あらすじ
明治末期にキリスト教布教のために来日したアメリカ人建築家、メレル・ヴォーリズ。彼は日本人として生きることを選び、 終戦後、昭和天皇を守るために戦った――。彼を突き動かした「日本」への思いとは。
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Posted by ブクログ
明治時代にキリスト教の伝道師として来日し、建築家、実業家として活躍する
ことになるアメリカ人のメレルが日本に留まり帰化することを選んだ理由とは!?
フィクションなのか、ノンフィクションなのか、
解説に書かれている、とある実録に名が記されていることでにより、
それが、小説の内容のようなことであるなら、現代日本にとって重大で重要な
ことと言えるでしょう。そして、ウィリアム・メレル・ヴォーリズの人生は、
良くも悪くも、心に響き、読者に感動を与えること間違いなし。
2025年8月に気になっていたこの小説を読んだことは、戦後80年という
ことは意識していなかったけれども、考え深いことではあります。
Posted by ブクログ
アメリカ人が日本に来たとか、実業家が何かを成し遂げたとか、一般化できるような話ではなかった。
この、ウィリアム・メレル・ヴォーリズ氏でしか成し得なかったこと、彼にしか駆け抜けられなかった人生というものを存分に感じることができた。
まず、ヴォーリズ氏は、若くして非常に弁が立ち、向上心、野心に溢れた男で、この時点で、成功者としての素質を持っているのだった。
ヴォーリズ氏であれば、どの時代でも、どの国でも、成功することができただろう。
20代半ばで日本の近江八幡に来て、英語教師として教鞭をとったのをはじめとして、キリスト教の布教活動、建築活動、そして、メンソレータムの販売と、壮年期まで休むことなくビジネスに邁進し続ける。
賢く(ずる賢いかもしれない)、精力的なヴォーリズ氏は、さまざまな事業を成功させながらも、その人生には紆余曲折があった。
仲間の死、妻との出会い、そして第二次世界大戦…。それぞれの転機で、物語は盛り上がる。その転機も多彩で、それぞれ異なった感動を読者に与えてくれる。
還暦を迎え、老年期のヴォーリズ氏は、精力的な活動から離れ、時代の観測者として、ゆっくりと、終わりに向かって進んでいく。
衰えゆくヴォーリズ氏と反面、妻の満喜子さんは精力的な活動を続ける。ヴォーリズ氏あってこの妻と言えるだろう。似た雰囲気を感じる。
戦争が終わり、ヴォーリズ氏の命のともしびも消えていく。
その描写はあっさりとして、この物語自体も、突然の幕引きというか、カラッとした乾燥感だけを残して終わる。
まさに、外観や装飾より機能性を重視したヴォーリズ氏の建築のように、無駄を省いた最期の描写だったのだろうか、と感じた。
全体を通して、ヴォーリズ氏のエネルギッシュさに勇気づけられた。また、戦時中の雰囲気をリアルに知れる歴史小説としての側面も感じた。そして、ヴォーリズ氏と満喜子さんとの深い愛情。この2人が出会って本当に良かったと思う。
ヴォーリズ氏の人生は、破天荒すぎて真似できないなぁと思いつつ。布教、建築、輸入販売と、多くの面でまさにエヴァンジェリストとして活躍した人物に尊敬の念を抱いた。
ヴォーリズ氏とは離れるが、同じく近江八幡を礎とし、本小説にも登場する、菓子処のたねやとクラブハリエに興味を持った。食べてみようと思う。近江八幡の雰囲気を感じられるかもしれない。
Posted by ブクログ
「日米に橋をかけた人ではなく、屋根をかけた人」
20世紀の初め、近江の地に降り立った一人のアメリカ人青年ウィリアム・メレル・ヴォーリズ。英語教師として来日すると同時に、キリスト教の伝道師としての使命にも燃えていた。
しかし天皇中心の国家として富国強兵に邁進する当時の日本にとっては、生徒を集めてはキリスト教の伝道をするヴォーリズの教育方法は、問題視される。
ほどなくして彼は教師の職を失う。
アメリカに帰ってやり直すか、日本で新しい職を見つけるかの二者択一を迫られた彼は後者を選ぶ。
