松本清張のレビュー一覧
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実存した朝鮮のとある詩人の存在を基に描かれるフィクション。
日本統治から解放された朝鮮半島で、独立を望む朝鮮の人々(その中でもさまざまな立場があり)とアメリカ、ソ連の大国の思惑とが交錯する。
林和という人が本当はどういう人間だったか分からないが、この小説において描かれる彼の想いや翻弄される様はリアルで、この当時こういう人がいたのかもしれないと思える。
やっと占領から解放されて自分たちの国を取り戻せると思ったのに、そこから5年で朝鮮戦争が起こり未だに平和的解決に至っていない。いつだって大国の思惑に翻弄されるのは、立場の弱い国とそこで暮らす人々なのだ。悔しい。 -
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中編3つ収録。1本目から若い頃に死んだ姉の話なのだが義母と義兄の醜関係が暗示されており思春期を迎え成績急降下中の息子の荒れ方がリンクしているのが不気味。ミステリーではあるが親子関係については普遍的なテーマといえるだろう。
2本目は義父と息子だが母を殺されたと弾劾広告を打つ事で騒動となる筋。トリックとしては昔刑事コロンボで観たような気がするが田舎の人間関係の不気味さというところが秀逸だった。
3本目は美術ミステリーと思いきや純粋な殺人ミステリーで本書では最も本格派に近いように思える。それでも芸術家のサガの様なところが描写されているのはこの作者の持ち味だろう。松本清張氏は仏像のアルカイックスマイル -
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東京の料亭「小雪」の女中、お時と、その料亭の客で官僚の佐山の情死体が福岡市香椎海岸で発見された。東京駅のプラットフォームで2人が乗り込むところを、お時の同僚の女中2人と同じ料亭の客である安田が目撃していたことが、情死の裏付けとなった。しかし、博多のベテラン刑事である鳥飼重太郎は、佐山の持っていた社内食堂の伝票から、2人の情死説に疑問を持つ。女は好きな男とならたとえ腹が空いていなくてもコーヒー一杯くらい食堂に付き合うはずだが、この男は1人で食堂で飯を食っているのである。2人の関係は恋人同士ではないのではないか…?
東京駅で13番線プラットフォームから15番線プラットフォームが見えるのは、1日の -
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見合いで結婚した夫が突然失踪してしまうところから物語が始まる。
広告代理店の営業職で、金沢と東京の二重生活をしていた夫。金沢に夫の失踪の秘密があると、禎子は金沢へ向かう。そこで彼女が知った真相とは…
1950年代、まだ戦後まもないこの時代に女性が生きて行くのは大変だった。時代に翻弄された可哀想な女性たちが物語の鍵になっていきます。
幸せな結婚生活のはずが、最初から夫の鵜原憲一にはどこか不穏な影があった…そんな不穏な雰囲気をじわじわと感じさせるのがなんて上手なんでしょう。
序盤からどんどん物語に引き込まれていきます。
夫の失踪を調べるうちに起きる第一、第二の殺人。
日本海の荒々しい海、寂しい漁 -
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ネタバレ銀行のお金を横領し銀座のママとして成り上がっていくことを策略する元子と周りの人々のお話し。
前編はトントン拍子に進むものの後編の途中ぐらいから雲行きが怪しくなり…
なぜこんなに酷いことをするのか、と元子自身も考えるが、結局は人の怨みの深さや断ち切れない愛情が根本にあった。それが金と性の欲望渦巻く銀座を舞台に、抉り出すように描かれていた。
ラストは実質的に元子の"敗北"で終わってしまうのだが、もう一つどんでん返しが欲しかった…が、白い壁に囲まれた15年間を脱して夢を見れただけでよかったのかしら…。
ちなみにこの小説は1980年に出版されたということで、言葉遣い(バーではな