松本清張のレビュー一覧
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松本清張『老公 清張短編レアセレクション 古書・伝記篇』中公文庫。
松本清張の短篇レアセレクションシリーズ全4巻の最後を飾る第4巻。6篇の短篇を収録。
このシリーズでは松本清張の未読の短篇を存分に楽しむことが出来た。
自分が最初に松本清張の作品を読んだのは高校時代で、作品は『或る「小倉日記」伝』だったと思う。その後、『カルネアデスの舟板』などの短篇集を読み、『砂の器』、『点と線』などの長篇にも手を出した。父親が会社を退職すると暇を持て余し、推理小説を中心に本を読み始め、松本清張なども対象にしていたようである。たまに実家に帰る時に読み終えた本を持って行き、父親が読み終えた本と交換していた時期もある。あの頃は非常に充実した読書が楽しめたものだ。
『二冊の同じ本』
同一人物が書き込みをした二冊の同じ古書から見えて来た事実と驚愕の結末。よもやと驚く、わらしべ長者のようなミステリーであった。わらしべ長者は例えが下手かも知れない。
購入した古本にたまに書き込みがあることがある。重要な箇所に赤線が引かれていたり、何やら本の内容とは関係無い言葉が書かれていたりと様々だ。購入した書店のレシートや栞が挟まっていることもある。挟まっていたレシートを見て、この本は北海道の書店で購入されたと驚く時がある。
主人公は四年前に亡くなった友人の塩野泰治氏から書き込みのある一冊の古書を貰うが、神田の古本即売会の出品目録の中にもう一冊の書き込みのある同じ古書を見付ける。主人公はその古書を手に入れると、果たして塩野氏の手による書き込みがあったが、二冊の古書の書き込み箇所と分量が大きく違っていた。何故、塩野氏は二冊の同じ古書に書き込みをしていたのか。★★★★★
『相模国愛甲郡中津村』
奇々怪々にして痛快無比なミステリーで、明治時代に起きた贋札事件を巡る話である。現代でこそ3Dホログラムやすかしなどの対策が施され、贋札は出回らないが、明治時代には簡単に贋札を造ることが出来たようだ。
笑い話であるが、金銭的に余裕のある実家の母親は高級食材や持ち物を人から指摘されたり、褒められたりすると、家の地下にお札の印刷機があるからなどと冗談を言っている。それを聞いて面白がっている妻が最近はお札を刷らないのかと母親に尋ねると、母親はその都度、インクが無くなったとか紙が無くなった、印刷機が壊れて部品が入って来ないなどと答えている。
作家の私は行きつけの古書店で一人の老人と知り合う。私は明治時代の大隈重信の話を書いていたのだが、息詰まりを感じていた。すると老人は自分の家に大隈重信の遺した手紙があるので、見に来たら良いと私を誘う。大隈重信の手紙は明治十一年に起きた贋札事件の真相に迫るものだと言う。最初に贋札事件の犯人とされ、釈放された藤田伝三郎に代わり、熊坂長庵という男が犯人として捕まらのだが、それには裏があったのだ。私は大枚十万円で老人から大隈重信の手紙を買い取る。★★★★★
『夏島』
伊藤博文が夏島の別荘で盗まれたという憲法の草案を巡るミステリー。別荘は実際には野島にあったようだ。神奈川の追浜や野島公園、三浦半島には五度ほど足を運んだことがあるので、何となく雰囲気は分かるが、この時代はまた違った雰囲気があったのだろう。★★★
『老公』
僅かな手掛りから史実を手繰り寄せる面白さ。仕事でも様々な事実を集め、答えを導き出すのは面白い。
古書市で手に入れた『西園寺公爵警備沿革史』から紐解かれる興津の座漁荘で繰り広げられる出来事。★★★
『モーツァルトの伯楽』
ウィーンにあるモーツァルトの墓を前にして語られ始めた彼の闇の部分を含めた人生とエマヌエル・シカネーダーの死の真相。★★★
『伝記の人から』
本作の中では一番短い短篇ながら、ミステリーとしての面白さが凝縮されている。
地方教育に功労のあった廉で叙勲を受けた岩村宗雄先生の伝記を編纂しようという話が友人や弟子たちの間で持ち上がる。世話好きながら口が固く、人の秘密は漏らさぬが、何故か媒酌人になることを断る岩村先生の秘密が死の際で友人や弟子たちに宛ててしたためた手紙から明らかになる。★★★★★
本体価格1,050円
