松本清張のレビュー一覧
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松本清張ジャンル別作品集「美術ミステリ」。積読本解消。
巻末に発表年を書いてなかったので、wikiで調べてみた。
真贋の森 1958
青のある断層 1955
美の虚像 1982新潮文庫
与えられた生 1970単行本
後者2つは文庫と単行本の発行年しかわからなかったので、おそらく「美の虚像」の方も1970年ぐらいの発表だと思う。前者2つは戦後10、13年後の発表。東日本大震災が15年前だから、当時の人たちにとっても戦後の混乱は、ほんのつい最近の感覚だったろう。
現代では通用しないやり方や、
現代でも変わらない気持ちが、
見えてきて大変面白く読んだ。
「真贋のー」「美のー」は、贋作を巡るお話である。
松本清張は「日本美術史の盲点」を突いて小説に仕上げた。「西洋美術史の材料は殆ど開放されて出尽している(略)だが、日本ではそうはいかないのだ。所蔵家は奥深く置し込んで、他見を宥すことに極めて吝嗇であるから、何が何処にあるのか判然としない。それに、美術品が投機の対象になっているので、戦後の変動期に旧貴族や旧財閥から流れた物でも、新興財閥の間を常に泳いでいるから、たとえ文部省あたりが古美術品の目録を作成しようと企てても困難であろう。その上、誰も知らない処に、誰も知らない品が、現存の三分の二くらいは死蔵されて眠っていると推定できる」
‥‥現在はそれほどではないのかもしれない。当時の美術史家の権威を騙せば大量に贋作が捌ける。戦後間もなくだから多分出来たのだろう、とってもリアルな贋作つくりだった。「真贋」は岡山県笠岡市に記念館のある浦上玉堂の贋作についての話なので尚更だった。
「美のー」は、「権威」そのものを反転させた話だった。
「青のある断層」は、短いながらも好きな作品である。まるで技術がない貧乏画家の絵を有名な画商が何故か買ってしまう。そしてスランプに陥っている新進画家に見せるのだ。画商は貧乏画家が技術を学び始めると簡単に捨てる。絵も総て燃やした。新進画家はスランプを抜ける。貧乏画家が持っていたのは、誰にも説明できないエスプリだった。絵だけに限らない「創作の世界」には、そういうモノが確かにあると、私は思う。
「美術ミステリ」とあるけど、4作品とも、ミステリ色は少ない。社会派でも無い。社会の一断面を描いているけど、ドロドロとした情念はない。淡々とした筆致が今読むととても新鮮だ。
「与えられた生」も、「創作する者」の陥る闇を描いて、特に私にはリアルだった。新進画家が、胃癌にかかる。冷静に受け止めたように見えて、手術が終わる迄死を覚悟するのは、当時の癌患者全員の気持ちだったろう。医者から「もう大丈夫」と断言されて、主人公は新たな絵の着想が幾つも生まれる。その半年後に再発。医者を代えて全摘手術。それを支えてくれた雑誌編集者と、主人公は今度は不倫に陥る。という話である。男も不倫相手も妻も、今から観るといろいろアウトな場面があるのだけど、1番は男がアウトだけど、とっても淡々と描かれていた。ラスト1行が突発。かつ納得出来た。
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ネタバレ初めての松本清張。
個人情報の観点や電話のやり取り、当時の生活様式や言葉遣いなど、自分の世代では馴染みのないものばかりでしたが、以前よりそういった歴史は知っていたので特に違和感もなく読み進められました。
難しい言葉で書き綴らねども、背景描写や心情がわかりやすかったのでサクサクと読んでいけたのが良かったです。
禎子はまだ憲一と結婚して日が浅く、仕事や年齢など、わかりやすい表記のようなものしか知り得ていなかった。短い間で既に彼を充分に愛していたから、行方や過去が気になりあそこまで調べたというよりは、これから愛していけると思っていたから、知りたかったのではないかと思いました。
派手な服装をした女の描写が何度か出てくるので、途中からその女は久子ではないのでは?と思うなど、ミスリードのようなものに早々に気付いてしまう部分も多かったですが、出版された時代を考えると昨今のトリックにも大きな影響を及ぼしている、原点のような作品の1部だと実感しました。
自分の過去を、生活を守りたかった夫人。
自分の意思や努力ではどうにもならない時代から這い上がった女性の最後としては、あまりにも切なく悲しい余韻を残した作品でした。
