような事件だと思った。一部フィクションの部分があるので、タイトルに「小説」が入っているんだろうか。松本清張さんの取材力に圧倒させられる。GHQや731部隊など、史実を知る意味でも、読むべき作品だと思った。
Posted by ブクログ
占領下の日本、青酸カリを飲ませ行員十数名を殺害し現金が奪われる。画家の平沢貞通が逮捕されるが…。最後の「しかし、とに角、個人的なおれの力ではどうにもならない」に「小説」とせざるを得なかった作者の無念がにじむ。
Posted by ブクログ
真犯人はおそらく旧軍部の人間。731部隊関係者であり、毒物は青酸ニトリール。
私がこの事件で一番印象に残ったのは「第二薬(セコンド液)」の使用である。これは常人には決して思いつかない。これはただの水であった。しかし、一分後にそれを飲むように指示したことは、この一分間が非常に重要であったことを示唆する。極めて知能的な、そして無慈悲な犯罪であり、旧特務班関係者の犯罪であることを匂わせる。
日本が抱える深い闇の一つである。
Posted by ブクログ
2025.11.06
本作を読むと、帝銀事件は冤罪なのだろうと思わざるをえない。まず、この事件は新しい刑事訴訟法に基づく裁判ではないということ。
すると、自白をした者が負け!という意味では冤罪ではあっても誤判ではないという評価もできる。やはり、日本では警察に捕まるということそのものがかなり危険ということです。
Posted by ブクログ
松本清張文学忌、清張忌
1958年文藝春秋連載
1959年第16回文藝春秋読者賞受賞
社会派ノンフィクション
1948年、帝国銀行で起きた毒殺事件。12人が命を落とし、現金が奪われた帝銀事件
まだ日本は、GHQの占領下にあった
当初は参考人のひとりだった画家・平沢貞通が、ある時点から犯人と断定され、死刑判決を受けるまでの経緯には、今も多くの謎が残っている
まず、事件の経過を資料に基づいて小説として再現、次に捜査や証拠への疑問を提示し、そして清張なりの推理と再考を試みている
読み終えて強く印象に残ったのは、容疑者・平沢の言動の不安定さだった
虚言癖や経歴詐称が、むしろ「犯人らしさ」を強めてしまう言動が目につく
清張も彼を無条件に擁護していないという事なのかなと思う
ただ、あいまいな証拠と不透明な捜査のなかで、なぜここまで断定できたのか―その疑問は、今も重く残る
もしかしたら 書けなかった事もあるのかもしれません
Posted by ブクログ
気になっていた事件。
ついに読むことができた。
タイトルに小説とついているが、
帝銀事件をそのまま描いている。
編集者があるきっかけでこの事件を調べ
まとめた形になっている。
帝銀事件は昭和23年1月26日に起こった
毒殺・強盗事件だが、
その手口があまりに手慣れていて
犯人は軍関係者だと目された。
しかし、操作は行き詰まり
名刺という証拠品から絵描きが浮上する。
物的証拠は間接的なものばかりなのに
強要された自白により
犯人とされ死刑判決を受けてしまう。
旧刑訴法では、自白を証拠とできたためだ。
この犯人はおそらく冤罪と思われる。
死刑執行はされず獄中で高齢でなくなっている。
この本は、事件の内容を
緻密に淡々と説明していて
なかなか読みにくい本ではあった。
操作資料や裁判資料をもとに事実確認をしていく。
犯人として疑わしい描かれ方をするとき
犯人かもしれないと思ってしまい、
また犯人ではあり得ないと主張されるとき
これは冤罪だと感じてしまう。
自分が簡単に説得されやすく
流されやすい存在だと気づかされた。
世論といったものも似たようなものだと思う。
GHQ統治下の時代の空気がわからないので
なんとも言えないが、この本は
事件の真実に迫ろうとする
危険も伴う作品なのではないかと感じた。
表向きは解決しているが、
本当の意味では迷宮入りしているこの事件に
問題提起する形で、小説というよりは
ジャーナリズムを感じる作品だった。
Posted by ブクログ
松本清張が描く、帝銀事件。
平沢は果たして真犯人だったのか。犯行の様子、平沢の暮らしぶりから事件が書き起こされる。そのあとの捜査では、生存者の記憶をもとに作られた似顔絵と本人の自供をもとに平沢犯行説が組み立てられた。
確かに怪しいところはあり、平沢が捜査線上に浮かぶのは無理はないが、犯行当日のアリバイや犯行に用いられた青酸化合物の入手経路が不明確。