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Posted by ブクログ
面白かったです。
今夏人生で何度目かの清張ブームが自分の中に到来し、ひたすら作品を読んでいますが、清張さんは今西刑事みたいな人間がお好きなんだろうなと拝察しました。
学や財産はあまりないかもだけど、地道にコツコツ努力を重ねる人間。
それに上巻の感想にも書いたけれど、地方にも目を向けているところもいい。社会的弱者を題材にするところが素晴らしいです。
石川県の村を訪れた時の、片目が見えない少年の描き方や、犯人自身の生い立ち。
殺害のトリックは斬新に感じました。
最近の洗練されたミステリーには及ばないのかもしれないけれど、名作だと思いました。 -
購入済み
雑草群落(下)
古美術品を扱う草美堂の高尾庄平と倅の謙吉は、明和製薬の村上社長へ取り入るべく、村上が興味を示すという肉筆浮世絵の贋作を仕込み、国立総合美術館の佐川課長に鑑定書を依頼する。庄平は佐川が金で動くことを知っている。
ライバル業者の駒井は、以前から佐川に取り入っていた。駒井も同じような肉筆浮世絵の贋作を村上社長へ手渡していた。やはり佐川が鑑定書を書いていた。
庄平より30も若い愛人の和子は、村上社長が外に作った子であった。
庄平は佐川から鑑定書の返却を求められる、村上社長からは手渡していた肉筆浮世絵を返却されてしまう。ライバル駒井にしてやられたのだ。ところが駒井の肉筆浮世絵の贋作が新聞沙汰になってしまう。庄平は倅の健吉の行動に不審を抱く、愛する和子にも去られてどん底に陥る。
早川副社長は古くから和子の世話係的な存在であった。庄平はこの早川からの電話を受ける。庄平は早川から事の真相を知らされ救われる。 -
Posted by ブクログ
素晴らしかった!出張先の金沢で突然失踪した新婚間もない36歳の鵜原憲一の足取りを追って、彼の死を推理していくのが刑事とか探偵の視点ではなく、残された若き妻である禎子というのがおもしろい。
いなくなった夫はどこに行ったのか、捜索する禎子は直感を働かせて推理して裏どりしていく。職業的に訓練されたわけでもない彼女が、鋭い直感を駆使して事件の真相を暴いていくのだ。禎子の中にそのような能力が芽生えていく瞬間を的確に描いているのが、松本清張の凄いところだ。
「この時、はっきりと禎子は意識した。夫には女がいる。自分の知らない女が。そして、自分よりずっと前から夫のそばにいる女が。それは確信のような直感であった。人間は意識の下にぼんやりと感じていても、それが明瞭には上に出てこないことがある。そのことが具体的な思考となるのは、外界の具象的な刺激を受けて、表面に引き出されてからではなかろうか。思索的な分析がそれから始まる。あたかも禎子の中の分析がそのような形を取った。」
ミステリーといジャンルは、ストーリーの筋がドライブするが、人間描写の深さが作品の質に大きく影響すると改めて感じた読書体験だった。 -
Posted by ブクログ
松本清張『陽炎 清張短編レアセレクション 歴史・時代篇』中公文庫。
松本清張の短篇レアセレクションシリーズの第3作。9篇の短篇と1篇のエッセイを収録。
若い頃の自分であれば、幾ら松本清張とは言えど歴史小説と聞いただけで読まなかったことだろう。何故か歳を重ね、還暦が近付いた頃から、歴史小説もありかなと思うようになった。
松本清張の歴史小説の面白さの極意は最後に収録されている歴史小説について語ったエッセイを読むと、その一端が窺える。
『陽炎』。幻のデビュー第二作。自分を裏切った妻を何時までも思い遣る優しい男。主君の出府に同行した西本四郎左衛門が一年後に帰国すると妻の多美が川村寅次郎と密通し、逐電していた。伯父や同僚が女敵討ちを迫る中、四郎左衛門は意に返さず、黙々と主君のために働き、島原の乱で大きな手柄を上げる。やがて、寅次郎と多美の暮らす漁村に赴いた四郎左衛門であったが……
『二すじの道』。主君への忠心の道と己の信じる道は、どちらが正解だったのか。徳川家康の六番目の男子でありながら疎まれる松平上総介忠輝は合戦に間に合わず、挙句に部下が徳川軍の二名の武士を斬り捨ててしまうという失態を犯す。激怒した家康は部下を殺した下手人を差し出せと迫る。ところが実際に手を下した二人は逃走してしまい、三人の部下を身代りを立てて家康の元に送り出そうとする。