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表題作の他、「六畳の生涯」二篇を収録。
「生けるパスカル」
画家の矢沢辰生は、美術雑誌記者の森禎治郎がいう外国の小説の話を、近来これほど身を入れて聞いたことはなかった。
天野仙太は二流どこの画商である。絵の催促に来たらしい。
スミ子というのは五年前に矢沢が問題を起こしたモデル女で、鈴恵は未だにそのことにからんでいる。
鈴恵の調子が狂ったきっかけは、瀬戸内海のある都市から岩沢明美が彼をたよって出京したときにはじまる。
最近、矢沢の家の近くで、この羽虫が多く飛んでいた日が調査でわかった。ガス中毒の前夜遅くから当日の午前七時すぎまでであった。
描かなかった絵に、羽虫がどうしてカンバスの塗りたての絵具にまみれていたのか。警察は約三時間の矢沢の「時間待ち」の内容を知った。
ほとんど、妻の言い掛かりに耐えていたが、ある夜、ガス自殺企てて、妻を殺すが、
「六畳の生涯」
ところが、瓶の白い粉の高さが前のとおりに戻っている。あきらかに誰かが十五グラムぶんを補充しているのである。 あの将校行李の中の粉末が、この瓶に入れられていた。── 13
「一盗二婢」
1. 盗(人妻・他人の恋人)、2. 婢(下女・召使い)の順に興奮するという、不道徳な関係ほど好まれるという好色の格言・風刺です。
一日休んだトミは、翌日から出てきて、三日間働いた。三日間というのは、それ以上に彼女が生存しなかったからである。──
「トミさんよ、おじいちゃん。うちに手伝いに来ているトミさんよ。今朝、ご亭主と死んでいたのがわかったんだってよ」
警官は、犯罪ではないので、無理心中としても犯人もいっしょに死んでいるので、捜査の対象にならないと判断し、そのまま死体を持ち帰ることになった。
──すると望子が葡萄酒をトミに与え、しかる後に、さりげなく看護婦に暇を出す……こういうことも考えられないだろうか。
博作は、心臓をどきどきさせて歩き出した。どっちにしても、彼にとっては鬼の棲家に帰るのである。
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妻に殺される前に、殺したい……。歪んだ夫婦の心理を描く傑作サスペンス!
妻の一方的な嫉妬に悩まされる画家の矢沢辰生は、妻に仕事も金も管理され、さらにはあらぬ浮気の疑いをかけられ酷く責められる日々に身も心も限界を迎えていた。そんな中、彼は1冊の小説「死せるパスカル」に出会う。自分を死んだことにしてでも自由を求める主人公に深く共感した矢沢は、妻による無理心中を装った完全犯罪を画策するが……。歪んだ夫婦の心理に鋭くメスを入れる傑作サスペンス。 -
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ネタバレ計画倒産が疑われる企業の不足金を巡る疑惑の元幹部たちの不審な動きを追う。
長い!平易で余計な描写の少ない文章ではあるが、筆致が遅いというかなんというか…読んでいてもなかなか進まないこと、また日付時刻と場所の行ったり来たりが何度も繰り返され、誰がいつどこでどうしたんだか、だんだん整理するのが面倒くさくなってきてしまいまして。
刑事が与えられた事象から推論を重ね、徐々に対象を絞り込んでいく過程はそれなりにワクワクさせてくれました。しかし、文章が平易すぎて割と早々に最後の犯人が読めてしまうこと(なんでもない登場の仕方にも関わらず妙に細かい風体の描写とかあるのでおやっとなった)はちょっと残念でした。
松本清張には点と線やガラスの城など名作があまたあると聞いていますが、これは、ちょっと、そこまでには感じなかったです。 -
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BS11 ドラマでクレジットされていた原作は、松本清張さん「死の枝」より。
「死の枝」は、ちょっと風変わりな連作短編集で。
登場人物は各話ごとに全然違うのだけど、
ある、共通したニュアンスを持つミステリーたち。
途方もなく膨張し、混乱し、錯綜した現代社会の裏面で複雑にもつれ、からみあうさまざまな犯罪。その陰に澱む愛憎と執念――狂気を装い、法の網の目を潜りぬけようとする男、交通地獄という世相の盲点を巧みに利用した殺人、猟奇事件の影に踊る札つきの不法建築業者、北国の闇を引き裂く夫婦殺害事件……。死神に捉えられ、破滅の深淵に陥ちてゆく人間たちを描く連作推理小説。