また時代背景としてGHQの影響力がなかったとは思えない。戦後史の闇。
Posted by ブクログ
★4.8
日本の警察捜査史上初という、モンタージュ写真が作成され、実際の捜査にも活用された。そして、横溝正史の悪魔が来たりて笛を吹くのモデルとしても知られている。
帝銀事件の予備知識はこんなところだった。絵空事ばかりに関心がいって、実際の事件を恥ずかしながら、調べたことはなかった。昭和史に関心を持つようになり、色々漁り始めて、冤罪の可能性が極めて高いことを知った。この作品を読み、それはほぼ、確信に近いと思えた。
「しかし、とに角、個人的なおれの力ではどうにもならない」
この、最後の一行は、松本清張自身の嘆息に思えて仕方がない。
Posted by ブクログ
終戦後、旧刑事訴訟法最後の取扱事件である帝銀事件の真相に迫る小説。冤罪事件ではないかと言われており、死刑判決を受けた平沢死刑囚は無実を訴えつつ獄死。病気のため虚言癖があった画家の死刑囚に薬物を扱えたのか、見えかくれする陸軍特殊部隊とその記録をめぐる米ソのしのぎ合い、真実はどうであったかに松本清張が迫る。
時代の巡り合わせと当時の世論、ある警察官の執念、米ソの情報線でGHQの影響もあったかなどさまざまがあるとはいえ、無実の市民が突然逮捕、有罪にされる社会にはしたくないものです。
Posted by ブクログ
帝銀事件が起きた昭和23年の日本は、連合国の占領下にあった。当時の日本人はもちろん、日本の様々な組織(検察・警察含む)にとってアメリカを中心とする占領軍は途方もなく巨大で、時には「壁」になったのだろう。
事件の犯人を旧日本軍関係者と睨んでいた警察捜査の主流は、「壁」にぶち当たってしまった。「壁」が旧日本軍のある一部に利用価値を見出し保護したからである。行き場をなくした主流が傍流の平沢貞通犯人説に殺到し、あれよあれよという間に平沢の死刑判決に至ってしまった。平沢自身、あまり素行がよくなかったことや脳の病気による虚言症などを抱えていたことがあり、自白重点主義の当時、心証の面で不利に働いただろう。
無関係の人が、時代や巡りあわせの悪さから想像もしなかった境遇に陥ってしまうことがある。これがフィクションでないことが恐怖である。
Posted by ブクログ
帝銀事件についてのお話
当時の捜査の杜撰さにちょっとあきれた
軍関係の捜査は大変そう
内容的に平沢は犯人にしたてあげられた感がある
犯人としては矛盾するようなところもありながら
警察が決めつけてしまったような感じ
事実はいったいどうだったのだろう?
Posted by ブクログ
実際にあった事件を題材にした小説。
小説だけど、ほとんどノンフィクションのような形式。
この事件は犯人が逮捕され死刑判決まで出ているが、松本清張は元731部隊の人が犯人と推理している。
戦後、731部隊のノウハウが米軍に必要だったため、731部隊の隊員はGHQによって庇護された。
そのことを公にしたくなかったため、捜査の手が731部隊に及ぶと、GHQが邪魔をした。
と松本清張は推理を展開する。
いずれも何の証拠もなく、あくまで想像に過ぎないと思うが、一理あると思う。
ただし、冤罪なら誤認逮捕された人は、なぜ事件後、大金を持っていたのか。
そして、そのお金の出どころをなぜ言わないのか。この点が理解できない。
Posted by ブクログ
戦後の米国占領下時代に起こった実際の事件。
小説の中身の事はほぼ事実であろうし、松本清張は実際に
平沢氏の釈放運動を行っている。
当時の闇の部分が垣間見える事件ではあった。
小説は平沢・検事・弁護士のすべての3方面での主観を
記しているが、どれもが納得いくものであり、どれもが納得
いかない部分もある。
が、個人的な意見として、やはり平沢氏なる画家が、
手早く薬品を、威厳持ちながら堂々と扱えるとも
思えないというのが正直な感想。
あくまで、松本清張氏の小説、及び他から仕入れた資料による、
勝手な想像につきないが。
死刑宣告されながらも、執行されずに、最後は病で亡くなった
平沢氏が本当に無罪だとしたら、どんなに悔しいだろうか。
国家が人を食い潰す。
許されない事実だが、これもまた事実なのだと、思わざるえない1冊でした。
Posted by ブクログ
