門井慶喜のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレGPSの進歩により、灯台がその役割を終えていっているという事実を初めて知った。
「海と灯台プロジェクト」協力のもと、灯台が存在することの意義を、その土地のあらましや歴史、灯台を守ってきた人々にスポットライトを当てることで言語化した、6名の作家さんによる紀行文。
作品を読みながら旅行気分に浸れるので愉しい。作家のみなさんが灯台の中の螺旋階段を登り、灯台室に入られる場面のわくわく感が伝わってきた。フルネルライトを初めて検索したが、見事なライトであった。
灯台の父と呼ばれるイギリス人のブラントンさんという方が、菜種油で火を灯す木造の灯明台が主な海の道標だった日本に、西洋式の灯台をもたらした。また、戦時中は灯台が攻撃の対象になったこと、灯台がある場所には神社があることなども知ることができた。
絶滅危惧種ともいえる灯台に、何を感じ、何を見るかは、そのひとの感応力によるのかもしれない。
灯台が海をわたる人々の命を守るために重要な役割を果たしてきたことは、時を経ても語り継がれなければならないと思った。 -
Posted by ブクログ
とても良かった。徳川家康が豊臣秀吉により関東へと移されそこで新たな都市を作る過程が描かれている。利根川を無理やり曲げることで沼のような土地だった場所を人が住めるようにし、貨幣を作ることで経済のあり方を変え、上水を整備することで多くの人が生活できるようにする。江戸城の築城にも多くの人が関わっていて、最後の章の天守閣が白の漆喰で塗られた理由(作者の考え?)が平和の象徴及びそれまでに亡くなった人への墓標というのも感慨深い。
東京の地理にもっと明るかったらもっと楽しく読めたし実際の土地へ行けたのに、残念。
1から都市を作るってすごいことでもう日本じゃぁ起きないよな。 -
Posted by ブクログ
【地中の星】
中島みゆきさんのヒット曲に『地上の星』というのがありましたが、この著書は『地中の星』です。
日本で初めて地下に鉄道を走らせようとした男たちが数々の難局を乗り越えてみせる壮絶な冒険記です。
主役となる早川徳次、名前を見たときに最初はSHARP創業者かと思いましたが、生年月日、名前の呼び方が違いました。
その早川徳次、大学卒業後、南満州鉄道に就職、その後も地上の鉄道会社でそれなりに力を発揮していた人物ですが、ある時、地下鉄道を作ることを命じられます。
もちろん日本にはそのようなノウハウもスキルもなく、またどれくらいの費用がかかるのかも見当がつかない中でのスタート。まずは資金集めから物語は始まります。
来年お札にも登場する渋沢栄一はもちろん、大隈重信氏などに懇願、資金集めに東奔西走します。
そして事業は幕を開けます。
物語の前半のハイライトでもある、悪戦苦闘しながらの工事、手さぐり状態、とにかく少しでも前に前に掘り進める工夫たちの姿に胸を打たれます。
ここから先は読んでからのお楽しみに。
銀座線、この時代にすでに自動改札機、ATSを採用しています。もちろん仕組みは単純で原始的なものですが、世間をアッと言わせる技術が詰められた地下鉄誕生であったことは間違いないです。また、徳次氏、乗客の顔がきれいに見えると言う理由で、車内に間接照明を採用したそうです。
1941年、半官半民と言う名ばかりの営団が誕生以来、2004年に営団地下鉄は民営化、60余年ぶりに民営化しましたが、この物語を読んでから地下鉄に乗ると、今までは見なかった壁や線路、階段などを吟味してしまいます。
私が、この著書で最も心に響いたことば、それは『先入観は過去の空想』
これこそが地下鉄誕生に欠かせないことばであったことは間違いありません。
物語後半の感動的な場面ですが、二つの新橋駅が統一されます。そんなドラマがあったんだなぁ。
駅は狭苦しいので、今は都営浅草線を利用していますが
そして、それでも地下鉄の車両たちは、乗客を乗せ、ささやかな希望を乗せて、みじかい線路を往復しつづける。
男たちのロマン、またそれを支える妻たちの思いもあって、今日私たちが利用する地下鉄網が発展してきたことを感じさせる物語です。
ちなみに著者である門井慶喜さん、私と同じ年、これまでの作品は2018年に直木賞作品となる『銀河鉄道の父』などがあります。また一人お気に入りが増えました。 -
Posted by ブクログ
定価をつけられないほど日本人にとって価値がある本 戦後間も無く、進駐軍はダスト・クリーナー作戦を進める。これは、日本人の歴史を奪い日本人のアイデンティティを破壊する作戦だ。そのために、進駐軍は日本の古書を買い集める活動をする。その中で起こる古書仲間とその妻の死に主人公は巻き込まれる。
この物語は、戦後すぐの神保町古書店主とアメリカとが「日本文化」という爆弾の撃ち合いによる戦争を描いている。
「定価のない本」というタイトルは、定価をつけられないほど日本人にとって価値がある本ということではないだろうか。古書は日本人にとってかけがえのない文化なのだと筆者は言いたかったのだろう。大変面白かった。多くの人に読んでほしい。 -
Posted by ブクログ
建築家、辰野金吾の大河小説。