『疵』。なかなか面白い話だった。上が約束を違えることは今も昔も変わらない。備前中津から筑前福岡に国替えした黒田甲斐守長政は領内の土着の豪族から家中に附いた木谷太兵衛に手を焼いていた。すると家老の平野美作に高月藤次郎という女のような細づくの男が木谷の討伐を申し出てきた。藤次郎は木谷討伐の暁には平野の娘の萩江を嫁に欲しいと願う。平野は不本意ながら、藤次郎が返り討ちに合うだろうとそれを承諾する。しかし、藤次郎は一ヶ月の後に武士らしからぬ謀により木谷の首級を持ち帰るが、僅か十俵の禄を与えられただけで、萩江を嫁にすることを断わられる。余りにも酷い仕打ちに激怒して出奔した藤次郎は長政と平野に意趣返しを図る。
『武士くずれ』。余計な口出しは身を滅ぼす。中途半端な結末に様々な未来が見えて来る。ある時、主君の将棋の相手として目を掛けられ増長していた梶井喜代次は城中の控え間で自分より身分が上の村上市之助と寺岡仙十郎が将棋を指している所に居合わせ、二人の勝負に色々と口を出す。怒った仙十郎が梶井を斬り捨てたことから、仙十郎には福寿禅寺で切腹が申し渡される。仙十郎を寺に送る役目に市之助が選ばれるが、市之助は隙を見て仙十郎を逃がす。やがて、市之助にも藩から追放という沙汰が下り、市之助は浪人となって江戸へと向かう。
『五十四万石の嘘』。瓢箪から駒という話。豊後守光正は暇を持て余し、いたく臆病な茶道の坊主の玄斎をあの手この手で脅し、からかっていた。様々な脅しにも慣れてしまった玄斎に光正は他言無用と断り、光正が密かに謀反を企んでおり、玄斎を侍大将に取り立てるつもりだと嘘の話を伝える。
『蓆』。悪い事は出来ない。特に女遊びは全てを失わせる。主君に同行して一年間、江戸に滞在した冨高与一郎は許婚の待つ国に帰ることを思うと憂鬱な気持ちになっていた。真面目な与一郎は仲間から吉原に誘われても断っていたが、ある日、夜鷹に声を掛けられ、ついつい遊んでしまう。その夜鷹を忘れられず、与一郎は何度か遊んでいたが、ある日、局部が痛み出す。
『狂人』。上の者の過ちに右往左往するのが下の者の常ならん。五代将軍綱吉の部下の鳥居左京亮忠則は、綱吉の能狂言狂いを良しとせず、能狂言の悪口を触れ回る。綱吉はそれを耳にすると鳥居に門番を命ずる。
『水の中の顔』。珍しく小泉八雲のホラーのような短篇。片岡左兵衛という足軽が将棋を楽しんだ後で家に帰る途中、商家に忍び込もうとする二人の盗賊を目にする。一人は逃がしたが、もう一人は捕まえ、川まで引き摺り、溺死させる。それから二年後、江戸に向かう道中で一人の訳ありの女と知り合う。
『穴の中の護符』。半七老人が語る穴の中に残された護符の謎。松本清張にしては珍しい、岡本綺堂の『半七捕物帖』のパスティーシュ。この短篇だけは既読だった。身元不明の屍体を自分の父親だと引き取りに来た根岸に住む娘は隣近所の住人たちを集め、盛大な葬儀を行い、酒と料理を振る舞う。住人たちが家に帰ると、穴が掘られ、そこに護符が納められていた。
『エッセイ 歴史小説のこと』。松本清張は歴史小説のピークは森鴎外だったと語る。さらに事実を書くだけが歴史小説ではなく、そこに創作の入り込む余地を残している。
本体価格980円
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Posted by ブクログ
ネタバレ松本清張の代表作のひとつ。推理小説の中の「アリバイ破り」というジャンルで、犯人を当てるのではなく、わかりきった犯人の「鉄壁のアリバイをいかに探偵が歩一歩と破ってゆくか」を楽しむものだというのは平野謙さんの解説で知った。
どうしても時代の違いはあるので、現代ではありえないトリックや捜査方法ばかりなのだが、刑事が一歩一歩自分の足で真実にたどり着こうと奮闘する姿は清々しい。自殺ではなく情死にみせかければ捜査の手は及ぶまい、という犯人の狡猾さにもぞっとさせられた。犯人が分かっていてもなお、すべてが明かされた時の衝撃は圧巻だった。
刑事が列車移動にばかり気を取られ、飛行機があることに気が回らなかったのは気になったが、それも時代性なのか?