去年、死刑囚として47年もの間拘束されていた袴田さんの無実が確定し、釈放された。袴田さんはもはや、自分が釈放されたことがわかっているのかも疑問なぐらい精神をきたしてしまっている。。人生の大半を牢の中で過ごさせてしまった罪の大きさは計り知れない。
帝銀事件もまた然り。戦後間もない昭和23年、帝国銀行椎名町支店で青酸カリによる大量殺人が発生した。行動のスムーズさから判断するに、犯人は冷静沈着、慎重な性格で、かなり医療に精通した人間と推察される。そしてまた大量の死を目の当たりにしても動じないところを見ると残忍酷薄で精神力の強い人物である。そこで警察は軍関係、特に七三一部隊を含む科学研究所に焦点を当てて捜査を始めた。
ところが、浮上したのはテンペラ画家の平沢貞通。全く医療にも軍にも薬品にも関係のない人物なのに、名刺の裏に書かれていた文字の筆跡が似ていること、容姿が似ていること、アリバイが曖昧なこと、事件後金払いが良くなったこと‥確たる証拠もないのに、あれよあれよという間に犯人に仕立て上げられ、仕舞いには死刑囚にされてしまった。彼がコルサコフ症候群で証言もころころ変わるということも大きく作用している。軍関係の調査はどうなったのでしょう。打ち切られたのか資料も残っていない。軍の科学研究者たちは外地から秘密裏に帰国し、霧散して行った。多くはGHQに引き取られたという。そして今回の事件もGHQが軍の捜査を阻んだ可能性もある。
今回の証言者たちの中にはは証言内容を徐々に平沢を黒に寄せていった人もいる。世論や検察、警察の判断とは違うことが言えなくなり、断定的に似てると言ってしまえばだんだん似てるようにも見え始め、無意識に自分は正しいと思ってしまう。筆跡も面通しも主観が入るので当てにならないはず。
「マスコミが大衆感情を煽り、一つの世論が形成された。世論はいつも片側にある種の暴力を養ってふくれるものである。」「警察の主観が新聞の主観となり、それが読者の主観となり世論の主観となるのである。」そしてこの負のうねりは令和になった今でもネットという不気味な怪物を介して訳のわからない主観を生み出している。大きな主観の渦の中で自分の意見を通すことは難しい。
Posted by ブクログ
戦後の日本を舞台とした凶悪犯罪。読み進めていくうちに明らかに犯人の人物像とは違う人が犯人に仕立て上げられているなと思いながら読んでいたら当時は自白重点主義といい被疑者がやりましたと言えば犯罪立証という今生きている私からすれば恐ろしい時代だったことがわかった。
それは確かにそれっぽい証拠に主観を立てて問い詰めていけば段々と被疑者もやっていおうがやっていまいが追い詰められていく。犯行につながるものに対する主観はあったが確実に結びつく証拠ではない、でも犯行を自白したらそれで立証される。
大衆の声も被疑者の考えも刷り込みや決めつけ、大きな力をもつものからの圧力でどうにでもなってしまう。それは時代が変わった今にもあるのではないかと感じてしまうところもあった。
Posted by ブクログ
人生初の松本清張。
風邪ひいてた時にアマプラでNHKの「未解決事件」を見漁っていて、その中に帝銀事件を扱ったものがあった。ただ帝銀事件について描くんじゃなくて、あれは何かおかしかった、と真相に迫ろうとする松本清張の視点から描いていたもので、ゾクゾクする面白さがあって、そこでこの本を知った。
ドラマを観ていたせいかもしれないけど、小説というよりもほとんど松本清張のルポルタージュのようで、主人公のジャーナリストはほとんど松本清張本人だ。小説とは言いつつ、出てくるものは(たぶん)全部実名で、松本清張がこれが真実なんだと伝えたい一心で書いているのが分かる小説だった。調べ尽くして、最後の一手には辿り着けなかったけど、憤りに貫かれた本だった。
帝銀事件は、今回こうして踏み込んで知るまでは自分にとってはいわくつきの、得体の知れない怖い話的なイメージ(どちらかというと金田一的なイメージ)があったけど、ある程度の輪郭を知ると、市井の人がいきなり訳もわからず毒殺されてしまった悲しい事件で、その周りには冤罪(かもしれない)や、真実に辿り着けなくされる圧力や、日本軍部の闇がまとわりついていたりして、亡くなってしまったみなさんも、平沢さんも、大きな何かに巻き込まれてしまった時代のうねりのようなものを感じる印象に変わった。