そこで彼は、趣味で続けていた洋館の建築や改装を仕事にしてしまおうと考え、教会や個人住宅の建設の仕事を請け負うようになった。製図や構造計算などの正式な教育を受けてはいなかったため、初期の頃の建物はあまり評判の良いものではなかったが、もともとの商才もあって、他の外国人建築家に頼むより、べらぼうに安いコストで洋館(洋風建築)を建てることに成功した。人当たりも良く、建築知識の不足や技術の未熟さは、日本人大工の知恵を借りることによって補った。
それが評判となって次々に仕事が舞い込むことになり、日本における生活の基盤を固めることができた。
その他にもメンソレータムの日本独占販売権を取得して、傷薬として大々的に売り出し、軍へも販路を広げるなどして財を成した。そしてその資金を建築の仕事に注ぎ込んで、事務所を大所帯にしていった。
のちに華族の一柳満喜子と結婚し、日米親善に努めるが太平洋戦争により、敵国人みなされるようになる。それを回避するため不本意ながら神道に改宗、日本国籍を取得し一柳米来留と改名する。妻が元華族ということもあり、特高も逮捕などの手段はとらなかったようだが、常に監視され、祖国アメリカからは裏切り者扱いされた。
不遇の時代を乗り越え、終戦を迎える。
そこで彼は国体護持の存続に関わる重要な役割を演じることになる。(ここからは史実なのか創作なのかよくわからないが、昭和天皇に拝謁したという事実は記録にある)
ここから感動のクライマックスに向かうのでレビューはここまで。
書名が平凡なので、あまり注目されてこなかった小説だけど、今まで10冊くらい読んだ門井さんの小説の中では一番面白かった。
Posted by ブクログ
近江八幡に所縁が深いウィリアム・メレル・ヴォーリズ…作中では、そう呼ばれる機会が多かったという「メレル」となっていることが多いが…彼の人生を巡る物語である。非常に興味深く、また「考える材料」を多く供してくれる作品で、少し夢中になった。
建築に関連する事績は「ヴォーリズ建築」と呼ばれて知られているのだが、そういう活動の経過、更に家庭薬の<メンソレータム>の販売、後に製造も手掛ける経過というのが物語の“緯糸”になって行く。
仕事の展開が“緯糸”だとすれば、“経糸”は「メレルの生涯と思索」ということになるであろう。(確か“朝ドラ”の主人公のモデルになっていたことが在ったと思うが)広岡浅子との出会いが契機になって、伴侶となる一柳満喜子と出逢う。その“マキ”との人生と、時代の移ろいの中でメレルが感じた様々なこと、その変化が描かれているのだ。
メレルは、建築にせよ家庭薬の製造・販売にせよ、大いに成功した反面で「本当の専門家」ということでもない。メレルは、米国のプロテスタント系の価値観の中で育った人間で、それを普及せしめるという活動さえ熱心に続けた他方で、「そこに生まれたのでもないにも拘らず、自ら選んで」ということで日本に帰化した。というように、「揺れ」の中で生涯を送って、その中で色々と考えているということになる。そして晩年に至る境地というものが在る…
大正期や昭和初期に、メレルが感じる「(日本の)違和感」というようなモノが作中に綴られている。これは?或いは現在でも在るのではないか、というようにも思った…その他方に、晩年のメレルが至る境地である。なかなかに考えさせられた。
Posted by ブクログ
日露戦争の最中に伝道者として日本んも、しかも地方の小さな町に来たヴォーリスはのちに、多くのキリスト教系の学校建築に関わり、ミッションスクールのモダンなイメージと強く結びついている。ヴォーリスの設計はミッションスクールのステイタスにもなっていて、彼の校舎で学んだことを誇りにしている人は少なくない。近江八幡にいたヴォーリスの名前は関西ではよく聞いていたが、素性は知らなかった。子供の頃、伝記物が好きだったが、評伝というほど重くない大人の伝記物という感じで、取り上げる人物もよい。メンソレータムの近江兄弟社の成り立ちも、初めて知った。