正に大河と呼ぶに相応しい、波乱万丈の人生だった。
決して順風満帆ではないし、何より集大成とも言える建築に向かう頃には自分の老いを受け入れて新しいものを拒絶してるんだもんね。
栄枯盛衰、なるほどなるほど。
好きなシーンは色々ありますが、どこか1つを選べと言われたらやはり前述した箇所、辞表を突き付ける松井とのシーン。
時代の移り変わりと共に老いからも逃れられない。。。
『コーヒーにはうるさいぞ』からの『コーヒーはなかなかうまかった』の流れがより一層胸を締め付けます。
もはや、自分は最先端ではないことを社会全体が示してるんですよね。
切ない、切ないよ。
コンドルとの再会も最高ですね。
ラストも良かったなぁ。
思わず国会議事堂の建築家を調べちゃったよ笑 -
Posted by ブクログ
アメリカ人が日本に来たとか、実業家が何かを成し遂げたとか、一般化できるような話ではなかった。
この、ウィリアム・メレル・ヴォーリズ氏でしか成し得なかったこと、彼にしか駆け抜けられなかった人生というものを存分に感じることができた。
まず、ヴォーリズ氏は、若くして非常に弁が立ち、向上心、野心に溢れた男で、この時点で、成功者としての素質を持っているのだった。
ヴォーリズ氏であれば、どの時代でも、どの国でも、成功することができただろう。
20代半ばで日本の近江八幡に来て、英語教師として教鞭をとったのをはじめとして、キリスト教の布教活動、建築活動、そして、メンソレータムの販売と、壮年期まで休むことなくビジネスに邁進し続ける。
賢く(ずる賢いかもしれない)、精力的なヴォーリズ氏は、さまざまな事業を成功させながらも、その人生には紆余曲折があった。
仲間の死、妻との出会い、そして第二次世界大戦…。それぞれの転機で、物語は盛り上がる。その転機も多彩で、それぞれ異なった感動を読者に与えてくれる。
還暦を迎え、老年期のヴォーリズ氏は、精力的な活動から離れ、時代の観測者として、ゆっくりと、終わりに向かって進んでいく。
衰えゆくヴォーリズ氏と反面、妻の満喜子さんは精力的な活動を続ける。ヴォーリズ氏あってこの妻と言えるだろう。似た雰囲気を感じる。
戦争が終わり、ヴォーリズ氏の命のともしびも消えていく。
その描写はあっさりとして、この物語自体も、突然の幕引きというか、カラッとした乾燥感だけを残して終わる。
まさに、外観や装飾より機能性を重視したヴォーリズ氏の建築のように、無駄を省いた最期の描写だったのだろうか、と感じた。
全体を通して、ヴォーリズ氏のエネルギッシュさに勇気づけられた。また、戦時中の雰囲気をリアルに知れる歴史小説としての側面も感じた。そして、ヴォーリズ氏と満喜子さんとの深い愛情。この2人が出会って本当に良かったと思う。
ヴォーリズ氏の人生は、破天荒すぎて真似できないなぁと思いつつ。布教、建築、輸入販売と、多くの面でまさにエヴァンジェリストとして活躍した人物に尊敬の念を抱いた。
ヴォーリズ氏とは離れるが、同じく近江八幡を礎とし、本小説にも登場する、菓子処のたねやとクラブハリエに興味を持った。食べてみようと思う。近江八幡の雰囲気を感じられるかもしれない。 -
Posted by ブクログ
ネタバレもはや新政府が勝利するのは史実であるから、なぜ幕府軍が負けたのかは今まであまり考えたことがなかった。この本では、なぜ榎本率いる幕府軍が敗れたのか、門井先生なりの見解が示されていて興味深い。
自分の誤読かもしれないが、結論としては、新政府軍の方が近代化に成功していたからということらしい。
ではなぜ、欧州帰りで当時おそらく最も開明的であった榎本をトップに据える函館共和国で近代化が遅れたのか。
榎本が求める近代国家のロールモデルはオランダだった。そして日本に「オランダ」を作ろうとしていた。スペインから独立したオランダのように、分離したまま実効支配を積み重ねた後の独立を考えていた。
榎本は多くの誤りを犯すが、最も致命的な誤謬はこの近代国家をそのまま移植しようとする試みだったんじゃなかろうか。
世界ではフランス革命以降、それまで貴族や傭兵が担っていた兵役を、全国民が負わねばならなくなった。そして国民に命を投げ打たせる方便が愛国心だった。日本において愛国心の裏付けとなるのは象徴的な「天子」の存在である。
新政府は天皇を後ろ楯に、おそらく期せずして近代化を成し遂げた。
日本には日本なりの近代化があったということだろう。
敗色が濃厚になるなか、榎本は敗れた自軍の幹部たちが生きて帰ってくることに違和感を覚えた。降伏か抗戦か態度決めかねる彼は「時代精神」のような物を感じつつあった。それは、「君臣一和」国民意識の芽生えであった。列強の支配を免れるには国民が一丸とならねばならない。優秀な人間を死なせるべきではない。そのことに気づき榎本は降伏を決めた。
榎本武揚を扱った小説は佐々木譲先生の「武揚伝」があり、こちらも面白い。
だが手法にはいささかの違いがあるように感じられる。
「武揚伝」では史実を丁寧に紐解き、その間隙を想像力で埋める方法を使っていると思われ、そこに面白さがある。
一方「かまさん」には史実の背後に流れる大きな物語を描き出そうとしていたのではないか。
非常に面白く、刺激に富む本だった。
ためになるかどうかは分からないけれど。