そのあたり、「日本の黒い霧」に書かれていそうなので、いつかそれも読んでみようと思う。
NHKの特番「未解決事件」で、松本清張が帝銀事件をノンフィクションで書こうとしたものの、葛藤の末に小説として出す経過が描かれていた。なるほど本作の前半は小説のように進んで行くが、後半はずいぶん趣きが変わってくる。こういうのをルポルタージュというのか…。
その後『日本の黒い霧』で結局ノンフィクションとして取り上げたところを見ると、やはり清張は帝銀事件については他作品とは異なる向き合い方をしていたのかなと思った。
個人的に後半は読み進めるのに苦労したが、何度か読み返すうちに良さがわかってくるのかも。
Posted by ブクログ
帝銀事件について事件発生からその後の捜査までわかりやすく解説されている。小説というよりはノンフィクションで読みにくい箇所も多いが、事件への興味から割とすらすら読めた。平沢はどう見ても冤罪で警察の威信のためのスケープゴートとしか思えないが、彼自身が供述で引っ掻き回したり金の出所を明かさなかったりと、犯人にされても仕方ない状況を作っている。画界の興隆のために大量殺人犯の汚名を着せられてもいい、というのは理解できない。
Posted by ブクログ
昭和23年の大量毒殺事件を「小説」として発表しているのであくまでもフィクションという事か。軍部犯行説に動いていた捜査陣が平沢犯行説に傾いていく過程が描かれている。生存者がいるというところに被験者を絶滅させたとされる731部隊にしては手抜かりがある様に思える。
平沢氏が芸術家は命より名を惜しむという考えだったにせよ金の出所がハッキリしなかったのは作中にあるように疑惑を晴らすのに障害であったといえる。
生き残りの人が顔を見ても意見が割れた事から人間の観察力の薄弱さがよく分かった。
歴史の闇を暴く小説
帝銀事件に関しては未だに定説がでてこないが、当時の警察の発表にははなはだ摩訶不思議な点が多い。この著作は必ずしも100%真実を語っているわけではないが、松本氏の推論はかなり信ぴょう性があると思われている。
Posted by ブクログ
戦後間もなくの混乱期の事件だけに、この結果は致し方ないのかな。日本人には基本的にお上のやることは間違いないとか、黙って従うべきだという考え方が未だにあるように感じる。
おまけに、当時は旧刑事訴訟法。平沢氏はその法律の下の犠牲者と言って良いかもしれない。清張の筆致は非常に合理的で、平沢貞通の冤罪を強く印象づけてる。結局死刑が執行されなかったのも、当局が一抹の不安を抱えてた証拠だろう。
本来ならば、恩赦でもなんでも釈放すべきだった。
Posted by ブクログ
「帝銀事件は旧訴訟法による最後の事件であった。旧訴訟法によると、自白重点主義である。」清張が一番言いたかったのは、この点であると感じた。 時を同じくして、東電OL殺人事件の真実も怪しくなってきた。事件のあらましを確認するために、佐野眞一氏の著書を読み返してみようかしら。
Posted by ブクログ
昭和23年、米軍占領下の日本で起きた毒物による大量殺人事件。当初の警察捜査は毒物の専門知識を持つ軍関係者に向けられていたが、結局、逮捕されたのは毒物とも軍ともかけ離れた画家、平沢。
医学的知識のない市井の画家がこんな大胆な事件を実行できるのか。背後にGHQの陰謀を感じた松本清張は、架空の新聞記者に事件を推理させる小説スタイルで事件の真相に迫ろうとした。
小説?
ノンフィクション?
大作家の自己満足?
と、いろんな読み方ができる作品。
帝銀事件について、本当に松本清張の意見を知りたければ、「黒い霧」をどうぞ。
Posted by ブクログ
すべて知っている情報ばかりなのに、なぜこんなにドキドキできるのか。新装版なので、文字も読みやすく、また思いのほか松本清張が平沢に肩入れしていない書き方だったので(もちろんまったくしてないわけじゃないが)、どう結末づけるんだろう、と単純に読み手としておもしろがれて嬉しかった。
みなまでは書いていないけど、犯人を追い詰めたら軍の関係だった、というところを随所に散りばめて書いてある。でも追求はしきれないで終わった感じで、これは「日本の黒い霧」で充分に書いてあるからいいのかもしれない。「小説」とつけたところに、松本清張も小説では勝てない「事実」を悔しく思い、挑戦してみたんだと思う。いや、おもしろかった。